霊嬢作戦決行!
その日の夕方。
ユミナリア皇国。
皇城。
パイライトの部屋。
ばたんっ!
「帰りましたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
パイライトが。
勢いよく。
部屋へ飛び込んだ。
その手には。
録音魔道具。
「ブヒッ!」
「鳴かない!」
すぐ後ろ。
ふわっ。
エリシアが現れる。
「さあ」
「帰国しましたわ」
「はい!」
「では」
「次の工程ですわね」
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「編集ですな」
エリシア。
「その通りですわ」
今回。
二人が作るのは。
動画ではない。
映像は。
使わない。
――音声だけ。
千乃の声。
それだけを。
証拠として。
広めるつもりだった。
パイライト。
「つまり!」
机の上に。
録音魔道具を置く。
「今回は!」
「千乃が!」
「自分で!」
「言ったように聞こえる!」
「音声だけの!」
「証拠!」
「ですな!」
エリシア。
「そうですわ」
「映像がない方が」
「余計なものが入りませんもの」
「……」
「……」
パイライト。
「姉上」
「なに?」
「それ」
「動画って言わなくなりません?」
エリシア。
「……」
「……」
「…………」
「細かいことは」
「どうでもいいですわ!」
「言い切りましたな!?」
エリシア。
机の上。
紙を広げる。
そこには。
今回集めた。
五つの音声。
――みんな。
――いらない!
――消えれば。
――いい。
――のに。
「これを」
「順番に」
「つなげます」
パイライト。
「はい!」
「みんな」
「いらない!」
「消えれば」
「いい」
「のに」
エリシア。
「そう」
「そして」
「余計な部分を」
「すべて消す」
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「これ」
「難しいですな」
「あなたがやりますの」
「姉上」
「なに?」
「幽霊なのに」
「何故」
「こんなに」
「編集に詳しいのです?」
エリシア。
「……」
「……」
「…………」
「執念ですわ」
「怖い!」
パイライト。
録音魔道具を。
机の上に置く。
かちっ。
「では!」
「まず!」
「『みんな』!」
再生。
『みんな強いから』
パイライト。
「ここから!」
「『みんな』だけを!」
「切り取る!」
エリシア。
「ええ」
「次!」
『いらない! 虫嫌いなのに!』
パイライト。
「『いらない!』!」
「そして!」
「『のに』!」
エリシア。
「一つの録音から」
「二つ取れましたわね」
「最高ですな!」
「静かに」
「はい」
次。
『風が消えればいい』
パイライト。
「ここから!」
「『消えれば』!」
「そして!」
「『いい』!」
エリシア。
「……」
満足そうに。
頷く。
「これで」
「材料は揃いましたわ」
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「編集開始!」
「ブヒッ!」
「だから!」
「編集前に鳴かない!」
机の上。
魔法の編集板。
淡い光を放つ。
録音された声が。
文字として。
空中に浮かび上がる。
エリシア。
「ここを」
「切る」
「はい」
「余計な会話は消す」
「はい」
「次とつなげる」
「はい」
「間を」
「自然にする」
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「自然に?」
「自然に」
「……」
「……」
「……」
「どうやって?」
エリシア。
「……」
ぴたっ。
「……」
「……」
「…………」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
「…………」
「……私が」
「やりますわ」
「計画だけじゃなかった!?」
「編集は」
「あなたには」
「無理ですわ」
「ひどい!」
「事実ですわ」
「……」
エリシア。
録音魔道具へ。
手を伸ばす。
幽霊の手が。
すっ。
通り抜けた。
「……」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
もう一度。
すっ。
通り抜けた。
「……」
パイライト。
「姉上」
「なに?」
「触れませんな」
「……」
「……」
「…………」
エリシア。
「弟」
「はい」
「やりなさい」
「結局私ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
こうして。
編集作業。
開始。
「ここを押す」
「はい」
「違う!」
「え!?」
「そっちではない!」
「どっち!?」
「左!」
「私から見て!?」
「あなたから見てですわ!」
「最初からそう言ってください!」
「ブヒッ!」
「今どこから!?」
そして。
数十分後。
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
汗だく。
エリシア。
「……」
幽霊なので。
汗は出ない。
「できました?」
「……」
パイライト。
録音魔道具を見る。
「……」
「……」
「…………」
「再生しますぞ」
かちっ。
しん。
部屋の中に。
千乃の声が。
流れた。
『みんな』
少しの間。
『いらない!』
少しの間。
『消えれば』
少しの間。
『いい』
少しの間。
『のに』
「……」
「……」
「……」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「……」
「……」
「……姉上」
「なに?」
「……」
「……」
「…………」
「なんか」
「めちゃくちゃ」
「単語を並べただけ感が」
「ありますな」
エリシア。
「……」
「……」
「…………」
「もう一度」
「間を調整しますわ」
「ですよね」
そして。
さらに。
編集。
「もう少し」
「間を短く」
「はい」
「短すぎ!」
「え!?」
「今度は長い!」
「どっち!?」
「自然に!」
「その自然が分からない!」
「ブヒッ!」
「集中しなさい!」
さらに。
数十分。
そして。
「……」
エリシア。
「再生」
パイライト。
「はい」
かちっ。
しん。
次の瞬間。
部屋に。
千乃の声が。
流れた。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
「……」
「…………」
パイライト。
ゆっくり。
振り返る。
「……」
エリシア。
にやっ。
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「できましたな」
「ええ」
エリシア。
「完成ですわ」
今回。
映像はない。
だからこそ。
聞いた者は。
声だけを。
信じるかもしれない。
それは。
間違いなく。
千乃の声だった。
けれど。
千乃が。
言った言葉ではない。
切り取られ。
並べられ。
意味を変えられた。
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「完璧な」
「証拠音声ですな」
エリシア。
「ええ」
「これを」
「広めますわ」
パイライト。
「真銀も!」
「ララも!」
「ライも!」
「アイシィも!」
「町の人も!」
「全員!」
「千乃の本性を!」
「知ることになる!」
エリシア。
「……弟」
「はい?」
「それを言うとき」
「嬉しそうにしないで」
「なぜ!?」
「あなた」
「千乃を后にしたいのでしょう?」
「はい!」
「評判を下げすぎたら」
「后になった後」
「大変ですわよ」
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「……あ」
エリシア。
「気づくのが遅い」
「でも!」
パイライト。
胸を張る。
「私が!」
「完璧な皇王として!」
「守ればいい!」
「……」
エリシア。
「自分で言います?」
「言います!」
「ブヒッ!」
「鳴かない!」
こうして。
ユミナリア皇国。
次期皇王と。
その姉の霊。
二人による。
新たな嫌がらせの証拠。
――音声だけの偽造証拠。
それが。
完成した。
『みんないらない! 消えればいいのに』
再生される。
千乃の声。
その声は。
間違いなく。
千乃本人のもの。
だからこそ。
これから。
とんでもない騒ぎを。
巻き起こすことになる。
パイライト。
「では!」
エリシア。
「待ちなさい」
「はい?」
「拡散方法を」
「まだ決めてませんわ」
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「ブヒッ」
「だから鳴くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
完成。
した。
偽の証拠音声。
『みんないらない! 消えればいいのに』
間違いなく。
千乃の声。
しかし。
千乃が言ったことのない言葉。
それを。
エリシアとパイライトは。
満足そうに見つめていた。
「……」
「……」
「…………」
パイライト。
「……姉上」
「なに?」
「これ」
「どうやって広めるんです?」
エリシア。
「……」
「……」
「…………」
「考えてませんでしたわ」
「また!?」
パイライト。
「姉上!」
「最近!」
「計画が!」
「雑ではありませんか!?」
「あなたにだけは」
「言われたくありませんわ!」
「ブヒッ!」
「鳴かない!」
エリシア。
少し考える。
そして。
ふっ。
「……結晶石」
「はい?」
「音声記録用の」
「小型結晶石ですわ」
パイライト。
「ああ!」
「音を保存できるやつですな!」
「そうですわ」
エリシア。
「完成した音声を」
「結晶石に移す」
「……」
「……」
パイライト。
「なるほど」
「そして?」
「複製する」
「……」
「……」
「…………」
パイライト。
「……」
「…………」
「大量に」
「ですな?」
エリシア。
にこっ。
「大量に」
「ですわ」
パイライト。
「おおおおおおおお!」
ばんっ!
机を叩く。
「つまり!」
「一つ!」
「二つ!」
「十個!」
「百個!」
「千個!」
「待ちなさい」
「なぜです!?」
「誰が」
「そんなに複製するの?」
「……」
「……」
「…………」
パイライト。
「私?」
「あなたですわ」
「ブヒッ!?」
「だから鳴くな!」
エリシア。
机の上に。
一つの結晶石を置く。
透明な。
小さな結晶。
内部には。
淡い光が。
揺れている。
「ここに」
「完成した音声を」
「移します」
パイライト。
「はい!」
録音魔道具。
結晶石。
二つを。
向かい合わせる。
「……ええと」
「このボタンを」
「押して」
「魔力を流して」
「はい」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「どれくらい?」
「私が分かるわけないでしょう」
「計画担当ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
「細かいことは」
「実行担当ですわ」
「その理論」
「便利すぎません!?」
「早くやりなさい」
「……はい」
パイライト。
魔力を流す。
結晶石。
ぽうっ。
光る。
録音魔道具。
淡い光。
そして。
数秒。
しん。
「……」
「……」
「…………」
「できました?」
「再生してみなさい」
パイライト。
結晶石を。
軽く指で叩く。
すると。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
「……」
「…………」
エリシア。
にやっ。
「成功ですわ」
パイライト。
「おお!」
「移せましたな!」
エリシア。
「では」
「複製開始」
パイライト。
「はい!」
その後。
しばらく。
皇城の一室では。
小さな光が。
何度も。
何度も。
何度も。
点滅していた。
結晶石。
一個。
二個。
三個。
五個。
十個。
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「姉上」
「なに?」
「これ」
「地味に疲れますな」
「まだ十個ですわよ」
「え?」
エリシア。
「せめて」
「もっと作りなさい」
「何個です?」
「……」
エリシア。
考える。
「……町一つ分」
パイライト。
「意味が分かりません!」
「たくさん」
「それでいいですわ」
「最初からそう言ってください!」
「ブヒッ!」
「今」
「何もしてないのに!?」
数時間後。
机の上。
結晶石。
結晶石。
結晶石。
結晶石。
結晶石。
大量。
とにかく。
大量。
パイライト。
机に突っ伏していた。
「……」
「……」
「…………」
「もう」
「無理ですぞ」
エリシア。
「あと少し」
「嫌です」
「弟」
「はい」
「千乃を」
「后にしたい?」
パイライト。
がばっ!
「します!」
「なら!」
「あと少し!」
「頑張りなさい!」
「はい!」
数十分後。
パイライト。
再び。
机に突っ伏す。
「……」
「……」
「…………」
「終わりました」
エリシア。
「……」
机を見る。
大量の結晶石。
「……」
「……」
「…………」
「よろしい」
パイライト。
「褒めてください」
「偉いですわ」
「もっと」
「欲張りですわね」
「当然!」
「私は!」
「完璧な!」
「……」
エリシア。
「言わなくていいですわ」
「まだ何も言ってませんぞ!?」
そして。
次の日。
早朝。
ユミナリア皇国。
皇城の外。
パイライト。
大きな袋を。
抱えていた。
「……」
「……」
「…………」
「重い」
エリシア。
「結晶石ですもの」
「こんなに作れって言ったの!」
「あなたですわ」
「姉上が町一つ分って!」
「比喩ですわ!」
「分かりませんでした!」
「知ってますわ!」
袋の中。
大量の。
音声結晶石。
一つ一つに。
同じ音声。
『みんないらない! 消えればいいのに』
が。
保存されている。
パイライト。
袋を持ち上げる。
「……では」
エリシア。
「はい」
「いよいよ」
「実行ですわ」
パイライト。
「……」
にやっ。
「町へ」
「行きますぞ」
その後。
ユミナリア皇国。
様々な町。
様々な通り。
様々な広場。
そして。
様々な人通りの多い場所。
そこに。
小さな結晶石が。
一つ。
また一つ。
置かれていった。
誰かが。
「……?」
と。
拾う。
「これ」
「何だ?」
結晶石。
淡く光る。
次の瞬間。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……!?」
拾った人。
固まる。
「今の声」
「千乃様……?」
また別の場所。
「何これ?」
子ども。
結晶石を。
手に取る。
ぽうっ。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
「……え?」
その近く。
大人。
「……まさか」
「千乃様が?」
さらに。
別の通り。
市場。
店の前。
広場。
ベンチの下。
花壇の近く。
とにかく。
そこら中。
ぽつ。
ぽつ。
ぽつ。
結晶石。
「誰が置いた?」
「分からない」
「でも……」
「声は」
「千乃様だ」
誰かが。
再生する。
また。
誰かが聞く。
さらに。
誰かが。
別の町へ持っていく。
そして。
結晶石は。
少しずつ。
少しずつ。
広がっていった。
その頃。
少し離れた場所。
パイライト。
物陰から。
様子を見ていた。
「……」
「……」
「…………」
「大成功ですな」
エリシア。
『弟』
「はい?」
『声』
「はい?」
『抑えなさい』
「……はい」
パイライト。
しかし。
口元。
にやにや。
「これで」
「千乃の評判は!」
「地の底へ!」
『あなた』
『千乃を后にしたいんですわよね?』
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「……今のところは」
「細かいことですな」
『細かくありませんわ』
「ブヒッ!」
『だから鳴くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
その頃。
星氷神城。
千乃。
「……」
「……?」
真銀。
「どうした?」
「……」
千乃。
窓の外を見る。
「なんか」
「また」
「嫌な予感」
真銀。
「最近」
「当たりすぎじゃないか?」
「私も」
「そう思う」
千乃。
首を傾げる。
まだ。
知らない。
自分の声を。
切り刻まれ。
つなぎ合わせた。
偽の音声が。
再び。
世界に。
ばらまかれていることを。
そして。
その音声が。
少しずつ。
少しずつ。
また。
千乃の日常を。
揺らし始めていることを。
その日の午後。
星霜王国。
城下町。
通りの端。
「……ん?」
一人の男性が。
道端に落ちている小さな結晶石を見つけた。
「何だ?」
拾い上げる。
淡い光。
そして。
結晶石から。
声が流れた。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
「……」
「…………」
男性。
無言。
結晶石を見る。
「……」
再生。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
男性。
「…………」
結晶石を。
地面に。
叩きつけた。
ぱりぃぃぃん!!
粉々。
「千乃様が」
「そんなこと言うわけねぇだろ」
そして。
そのまま。
去っていった。
数分後。
別の通り。
「これ何?」
女性が。
結晶石を拾う。
ぽうっ。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
女性。
再生を止める。
「……」
結晶石を見る。
「……」
そして。
「……あー」
「はいはい」
ぶんっ!
ぱぁぁぁぁん!!
地面。
粉砕。
「また偽物ね」
「懲りないわねぇ」
近くの人。
「何だった?」
「千乃様の偽音声」
「ああ」
その男性。
「また?」
「また」
「……」
「……」
「…………」
「懲りないな」
その数分後。
また一つ。
結晶石。
子どもが見つけた。
「ママー!」
「これ!」
「何ー?」
「拾ったー!」
結晶石。
再生。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
母親。
「……」
子ども。
「……」
「千乃様の声?」
「そうね」
「千乃様」
「そんなこと言ったの?」
「言わないわよ」
「じゃあ」
「偽物?」
「そう」
子ども。
結晶石を見る。
「……」
「……」
「…………」
「割っていい?」
「いいわよ」
「やった!」
ぽいっ。
ぱりんっ!
「割れたー!」
「よかったわね」
その近く。
店主。
「……」
「……」
「…………」
「これ」
「国民全員」
「割ってないか?」
「割ってますね」
「誰が片付けるんだ」
「……」
「……」
「…………」
「清掃隊?」
「かわいそう」
しかし。
結晶石は。
次々。
星霜王国へ。
持ち込まれていた。
市場。
広場。
路地。
城下町。
そして。
星氷神城の近く。
見つけるたび。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
「……」
ぱりんっ!
「偽物だ」
ぱりぃん!
「またか」
ぱぁん!
「千乃様が言うわけない」
ばりんっ!
「次!」
ぱきぃぃん!
「誰がこんなの作ってるんだ?」
その頃。
星氷神城。
千乃。
「……」
真銀。
「なに?」
「外」
「今日は」
「やたらと」
「パリンパリンって」
「聞こえない?」
「聞こえる」
千乃。
「何か割れてる?」
「分からない」
ララ。
「主ー!」
走ってくる。
「なに?」
「外で!」
「変な石が!」
「いっぱい割れてる!」
「石?」
ライ。
「結晶石らしい」
アイシィ。
「聞きましたよ」
「千乃さんの声が入っているとか」
千乃。
「……」
「……」
「…………」
「私?」
真銀。
「俺も聞いた」
「……」
千乃。
「何て言ってた?」
真銀。
「……」
「……」
「…………」
「聞かない方がいいと思う」
「なんで?」
「偽物だから」
「……?」
千乃。
首を傾げる。
「……」
真銀。
少し笑った。
「音声を聞いた人が」
「すぐ割ってる」
「……え?」
ララ。
「主が!」
「そんなこと言うわけないもん!」
千乃。
「ララ……」
「だって!」
「主!」
「いつもみんな助ける!」
ララ。
「お腹空いてても!」
「自分の分くれる!」
「……それは」
「ララが食べたからでしょ」
「細かいことはいいの!」
ライ。
「……俺も信じない」
千乃。
「ライ」
「主が」
「そんな言葉を言う意味がない」
「それだけだ」
短い。
けれど。
はっきりとした声。
アイシィ。
「わたしもですよ」
「千乃さんが」
「そんなことを言うとは」
「全く思いません」
真銀。
「俺も」
「……」
千乃。
「でも」
「声」
「私なんでしょ?」
真銀。
「声が同じだから何だ」
千乃。
「……」
「お前のこと」
「一番近くで見てる俺たちが」
「そんなもん一つで」
「信じなくなるわけないだろ」
千乃。
「……」
少し。
目を伏せた。
「……前は」
「信じてもらえなかった」
空気。
一瞬。
静かになる。
真銀。
「……」
ララ。
「……」
ライ。
「……」
アイシィ。
「……」
真銀。
ゆっくり。
千乃を見る。
「……だから」
「今回は」
「信じる」
「絶対」
「信じる」
千乃。
少し。
笑った。
「……うん」
その頃。
城下町。
また。
一つ。
結晶石。
ぽつん。
誰かが拾う。
『みんないらない! 消えればいいのに』
「……」
男性。
結晶石を見る。
「……」
ぶんっ!
ぱりぃぃぃん!!
「千乃様が」
「そんなこと言うわけねぇだろ!」
隣。
「また偽物?」
「また偽物」
「何個目?」
「知らん」
少し離れた場所。
子ども。
「ママー!」
「なーに?」
「千乃様の偽物の石!」
「また?」
「うん!」
「割っていい?」
「いいわよ」
「やった!」
ぱりんっ!
「これで」
「何個目?」
「八個!」
「そんなに!?」
こうして。
パイライトとエリシアが。
大量に複製し。
物理的にばらまいた。
偽の音声結晶石。
そのほとんどは。
星霜王国では。
広まることすらなかった。
理由。
簡単。
見つけた人が。
聞く。
そして。
割る。
聞く。
割る。
聞く。
割る。
最終的に。
星霜王国の城下町では。
妙な光景が。
日常になっていた。
「ぱりんっ!」
「偽物!」
「ぱりんっ!」
「千乃様が言うわけない!」
「ぱりぃぃん!」
「またか!」
「ぱきっ!」
「誰か片付けろ!」
「最後だけ現実的!」
そして。
遠く。
ユミナリア皇国。
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「姉上」
「なに?」
「そろそろ」
「効果が出ている頃ですな!」
エリシア。
「ええ」
「きっと」
「星霜王国の民も」
「千乃を」
「疑って……」
その時。
通信結晶石。
ぽうっ。
光る。
報告。
『星霜王国に撒いた結晶石ですが』
『発見次第』
『地面に叩きつけられています』
「……」
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
「…………」
『ほぼ全滅です』
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「ブヒッ」
エリシア。
「そこは鳴かないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」




