解析不能
真紅の魔力が渓谷を染める。
千羽千乃の足元から立ち上る魔力は、炎のように揺らめきながら空へと昇っていく。
第二世界修正体は微動だにしない。
「高出力反応を確認。」
「戦闘演算開始。」
その声には感情がない。
ただ、目の前の敵を分析し続けているだけだった。
「真銀。」
千乃は視線を外さずに呼ぶ。
「三秒。」
「十分だ。」
真銀は笑う。
次の瞬間、地面を蹴った。
爆発音にも似た衝撃が渓谷へ響く。
「速い。」
第二世界修正体の瞳が赤く光る。
「第一戦闘速度を上回る個体と認識。」
真銀は一気に懐へ飛び込む。
剣が閃く。
しかし。
ガギィンッ!
世界修正体の腕が剣を受け止めた。
金属同士がぶつかったような甲高い音が響く。
「……やっぱり対策済みか。」
真銀はすぐに距離を取る。
相手は一切動揺していない。
「近接戦闘への適応完了。」
「次。」
その一言で、世界修正体が消えた。
「っ!」
真銀の真横に現れる。
速い。
これまでで最速。
拳が振り抜かれる。
真銀は剣で受け流したものの、勢いを殺し切れず、大きく吹き飛ばされた。
「真銀!」
「平気だ!」
地面を滑りながら体勢を立て直す。
腕は痺れている。
それでも剣は離さない。
「硬いなんてもんじゃない。」
その様子を見た千乃は、小さく息を吐く。
「じゃあ。」
ノートを開く。
ページには、昔の自分が書いた技名。
「蒼雷皇絶天滅断」
「これで終わらせる。」
真紅の魔力が一気に膨れ上がる。
空気が震える。
地面がひび割れる。
世界修正体が初めて一歩後ろへ下がった。
「危険度更新。」
「解析……」
言葉が止まる。
千乃の魔力を見つめたまま、世界修正体の瞳が激しく明滅した。
「解析不能。」
「演算不能。」
「理解不能。」
機械のような声が乱れる。
千乃はゆっくり右手を前へ向けた。
「天嵐滅神極蒼崩落」
放たれた真紅の奔流は、一筋の光となって世界修正体へ突き進む。
避ける。
防ぐ。
受け止める。
そのすべてを無視して、光は相手を飲み込んだ。
轟音はなかった。
ただ静かに、世界修正体の身体が光へと溶けていく。
「……機能……停止。」
最後の言葉を残し、その姿は完全に消滅した。
渓谷に静寂が戻る。
真銀は剣を肩に担ぎ、苦笑した。
「相変わらず、とんでもないな。」
「自分でもそう思う。」
千乃は照れくさそうに笑う。
しかし、その笑顔はすぐに消えた。
ノートが、ひとりでに最後のページをめくったのだ。
そこには今まで何も書かれていなかったはずなのに、新しい一文だけが浮かんでいた。
**世界修正体撃破数 2**
その文字を見た千乃は、静かにつぶやく。
「……まだ終わらないんだ。」




