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第三世界修正体

 第二世界修正体を倒してから三日。


 世界は、静かだった。


 静かすぎた。


 ギルドの依頼は平常通り。


 街にも異変はない。


 魔物の活動も落ち着いている。


「逆に怖いね。」


 依頼書を眺めながら千乃がつぶやく。


「嵐の前ってやつか。」


 真銀も腕を組む。


 ギルド長は険しい顔のまま二人を呼び寄せた。


「各地から報告が入っている。」


「何かあったの?」


「何もない。」


「え?」


「それが異常なんだ。」


 ギルド長は地図を広げた。


 赤い印がいくつも付いている。


「魔物が突然消えた。」


「縄張りごと空になっている。」


「逃げたってこと?」


 千乃が尋ねる。


 ギルド長は首を横に振った。


「違う。」


「何かから隠れている。」


 その言葉に、部屋の空気が重くなる。


---


 二人は調査のため、魔物が姿を消した山岳地帯へ向かった。


 風だけが吹いている。


 鳥もいない。


 虫の声すら聞こえない。


「静かだね。」


「……嫌な静けさだ。」


 真銀が剣の柄に手を添える。


 その瞬間。


 空が割れた。


 バキンッ!


 ガラスが砕けるような音が響き、青空に巨大な亀裂が走る。


「なっ……。」


 千乃も思わず空を見上げる。


 亀裂の向こうは真っ黒だった。


 光も何もない空間。


 そこから、一人の少女がゆっくりと降りてくる。


 白い髪。


 赤い瞳。


 黒いワンピース。


 年齢は千乃と同じくらい。


 着地した少女は、無表情のまま二人を見つめた。


「第三世界修正体。」


「起動完了。」


 その声だけは、今までと同じ無機質なものだった。


「今度は子ども?」


 千乃が警戒する。


「油断するな。」


 真銀が前へ出る。


「前の二体より強い。」


 少女はゆっくりとうなずいた。


「学習完了。」


「第二世界修正体までの全戦闘記録を取得。」


「対策済み。」


 その一言で、空気が変わる。


 圧力だけで山肌に亀裂が走る。


 真銀が目を見開いた。


「……嘘だろ。」


 相手は一歩も動いていない。


 それだけで周囲が壊れていく。


 千乃は静かにノートを開いた。


「また世界が本気なんだ。」


 ページをめくる。


 そこに書かれていた技へ視線を落とす。


 「虚無刻界(ヴォイド クロノス)終焉蒼刃破(エンドブルーエッジ)


「今回はこれでいこう。」


 真紅の魔力が身体を包む。


 少女は初めて表情を変えた。


 ほんのわずかに眉が動く。


「未知の術式を確認。」


「解析開始。」


 千乃は小さく笑った。


「残念。」


「それ、ノートに何百個もあるから。」


 真銀も口元を緩める。


「全部覚えられるといいな。」


 少女の瞳が赤く輝く。


「演算速度を最大化。」


「対象の全技術を取得……」


 そこで言葉が止まった。


「取得……不能。」


「術式数……」


「計測不能。」


 ノートのページが風もないのに次々とめくれていく。


 一ページ。


 二ページ。


 三ページ。


 十ページ。


 二十ページ。


 止まらない。


 少女は初めて一歩後ろへ下がった。


「……異常。」


「対象は単一個体ではない。」


「何言ってるの?」


 千乃が首をかしげる。


 少女は機械のような声で続ける。


「ノート内部に記録された術式数……」


「観測限界を超過。」


「解析を中断。」


 真銀は苦笑した。


「世界のほうが諦めたぞ。」


「えぇ……。」


 千乃本人も困ったように笑う。


 その瞬間。


 第三世界修正体が消えた。


「真銀!」


「分かってる!」


 背後。


 真銀はとっさに剣を振るう。


 激しい衝撃。


 少女の蹴りを受け止めるが、そのまま数十メートル吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」


 地面を削りながら止まり、すぐに立ち上がる。


「今までで一番速い。」


 千乃の笑みが消える。


「なら。」


 真紅の魔力が一気に膨れ上がる。


 山全体を赤い輝きが照らした。


「ここからは、本気で行くよ。」

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