いい加減にしましょうね? 3
にこっ。
「犯人を」
「迎えに」
エリシア。
「……」
少し。
眉をひそめる。
「随分と」
「余裕ですこと」
千乃。
「そう?」
「ええ」
「あなたは」
「ここがどこなのか」
「分かっていないようですわね」
千乃。
「地下室」
「……」
「…………」
「そういう意味ではありませんわ!」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「それは分かってると思うよ」
千乃。
「そう?」
「そうだよ」
真銀。
「分かってないのは」
「千乃だけだと思う」
「ひどい」
ララ。
「主!」
「分かってない!」
千乃。
「ララまで!?」
ライ。
「話を進めろ」
エリシア。
「……」
ぴくっ。
真銀。
「……」
千乃。
「……」
柚乃。
「……」
エリシア。
ゆっくり。
両手を広げる。
「ここは」
「ユミナリア皇国の皇城」
「その地下」
「そして」
「あなたたちは」
「無断で」
「ここへ侵入した」
千乃。
「正確には」
「入ろうとしたら」
「地下で侵入者が出たって」
「騒ぎになって」
「その侵入者を探してたら」
「なぜか」
「私たちが侵入者扱いされて」
「追いかけられて」
「地下まで来た」
エリシア。
「……」
「…………」
「それは」
「結果として」
「侵入したということでしょう?」
千乃。
「じゃあ」
「侵入者を追いかけた兵士も」
「侵入者?」
エリシア。
「……」
「…………」
「違いますわ!」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「言い負かさないの」
「えー」
エリシア。
ゆっくり。
千乃へ近づく。
「……千乃」
千乃。
「はい」
「あなたは」
「ここから」
「無事に帰れるとでも?」
千乃。
「帰れるよ?」
「どうして?」
「歩いて」
真銀。
「千乃」
「なに?」
「ちょっと」
「真面目に答えろ」
「真面目だよ?」
ライ。
「……」
「話が進まん」
エリシア。
「あなた……!」
その時。
千乃。
ふと。
エリシアの後ろを見る。
「……」
エリシア。
「?」
千乃。
「ねえ」
「なにか」
「ついてるよ」
エリシア。
「……?」
「何がですの?」
千乃。
「背中」
エリシア。
「……」
自分の背中を見る。
もちろん。
何もない。
「何も……」
千乃。
「そっか」
にこっ。
「じゃあ」
「もういいや」
エリシア。
「?」
その瞬間。
きらっ。
エリシアの背後。
淡い光。
一本。
細い。
細い。
魔法の糸。
すでに。
背後へ。
伸びていた。
エリシア。
「……!」
「いつの間に……!?」
千乃。
「さっき」
エリシア。
「何ですって!?」
千乃。
「話してる間」
「ずっと」
エリシア。
「……」
「…………」
千乃。
「捕まえた」
きゅっ。
魔法の糸。
エリシアの腕。
胴。
足。
そして。
幽霊の身体へ。
絡みつく。
「なっ……!」
「離しなさい!」
千乃。
「嫌」
「なっ……!」
エリシア。
魔力を。
解放する。
ぶわっ!!
地下室。
冷たい風。
真銀。
「千乃!」
「大丈夫」
千乃。
右手を。
軽く。
握る。
きゅっ。
魔法の糸。
さらに。
強く。
締まる。
エリシア。
「くっ……!」
「なぜ……!」
「幽霊である」
「わたくしを……!」
「こんな……!」
千乃。
「幽霊だから」
「捕まえられないって」
「誰が決めたの?」
エリシア。
「……!」
千乃。
「私の魔法は」
「物だけ掴む魔法じゃないよ」
柚乃。
「さすが」
「お姉ちゃん」
真銀。
「何で」
「幽霊を捕まえる魔法の糸が」
「普通にあるんだ……」
千乃。
「今作った」
真銀。
「今!?」
ララ。
「主!」
「すごい!」
ライ。
「……」
「……また変な魔法を」
「即席で作ったのか」
アイシィ。
「千乃さん」
「それ」
「簡単に言っていいことじゃありません」
千乃。
「えー」
エリシア。
「……」
「…………」
「放しなさい!」
千乃。
「嫌」
「あなた!」
「お姉ちゃんに」
「何回も嫌がらせして」
「また」
「偽物の証拠作って」
「町中にばらまいたんでしょ!」
千乃。
「……」
エリシア。
目を細める。
「それが」
「どうしたと」
「言うのです?」
柚乃。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
地下室。
空気が。
一瞬。
変わった。
千乃。
笑っていない。
「どうしたって」
「言った?」
エリシア。
「……」
千乃。
魔法の糸。
指先で。
少し。
動かす。
エリシア。
「……!」
身体が。
空中へ。
浮かび上がった。
「ちょっ……!」
千乃。
「今」
「私の仲間を」
「私の家族を」
「私を信じてくれてる人たちを」
「騙そうとした人が」
「目の前にいる」
エリシア。
「……」
千乃。
「だから」
にこっ。
「聞きたいことがある」
エリシア。
「……」
「…………」
「何を」
千乃。
「今回のこと」
「全部」
「誰とやったの?」
エリシア。
「……」
「…………」
「知りませんわ」
千乃。
「へえ」
魔法の糸。
ぴん。
エリシア。
「……!」
千乃。
「じゃあ」
「もう一回聞くね」
真銀。
「千乃」
千乃。
「なに?」
「その糸」
「何?」
「ただの」
「魔法の糸」
「何で」
「勝手にピンってなった?」
「さあ?」
真銀。
「さあ?」
エリシア。
「……」
「…………」
「……弟」
千乃。
ぴたっ。
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
千乃。
「……」
「今」
「弟って」
「言った?」
エリシア。
「……!」
千乃。
「へえ」
にこっ。
「弟」
「いるんだ」
エリシア。
「……」
千乃。
「誰かな」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「誰だろうね」
真銀。
「……」
「…………」
「白々しい」
エリシア。
「……!」
「言ってません!」
千乃。
「うん」
「今の」
「すごく分かりやすかったよ」
エリシア。
「……」
魔法の糸。
きらり。
千乃。
「じゃあ」
「その弟さんにも」
「会いに行こうか」
エリシア。
「させませんわ!」
その瞬間。
エリシアの身体。
ぼうっ!
白い光。
真銀。
「逃げる気だ!」
千乃。
「逃がさない」
きゅんっ!
魔法の糸。
地下室。
天井。
壁。
床。
四方八方へ。
広がる。
そして。
エリシアを。
完全に。
包み込んだ。
「なっ……!?」
白い光。
消える。
エリシア。
その場から。
動けない。
千乃。
「……」
にこっ。
「どこ行くの?」
エリシア。
「……!」
千乃。
「まだ」
「お話」
「終わってないよ?」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「うん?」
「ちょっと」
「悪役みたい」
千乃。
「え?」
真銀。
「完全に」
「今の方が」
「悪役っぽかったぞ」
「ひどい」
ララ。
「主!」
「怖い!」
「なんで!?」
千乃。
「それ」
「今日何回目だ」
ライ。
「……」
「数える気もない」
アイシィ。
「わたしもです」
千乃。
「えー」
エリシア。
「……」
「…………」
「あなたたち」
「本当に」
「腹が立ちますわ」
千乃。
「うん」
エリシア。
「……?」
千乃。
「私も」
「今」
「すごく」
「腹が立ってるから」
にこっ。
エリシア。
「……」
地下室。
静かになる。
千乃。
エリシアを見上げる。
「ねえ」
「エリシア」
「……」
「今回のこと」
「全部話して」
エリシア。
「嫌ですわ」
千乃。
「そっか」
にこっ。
柚乃。
「お姉ちゃん」
「うん?」
「次」
「どうする?」
千乃。
「考えてる」
エリシア。
「……」
魔法の糸。
きらきら。
地下室を。
縦横無尽に。
張り巡らされている。
逃げ道。
なし。
すり抜け。
なし。
消える。
なし。
千乃。
「……」
にこっ。
「とりあえず」
「パイライトのところ」
「案内してもらおうかな」
エリシア。
「……!」
「絶対に!」
「しませんわ!」
千乃。
「そっか」
魔法の糸。
すっ。
エリシアごと。
ゆっくり。
移動する。
エリシア。
「なっ……!」
「どこへ!?」
千乃。
「皇城の中」
エリシア。
「……!」
千乃。
「案内してくれなくても」
「探すから」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
真銀。
「……」
「千乃」
「なに?」
「それ」
「本当に」
「今作った魔法なのか?」
千乃。
「うん」
「怖い」
「なんで!?」
真銀。
「もう」
「聞き飽きた」
千乃。
「ひどい」
そして。
千乃は。
魔法の糸で。
エリシアを。
しっかり。
確保したまま。
地下室の出口へ。
歩き出した。
その後ろ。
柚乃。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「私」
「何すればいい?」
千乃。
「うーん」
「……」
「黒マント」
柚乃。
「それは」
「もうしてる」
千乃。
「じゃあ」
「一緒に歩いて」
「了解」
真銀。
「戦力として」
「扱ってやれ」
千乃。
「えー」
ララ。
「主!」
「ララは!」
千乃。
「一緒に歩いて」
「主ぃぃぃぃぃ!?」
ライ。
「平和だな」
アイシィ。
「ですね」
エリシア。
「……」
「…………」
「わたくしを捕まえたまま」
「なぜそんなに」
「のんびりしてますの?」
千乃。
「うーん」
にこっ。
「だって」
「もう」
「逃げられないから」
エリシア。
「……」
魔法の糸。
きらり。
千乃。
「行こうか」
「弟さんに」
エリシア。
「絶対に!」
「会わせませんわ!」
千乃。
「じゃあ」
「探そっか」
黒マント。
ばさっ。
柚乃。
黒マント。
ばさっ。
二人。
並ぶ。
その横。
魔法の糸に。
ぐるぐると。
確保された。
エリシア。
真銀。
「……」
「これ」
「第三者から見たら」
「どんな集団なんだ?」
ライ。
「考えるな」
ララ。
「主が二人!」
千乃。
「双子だからね」
真銀。
「便利な言葉だな」
千乃。
「でしょ?」
そして。
地下室の扉。
ぎぃぃぃぃ。
開く。
千乃。
にこっ。
「パイライト」
「待っててね」
エリシア。
「……」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
千乃。
「……」
「次は」
「弟の番」
その時だった。
「……待ちなさい」
エリシア。
魔法の糸に拘束されたまま。
千乃を。
睨んでいた。
千乃。
「なに?」
エリシア。
「あなたは」
「何も」
「分かっていませんわ」
千乃。
「……」
エリシア。
「真銀様を」
「私から奪った」
「あなたが悪い」
地下室。
静かになった。
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
千乃。
足を止めた。
ゆっくり。
エリシアを見る。
「……」
真顔。
エリシア。
「……?」
千乃。
「今」
「なんて?」
エリシア。
「真銀様を」
「私から奪った」
「あなたが悪いと」
「言いましたわ」
千乃。
「……」
真銀。
「千乃」
「……」
千乃。
「私は」
「あなたと違って」
声。
低い。
「前世」
「自分の命と変えてでも」
「真銀を守った」
エリシア。
「……!」
千乃。
「それに比べて、あなたは」
「真銀を」
「自分のものにしたかった」
「それだけ」
エリシア。
「違いますわ!」
千乃。
「違わない」
「私は」
「真銀が」
「幸せなら」
「それでよかった」
エリシア。
「……」
千乃。
「一緒にいられなくても」
「生きててくれれば」
「それでよかった」
真銀。
「……」
千乃。
「私は」
「そう思って」
「守った」
エリシア。
「……」
千乃。
「あなたは?」
「……」
「真銀が」
「あなたを選ばなかったから」
「私を恨んだ」
「それだけじゃない」
エリシア。
「……!」
千乃。
髪。
ゆっくり。
色が変わり始める。
メタルピンク。
その色が。
淡く。
淡く。
白っぽくなっていく。
淡い。
ピンク。
そして。
左目。
ピンクだった瞳。
ゆっくり。
赤色へ。
右目は。
金色。
金。
赤。
オッドアイ。
柚乃。
「……」
小さく。
「お姉ちゃん」
真銀。
「……」
千乃。
「あなた」
「真銀に」
「何をしてあげた?」
エリシア。
「……」
千乃。
「守った?」
「……」
「助けた?」
「……」
「真銀のために」
「自分を犠牲にした?」
エリシア。
「……」
千乃。
「してないよね」
エリシア。
「……」
千乃。
「あなたがしたのは」
「私を邪魔者扱いして」
「真銀を奪おうとして」
「それで」
「自分が選ばれなかったら」
「私のせいにした」
エリシア。
「……!」
千乃。
「違う?」
エリシア。
「……」
「…………」
千乃。
「答えて」
エリシア。
「……」
魔法の糸。
きらっ。
地下室。
わずかに。
空気が震えた。
真銀。
「千乃」
千乃。
「なに」
「もういい」
「……」
真銀。
「俺が」
「言う」
千乃。
「……」
真銀。
一歩。
前へ出る。
エリシアを見る。
「エリシア」
「……」
「俺は」
「誰にも」
「奪われたことなんてない」
エリシア。
「……!」
真銀。
「俺が」
「千乃を選んだ」
「千乃が」
「俺を奪ったんじゃない」
エリシア。
「……」
真銀。
「それだけだ」
エリシア。
「……」
「…………」
「……っ」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
地下室。
静かになる。
千乃。
ゆっくり。
息を吐いた。
「……」
そして。
目を閉じる。
数秒。
静寂。
やがて。
髪。
淡いピンクから。
元の。
メタルピンクへ。
少しずつ。
戻っていく。
左目。
赤色から。
いつもの。
ピンクへ。
金色とピンク。
いつもの、オッドアイ。
千乃。
「……」
ぱちっ。
目を開く。
柚乃。
「……」
千乃。
「なに?」
柚乃。
「……」
「…………」
「戻った」
千乃。
「うん」
真銀。
「……」
千乃。
「なに?」
「……」
「…………」
「怒ってる?」
千乃。
「もう」
「怒ってないよ」
真銀。
「……」
「本当に?」
「うん」
真銀。
「……」
「さっき」
「目」
「赤かったぞ」
千乃。
「そう?」
ライ。
「そうだ」
アイシィ。
「髪の色も」
「変わっていました」
ララ。
「主!」
「めっちゃ怖かった!」
千乃。
「……」
「…………」
「なんで」
柚乃。
「でも」
「かっこよかった」
千乃。
「……」
少し。
笑う。
「ありがとう」
エリシア。
「……」
千乃。
エリシアを見る。
もう。
怒ってはいなかった。
「……エリシア」
「……」
「私は」
「あなたを恨んでない」
エリシア。
「……?」
千乃。
「嫌がらせされたのは」
「普通に腹立つけど」
真銀。
「そこは」
「ちゃんと言うんだな」
千乃。
「言うよ」
「でも」
「あなたが」
「真銀を好きだったこと自体は」
「悪いことじゃない」
エリシア。
「……」
千乃。
「ただ」
「真銀が」
「誰を選ぶかは」
「真銀が決めること」
真銀。
「……」
千乃。
「誰かを好きだからって」
「その人を」
「自分のものにできるわけじゃない」
エリシア。
「……」
千乃。
「それだけ」
エリシア。
「……」
長い。
沈黙。
そして。
「……」
「…………」
「……分かりませんわ」
千乃。
「うん」
エリシア。
「……」
「…………」
「腹が立ちますわ」
千乃。
「それも」
「知ってる」
エリシア。
「あなたは!」
「どうして!」
「そんなに!」
「平然としていられるのです!」
千乃。
「……」
少し。
考える。
「平然としてるように」
「見える?」
エリシア。
「見えますわ!」
千乃。
「そっか」
「でも」
「私も」
「普通に傷つくよ」
エリシア。
「……」
千乃。
「嫌なこと言われたら」
「悲しいし」
「仲間に信じてもらえなかったら」
「苦しい」
「真銀に」
「冷たくされた時も」
「すごく悲しかった」
真銀。
「……」
千乃。
「でも」
「それで」
「あなたみたいに」
「人を傷つけてもいい理由にはならない。守護神ならなおさら。」
エリシア。
「……」
千乃。
「だから」
「私は」
「もう一回」
「言う」
真銀。
「……」
千乃。
「私は」
「真銀を」
「奪ってない」
エリシア。
「……」
千乃。
「真銀が」
「自分で」
「私を選んだ」
真銀。
「……」
千乃。
少し。
笑った。
「それだけ」
エリシア。
「……」
魔法の糸。
きらり。
千乃。
「さて」
エリシア。
「……?」
千乃。
「話は終わり」
エリシア。
「……!」
千乃。
「パイライトのところ」
「案内して」
エリシア。
「嫌ですわ」
千乃。
「そっか」
にこっ。
真銀。
「……」
「またその笑顔だ」
千乃。
「怒ってないよ?」
真銀。
「今の方が」
「信用できない」
千乃。
「えー」
魔法の糸。
ふわっ。
エリシア。
「ちょっと!」
「待ちなさい!」
千乃。
「待たない」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「次」
「パイライトだね」
千乃。
「うん」
黒マント。
ばさっ。
二人。
並ぶ。
真銀。
「……」
「俺」
「嫌な予感しかしない」
ライ。
「奇遇だな」
ララ。
「主!」
「次はどこ行くの!?」
千乃。
「パイライト探し」
ララ。
「わーい!」
真銀。
「何で喜ぶ」
アイシィ。
「千乃さん」
「今度は」
「穏便に行きましょう」
千乃。
「うん」
「穏便に」
真銀。
「……」
「…………」
「本当か?」
千乃。
「本当」
柚乃。
「たぶん」
真銀。
「たぶん!?」
千乃。
「じゃあ」
「行こっか」
魔法の糸。
ふわっ。
エリシアを。
確保したまま。
千乃たちは。
地下室を出た。
次に向かうのは。
ユミナリア皇国。
次期皇王。
パイライト。
千乃。
「……」
小さく。
笑う。
「今度こそ」
「全部」
「終わらせよう」
地下室を出て。
千乃たちは。
長い廊下を歩いていた。
千乃の手から伸びた魔法の糸。
その先には。
エリシア。
しっかりと確保されたまま。
「ちょっと!」
「もっと丁寧に扱いなさい!」
千乃。
「歩いてるだけだよ?」
「あなた」
「幽霊を散歩させてるみたいな扱いですわ!」
ララ。
「エリシア!」
「主と一緒にお散歩できてよかったね!」
エリシア。
「よくありませんわ!」
ライ。
「元気だな」
アイシィ。
「幽霊になっても」
「元気なのですね」
エリシア。
「あなたたち……」
千乃。
少し。
笑う。
「まあまあ」
「これからパイライトのところに行くんだから」
エリシア。
「行かせませんわ!」
千乃。
「行くよ」
「行きませんわ!」
「行く」
「行きません!」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「それ」
「いつまで続けるの?」
千乃。
「エリシアが諦めるまで」
真銀。
「……」
じーっ
「……」
じーっ
「…………」
(なんだろう、何かが違う)
「千乃」
「なに?」
「一回」
「俺の方見て」
千乃。
「?」
真銀。
少し。
後ろを歩いていた。
千乃。
「……」
「どうしたの?」
そして。
千乃は。
真銀の方を。
振り返った。
「真銀?」
その瞬間。
千乃の身体。
ふわっ。
淡い光。
「……?」
真銀。
「千乃?」
千乃。
「……え?」
次の瞬間。
光。
強く。
強く。
地下の廊下を。
白く。
照らした。
「っ……!」
柚乃。
「お姉ちゃん!?」
ララ。
「主!?」
ライ。
「千乃!」
アイシィ。
「千乃さん!」
エリシア。
「な、何ですの!?」
千乃。
「えっ」
「ちょっと待って」
「私も」
「分からない!」
光。
さらに。
強くなる。
千乃の姿が。
見えない。
真銀。
「千乃!」
手を伸ばす。
しかしその手が届く前に。
光が。
すうっ。
消えた。
地下の廊下。
再び。
静かになる。
そして。
そこに立っていたのは。
千乃。
だった。
ただし。
いつもの千乃ではない。
腰まで伸びた髪。
真っ白。
雪のような。
白髪。
そして。
両目。
深紅。
赤い瞳。
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
真銀。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
ぱちっ。
ぱちっ。
目を瞬かせる。
「……?」
真銀。
「千乃」
「なに?」
真銀。
「……」
「…………」
「大丈夫か?」
千乃。
「うん」
「大丈夫だよ?」
真銀。
「……」
千乃。
「?」
柚乃。
恐る恐る。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「……」
「…………」
「鏡」
千乃。
「鏡?」
柚乃。
「うん」
「見て」
千乃。
「なんで?」
柚乃。
「いいから」
千乃。
「?」
すると。
千乃。
魔法を使う。
空中。
水。
光。
そして。
一枚の。
鏡。
ふわっ。
千乃の前に現れた。
千乃。
「……」
鏡を見る。
数秒。
「……」
「…………」
「……あ」
真銀。
「……」
千乃。
自分の髪を。
触る。
さらっ。
真っ白。
「白い」
柚乃。
「うん」
「白いね」
千乃。
目。
見る。
深紅。
「赤い」
ララ。
「主!」
「赤い!」
千乃。
「うん」
アイシィ。
「千乃さん」
「これは」
「……」
千乃。
「鬼月姫」
エリシア。
「……!」
千乃。
「……」
エリシア。
「……」
「鬼月姫……」
真銀。
「千乃」
千乃。
「うん?」
「……」
「…………」
「本当に」
「大丈夫なんだな?」
千乃。
「大丈夫だよ」
真銀。
「本当に?」
「うん」
千乃。
「……」
少し。
考える。
「自我もある」
「理性もある」
真銀。
「……」
千乃。
「……」
自分の手を見る。
指を。
ぎゅっ。
開く。
「うん」
「ちゃんと」
「私だよ」
柚乃。
「……」
ゆっくり。
近づく。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「……」
「…………」
「柚乃、怖くない?」
「なんで?」
「鬼月姫だよ?」
柚乃。
「お姉ちゃんじゃん」
「……」
千乃は驚いたように。
少し。
目を丸くする。
「……そっか」
そして。
笑った。
深紅の瞳。
白い髪。
けれど。
笑い方は。
いつもの。
千乃。
ララ。
「主!」
「白い!」
千乃。
「うん」
「ララ」
「触っていい?」
千乃。
「いいよ!」
ララ。
ぴょんっ!
千乃へ。
飛びつく。
千乃。
ぱしっ。
受け止める。
「主ー!」
「なに?」
「いつもの主!」
千乃。
「いつもの千乃だよ」
ライ。
「見た目は」
「全然いつもじゃないがな」
アイシィ。
「でも」
「中身はいつもの千乃さんですね」
千乃。
「うん」
真銀。
一歩。
近づく。
「……」
千乃。
「真銀?」
真銀。
千乃の目を見る。
深紅。
「……」
千乃。
「なに?」
真銀。
「いや」
「似合ってる」
千乃。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
エリシア。
「……」
千乃。
「……」
「…………」
「え?」
真銀。
「え?」
千乃。
「急に」
「どうしたの?」
真銀。
「思ったから」
千乃。
「……」
「…………」
「そっか」
少し。
照れたように。
笑う。
「ありがとう」
エリシア。
「……」
千乃。
「?」
エリシア。
真銀を。
見ている。
真銀。
「……?」
エリシア。
「……」
「…………」
「……本当に」
「変わりませんわね」
千乃。
「なにが?」
エリシア。
「何でもありません」
千乃。
「そう?」
エリシア。
「……」
少し。
視線を逸らした。
千乃。
「……」
そして。
エリシアを見る。
「ねえ」
「エリシア」
エリシア。
「何ですの」
千乃。
「パイライトの場所」
「教えて」
エリシア。
「嫌ですわ」
千乃。
「そっか」
にこっ。
深紅の瞳。
エリシア。
「……!」
千乃。
「今度は」
「魔法の糸」
「少しだけ増やそうかな」
エリシア。
「脅しですの!?」
千乃。
「違うよ?」
「逃げないように」
「確保するだけ」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
真銀。
「千乃」
「なに?」
「それ」
「脅しだ」
千乃。
「えー」
柚乃。
「お姉ちゃん」
「鬼月姫になっても」
「お姉ちゃんだね」
千乃。
「だから」
「中身は変わってないって」
柚乃。
「うん」
「確認できた」
千乃。
「なにそれ」
真銀。
「……」
「…………」
「よし」
千乃。
「なに?」
「パイライトを探すぞ」
ララ。
「おー!」
柚乃。
「おー!」
ライ。
「……」
「おー」
アイシィ。
「おー」
真銀。
「……」
千乃。
「真銀」
「なに?」
「テンション低い」
「お前らが高い」
千乃。
「そっか」
そして。
千乃。
魔法の糸を。
きゅっ。
握り直す。
エリシア。
「……」
千乃。
白い髪を。
揺らしながら。
歩き出した。
深紅の瞳。
その姿。
鬼月姫。
しかし。
自我も。
理性も。
失っていない。
そこにいるのは。
いつもの。
千乃。
ただ。
少しだけ。
見た目が。
変わっただけだった。
千乃。
「さて」
「今度こそ」
「パイライト」
「見つけるよ」
エリシア。
「……」
魔法の糸。
きらり。
エリシア。
「……絶対に」
「見つけさせませんわ」
千乃。
「じゃあ」
「競争だね」
真銀。
「何の競争だ」
千乃。
「パイライトを」
「先に見つけた方が勝ち」
真銀。
「……」
「お前」
「本当に」
「中身はいつもの千乃だな」
千乃。
「でしょ?」
白髪。
深紅の瞳。
鬼月姫。
千乃。
そのまま。
廊下の奥へ。
歩き出した。
そして。
魔法の糸の先。
エリシアは。
嫌そうな顔をしながら。
連れて行かれるのだった。




