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世界の2体目

 世界修正体を倒してから、一週間。


 異変は、ぴたりと止んでいた。


「……平和だね。」


 千乃は宿の窓を開ける。


 朝日が差し込み、街には商人たちの元気な声が響いていた。


「ようやく普通の日常か。」


 真銀も椅子に腰掛けながら笑う。


「この『普通』、基準がおかしいけどね。」


 千乃は苦笑した。


 そのまま二人でギルドへ向かう。


---


「おはようございます。」


 受付の女性がいつものように迎える。


「今日は珍しく討伐依頼がありませんよ。」


「えっ、本当?」


 千乃が目を輝かせる。


「薬草採取や配達が中心です。」


「やった!」


 思わずガッツポーズをする。


 周りの冒険者たちはその様子を見て笑っていた。


「あれだけ強いのに薬草採取で喜ぶんだな。」


「意外と普通の子なんだ。」


 千乃は少し照れながら依頼書を手に取る。


「今日はこれにしよう。」


 薬草採取。


 危険度は最低。


 ようやく平和な依頼だった。


---


 街を出て森へ向かう。


 木漏れ日が心地いい。


「今日は戦わなくて済みそう。」


 千乃は鼻歌を歌いながら薬草を摘んでいく。


 真銀も周囲を警戒しながら歩いていた。


「これくらいが一番いいな。」


「うん。」


 二人とも自然と笑顔になる。


---


 その時だった。


 空から一枚の黒い羽が落ちてきた。


「……羽?」


 千乃が手に取る。


 冷たい。


 生き物の羽とは思えないほど冷たかった。


 その瞬間。


 空が曇る。


 昼間だった空が、一瞬で夜のように暗くなった。


「またか。」


 真銀が剣を抜く。


 森全体に、重い圧力が広がっていく。


 木々が揺れる。


 鳥たちが一斉に飛び立った。


 地面に浮かび上がる巨大な魔法陣。


「これ……前より大きい。」


 千乃の表情が引き締まる。


---


 魔法陣の中心から、黒い光が噴き上がる。


 そこから現れたのは、人の姿だった。


 漆黒の外套。


 白い髪。


 金色の瞳。


 青年にも少女にも見える、中性的な容姿。


 世界修正体とはまったく違う。


「……人?」


 千乃が小さくつぶやく。


 その存在はゆっくりと地面へ降り立った。


「識別完了。」


 感情のない声が響く。


「対象個体、千羽千乃。」


「対象個体、夜坂真銀。」


「第二世界修正体、起動。」


 真銀は眉をひそめた。


「今度は人型か。」


「しかも、しゃべってる。」


 千乃もノートを握りしめる。


---


 第二世界修正体は二人を見る。


 その視線には敵意も怒りもない。


 ただ、任務を遂行するためだけの無機質さがあった。


「第一世界修正体の戦闘記録を解析。」


「戦闘方法を更新。」


「対策完了。」


「……嫌なこと言ったね。」


 千乃が苦笑する。


「つまり、前と同じ戦い方は通じないってことだ。」


 真銀が静かに構える。


---


 第二世界修正体は右手を上げた。


 その瞬間。


 千乃のノートが震えた。


「えっ?」


 ページが勝手に開く。


 そして。


 何も書かれていないはずのページへ、黒い文字が浮かび上がる。


 天地創世蒼煌絶界終焉断罪覇王閃


 千乃は息をのんだ。


「この技……。」


 確かに自分が昔、ノートに書いた技。


 でも、今まで一度も使ったことはない。


 第二世界修正体が静かに告げる。


「脅威認定。」


「最大火力を推奨。」


 千乃はゆっくりとうなずいた。


「そう。」


「なら、遠慮はいらないね。」


 真銀が笑う。


「最初から全力で行こう。」


 千乃はノートを握り直し、一歩前へ出る。


天地創世蒼煌絶界(ジェネシス ブルーエ)終焉断罪覇王閃(ンド ジャッジメント)。」


 静かに技名を告げる。


 その瞬間。


 真紅の魔力が天へと駆け上がり、世界そのものを震わせた。


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