ユルサナイユルサナイユルサナイッ!!
その日の夜。
星氷神城。
千乃の部屋。
「……」
千乃。
ベッドの上で。
ごろごろ。
「……暇」
真銀。
椅子に座って。
本を読んでいる。
「さっきまで」
「魔法の練習してたじゃん」
「飽きた」
「早い」
千乃。
ごろん。
「……」
「真銀」
「なに?」
「なんか面白いことない?」
「ない」
「即答」
「平和だからな」
「それはいいことか」
「いいことだよ」
「……」
千乃。
少し考える。
「じゃあ」
「なに?」
「カイル呼んで」
「嫌だ」
「即答二回目!」
「泣くから」
「それは確かに」
そのとき。
ふっ。
部屋の灯りが。
一瞬だけ。
揺れた。
「……?」
千乃。
ぴたっ。
真銀。
本から。
顔を上げる。
「今」
「うん」
「灯り」
「うん」
「揺れた?」
「揺れた」
ふっ。
ふっ。
ふっ。
部屋の空気が。
妙に。
冷たくなる。
千乃。
「……」
真銀。
「……」
千乃。
「真銀」
「うん」
「……」
「……」
「これ」
「うん」
「嫌な予感する」
「俺も」
次の瞬間。
部屋の中央。
ふわっ。
淡い光が。
集まり始めた。
「「「……」」」
千乃。
真銀。
そして。
いつの間にか。
ララ。
「主」
「いつからいたの!?」
「今!」
「なんで!?」
「なんか光ってた!」
千乃。
「それだけで入ってきたの!?」
「うん!」
光。
ゆっくり。
人の形になる。
真銀。
「……千乃」
「なに?」
「後ろ」
「……」
千乃。
真銀の後ろへ。
すっ。
「私」
「うん」
「守護神なんだけど」
「うん」
「今」
「うん」
「めちゃくちゃ」
「うん」
「守られてる側」
「気にするな」
「気にするよ」
光が。
少しずつ。
輪郭を作る。
長い髪。
ドレス。
そして。
その顔。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
千乃。
「……誰?」
「そこ!?」
真銀。
「知らないの!?」
「え?」
千乃。
「知ってる人?」
光。
ゆっくり。
顔を上げる。
「……」
そして。
「よくも」
「……?」
「よくも私から真銀様を奪った上に」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
「私の人生まで」
その声。
徐々に。
大きくなる。
「終わらせてくれましたわね!!」
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
千乃。
「エリシア?」
エリシア。
「そうですわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「声デカッ!?」
エリシアの霊。
ふわぁぁぁぁぁ。
部屋の中央に。
浮かび上がる。
「この恨み……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
「絶対に忘れない」
「……」
千乃。
「……」
「……」
エリシア。
顔を。
ぐぐぐぐぐっ。
と。
歪ませる。
「ユルサナイ」
千乃。
「……」
「ユルサナイ」
真銀。
「……」
「ユルサナイ」
ララ。
「……」
「ユルサナイ」
千乃。
「回数増えてない?」
エリシア。
「ユルサナイッッッッ!!!!!」
千乃。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!?」
ぼんっ!
千乃。
真銀へ。
飛びついた。
「真銀ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「うわっ!?」
真銀。
慌てて。
千乃を受け止める。
「ちょっと!」
「千乃!」
「離れないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「離れない!」
「絶対!?」
「絶対!」
「約束!?」
「約束!」
「指切り!」
「今!?」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
「聞いてます?」
千乃。
「聞いてない!」
「聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
千乃。
真銀に。
ぎゅうううううう。
「守護神なのに」
「守られてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
真銀。
「気にするな!」
「気にするぅぅぅぅぅぅ!」
ララ。
ぴょん。
エリシアの前へ。
「主を怖がらせるな!」
エリシア。
「……」
ララ。
「……?」
エリシア。
「……」
「……」
「あなた」
「うん?」
「小さいですわね」
ララ。
「……」
ぴたっ。
「……」
「……」
ララ。
「主」
「なに?」
「この人」
「うん」
「嫌い」
「私も今ちょっと嫌い!」
エリシア。
「なんですって!?」
千乃。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
真銀。
「耳!」
「ごめん!」
すると。
ばたんっ!
「主!」
ライ。
「大声が!」
「……」
ライ。
部屋を見る。
千乃。
真銀に。
飛びついている。
エリシア。
浮いている。
ララ。
怒っている。
「……」
ライ。
「……何があった」
千乃。
「幽霊!」
「見れば分かる」
エリシア。
「幽霊ではありませんわ!」
ライ。
「霊だろ」
「同じようなものですわ!」
「違うだろ」
千乃。
「ライぃぃぃぃぃぃ!」
すっ。
千乃。
真銀を離れ。
今度は。
ライに。
飛びつく。
「うおっ!?」
「幽霊ぉぉぉぉぉぉ!」
「だから霊だ!」
「今それどうでもいい!」
真銀。
「……千乃」
「なに!?」
「俺」
「うん?」
「さっきまで」
「うん」
「抱きつかれてたんだけど」
「ごめん!」
「謝るの!?」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
「真銀様」
真銀。
「なに」
「……」
「……」
「その女を」
「……」
千乃。
ぴたっ。
ライ。
「……」
エリシア。
「そこから」
「離しなさい」
千乃。
「……」
「……」
「……」
「ライ」
「なんだ」
「離して」
「お前から来たんだろ!?」
「早く!」
「分かったから!」
エリシア。
「……」
真銀。
「……」
エリシア。
「真銀様」
「……」
「あなた」
「その女に」
「守られてばかりですわね」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
千乃。
ゆっくり。
エリシアを見る。
「……」
「……」
「……」
「……私」
「うん?」
「守護神なんだけど」
「うん」
「今日」
「めちゃくちゃ」
「守られてる」
ライ。
「気にするな」
「みんな同じこと言う!」
そのとき。
ふわっ。
部屋の空気が。
少しだけ。
変わった。
「……?」
千乃。
真銀。
エリシアを見る。
「……」
千乃。
「……ねえ」
「なに?」
「エリシア」
「……」
「本当に」
「私を恨んでる?」
エリシア。
にやっ。
「もちろんですわ」
「……」
「……」
「千乃」
「うん」
「今の」
「うん」
「めちゃくちゃ怖かった」
「真銀も?」
「うん」
千乃。
「じゃあ」
真銀。
「……?」
千乃。
「一緒に逃げよう」
「待って」
「なに?」
「俺たち」
「うん」
「この城の」
「うん」
「持ち主側」
「そうだった」
真銀。
「なんで逃げるんだよ!」
千乃。
「だって!」
「霊だよ!?」
「……」
真銀。
「……」
「……」
「……」
「千乃」
「なに?」
「神様だよね?」
「うん」
「守護神だよね?」
「うん」
「……」
「……」
「俺より」
「強いよね?」
「……」
千乃。
真顔。
「怖いものは怖い」
「正論!」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
「ちょっと」
千乃。
「なに!?」
「私」
「うん」
「本気で恨んでるのですけれど」
「ごめん!」
「謝るな!」
エリシア。
「なんで!」
千乃。
「怖いから!」
「理由になってませんわ!」
すると。
エリシアの霊。
ゆっくり。
千乃へ近づく。
ふわっ。
千乃。
「ひっ」
真銀。
「……」
千乃。
真銀の後ろ。
「真銀」
「なに」
「壁」
「俺壁じゃない」
「盾」
「もっと違う!」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
「…………」
「……あなた」
千乃。
「ひゃい!?」
「噛んだ!?」
エリシア。
「本当に」
「守護神?」
千乃。
「……」
「……」
「……怖がり守護神」
真銀。
「真銀!?」
ララ。
「主!」
「なに!」
「泣かないで!」
「泣いてない!」
エリシア。
「……」
その瞬間。
霊の表情が。
ゆっくり。
歪んだ。
「まあ」
「いいでしょう」
千乃。
「……」
「……」
「今日は」
「ここまでにして差し上げますわ」
「……?」
「次は」
「逃げられると思わないことですわね」
「ひっ」
真銀。
「千乃」
「なに!?」
「俺の服」
「うん」
「掴みすぎ」
「ごめん!」
エリシア。
ふわっ。
後ろへ下がる。
「覚えていなさい」
「……」
「千乃」
「……」
「真銀様」
千乃。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「まだ消えてない!」
真銀。
「耳!」
エリシア。
「……」
「……」
そして。
ふっ。
エリシアの姿は。
消えた。
「……」
「……」
「……」
千乃。
しばらく。
真銀の後ろから。
出てこない。
真銀。
「……もういないよ」
「……」
「千乃」
「……」
「いないって」
「……」
千乃。
そっと。
部屋を見る。
「……」
「……」
「……ほんと?」
「ほんと」
「……」
千乃。
真銀の後ろから。
ひょこっ。
顔を出す。
「……」
「……」
「……いない」
真銀。
「だから」
千乃。
その場に。
へなっ。
「怖かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
真銀。
「今泣きにくくする魔法」
「効いてる?」
「分からない!」
ララ。
「主」
「なに?」
「守護神なのに」
「なに?」
「幽霊怖いの?」
千乃。
「……」
「……」
「……」
「怖い」
ララ。
「……」
「……」
「……」
「かわいい」
千乃。
「そこ!?」
そして。
真銀。
千乃の前に。
手を差し出した。
「立てる?」
「……」
千乃。
「うん」
「でも」
「ん?」
「今日」
「真銀の部屋」
「行っていい?」
真銀。
「……」
「……」
「いいよ」
千乃。
「ほんと!?」
「……怖いんだろ?」
「うん!」
「即答」
その日の夜。
星氷神城には。
新しいルールが。
一つだけ追加された。
――夜中に霊が現れた場合。
千乃は。
問答無用で。
真銀へ飛びつく。
「ルールにするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
千乃。
「絶対必要ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
そして。
遠く。
どこかで。
「ユルサナイ……」
「ひゃあああああああああああああああああああ!?」
千乃が。
再び。
真銀へ飛びついた。
真銀。
「……」
「……」
「……俺」
「今日」
「寝られるかな」
翌朝。
ユミナリア皇国。
皇城の一室。
――ついに。
姉弟による。
とんでもなく迷惑な計画が。
始動した。
「……」
「……」
部屋の中央。
テーブルを挟み。
一人と一霊。
向かい合っている。
片方は。
金髪。
翡翠色の瞳。
かつてユミナリア皇国の第一王女だった女。
エリシア・ユミナリア。
現在。
幽霊。
そして。
その向かい。
金髪。
翡翠色の瞳。
ユミナリア皇国の次期皇王。
パイライト・ユミナリア。
「ブヒッ」
「……」
エリシア。
ぴたっ。
「……」
パイライト。
「……何です?」
「……」
「……」
「今」
「なんです?」
「鳴きました?」
「鳴いてません」
「ブヒッと」
「鳴いてません」
「……」
「……」
エリシア。
「まあ」
「いいでしょう」
「いいんですか!?」
パイライト。
「今日は」
「重要な日です」
「そうですな!」
「ブヒッ」
「……」
エリシア。
「弟」
「はい?」
「……本当に」
「ノリノリですわね」
パイライト。
ふふん。
「当然です!」
びしっ!
自分を指差す。
「我が!」
「この完璧なる!」
「イケメン皇太子!」
「パイライト・ユミナリア!」
「……」
「……」
「……」
エリシア。
「……弟」
「なんです?」
「鏡」
「はい?」
「一度」
「見た方がいいですわ」
「見てます!」
「見た上で!?」
パイライト。
「私ほどの」
「完璧な男など!」
「この世界には!」
「存在しない!」
「……」
エリシア。
弟を見る。
小柄。
丸い。
そして。
「……」
「……」
「…………」
「……」
エリシア。
「まあ」
「自信だけは」
「完璧ですわね」
「褒め言葉ですな!」
「違いますわ」
パイライト。
「とにかく!」
ばんっ!
テーブルを叩く。
「本日の目的!」
エリシア。
「確認しましょう」
「はい!」
エリシア。
指を一本。
立てる。
「私」
「真銀様を」
「取り戻しますわ」
パイライト。
指を一本。
立てる。
「私!」
「千乃を!」
「后にします!」
「……」
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
「……」
「……」
「目的」
「似てますな」
「似てませんわ」
エリシア。
「私は」
「愛する方を」
「取り戻す」
パイライト。
「私は」
「美しい女性を」
「手に入れる」
「……」
「……」
「……弟」
「はい?」
「その表現」
「最低ですわ」
「え?」
エリシア。
テーブルの上に。
大きな紙を広げる。
「では」
「作戦会議ですわ」
パイライト。
「おお!」
「ついに!」
「千乃后化計画!」
「名前がダサい」
「なんと!?」
エリシア。
「こちらは」
「真銀様奪還計画」
「……」
パイライト。
「こっちの方が」
「普通ですな」
「でしょう?」
エリシア。
「役割分担」
「しますわよ」
「はい!」
紙。
中央。
大きく。
書かれている。
――計画:エリシア。
――実行:パイライト。
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「姉上」
「なに?」
「つまり」
「私は」
「全部やる係ですか?」
「その通りですわ」
「え?」
エリシア。
「私は」
「幽霊ですもの」
「直接動くのは」
「限界がありますわ」
「なるほど!」
パイライト。
「では!」
「私が!」
「姉上の手足となり!」
「全てを!」
「実行するのですな!」
「ええ」
「ブヒッ!」
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
「今の」
「気合いですか?」
「そうです!」
「そうですの!?」
パイライト。
胸を張る。
「千乃を后にする!」
「そのためなら!」
「私は!」
「何でもします!」
「……」
エリシア。
「何でも」
「ですの?」
「もちろん!」
エリシア。
にやり。
「では」
「まず」
「真銀様と千乃を」
「引き離しますわ」
パイライト。
「……」
「……」
「……それ」
「私に何の得が?」
エリシア。
「その後」
「千乃が」
「あなたのものになる」
パイライト。
「おお!」
「そういうことですか!」
エリシア。
「単純」
パイライト。
「何か?」
「いいえ」
エリシア。
「作戦第一段階」
紙に。
さらさら。
文字が書かれる。
――二人の仲を悪化させる。
パイライト。
「おお!」
「……」
「どうやって?」
エリシア。
「……」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「私が考える」
「あなたが実行する」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
「……なるほど」
「はい」
「つまり」
「私は考えなくていい」
「そうですわ」
「最高ですな!」
エリシア。
「本当に」
「あなた」
「ノリノリですわね」
「当然!」
パイライト。
立ち上がる。
「千乃が!」
「私の!」
「后になる!」
「ブヒッ!」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「弟」
「はい」
「それ」
「笑うところです?」
「笑ってません!」
「なら」
「何故」
「鳴いたのです?」
「鳴いてません!」
「……」
エリシア。
「まあいいでしょう」
エリシアは。
紙を。
指差した。
「では」
「第一段階」
「千乃への」
「嫌がらせを始めますわ」
パイライト。
「おお!」
「どんな嫌がらせを?」
エリシア。
にこっ。
「まず」
「偽の証拠を」
「作ります」
パイライト。
「……」
「……」
「……」
「またですか?」
「またですわ」
「前回」
「結局」
「バレましたぞ?」
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「今回は」
「もっと」
「上手くやりますわ」
「その台詞」
「聞いたことがありますな」
「黙りなさい」
パイライト。
「ブヒッ」
「黙りなさい」
「私まだ喋ってませんぞ!?」
エリシア。
「鳴いてますわ」
「鳴いてません!」
パイライト。
ふんっ!
「とにかく!」
「私に任せてください!」
「今回は!」
「完璧な!」
「嫌がらせを!」
「実行します!」
エリシア。
「……」
少し。
不安そうな顔。
「……弟」
「はい?」
「本当に」
「大丈夫?」
「大丈夫です!」
「……」
「……」
「……ブヒッ」
「大丈夫じゃない気がしますわ」
「気のせいです!」
そして。
エリシア。
静かに。
窓の外を見る。
遠く。
星氷神城。
千乃。
真銀。
その仲間たちがいる。
「……待っていなさい」
エリシア。
翡翠色の瞳を。
細める。
「真銀様」
そして。
「千乃」
「……」
「……」
「私たちは」
「絶対に」
「諦めませんわ」
パイライト。
その隣。
「そうですな!」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
パイライト。
「……?」
「……何です?」
エリシア。
「『私たち』?」
パイライト。
「はい!」
エリシア。
「あなた」
「千乃が目的ですわよね?」
「そうです!」
「私は」
「真銀様」
「そうです!」
「……」
「……」
パイライト。
「……」
エリシア。
「……」
「…………」
「なんか」
「同盟っぽいですな!」
「それはそうですわ」
「じゃあ!」
パイライト。
拳を握る。
「悪役同盟!」
エリシア。
「名前が最悪ですわ!」
「なぜ!?」
「もっと!」
「格好良い名前を!」
パイライト。
「……」
考える。
「……」
「……」
「……」
「姉上」
「なに?」
「『漆黒の復讐連盟』」
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「…………」
「厨二病ですわね」
パイライト。
「千乃が」
「喜びそうな名前ですな」
「確かに」
エリシア。
「却下ですわ」
「なぜ!?」
こうして。
その日の朝。
ユミナリア皇国で。
一つの計画が。
静かに。
動き始めた。
計画。
エリシア。
実行。
パイライト。
目的。
エリシア。
――真銀を奪う。
パイライト。
――千乃を后にする。
そして。
二人は。
まだ知らない。
その計画が。
後に。
とんでもない方向へ。
転がっていくことを。
「では弟」
「はい!」
「行ってらっしゃい」
パイライト。
「はい!」
……。
……。
……。
「……」
エリシア。
「……」
「……」
「弟」
「はい?」
「作戦内容」
「覚えてます?」
パイライト。
「……」
「……」
「…………」
「千乃を」
「后にする!」
「違いますわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パイライト。
「ブヒッ!?」
その叫び声と。
よく分からない鳴き声が。
朝の皇城に。
盛大に響き渡った。




