ええっっっっっっっ?!
その日。
城下町は。
いつも通り。
平和だった。
市場では。
「今日は野菜が安いよー!」
「パン焼きたてー!」
「そこの坊や! 走ると危ないよ!」
人々が。
いつも通りに。
生活していた。
……そのとき。
「……ん?」
一人の町人が。
城の方を見上げた。
「どうした?」
「いや……」
町人。
目を細める。
「今」
「城の窓に」
「千乃様がいなかったか?」
「……は?」
「いや、でも」
「千乃様、今朝出かけたよな?」
「うん」
「じゃあ」
「さっきの誰?」
全員。
「……」
「……」
「……」
城の窓。
そこに。
オレンジ色のお団子ヘア。
そして。
右目。
金色。
左目。
ピンク。
「「「千乃様!?」」」
町。
ざわっ。
「待て待て待て!?」
「千乃様、分身!?」
「また分身増えた!?」
「いや、千乃様ならありえる!」
「ありえるの!?」
そして。
その少女。
窓から。
ぺこっ。
と頭を下げた。
町人たち。
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」
パニック。
「千乃様が二人いるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
「いや、今、本人は遠征中だぞ!?」
「じゃああれ誰!?」
「分身!?」
「分身に意思が!?」
「千乃様ならありえる!」
「だからありえるのかよ!?」
町の中央。
人が集まり始める。
「千乃様が!」
「城に!」
「いるぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「でも!」
「遠征中!」
「千乃様、二人!」
「ついに増殖!?」
「元から分身できるだろ!」
「でも城にいる方、髪色違うぞ!」
「染めた!?」
「いつ!?」
「遠征前!?」
「遠征中に!?」
「そんな暇ある!?」
混乱。
混乱。
大混乱。
そして。
柚乃。
城の中。
「……?」
「外」
「なんか騒がしくない?」
使用人。
「……ええ」
「さっきから」
「千乃様が二人いる」
「という声が」
「……」
柚乃。
「……あ」
使用人。
「何か心当たりが?」
「……」
「……」
柚乃。
「たぶん」
「私」
「……」
「「「え?」」」
城下町。
「千乃様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「増えたなら!」
「説明してくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
すると。
城の門が。
開いた。
ぎぃぃぃぃ……。
「「「「「……!」」」」」
町人。
全員。
注目。
そこから。
一人の少女が。
出てきた。
オレンジ色の髪。
お団子ヘア。
右目。
金色。
左目。
ピンク。
「……」
町人。
「……」
「……」
「……」
柚乃。
ぺこっ。
「こんにちは」
町人。
「「「「「千乃様が増えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」
「違うよ!?」
柚乃。
即答。
「え!?」
「違う!?」
「じゃあ誰!?」
「……」
柚乃。
「千羽柚乃です」
「……」
「……」
「……」
「「「「「名字まで一緒ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」」」
「双子だから!」
「双子!?」
「千乃様に双子がいたの!?」
「聞いてないぞ!?」
「私のこと知らない人多いと思う」
「そりゃそうだろ!?」
町人たち。
完全に。
パニック。
「千乃様!」
「分身できる!」
「神!」
「双子もいる!」
「情報量が多い!」
「誰か整理して!」
「勇者呼んで!」
「勇者も今いない!」
「じゃあ、だれか!!」
「なんで!?」
「イケメンナルシスト勇者なら呼べば!!!」
「何か!」
「いや、何も解決しないだろ!」
柚乃。
「……」
少し。
困る。
「えっと」
「私は」
「戦えないよ」
「「「え?」」」
「魔法も」
「ほとんど使えない」
「……」
町人。
沈黙。
「……」
「……」
「……」
「じゃあ」
「何ができる?」
「……」
柚乃。
少し考える。
「……留守番」
「「「「「留守番!?」」」」」
「お姉ちゃんたちが」
「戦ってる間」
「城で」
「使用人さんたちと」
「お留守番する」
「……」
「……」
「……」
町人。
「平和だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「安心した!?」
「むしろ安心!」
「千乃様と同じ顔の人が!」
「普通に戦えたら!」
「世界が終わる!」
「どういう意味!?」
すると。
町の子どもが。
とことこ。
柚乃の前へ。
「……」
「こんにちは」
柚乃。
「こんにちは!」
子ども。
「千乃様の妹?」
「うん」
「本当に双子?」
「うん!」
「……」
子ども。
「じゃあ」
「お姉ちゃんのこと」
「いっぱい知ってる?」
「うん」
「千乃様の!」
「子どもの頃の話も!?」
「うん」
町人。
「「「「「…………」」」」」
次の瞬間。
「聞かせてくださいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
柚乃。
「え!?」
「千乃様の黒歴史!」
「黒歴史とは言ってない!」
「幼少期!」
「聞きたい!」
「かわいい話!」
「全部!」
「お姉ちゃんに怒られるよ!?」
「大丈夫!」
「千乃様なら!」
「怒られても!」
「許される!」
「どういう理屈!?」
その頃。
遠征先。
千乃。
「……」
「……」
「……?」
くしゅん。
真銀。
「風邪?」
「……」
千乃。
「誰か」
「嫌な予感がする」
「……?」
そして。
城下町。
柚乃。
「……」
目の前には。
期待に満ちた町人たち。
「……」
「……」
「……」
「お姉ちゃん」
柚乃。
小さな声で。
「助けて……」
もちろん。
千乃には。
聞こえなかった。
そして。
その日の夕方。
千乃たちが。
城へ帰ってくる。
「ただいまー!」
すると。
城下町の人々が。
「千乃様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁ!」
「増えた理由を!」
「増えてないよ!?」
千乃。
「……?」
真銀。
「……何があった?」
その後ろ。
柚乃。
「お姉ちゃん!」
「柚乃!?」
柚乃。
千乃へ駆け寄る。
「大変だった!」
「何が!?」
「町の人が!」
「私を!」
「お姉ちゃんの分身だと思って!」
「……」
千乃。
停止。
「……」
「……」
そして。
「……」
町人を見る。
「……皆さん」
「はい!」
「妹です」
「知ってます!」
「いつ?」
「今日!」
「じゃあもういいでしょ!?」
町人。
「でも!」
「千乃様!」
「双子の妹!」
「聞いてない!」
「私も聞いてない!」
「柚乃!?」
千乃。
柚乃を見る。
「魔王城に住んでたって」
「初対面で聞いたからね!?」
「それはそう!」
そして。
町人たち。
「「「千乃様の妹様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
柚乃。
「ひっ」
千乃。
「怖がってる!」
真銀。
「千乃」
「なに?」
「……町の人」
「うん」
「少し」
「うん」
「落ち着かせた方がいいんじゃない?」
「……」
千乃。
町人を見る。
「皆さん」
「はい!」
「柚乃は」
「戦えません」
「はい!」
「だから」
「無理に」
「千乃の妹だからって」
「特別扱いしないでください」
「……」
「……」
町人。
「「「無理です」」」
「即答ぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
こうして。
城下町は。
千乃の双子の妹。
千羽柚乃の登場により。
数時間にわたって。
大パニックとなった。
なお。
その後。
町では。
新しい噂が生まれた。
『星氷神城には千乃様が二人いる』
「違う!」
『片方は戦闘用』
「違う!」
『片方は留守番用』
「もっと違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
そして。
柚乃は。
その日。
正式に。
城下町から。
こう呼ばれるようになった。
――千乃様二号。
「二号ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「お姉ちゃん!?」
「誰が言い始めたの!?」
ララ。
「主!」
「……なに?」
「私じゃないよ!」
「聞いてないのに自白したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
翌朝。
「おはよー!」
千乃は。
いつも通り。
星氷神城の窓を開けた。
朝の光。
爽やかな風。
そして。
「……」
千乃。
ぴたっ。
「……」
もう一度。
目を擦る。
「……?」
窓の外。
城下町。
広場。
「……」
「……」
「…………」
「……なにあれ?」
千乃の声に。
隣で寝ていた真銀が。
「ん……?」
ゆっくり。
起き上がる。
「どうした?」
「……」
「千乃?」
「……真銀」
「うん」
「ちょっと」
「うん」
「広場見て」
「……?」
真銀が。
窓へ近づく。
そして。
「……」
ぴたっ。
「……」
「……」
「…………」
「……何あれ?」
「だよね?」
広場の中央。
昨日まで。
何もなかった場所。
そこに。
とんでもないものが。
建っていた。
巨大な台座。
そして。
その上。
――銅像。
いや。
銅像。
……なのだが。
「「「……」」」
千乃と真銀。
言葉を失う。
なぜなら。
その銅像。
千乃。
真銀。
カイル。
柚乃。
ララ。
ライ。
アイシィ。
カミル。
そして。
エレノア。
グラン。
全員。
いた。
「……」
千乃。
「人数多くない?」
「……多いね」
真銀。
「……なんで神様までいるの?」
「分からない」
「なんでカミルも?」
「分からない」
「なんでララたちも人型?」
「分からない」
「……」
「……」
その瞬間。
「主ー!」
ララが。
部屋へ飛び込んできた。
「大変!」
「知ってる!」
「まだ何も言ってないよ!?」
「広場!」
「見たの!?」
「見た!」
「大変だよ!」
「だから!」
その後ろ。
ライ。
アイシィ。
カミル。
柚乃。
そして。
なぜか。
カイルまで。
集まってきた。
「千乃!」
「なに!?」
「……あれ」
「うん」
「俺」
「いるよ」
「……」
カイル。
窓の外。
広場を見る。
「……俺」
「うん」
「すごく」
「うん」
「かっこよくないか?」
「そこ!?」
真銀。
「なんで最初に自分を見るんだよ!」
「当然だろ!」
「いや、今それどころじゃないだろ!」
「俺の顔」
「うるさい!」
千乃。
「ちょっと静かにして!」
全員。
「「「「「……」」」」」
千乃。
窓の外を見る。
「……」
巨大な。
銅像。
しかも。
全員。
人型。
台座の上に。
集まっている。
そして。
「……躍動感」
千乃。
ぽつり。
「エグくない?」
「エグいですね……」
アイシィ。
丁寧に同意。
それは。
もはや。
ただの集合像ではなかった。
千乃の銅像。
台座の中央。
片足を踏み出し。
片手を前へ。
まるで。
今にも。
魔法を放つ瞬間。
その背後。
真銀。
剣を構え。
今まさに飛び出そうとしている。
カイル。
なぜか。
髪を。
かき上げながら。
前へ踏み出している。
「待って」
千乃。
「カイルだけ何してるの?」
「決まってるだろ」
「うん?」
「イケメンポーズ」
「決まってない」
「ひどい!」
そして。
柚乃。
なぜか。
千乃の隣。
戦闘員でもないのに。
両手を前へ。
必死に。
何かを守っている。
「……」
柚乃。
「私」
「うん」
「何から」
「うん」
「何を守ってるの?」
「知らない」
ララ。
人型。
ぴょん。
と跳ね上がっている。
その手には。
巨大なニンジン。
「……」
ララ。
「なんで?」
千乃。
「私が聞きたい」
ライ。
人型。
片手を地面へ。
今にも。
雷と水の複合魔法を放とうとしている。
「……」
ライ。
「俺は」
「うん」
「まともだな」
ララ。
「ライだけずるい!」
「何が!?」
アイシィ。
人型。
両手を広げ。
氷の魔法を発動するような。
美しいポーズ。
アイシィ。
「……私は」
「うん」
「少し」
「うん」
「嬉しいです」
「そこは気に入るんだ!?」
そして。
カミル。
白髪。
青い瞳。
人型。
千乃たちの後ろ。
まるで。
全員を守るように。
片手を前へ。
巨大な翼を広げている。
千乃。
「……」
「カミル」
「うむ」
「かっこいい」
「当然だ」
「即答」
そして。
問題の二人。
エレノア。
グラン。
千乃。
「……」
「……」
「……なんでいるの?」
エレノア。
銅像を見上げ。
「アルちゃん」
「なに?」
「私」
「うん」
「知らない間に」
「下界で銅像になってた」
「私も初めて見た」
グラン。
腕を組む。
「……」
「……」
「俺」
「うん」
「下界に来た回数」
「うん」
「そんな多くねぇぞ」
「うん」
「なのに」
「うん」
「なんで真ん中に近いんだ?」
「知らない」
そして。
千乃。
銅像を見る。
全体。
台座。
構図。
「……」
「……」
「…………」
「ねえ」
全員。
「?」
「これ」
「うん?」
「銅像っていうか」
千乃。
少し。
顔を引きつらせた。
「……戦闘シーンの最終回?」
真銀。
「分かる」
カイル。
「分かる」
柚乃。
「分かる」
ララ。
「分からない!」
町の人々。
広場。
わいわい。
「千乃様ー!」
「銅像完成しましたー!」
千乃。
「……」
「……」
「……完成」
「したらしい」
「いつから作ってたの!?」
町人。
「昨日の夜です!」
「一晩!?」
「町のみんなで!」
「職人さんも集めて!」
「……」
「……」
「だから昨日の夜」
「なんかうるさかったのか」
「気づかなかったの!?」
真銀。
「俺たち」
「普通に寝てた」
「柚乃も?」
「爆睡してたよ!」
柚乃。
「……私の銅像」
「……」
「ちょっと」
「かっこいい」
「気に入った!?」
千乃。
銅像の前。
近づく。
「……」
そして。
下から。
見上げる。
「……」
「……」
「……でかい」
台座込み。
かなりの高さ。
「ねえ」
「うん?」
「これ」
「うん?」
「私たち」
「うん?」
「毎朝」
「うん?」
「この広場通るの?」
「……」
全員。
銅像を見る。
「……」
「……」
カイル。
「……」
そして。
「最高じゃないか」
「ナルシストぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
真銀。
「お前だけだよ!」
「何が!」
「毎朝自分の銅像見て喜ぶの!」
「俺の銅像だからな!」
「意味分からない!」
すると。
町の子どもたちが。
銅像の周りを走り回る。
「千乃様だー!」
「真銀様だー!」
「カイル様!」
「イケメンポーズしてるー!」
カイル。
「……」
「……」
「……」
ぽろ。
千乃。
「泣いた!?」
カイル。
「子どもたちが」
「俺のイケメンを」
「理解してくれた」
「理解してないと思う!」
子ども。
「ねー!」
「ママー!」
「この人なんで髪の毛触ってるのー?」
「……」
カイル。
ぴたっ。
「……」
千乃。
「……」
真銀。
「……」
ララ。
「……」
子どもの母親。
「しっ!」
「見ちゃダメ!」
「え!?」
カイル。
「見ちゃダメ!?」
「何かあるんだよ」
「何が!?」
そして。
千乃。
銅像を。
見上げる。
「……」
「……」
「でも」
少し。
笑った。
「みんな」
「かっこよく作ってもらったね」
柚乃。
「うん!」
ララ。
「うん!」
ライ。
「……悪くない」
アイシィ。
「はい」
カミル。
「うむ」
エレノア。
「私、ちょっと嬉しいかも☆」
グラン。
「……まあ」
「悪くねぇな」
カイル。
「最高だ!」
「お前だけテンション高い!」
真銀。
「……俺も」
「うん?」
「……ちょっと嬉しい」
「ぽろ」
「なんで泣くの!?」
「銅像になったから……」
「感動ポイントそこ!?」
千乃。
思わず。
笑った。
そして。
広場の中央。
巨大な台座の上。
全員が集まった。
まるで。
今にも動き出しそうな。
異常なまでの躍動感。
英雄。
勇者。
従魔。
神。
神龍。
そして。
留守番隊長。
全員。
一つの銅像になって。
城下町を。
見守っていた。
――なお。
その日の夕方。
カイルが。
銅像の前で。
「……俺」
「現物より」
「銅像の方が」
「かっこよくないか?」
と呟き。
真銀。
「それはちょっと分かる」
「お前も認めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
千乃。
「二人とも広場から出てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
城下町に。
今日も。
平和な叫び声が響いていた。




