うるさいぃぃぃっっっ!!
銅像騒動の翌日。
千乃は。
食堂に集まった面々を見渡していた。
「……」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
「……」
「……」
千乃。
腕を組む。
「よし」
真銀。
「……何が?」
「この城」
「うん」
「涙腺が弱すぎる」
「……」
真銀。
視線を逸らした。
柚乃。
「……」
こちらも。
視線を逸らした。
カイル。
「……」
なぜか。
堂々としている。
「俺は」
「まだ」
「そこまで泣いてないぞ?」
千乃。
「昨日泣いたよね?」
「……」
「子どもに銅像を褒められて」
「……」
「泣いたよね?」
「……あれは」
「うん?」
「感動だ」
「泣いてるじゃん」
「違う!」
真銀。
「……泣いてた」
「真銀!?」
柚乃。
「うん」
「ぽろってしてた」
「柚乃まで!?」
カイル。
「……」
「……」
千乃。
にこっ。
「よし」
「何だその笑顔」
「ちょっと魔法かけるね」
「え?」
千乃は。
立ち上がった。
そして。
真銀。
柚乃。
カイルの前へ。
順番に。
手をかざす。
「泣きにくくする魔法」
「そんな魔法あるの?」
柚乃。
「今作った」
「今!?」
真銀。
「大丈夫?」
「大丈夫」
「その即席感」
千乃。
胸を張る。
「私、守護神だから」
「理由になってる?」
「たぶん」
「たぶん!?」
そして。
千乃。
指を軽く振る。
「――《静涙結界》」
ふわっ。
三人の周囲に。
淡い紅色の光が広がった。
きらきら。
光の粒が。
ゆっくりと。
三人の身体へ溶け込んでいく。
「……」
「……」
「……」
千乃。
「終わり!」
真銀。
「それだけ?」
「うん」
柚乃。
「効果あるの?」
「たぶん」
「またたぶん!?」
千乃。
「じゃあ」
「ちょっと試そう」
真銀。
「え」
千乃。
真銀を見る。
「真銀」
「なに?」
「私が昨日」
「膝枕してあげたこと」
「……」
真銀。
「……」
……。
…………。
「……?」
千乃。
「……泣かない?」
真銀。
自分の目元を触る。
「……」
「……あれ?」
「どう?」
「……なんか」
「うん」
「胸は」
「うん」
「すごくあったかいのに」
「うん」
「……涙が出ない」
千乃。
「成功!」
真銀。
「成功!?」
ララ。
「泣き虫治った!?」
「治ってないよ!?」
千乃。
「次!」
柚乃を見る。
「柚乃」
「うん?」
「私」
「うん」
「生きてるよ」
「……」
柚乃。
ぴたっ。
「……」
昨日までなら。
確実に。
大号泣案件。
しかし。
「……」
柚乃。
じわっ。
「……」
千乃。
「来るか?」
「……」
……。
出ない。
「……」
柚乃。
「……!」
千乃。
「どう!?」
「泣きそうなのに」
「うん」
「出ない!」
「成功ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
柚乃。
「すごい!」
「でしょ!」
真銀。
「……千乃」
「なに?」
「俺たち」
「うん」
「これで」
「うん」
「普通の人みたいになれる?」
「泣くことはできるよ!?」
「よかった」
「そこまで!?」
そして。
最後。
カイル。
千乃。
「カイル」
「うん」
「試すよ」
「来い」
「……」
千乃。
少し考える。
「カイル」
「なんだ」
「銅像」
「うん」
「子どもに」
「うん」
「髪の毛触ってるって言われてたね」
「……」
カイル。
ぴたっ。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
次の瞬間。
「びょえぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」
千乃。
「効果ないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
カイル。
「だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「子どもに!」
「見ちゃダメってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「言われたんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「知ってるよ!?」
千乃。
「なんで!?」
カイル。
「俺だけ!?」
「知らない!」
「魔法かけたよね!?」
「かけた!」
「じゃあなんで!?」
「知らない!」
真銀。
カイルを見ながら。
「……」
「……」
「……なんか」
「うん?」
「昨日までだったら」
「俺も泣いてたと思う」
「それは良かったね!?」
柚乃。
「私も」
「うん?」
「泣きそう」
「でも?」
「出ない!」
「よし!」
千乃。
ぐっ。
親指を立てる。
「二人は成功!」
カイル。
「俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「失敗!」
「即答するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
千乃。
もう一度。
カイルへ手をかざす。
「じゃあ」
「もう一回」
「頼む!」
「――《静涙結界》」
ふわっ。
淡い紅色の光。
再び。
カイルを包む。
「……」
「……」
「……よし」
千乃。
「今度こそ」
「うん!」
「カイル」
「なんだ!」
「町の子どもが」
「うん」
「昨日」
「うん」
「『この人なんで髪の毛触ってるのー?』」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
カイル。
ぼろぼろ。
「魔法ぁぁぁぁぁ!」
「うん!」
「働けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「働いてるはずなの!」
「俺だけ!」
「効かないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
エレノア。
いつの間にか。
食堂の入口。
「……アルちゃん」
「なに?」
「それ」
「うん」
「魔法の問題じゃないと思うヨ☆」
「どういうこと?」
エレノア。
カイルを見る。
「本人の」
「うん」
「涙腺が」
「うん」
「魔法の出力を上回ってるんじゃない?」
「そんなことある!?」
グラン。
その隣。
「あるんじゃねぇか?」
「グランまで!?」
カイル。
「俺の涙腺!」
「そんなに強いのか!?」
千乃。
「強いっていうか」
「うん?」
「弱い」
「どっちだよ!?」
真銀。
「……涙腺の防御力が低い」
「お前まで!?」
柚乃。
「攻撃力高い?」
「涙腺に攻撃力って何!?」
ララ。
「泣き虫!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
千乃。
「ララァァァァァァァァァァァァァ!?」
ララ。
「え?」
「今の泣く要素!?」
カイル。
「あるだろ!」
「どこに!?」
千乃は。
しばらく。
カイルを見た。
「……」
「……」
「……」
そして。
「諦めよう」
「早い!」
「カイルだけ」
「うん」
「泣きやすいままで」
「なんで!?」
千乃。
「個性」
「個性で済ませるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
真銀。
「でも」
「うん?」
「カイルらしい」
「……」
カイル。
ぴたっ。
「……」
千乃。
「……」
柚乃。
「……」
ララ。
「……」
アイシィ。
「……」
ライ。
「……」
カミル。
「……」
数秒後。
ぽろ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「結局泣くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
こうして。
千乃が作った。
泣きにくくする魔法。
その効果は。
確かにあった。
真銀。
成功。
柚乃。
成功。
……しかし。
カイル。
完全敗北。
後日。
町の子どもたちは。
新たな〇〇勇者を。
誕生させた。
――魔法無効勇者。
「違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
――なお。
その瞬間。
カイルは。
もちろん。
泣いた。
その日の夕方。
星氷神城の大広間には。
少しだけ。
いつもと違う空気が流れていた。
「……」
千乃。
ソファに座っている。
その前。
ルシア。
ルシファー。
二人が並んでいた。
「アル」
ルシアが。
少しだけ困ったように笑う。
「そろそろ」
「魔界に帰ろうと思う」
「……」
千乃。
ぱちっ。
「え」
ルシファー。
「ずっと下界にいるわけにもいかないからな」
「魔界のこともある」
「……」
千乃。
しばらく。
二人を見る。
「……」
「……帰るの?」
ルシア。
「うん」
「……」
千乃。
少し。
しゅん。
ルシファー。
「そんな顔するな」
「……だって」
「また会える」
千乃。
「ほんと?」
「もちろん」
ルシア。
笑った。
「呼び出してくれれば」
「すぐ行けるよ」
「すぐ?」
「うん」
ルシファー。
「魔界からでもな」
千乃。
「……」
「……」
「ほんとに?」
「本当に」
「魔法陣とか必要?」
ルシア。
「……」
ルシファー。
「……」
「……」
千乃。
「いる?」
ルシア。
「まあ」
「一応?」
「いるんだ」
ルシファー。
「ただし」
「お前なら」
「簡単だろ」
「……」
千乃。
少し。
考える。
「……呼ぶとき」
「うん?」
「なんて言えばいい?」
ルシア。
「普通に」
「ルシア」
「うん」
「来て」
「……」
千乃。
「雑!」
「いや」
ルシファー。
「我らは」
「契約で呼び出される使い魔ではない」
「……」
「……」
「……」
千乃。
「そういえば」
「悪魔だった」
「忘れてたの!?」
ルシア。
くすっ。
「でも」
「アルが呼ぶなら」
「行くよ」
「いつでも?」
「いつでも」
ルシファー。
「魔界で何をしていようがな」
千乃。
「寝てても?」
「……」
ルシファー。
「……できれば」
「起こすな」
「寝てるんだ!?」
ルシア。
「兄さん」
「なに」
「アルに呼ばれたら」
「起きるでしょ?」
「……」
「……」
「……当然だ」
「ちょっと間があった!」
すると。
真銀。
「……魔界って」
「どんなところ?」
ルシア。
「うーん」
「結構普通だよ?」
真銀。
「普通?」
ルシファー。
「人間が想像するような」
「常に炎が燃えていて」
「叫び声が響いていて」
「魔物が暴れている場所ではない」
「……」
ララ。
「じゃあ何があるの?」
ルシア。
「街」
「お店」
「家」
「学校もある」
ララ。
「普通!」
「だから言ったでしょ?」
ルシファー。
「ただし」
「強い奴は多い」
千乃。
「へえ」
「……」
ルシア。
にやっ。
「アル」
「なに?」
「来たい?」
「魔界?」
「うん」
千乃。
「……」
「……」
「行ってみたい」
真銀。
「即答!?」
カイル。
「俺も」
「なに!?」
「魔界でも」
「俺のイケメンは」
「通用するのか」
「その確認!?」
千乃。
「カイル」
「なんだ?」
「帰って」
「ここ俺の城!?」
カイル。
「……」
「……」
ぽろ。
「泣くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルシア。
「……」
ルシファー。
「……」
「……あれが」
「勇者?」
「そう」
真銀。
「ちなみに」
「魔法で泣きにくくした」
「……」
ルシア。
「効かなかったの?」
「効かなかった」
ルシファー。
「……」
カイルを見る。
「……人間とは」
「奥が深いな」
「そこに感心する!?」
そして。
ルシアとルシファー。
二人は。
千乃の前へ近づいた。
「アル」
「うん」
「少しだけ」
「魔界に戻る」
「うん」
「でも」
「呼んだら」
「すぐ来る」
千乃。
「……」
ルシファー。
「何かあったら」
「我らを呼べ」
「魔界の門くらい」
「すぐ開ける」
千乃。
「……うん」
ルシア。
「だから」
「泣かないでね?」
千乃。
「泣かないよ」
「……」
真銀。
「……」
柚乃。
「……」
カイル。
「……」
千乃。
「……何?」
真銀。
「いや」
「泣きにくくする魔法」
「効いてるなって」
「泣いてないよ!?」
カイル。
「……」
ぽろ。
「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
千乃。
「カイル」
「なんだ」
「魔界に帰るの」
「ルシアとルシファーだよ」
「うん」
「なんでお前が泣いてるの」
「寂しいから」
「昨日会ったばっかりだよ!?」
ルシア。
「……」
「……」
ルシファー。
「……」
ルシア。
「なんか」
「すごい人だね」
千乃。
「うん」
「私たちも」
「そう思う」
「俺の扱い!?」
そして。
ルシア。
千乃の手を。
ぎゅっ。
「またね」
「うん」
ルシファー。
「呼べば来る」
「……」
千乃。
こくん。
「うん」
「絶対呼ぶ」
「いつでもいいぞ」
「……でも」
「うん?」
「寝てるときは」
「ちょっと考える」
「考えなくていい!」
ルシア。
「じゃあ」
「そろそろ行こうか」
ルシファー。
「おう」
二人の足元。
黒と深紅の光が。
ゆっくりと広がる。
魔法陣。
空間が。
ゆらりと歪んだ。
ルシア。
千乃へ。
「アル」
「なに?」
「元気でね」
「ルシアも」
ルシファー。
「我らの妹」
「……」
「無茶をするな」
千乃。
「……」
少し。
笑う。
「お姉ちゃんみたい」
ルシファー。
「……」
ぴたっ。
「……」
ルシア。
「……」
千乃。
「……?」
「……どうしたの?」
ルシア。
「兄さん」
「……」
「今」
「アルに」
「うん」
「お姉ちゃんって」
「……」
ルシファー。
ゆっくり。
顔を逸らした。
「……」
千乃。
「?」
「……」
ルシア。
「兄さん」
「見るな」
「泣いてる?」
「泣いていない」
「目が潤んでるよ?」
「泣いていない!」
千乃。
「泣きにくくする魔法いる?」
「いらん!」
真銀。
「カイルと同じ枠になりそう」
「真銀ぉぉぉぉぉぉぉ!?」
ルシファー。
「我は違う!」
カイル。
「俺も違う!」
「説得力ない!」
そして。
魔法陣が。
強く光った。
「じゃあね!」
ルシア。
「またな」
ルシファー。
ふわっ。
二人の姿が。
光の中へ。
そして。
次の瞬間。
魔法陣は消えた。
大広間に。
静けさが戻る。
「……」
千乃。
少しだけ。
寂しそうに。
空いた場所を見る。
柚乃。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「……」
「……呼べば」
「すぐ来るんでしょ?」
「うん」
「じゃあ」
「またすぐ会えるよ」
「……うん」
千乃。
少し。
笑った。
「そうだね」
すると。
突然。
何もない空間に。
ばっ。
黒い魔法陣が開いた。
「「「「「!?」」」」」
そこから。
ルシア。
「アルー!」
千乃。
「早い!?」
「呼んだ?」
「呼んでない!」
「え?」
「え?」
ルシファー。
魔法陣の向こう。
「ルシア」
「どうしたの?」
「帰るぞ」
「うん!」
ルシア。
「じゃあまたねー!」
すっ。
消えた。
「……」
「……」
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
カイル。
「……」
ララ。
「……」
千乃。
「……帰るの」
「めちゃくちゃ簡単そう」
真銀。
「うん」
こうして。
ルシアとルシファーは。
一度。
魔界へ帰った。
けれど。
完全なお別れではない。
千乃が。
呼べば。
いつでも。
魔界の扉を開けて。
やってくる。
そして。
千乃。
「……」
少し考える。
「じゃあ」
「次」
「何がある?」
真銀。
「……」
「……」
「千乃」
「なに?」
「ルシアたちを」
「イベント用の助っ人みたいに扱わないで」
「え?」
「呼び方が」
「完全にそれだった」
千乃。
「……」
「……」
「まあ」
「困ったら呼ぶ」
「呼ぶんだ!?」
こうして。
星氷神城から。
二人の悪魔は。
一時的に。
魔界へ戻っていった。
――なお。
その日の夜。
千乃。
「……ルシア」
真銀。
「千乃!?」
ぱっ。
黒い魔法陣。
「呼んだ!?」
「呼んでない!」
「なんで名前だけで来るの!?」
ルシア。
「呼ばれた気がした!」
「気のせいだよ!?」
魔界。
ルシファー。
「……」
「……」
「……帰りが早いな」
ルシア。
「アルが呼んだ!」
「呼んでないらしいぞ」
「え?」
ルシファー。
ため息。
「……明日から」
「少し我慢しろ」
ルシア。
「……はーい」
千乃。
「呼べば来る」
「……」
「便利すぎない?」




