悪役霊嬢とその弟、作戦開始!!
翌朝。
ユミナリア皇国。
皇城の一室。
――ついに。
姉弟による。
とんでもなく迷惑な計画が。
始動した。
「……」
「……」
部屋の中央。
テーブルを挟み。
一人と一霊。
向かい合っている。
片方は。
金髪。
翡翠色の瞳。
かつてユミナリア皇国の第一王女だった女。
エリシア・ユミナリア。
現在。
幽霊。
そして。
その向かい。
金髪。
翡翠色の瞳。
ユミナリア皇国の次期皇王。
パイライト・ユミナリア。
「ブヒッ」
「……」
エリシア。
ぴたっ。
「……」
パイライト。
「……何です?」
「……」
「……」
「今」
「なんです?」
「鳴きました?」
「鳴いてません」
「ブヒッと」
「鳴いてません」
「……」
「……」
エリシア。
「まあ」
「いいでしょう」
「いいんですか!?」
パイライト。
「今日は」
「重要な日です」
「そうですな!」
「ブヒッ」
「……」
エリシア。
「弟」
「はい?」
「……本当に」
「ノリノリですわね」
パイライト。
ふふん。
「当然です!」
びしっ!
自分を指差す。
「我が!」
「この完璧なる!」
「イケメン皇太子!」
「パイライト・ユミナリア!」
「……」
「……」
「……」
エリシア。
「……弟」
「なんです?」
「鏡」
「はい?」
「一度」
「見た方がいいですわ」
「見てます!」
「見た上で!?」
パイライト。
「私ほどの」
「完璧な男など!」
「この世界には!」
「存在しない!」
「……」
エリシア。
弟を見る。
小柄。
丸い。
そして。
「……」
「……」
「…………」
「……」
エリシア。
「まあ」
「自信だけは」
「完璧ですわね」
「褒め言葉ですな!」
「違いますわ」
パイライト。
「とにかく!」
ばんっ!
テーブルを叩く。
「本日の目的!」
エリシア。
「確認しましょう」
「はい!」
エリシア。
指を一本。
立てる。
「私」
「真銀様を」
「取り戻しますわ」
パイライト。
指を一本。
立てる。
「私!」
「千乃を!」
「后にします!」
「……」
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
「……」
「……」
「目的」
「似てますな」
「似てませんわ」
エリシア。
「私は」
「愛する方を」
「取り戻す」
パイライト。
「私は」
「美しい女性を」
「手に入れる」
「……」
「……」
「……弟」
「はい?」
「その表現」
「最低ですわ」
「え?」
エリシア。
テーブルの上に。
大きな紙を広げる。
「では」
「作戦会議ですわ」
パイライト。
「おお!」
「ついに!」
「千乃后化計画!」
「名前がダサい」
「なんと!?」
エリシア。
「こちらは」
「真銀様奪還計画」
「……」
パイライト。
「こっちの方が」
「普通ですな」
「でしょう?」
エリシア。
「役割分担」
「しますわよ」
「はい!」
紙。
中央。
大きく。
書かれている。
――計画:エリシア。
――実行:パイライト。
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「姉上」
「なに?」
「つまり」
「私は」
「全部やる係ですか?」
「その通りですわ」
「え?」
エリシア。
「私は」
「幽霊ですもの」
「直接動くのは」
「限界がありますわ」
「なるほど!」
パイライト。
「では!」
「私が!」
「姉上の手足となり!」
「全てを!」
「実行するのですな!」
「ええ」
「ブヒッ!」
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
「今の」
「気合いですか?」
「そうです!」
「そうですの!?」
パイライト。
胸を張る。
「千乃を后にする!」
「そのためなら!」
「私は!」
「何でもします!」
「……」
エリシア。
「何でも」
「ですの?」
「もちろん!」
エリシア。
にやり。
「では」
「まず」
「真銀様と千乃を」
「引き離しますわ」
パイライト。
「……」
「……」
「……それ」
「私に何の得が?」
エリシア。
「その後」
「千乃が」
「あなたのものになる」
パイライト。
「おお!」
「そういうことですか!」
エリシア。
「単純」
パイライト。
「何か?」
「いいえ」
エリシア。
「作戦第一段階」
紙に。
さらさら。
文字が書かれる。
――二人の仲を悪化させる。
パイライト。
「おお!」
「……」
「どうやって?」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「私が考える」
「あなたが実行する」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
「……なるほど」
「はい」
「つまり」
「私は考えなくていい」
「そうですわ」
「最高ですな!」
エリシア。
「本当に」
「あなた」
「ノリノリですわね」
「当然!」
パイライト。
立ち上がる。
「千乃が!」
「私の!」
「后になる!」
「ブヒッ!」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「弟」
「はい」
「それ」
「笑うところです?」
「笑ってません!」
「なら」
「何故」
「鳴いたのです?」
「鳴いてません!」
「……」
エリシア。
「まあいいでしょう」
エリシアは。
紙を。
指差した。
「では」
「第一段階」
「千乃への」
「嫌がらせを始めますわ」
パイライト。
「おお!」
「どんな嫌がらせを?」
エリシア。
にこっ。
「まず」
「偽の証拠を」
「作ります」
パイライト。
「……」
「……」
「……」
「またですか?」
「またですわ」
「前回」
「結局」
「バレましたぞ?」
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「今回は」
「もっと」
「上手くやりますわ」
「その台詞」
「聞いたことがありますな」
「黙りなさい」
パイライト。
「ブヒッ」
「黙りなさい」
「私まだ喋ってませんぞ!?」
エリシア。
「鳴いてますわ」
「鳴いてません!」
パイライト。
ふんっ!
「とにかく!」
「私に任せてください!」
「今回は!」
「完璧な!」
「嫌がらせを!」
「実行します!」
エリシア。
「……」
少し。
不安そうな顔。
「……弟」
「はい?」
「本当に」
「大丈夫?」
「大丈夫です!」
「……」
「……」
「……ブヒッ」
「大丈夫じゃない気がしますわ」
「気のせいです!」
そして。
エリシア。
静かに。
窓の外を見る。
遠く。
星氷神城。
千乃。
真銀。
その仲間たちがいる。
「……待っていなさい」
エリシア。
翡翠色の瞳を。
細める。
「真銀様」
そして。
「千乃」
「……」
「……」
「私たちは」
「絶対に」
「諦めませんわ」
パイライト。
その隣。
「そうですな!」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……?」
「……何です?」
エリシア。
「『私たち』?」
パイライト。
「はい!」
エリシア。
「あなた」
「千乃が目的ですわよね?」
「そうです!」
「私は」
「真銀様」
「そうです!」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
「…………」
「なんか」
「同盟っぽいですな!」
「それはそうですわ」
「じゃあ!」
パイライト。
拳を握る。
「悪役同盟!」
エリシア。
「名前が最悪ですわ!」
「なぜ!?」
「もっと!」
「格好良い名前を!」
パイライト。
「……」
考える。
「……」
「……」
「……」
「姉上」
「なに?」
「『漆黒の復讐連盟』」
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「…………」
「厨二病ですわね」
パイライト。
「千乃が」
「喜びそうな名前ですな」
「確かに」
エリシア。
「却下ですわ」
「なぜ!?」
こうして。
その日の朝。
ユミナリア皇国で。
一つの計画が。
静かに。
動き始めた。
計画。
エリシア。
実行。
パイライト。
目的。
エリシア。
――真銀を奪う。
パイライト。
――千乃を后にする。
そして。
二人は。
まだ知らない。
その計画が。
後に。
とんでもない方向へ。
転がっていくことを。
「では弟」
「はい!」
「行ってらっしゃい」
パイライト。
「はい!」
……。
……。
……。
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「弟」
「はい?」
「作戦内容」
「覚えてます?」
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「千乃を」
「后にする!」
「違いますわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パイライト。
「ブヒッ!?」
その叫び声と。
よく分からない鳴き声が。
朝の皇城に。
盛大に響き渡った。
翌朝。
ユミナリア皇国。
皇城の一室。
「よし!」
パイライトが。
勢いよく立ち上がった。
「では!」
「早速!」
「作戦開始ですな!」
「待ちなさい」
「ブヒッ」
「……」
パイライト。
「……何です?」
エリシア。
腕を組んでいる。
「証拠」
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「……何の?」
「嫌がらせの証拠ですわよ!」
「あ」
エリシア。
「『あ』ではありませんわ!」
パイライト。
「そういえば!」
「まだ何も作ってませんでしたな!」
「今から行こうとしてましたわよね!?」
「はい!」
「何をしに!?」
「……」
パイライト。
考える。
「千乃の評判を」
「下げに?」
「証拠なしで!?」
「勢いですな!」
「最悪ですわ!」
エリシア。
深いため息。
「はぁ……」
「弟」
「はい」
「計画は私」
「実行はあなた」
「はい」
「なのに」
「証拠を作っていないことに」
「出発直前まで気づかないとは」
パイライト。
「……」
「……」
「……ブヒッ」
「反省してます?」
「してます!」
「鳴くな」
「鳴いてません!」
「鳴くな」
「……はい」
エリシア。
机の上に。
一枚の紙を置いた。
「今回作る動画は」
「これですわ」
パイライト。
紙を覗き込む。
そこには。
たった一文。
書かれていた。
――みんないらない! 消えればいいのに。
パイライト。
「……」
「……」
「……なるほど」
エリシア。
「今回は」
「実際の千乃の声を使いますわ」
「おお!」
「つまり!」
「誰が聞いても!」
「本人の声に聞こえる!」
「そのために」
「一つずつ」
「必要な言葉を集めます」
パイライト。
「……」
「……」
「……どうやって?」
エリシア。
「録音」
「おお!」
「千乃が」
「普通に話しているとき」
「必要な単語を」
「少しずつ録音しますわ」
「そして」
「切り取る」
「つなげる」
「完成」
パイライト。
「おおおお!」
ばんっ!
机を叩く。
「姉上!」
「天才ですな!」
「当然ですわ」
「ブヒッ!」
「だから鳴くな」
「喜びです!」
「その喜び方を変えなさい!」
パイライト。
紙を見る。
「しかし」
「一つ問題が」
「なに?」
「千乃は」
「普通に」
「『みんないらない! 消えればいいのに』」
「なんて言いませんぞ?」
エリシア。
にやっ。
「だから」
「少しずつですわ」
「……」
パイライト。
「……あ」
「分かりましたな?」
「例えば」
「『みんな』」
「『いらない』」
「『消えればいい』」
「『のに』」
「それぞれ」
「別々の会話から集める」
「……」
「……」
「……」
「姉上」
「なに?」
「……」
「……」
「……意外と」
「手間ですな」
「手間ですわよ」
「え?」
エリシア。
「誰が」
「実行するのかしら?」
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「私?」
「あなたですわ」
「ブヒッ!?」
「だから鳴くな」
パイライト。
「いや!」
「待ってください!」
「私は!」
「次期皇王!」
「ですよ!?」
「だから?」
「なぜ!」
「盗み聞きみたいなことを!」
「しなければ!」
「ならないのです!?」
エリシア。
「千乃を后にしたいのでしょう?」
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「やります!」
「早い」
「后のためなら!」
「何でも!」
「やります!」
「さっきも聞きましたわ」
「ブヒッ!」
「聞き飽きましたわ!」
そして。
エリシア。
指を一本。
立てる。
「まず」
「必要な言葉を」
「整理しますわよ」
パイライト。
「はい!」
紙。
中央。
大きく。
こう書かれている。
――みんな。
――いらない。
――消えれば。
――いい。
――のに。
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「これ」
「集めるだけですな?」
「そうですわ」
「楽勝ですな!」
「……」
エリシア。
「その自信」
「どこから来るのです?」
「完璧な私ですから!」
「鏡を見なさい」
「また!?」
パイライト。
ぽんっ。
胸を叩く。
「では!」
「早速!」
「第一声!」
「録音開始ですな!」
「あなたが」
「千乃のところへ行って」
「自然な会話の中から」
「言葉を集めるのですわ」
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「姉上」
「なに?」
「千乃」
「私を見たら」
「逃げませんか?」
「逃げますわね」
「ですよね!?」
エリシア。
「だから」
「変装します」
「……」
パイライト。
「……」
「…………」
「誰に?」
「それは」
「考えますわ」
「計画担当なのに!?」
「今から考えます」
「遅い!」
エリシア。
ふわっ。
少し宙に浮いたまま。
真剣な顔になる。
「……とにかく」
「今回は」
「完璧な証拠動画を作りますわ」
パイライト。
「はい!」
「千乃の」
「本物の声を!」
「使って!」
「本物にしか聞こえない!」
「動画を!」
「……」
エリシア。
「作りますわ」
パイライト。
「作りますぞ!」
「ブヒッ!」
「……」
「……」
「……」
エリシア。
「弟」
「はい?」
「あなた」
「録音機を持っていく前に」
「一度だけ」
「口を閉じる練習を」
「した方がいいですわ」
「なぜ!?」
「録音中に」
「ブヒッ」
「とか」
「入ったら」
「全て台無しですわ」
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「大丈夫です!」
「私は!」
「完璧に!」
「静かにできます!」
エリシア。
「本当に?」
「はい!」
「では」
「今から」
「三十秒」
「無言」
「できます?」
「当然!」
……。
……。
……。
十秒。
……。
二十秒。
……。
二十九秒。
パイライト。
「……」
「……」
「……ブヒッ」
エリシア。
「失格ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「一回だけ!?」
「一回でも駄目ですわ!」
「でも!」
「二十九秒ですよ!?」
「そこまで耐えて最後に鳴く方が意味不明ですわ!」
こうして。
嫌がらせ計画は。
開始十分。
まだ。
一歩も。
外へ出ていなかった。
しかし。
エリシアは。
紙を握りしめる。
「……行きますわよ」
パイライト。
「はい!」
「千乃の声を」
「少しずつ」
「録音するのですわ!」
「おお!」
「まずは!」
「『みんな』!」
「ブヒッ!」
「録音前からうるさいですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その頃。
もちろん。
星氷神城では。
千乃。
「……」
くしゅんっ。
真銀。
「風邪?」
「違うと思う」
「どうした?」
「……」
千乃。
窓の外を見る。
「なんか」
「嫌な予感」
真銀。
「最近多いな」
「霊が出たり」
「幽霊が出たり」
「霊と幽霊同じだよ」
「怖い」
「またそれ?」
千乃。
「真銀」
「なに?」
「今日は」
「一緒にいて」
「うん」
「……」
「……どうした?」
「嫌な予感するから」
「分かった」
その頃。
遠く。
パイライト。
「ブヒッ!」
エリシア。
「静かにしなさい!」
千乃の嫌な予感は。
非常に。
正しかった。




