どうして?
千乃。
「じゃあ」
「まず」
「どっちから」
「話す?」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
千乃。
にこっ。
「逃げても」
「無駄だよ?」
その瞬間。
パイライト。
すっ。
後ろへ。
一歩。
下がった。
千乃。
「?」
パイライト。
「……」
さらに。
一歩。
下がる。
千乃。
「どこ行くの?」
パイライト。
「別に」
千乃。
「そっか」
パイライト。
「……」
また。
一歩。
下がる。
真銀。
「千乃」
「なに?」
「あれ」
「逃げようとしてないか?」
千乃。
「え?」
パイライト。
「してない!」
千乃。
「そっか」
パイライト。
「……」
くるっ。
千乃。
「あ」
パイライト。
走った。
ララ。
「逃げたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
千乃。
「逃げても無駄って言ったよね!?」
パイライト。
「無駄かどうか!」
「試してやる!」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
「真銀」
「なに?」
「捕まえて」
真銀。
「俺?」
千乃。
「うん」
真銀。
「自分でやれ」
千乃。
「えー」
真銀。
「逃げる相手なら」
「普通は追いかけるだろ」
千乃。
「そうだね」
千乃。
すっ。
指を。
パイライトへ。
向ける。
パイライト。
「……?」
千乃。
「はい」
魔法の糸。
しゅるるるるっ!
パイライト。
「なっ!?」
足元から。
淡い光の糸。
ぐるっ!
ぐるぐるっ!
「うわっ!?」
そのまま。
パイライト。
ぴたっ。
停止。
千乃。
「捕まえた」
真銀。
「追いかけてすらない」
千乃。
「便利だから」
真銀。
「便利すぎるんだよ」
パイライト。
「放せ!」
千乃。
「嫌」
「なぜだ!?」
「逃げたから」
「……」
「…………」
「正論なのが腹立つ」
千乃。
「でしょ?」
真銀。
「どこで覚えたんだ」
千乃。
「元から」
真銀。
「怖いな」
千乃。
そのまま。
パイライトを。
魔法の糸で。
引っ張った。
ずるっ。
パイライト。
「ちょっ」
「待て!」
千乃。
「待たない」
パイライト。
「さっきから!」
「話を聞け!」
千乃。
「聞くよ」
パイライト。
「今から!」
千乃。
「だから」
「連れてく」
真銀。
「会話が成立しているようで」
「成立してない」
柚乃。
「お姉ちゃんだ」
千乃。
「何それ」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
ふたりを。
じっと。
見た。
深紅の瞳。
「逃げる?」
パイライト。
「……」
千乃。
「エリシアは?」
エリシア。
「逃げませんわ」
千乃。
「偉い」
エリシア。
「褒められても」
「嬉しくありませんわ」
千乃。
「じゃあ」
「話そう」
パイライト。
「……」
千乃。
「まず」
「さっきの幻影」
パイライト。
「……」
千乃。
「誰が使ったの?」
パイライト。
「俺だ」
千乃。
「うん」
パイライト。
「……?」
千乃。
「次」
パイライト。
「何だ?」
千乃。
「なんで?」
パイライト。
「……」
「…………」
「逃げるためだ」
千乃。
「違う」
パイライト。
「は?」
千乃。
「真銀に」
「なりたかった?」
パイライト。
「……!」
真銀。
「……」
千乃。
「それとも」
「私たちを騙したかった?」
パイライト。
「……」
千乃。
「どっち?」
パイライト。
「……」
答えない。
千乃。
「……」
「エリシア」
エリシア。
「何ですの」
千乃。
「答えて」
エリシア。
「……」
千乃。
「今回の計画」
「誰が考えたの?」
エリシア。
「……」
「…………」
「わたくしと」
「パイライトですわ」
千乃。
「うん」
エリシア。
「……」
千乃。
「じゃあ」
「役割」
「言って」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
ゆっくり。
目を伏せる。
「わたくしは」
「真銀様を」
「手に入れるため」
真銀。
「……」
エリシア。
「弟は」
「千乃を」
「后にするため」
千乃。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
千乃。
「……」
「それだけ?」
エリシア。
「……」
千乃。
「私の声を切り取って」
「繋げて」
「『みんないらない! 消えればいいのに』」
「って音声を作った」
パイライト。
「……」
千乃。
「それを結晶石に入れて」
「複製して」
「町にばら撒いた」
エリシア。
「……」
千乃。
「それ」
「全部」
「二人がやった?」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
千乃。
「答えて」
パイライト。
「……」
「俺たちだ」
千乃。
「そっか」
真銀。
「……」
千乃。
「次」
パイライト。
「まだあるのか!?」
千乃。
「あるよ」
パイライト。
「何だ」
千乃。
「いっぱい」
パイライト。
「……」
千乃。
「今までの」
「偽の証拠」
「町の人に吹き込んだ嘘」
「私の悪口を言ってるっていう動画」
パイライト。
「……」
千乃。
「全部」
「関係してる?」
パイライト。
「……」
千乃。
「……」
笑顔が。
消えた。
「答えて」
パイライト。
「……」
「…………」
「……関係している」
千乃。
「そっか」
それだけ。
千乃は。
答えた。
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
千乃。
静かだった。
怒鳴らない。
叫ばない。
魔法も。
使わない。
ただ。
真っ直ぐ。
二人を見る。
深紅の瞳。
「……ねえ」
パイライト。
「何だ」
千乃。
「どうして?」
パイライト。
「……」
千乃。
「私」
「二人に」
「何かした?」
エリシア。
「……!」
千乃。
「真銀を守ったこと?」
エリシア。
「……」
千乃。
「パイライトの言うことを」
「聞かなかったこと?」
パイライト。
「……」
千乃。
「それで」
「こんなこと」
「していい理由になるの?」
誰も。
答えない。
千乃。
「……」
白い髪。
深紅の瞳。
鬼月姫。
けれど。
その顔は。
怒っているというより。
少し。
悲しそうだった。
ララ。
「主……」
千乃。
「大丈夫」
ララ。
「でも」
「大丈夫」
千乃。
「……」
真銀。
一歩。
千乃の隣へ。
「千乃」
千乃。
「なに?」
真銀。
「もう」
「一人で抱えなくていい」
千乃。
「……」
真銀。
「俺たちがいる」
柚乃。
「私も!」
ララ。
「ララも!」
ライ。
「当然だ」
アイシィ。
「私もいます」
千乃。
「……」
少しだけ。
笑った。
「ありがとう」
エリシア。
「……」
千乃。
もう一度。
二人を見る。
「二人とも」
「逃げないで」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
「今までやったこと」
「全部」
「ちゃんと」
「話して」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
千乃。
「私は」
「聞く」
少し。
間。
そして。
「でも」
深紅の瞳。
まっすぐ。
二人へ。
「誤魔化すのは」
「もう」
「なし」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
魔法の糸。
きらり。
パイライトの周囲。
逃げ道は。
ない。
そして。
エリシアも。
すでに。
捕まっている。
千乃。
「さあ」
「最初から」
「全部」
「話して」
部屋。
静かになる。
パイライト。
ゆっくり。
口を開いた。
「……あの音声は」
千乃。
「うん」
パイライト。
「俺たちが」
「作った」
エリシア。
「そして」
「今までのことも……」
千乃。
深紅の瞳を。
逸らさず。
二人を見続ける。
ついに。
隠していたことが。
一つずつ。
明らかになろうとしていた。
それから。
パイライトとエリシアの話は。
長かった。
最初。
二人は。
ところどころ。
言葉を濁した。
自分たちに都合の悪い部分を。
小さく。
曖昧に。
ごまかそうとした。
けれど。
千乃。
「そこ」
「もう一回」
パイライト。
「……」
千乃。
「今」
「話」
「飛ばしたよね?」
パイライト。
「飛ばしてない」
千乃。
「飛ばした」
パイライト。
「……」
千乃。
「次」
エリシア。
「まだ続きますの?」
千乃。
「続くよ」
エリシア。
「……」
真銀。
「諦めろ」
エリシア。
「真銀様まで」
「そんなことを……」
真銀。
「当然だ」
エリシア。
「……」
結局。
二人は。
最初から。
最後まで。
すべて。
話すことになった。
偽の動画。
切り取った音声。
町へばら撒いた結晶石。
千乃について。
町の人へ。
何度も。
嘘を吹き込んだこと。
そして。
千乃たちを。
混乱させるための。
数々の計画。
すべて。
ひとつずつ。
明らかになった。
千乃。
「……」
最後まで。
聞いていた。
途中。
怒鳴らなかった。
途中。
魔法を使って。
脅すこともなかった。
ただ。
逃げずに。
最後まで。
聞いた。
そして。
パイライト。
「……以上だ」
エリシア。
「これで」
「全部ですわ」
部屋。
静かになる。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
千乃。
ゆっくり。
立ち上がった。
「分かった」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
「話してくれて」
「ありがとう」
エリシア。
「……!」
パイライト。
「……?」
千乃。
「でも」
にこっ。
「尋問は」
「ここまで」
パイライト。
「……」
千乃。
「場所」
「変えようか」
エリシア。
「どこへ?」
千乃。
「庭」
パイライト。
「庭?」
千乃。
「うん」
真銀。
「……」
千乃。
「なんか」
「庭で」
「話したいことがある」
真銀。
「……分かった」
千乃。
「じゃあ」
「移動しよ」
パイライト。
「待て」
千乃。
「なに?」
パイライト。
「逃げないように」
「その糸は」
「外すな」
千乃。
「外さないよ」
パイライト。
「……」
真銀。
「当然だな」
柚乃。
「じゃあ」
「行こっか!」
千乃。
指先。
光。
ぱっ。
「――《境界転移門》」
真銀。
「またやるのか」
千乃。
「便利だから」
真銀。
「普通に開け」
千乃。
「やだ」
真銀。
「……」
再び。
光の門。
庭へ。
繋がる。
千乃たち。
順番に。
その中へ。
入っていく。
そして。
最後。
パイライトと。
エリシア。
魔法の糸に。
確保されたまま。
庭へ。
移動した。
ふわっ。
光。
消える。
そこは。
城の庭。
青い空。
柔らかな風。
花。
木々。
そして。
広い芝生。
……なのだが。
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
二人の周囲だけ。
空気が。
妙に。
重い。
千乃。
「よし」
真銀。
「何がよしなんだ」
千乃。
「庭に着いた」
真銀。
「それは見れば分かる」
千乃。
「じゃあ」
千乃。
「うん?」
真銀。
「尋問」
「終了」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
ララ。
「終わったぁ!」
ぴょんっ!
ライ。
「急に元気になったな」
ララ。
「だって!」
「ずっと話してた!」
アイシィ。
「確かに」
「かなり長かったですからね」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「お疲れさま!」
千乃。
「ありがと」
真銀。
「……」
千乃。
「真銀も」
「疲れた?」
真銀。
「少し」
千乃。
「そっか」
真銀。
「……」
千乃。
「どうした?」
真銀。
「いや」
「庭に移動した意味」
「まだ聞いてない」
千乃。
「そうだね」
真銀。
「……」
千乃。
パイライト。
エリシア。
二人を見る。
そして。
空を見る。
ゆっくり。
息を吸った。
「じゃあ」
「ここからは」
「尋問じゃない」
パイライト。
「……?」
エリシア。
「……?」
千乃。
「だから」
「尋問編」
「終了」
真銀。
「編?」
千乃。
「今」
「始まった気がする」
真銀。
「何が?」
千乃。
「庭編」
千乃。
「……」
「庭編?」
真銀。
「うん」
ララ。
「主!」
「次は何するの!?」
千乃。
「まだ」
「考えてない」
ララ。
「庭編なのに!?」
ライ。
「お前も驚くのか」
千乃。
「でも」
千乃。
パイライトと。
エリシアを見る。
「これから」
「どうするか」
「ちゃんと」
「考えないとね」
真銀。
「ああ」
千乃。
「今回」
「分かったことは」
「いっぱいある」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
「でも」
「もう」
「嘘の証拠を探すために」
「問い詰める必要はない」
魔法の糸。
きらり。
パイライト。
「……」
千乃。
「だから」
「尋問は終わり」
真銀。
「ここからは?」
千乃。
「話し合い」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
「まあ」
「逃げようとしたら」
「話は別だけど」
パイライト。
「……」
千乃。
「逃げない」
パイライト。
「本当?」
パイライト。
「……」
千乃。
「返事」
パイライト。
「逃げない」
千乃。
「よし」
真銀。
「……」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「尋問より」
「今の方が怖くない?」
千乃。
「え?」
柚乃。
「にこにこしてるから」
千乃。
「普通だよ」
真銀。
「普通じゃない」
千乃。
「ひどい」
ララ。
「主は普通!」
ライ。
「ララ」
「その擁護は」
「大丈夫なのか?」
ララ。
「?」
アイシィ。
「ふふっ」
少しだけ。
庭の空気が。
和らいだ。
千乃。
「……」
空を見上げる。
風。
白い髪を。
優しく。
揺らした。
そして。
深紅の瞳。
少し。
いつもの。
優しい雰囲気へ。
戻っていく。
千乃。
「よし」
「これで」
「一区切り」
真銀。
「ああ」
千乃。
「尋問編」
「終わり!」
ララ。
「終わりー!」
柚乃。
「お疲れさまー!」
アイシィ。
「お疲れさまでした」
ライ。
「……長かったな」
真銀。
「本当にな」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
ふたりを見る。
「じゃあ」
「庭編」
「開始!」
真銀。
「本当に始めるのか」
千乃。
「うん!」
真銀。
「何をするんだ?」
千乃。
「……」
「…………」
「考える!」
真銀。
「おい」
千乃。
「なんとかなる!」
ララ。
「主ならなんとかなる!」
千乃。
「ララ」
「ありがとう!」
真銀。
「根拠がない」
ライ。
「いつものことだ」
アイシィ。
「ですね」
柚乃。
「お姉ちゃんらしい!」
千乃。
「でしょ!」
真銀。
「褒めているのか?」
千乃。
「褒めてるよ!」
真銀。
「……」
その後。
庭に。
小さな笑い声が。
少しだけ。
戻った。
長かった。
偽の証拠。
嘘。
幻影。
そして。
尋問。
それらは。
ここで。
一旦。
終わった。
庭。
柔らかな風。
千乃。
真銀。
柚乃。
ララ。
ライ。
アイシィ。
そして。
捕らえられた。
パイライトと。
エリシア。
物語は。
次の段階へ。
進もうとしていた。
尋問編。
完。




