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霊嬢作戦 2

 第一段階。


 ――「みんな」。


 録音完了。


 残りは。


 ――いらない。


 ――消えれば。


 ――いい。


 ――のに。


 物陰。


 パイライトは。


 録音魔道具を握りしめていた。


「……よし」


『弟』


「はい」


『次は』


「いらない!」


『静かに』


「……はい」


 その頃。


 千乃たちは。


 城下町を歩いていた。


 ララは。


 食べ物の匂いがするたびに。


「主!」


「なに?」


「これ!」


「食べたい!」


「さっきも食べた!」


「でも!」


「これは別腹!」


「別腹多すぎない?」


 アイシィ。


「ララさんの胃袋は」


「どうなっているんでしょうね」


 ライ。


「考えるだけ無駄だ」


「ひどい!」


 真銀。


「……」


 ふと。


 地面を見る。


「千乃」


「なに?」


「虫取れた」


「……?」


 千乃。


 首を傾げる。


 真銀。


 何かを。


 指先でつまんでいる。


「いるか?」


「いらない! 虫嫌いなのに!」


 パイライト。


「…………」


「……」


「…………」


『弟?』


「……」


『弟!?』


 パイライト。


 録音魔道具を。


 握りしめたまま。


 ゆっくり。


 震え始める。


「……姉上」


『なに?』


「……」


「……」


「…………」


「二つ」


『え?』


「二つ!」


 エリシア。


『二つ!?』


 パイライト。


 録音魔道具を見る。


「録れましたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


『声を抑えなさい!』


「『いらない!』!」


『はい』


「そして!」


『はい』


「『のに』!」


『……』


「……」


「……」


 エリシア。


『…………』


 パイライト。


「……」


『本当に?』


「本当です!」


『確認しなさい』


「はい!」


 パイライト。


 録音を再生。


『いらない! 虫嫌いなのに!』


「……」


「……」


「……」


 エリシア。


『……』


 パイライト。


「……」


『……弟』


「はい?」


『天才ですわ』


 パイライト。


「でしょう!?」


『調子に乗らないで』


「早い!」


 パイライト。


 指を折る。


「これで!」


「みんな!」


「いらない!」


「のに!」


『残り二つ』


「消えれば!」


「いい!」


『そうですわ』


 パイライト。


「……」


「……」


「…………」


「急に」


「難しくなりましたな」


『最初から難しいですわ』


 エリシア。


『でも』


『今日は調子がいい』


 パイライト。


「そうですな!」


『一気に行きますわよ』


「はい!」


 そして。


 再び。


 録音開始。


 パイライトは。


 物陰から。


 千乃たちを見守る。


 ……いや。


 監視していた。


「……」


「……」


「……」


 千乃。


「真銀」


「なに?」


「虫」


「まだ持ってるの?」


「持ってる」


「なんで!?」


「いる?」


「いらない!」


 パイライト。


「…………」


 録音魔道具。


 すっ。


 停止。


『弟』


「はい」


『今の』


「もう録ってあります!」


『そうでしたわ』


「同じ単語を!」


「二回も!」


「録る必要は!」


「ありません!」


『声が大きい』


「すみません」


 ララ。


「主ー!」


「なに?」


「虫消していい?」


 千乃。


「うーん」


「かわいそうだから」


「消えればいい、とは言わないけど」


 パイライト。


「……」


「……」


 かちっ。


 録音魔道具。


 エリシア。


『弟?』


 パイライト。


「……姉上」


『なに?』


「今」


『ええ』


「聞きました?」


『聞きましたわ』


 パイライト。


「……」


「……」


「…………」


『……』


 パイライト。


「……」


「…………」


「惜しい!」


 エリシア。


『惜しいですわね!』


「『消えれば』!」


『録れましたわ』


「でも!」


『『いい』が違う』


「その後に!」


「とは言わない!」


「……」


『……』


「……」


「…………」


 エリシア。


『次ですわね』


「はい」


 その頃。


 千乃。


 真銀を見る。


「虫」


「どうするの?」


 真銀。


「外に逃がす」


 千乃。


「うん」


「それがいいね」


 パイライト。


「……」


 エリシア。


『弟』


「はい」


『今の』


「何もありません!」


『分かってますわ』


「なぜ言ったんです!?」


『なんとなく』


「幽霊って暇なんですか!?」


『暇ですわ』


「暇なんだ」


 アイシィ。


「千乃さん」


「なに?」


「この店」


「入りませんか?」


「うん」


 ララ。


「やった!」


 ライ。


「俺は外で待ってる」


 千乃。


「え?」


「なんで?」


「店の中」


「狭そうだから」


「じゃあ」


「真銀は?」


 真銀。


「俺も外でいい」


「じゃあ私も外」


「なんで?」


「みんなと一緒がいい」


 パイライト。


「……!」


 エリシア。


『弟?』


「……」


「……」


「…………」


『どうしました?』


 パイライト。


 顔を覆う。


「……」


「……」


「…………」


「みんな」


『はい』


「いらない!」


『はい』


「のに!」


『はい』


「……」


「……」


「…………」


「同じ単語」


「多すぎません?」


『知りませんわ!』


 パイライト。


「もう!」


「残り!」


「消えれば!」


「いい!」


「だけですな!」


『そうですわ』


「なら!」


「それを言うまで!」


「待ちます!」


『……』


「……」


 エリシア。


『……まともなことを言いましたわね』


 パイライト。


「私を何だと思ってるんです!?」


『弟ですわ』


「そういう意味ではありません!」


 しばらくして。


 千乃たちは。


 噴水の近くにいた。


 ララ。


「主ー!」


「なに?」


「あれ見て!」


「ん?」


 遠く。


 子どもたちが。


 紙飛行機を飛ばしている。


「すごいね」


「うん!」


 その中の一枚。


 風に煽られ。


 ふらふら。


 ふらふら。


 木に。


 引っかかった。


「うわぁ」


 子ども。


「飛ばないでほしかったのに……」


 千乃。


「……」


「……」


「……」


 パイライト。


「……」


 録音魔道具。


 構える。


 エリシア。


『弟』


「静かに」


『まだ何も』


「静かに」


『はい』


 千乃。


 空を見る。


「……」


「……」


「……」


 そして。


「今だけでも」


「風が消えればいい」


 パイライト。


「っ!?」


 かちっ!


 録音。


「……」


「……」


「……」


 エリシア。


『弟!?』


 パイライト。


 震えながら。


 録音魔道具を見る。


「……」


「……」


「…………」


「録れました」


『確認!』


 再生。


『風が消えればいい』


 エリシア。


『……』


 パイライト。


「……」


 エリシア。


『…………』


「……!」


「消えれば!」


『はい!』


「いい!」


『はい!』


「両方!」


『録れましたわ!』


 パイライト。


 ゆっくり。


 立ち上がる。


 そして。


 両手を広げた。


「……」


「……」


「…………」


「全」


「単」


「語」


「完」


「了」


 エリシア。


『声が大き』


「みんないらない!消えればいいのに!」


 エリシア。


『弟ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 パイライト。


「ブヒッ!?」


 千乃。


「……?」


 真銀。


「……?」


 ライ。


「……」


 真銀。


「今」


「何か聞こえなかった?」


 千乃。


「……」


「……」


「…………」


「ブタ?」


 パイライト。


「ブヒッ!?」


 エリシア。


『黙りなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』


 物陰。


 大混乱。


 しかし。


 肝心の成果は。


 完璧だった。


 ――みんな。


 完了。


 ――いらない!


 完了。


 ――消えれば。


 完了。


 ――いい。


 完了。


 ――のに。


 完了。


 残る工程は。


 たった一つ。


 録音を。


 切り取る。


 そして。


 つなげる。


 パイライト。


「……」


 録音魔道具を。


 ぎゅっ。


 と握る。


「これで」


「千乃の声による」


「完璧な証拠動画が……!」


 エリシア。


『弟』


「はい!」


『まだ』


『動画にしてませんわ』


「……」


「……」


「…………」


「ブヒッ」


『鳴かない!』


 その日の夕方。


 ユミナリア皇国。


 皇城。


 パイライトの部屋。


 ばたんっ!


「帰りましたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 パイライトが。


 勢いよく。


 部屋へ飛び込んだ。


 その手には。


 録音魔道具。


「ブヒッ!」


「鳴かない!」


 すぐ後ろ。


 ふわっ。


 エリシアが現れる。


「さあ」


「帰国しましたわ」


「はい!」


「では」


「次の工程ですわね」


 パイライト。


「……」


「……」


「…………」


「編集ですな」


 エリシア。


「その通りですわ」


 今回。


 二人が作るのは。


 動画ではない。


 映像は。


 使わない。


 ――音声だけ。


 千乃の声。


 それだけを。


 証拠として。


 広めるつもりだった。


 パイライト。


「つまり!」


 机の上に。


 録音魔道具を置く。


「今回は!」


「千乃が!」


「自分で!」


「言ったように聞こえる!」


「音声だけの!」


「証拠!」


「ですな!」


 エリシア。


「そうですわ」


「映像がない方が」


「余計なものが入りませんもの」


「……」


「……」


 パイライト。


「姉上」


「なに?」


「それ」


「動画って言わなくなりません?」


 エリシア。


「……」


「……」


「…………」


「細かいことは」


「どうでもいいですわ!」


「言い切りましたな!?」


 エリシア。


 机の上。


 紙を広げる。


 そこには。


 今回集めた。


 五つの音声。


 ――みんな。


 ――いらない!


 ――消えれば。


 ――いい。


 ――のに。


「これを」


「順番に」


「つなげます」


 パイライト。


「はい!」


「みんな」


「いらない!」


「消えれば」


「いい」


「のに」


 エリシア。


「そう」


「そして」


「余計な部分を」


「すべて消す」


「……」


 パイライト。


「……」


「…………」


「これ」


「難しいですな」


「あなたがやりますの」


「姉上」


「なに?」


「幽霊なのに」


「何故」


「こんなに」


「編集に詳しいのです?」


 エリシア。


「……」


「……」


「…………」


「執念ですわ」


「怖い!」


 パイライト。


 録音魔道具を。


 机の上に置く。


 かちっ。


「では!」


「まず!」


「『みんな』!」


 再生。


『みんな強いから』


 パイライト。


「ここから!」


「『みんな』だけを!」


「切り取る!」


 エリシア。


「ええ」


「次!」


『いらない! 虫嫌いなのに!』


 パイライト。


「『いらない!』!」


「そして!」


「『のに』!」


 エリシア。


「一つの録音から」


「二つ取れましたわね」


「最高ですな!」


「静かに」


「はい」


 次。


『風が消えればいい』


 パイライト。


「ここから!」


「『消えれば』!」


「そして!」


「『いい』!」


 エリシア。


「……」


 満足そうに。


 頷く。


「これで」


「材料は揃いましたわ」


 パイライト。


「……」


「……」


「…………」


「編集開始!」


「ブヒッ!」


「だから!」


「編集前に鳴かない!」


 机の上。


 魔法の編集板。


 淡い光を放つ。


 録音された声が。


 文字として。


 空中に浮かび上がる。


 エリシア。


「ここを」


「切る」


「はい」


「余計な会話は消す」


「はい」


「次とつなげる」


「はい」


「間を」


「自然にする」


「……」


 パイライト。


「……」


「…………」


「自然に?」


「自然に」


「……」


「……」


「……」


「どうやって?」


 エリシア。


「……」


 ぴたっ。


「……」


「……」


「…………」


 パイライト。


「……」


 エリシア。


「……」


「…………」


「……私が」


「やりますわ」


「計画だけじゃなかった!?」


「編集は」


「あなたには」


「無理ですわ」


「ひどい!」


「事実ですわ」


「……」


 エリシア。


 録音魔道具へ。


 手を伸ばす。


 幽霊の手が。


 すっ。


 通り抜けた。


「……」


「……」


「……」


 パイライト。


「……」


 エリシア。


「……」


 もう一度。


 すっ。


 通り抜けた。


「……」


 パイライト。


「姉上」


「なに?」


「触れませんな」


「……」


「……」


「…………」


 エリシア。


「弟」


「はい」


「やりなさい」


「結局私ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 こうして。


 編集作業。


 開始。


「ここを押す」


「はい」


「違う!」


「え!?」


「そっちではない!」


「どっち!?」


「左!」


「私から見て!?」


「あなたから見てですわ!」


「最初からそう言ってください!」


「ブヒッ!」


「今どこから!?」


 そして。


 数十分後。


 パイライト。


「……」


「……」


「…………」


 汗だく。


 エリシア。


「……」


 幽霊なので。


 汗は出ない。


「できました?」


「……」


 パイライト。


 録音魔道具を見る。


「……」


「……」


「…………」


「再生しますぞ」


 かちっ。


 しん。


 部屋の中に。


 千乃の声が。


 流れた。


『みんな』


 少しの間。


『いらない!』


 少しの間。


『消えれば』


 少しの間。


『いい』


 少しの間。


『のに』


「……」


「……」


「……」


 エリシア。


「……」


 パイライト。


「……」


「…………」


「……」


「……」


「……姉上」


「なに?」


「……」


「……」


「…………」


「なんか」


「めちゃくちゃ」


「単語を並べただけ感が」


「ありますな」


 エリシア。


「……」


「……」


「…………」


「もう一度」


「間を調整しますわ」


「ですよね」


 そして。


 さらに。


 編集。


「もう少し」


「間を短く」


「はい」


「短すぎ!」


「え!?」


「今度は長い!」


「どっち!?」


「自然に!」


「その自然が分からない!」


「ブヒッ!」


「集中しなさい!」


 さらに。


 数十分。


 そして。


「……」


 エリシア。


「再生」


 パイライト。


「はい」


 かちっ。


 しん。


 次の瞬間。


 部屋に。


 千乃の声が。


 流れた。


『みんないらない! 消えればいいのに』


「……」


「……」


「…………」


 パイライト。


 ゆっくり。


 振り返る。


「……」


 エリシア。


 にやっ。


「……」


 パイライト。


「……」


「…………」


「できましたな」


「ええ」


 エリシア。


「完成ですわ」


 今回。


 映像はない。


 だからこそ。


 聞いた者は。


 声だけを。


 信じるかもしれない。


 それは。


 間違いなく。


 千乃の声だった。


 けれど。


 千乃が。


 言った言葉ではない。


 切り取られ。


 並べられ。


 意味を変えられた。


 パイライト。


「……」


「……」


「…………」


「完璧な」


「証拠音声ですな」


 エリシア。


「ええ」


「これを」


「広めますわ」


 パイライト。


「真銀も!」


「ララも!」


「ライも!」


「アイシィも!」


「町の人も!」


「全員!」


「千乃の本性を!」


「知ることになる!」


 エリシア。


「……弟」


「はい?」


「それを言うとき」


「嬉しそうにしないで」


「なぜ!?」


「あなた」


「千乃を后にしたいのでしょう?」


「はい!」


「評判を下げすぎたら」


「后になった後」


「大変ですわよ」


 パイライト。


「……」


「……」


「…………」


「……あ」


 エリシア。


「気づくのが遅い」


「でも!」


 パイライト。


 胸を張る。


「私が!」


「完璧な皇王として!」


「守ればいい!」


「……」


 エリシア。


「自分で言います?」


「言います!」


「ブヒッ!」


「鳴かない!」


 こうして。


 ユミナリア皇国。


 次期皇王と。


 その姉の霊。


 二人による。


 新たな嫌がらせの証拠。


 ――音声だけの偽造証拠。


 それが。


 完成した。


『みんないらない! 消えればいいのに』


 再生される。


 千乃の声。


 その声は。


 間違いなく。


 千乃本人のもの。


 だからこそ。


 これから。


 とんでもない騒ぎを。


 巻き起こすことになる。


 パイライト。


「では!」


 エリシア。


「待ちなさい」


「はい?」


「拡散方法を」


「まだ決めてませんわ」


 パイライト。


「……」


「……」


「…………」


「ブヒッ」


「だから鳴くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

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