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ぐすっ、ぐすっ

 千乃の部屋。


「……ぐすっ」


「……」


「……ぐすっ」


「……」


「……」


 千乃は。


 ベッドの上で。


 じっと真銀を見ていた。


 真銀は。


 隣に座っている。


 そして。


「……ぐすっ」


「真銀」


「……なに」


「こっち来て」


「?」


 真銀が。


 首を傾げる。


 千乃は。


 ベッドの上を。


 ぽんぽん。


 と叩いた。


「ここ」


「……?」


「早く」


「うん」


 真銀。


 よく分からないまま。


 ベッドへ上がる。


 そして。


 千乃の隣へ。


「……で?」


「はい」


「え」


 千乃。


 自分の膝を。


 ぽん。


 と叩いた。


「ここ」


「…………」


 真銀。


 停止。


「……え?」


「膝枕」


「……」


「どうぞ」


「…………」


 真銀。


 完全に。


 固まった。


「……千乃」


「なに?」


「……本当に?」


「うん」


「……」


 ぽろ。


「泣いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「だってぇぇぇぇぇぇ!!」


「まだ何もしてないよ!?」


「千乃が優しいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「今さら!?」


 真銀。


 涙を拭いながら。


 恐る恐る。


 千乃の膝へ。


 ごろん。


「……」


「……」


 千乃。


 真銀の顔を見る。


「どう?」


「……」


「真銀?」


「……」


 ぽろ。


「どうした!?」


「……幸せ」


「泣くほど!?」


「うん……」


「重症だぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 真銀。


 千乃の膝枕で。


 ぽろぽろ。


「……ぐすっ」


「……」


「千乃」


「なに?」


「……帰ってきてくれて」


「うん」


「ほんとに」


「うん」


「よかった」


「……」


 千乃。


 真銀の髪を。


 ゆっくり。


 撫でる。


「……」


「……真銀」


「なに」


「泣き止んだ?」


「……うん」


 ぽろ。


「嘘つけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「ごめん……」


「謝るなってば!」


 千乃は。


 少し笑いながら。


 真銀の髪を。


 撫で続けた。


「……」


「……」


「千乃」


「なに?」


「これ」


「うん」


「ずっとしてていい?」


「ずっと?」


「……今日だけ」


「さっきから今日だけ多くない?」


「……だって」


 真銀。


 千乃を見上げる。


「今日は」


「……千乃がいるって」


「確認したい」


 千乃。


 少しだけ。


 目を丸くした。


「……確認?」


「うん」


「私、ここにいるよ」


「……うん」


「触らなくてもいる」


「……うん」


「見なくてもいる」


「……うん」


「膝枕しなくてもいる」


「……」


 真銀。


 数秒。


 考える。


「……でも」


「うん?」


「膝枕はしてほしい」


「そこは譲らないんだ!?」


 真銀。


 少しだけ。


 笑った。


 ……けれど。


 次の瞬間。


 また。


 目が潤む。


「いや、待って」


「……」


「今、笑ったよね?」


「……うん」


「なんで泣くの!?」


「分かんない……」


「分かんないの!?」


 千乃。


 もう。


 笑うしかなかった。


「真銀」


「なに」


「今日は泣きすぎ」


「……うん」


「目、明日すごいよ」


「……」


「大丈夫?」


「……千乃が見てるなら」


「それは関係ないよ」


 真銀。


 また。


 くすっ。


 と笑った。


 千乃は。


 少し驚く。


「……笑った」


「うん」


「……よかった」


「……」


 真銀。


 しばらく。


 千乃の顔を見ていた。


 そして。


「……やっぱり」


「?」


「帰ってきてくれてよかった」


「……」


 千乃。


 真銀の額を。


 軽く。


 指で。


 つん。


「何回言うの」


「何回でも言う」


「……」


「千乃」


「なに?」


「ありがとう」


「……どういたしまして」


 そして。


 千乃は。


 真銀の髪を。


 また。


 ゆっくり撫でる。


「……」


 真銀。


 少しずつ。


 静かになっていく。


「……ぐすっ」


「まだ泣いてる?」


「……泣いてない」


「怪しい」


「……」


「真銀?」


「……」


「……寝た?」


「……寝てない」


「じゃあ返事早いな」


「……」


 千乃。


 くすっ。


「もう寝なよ」


「……うん」


「今日は一緒に寝るんだから」


「……」


 真銀。


 ぴたっ。


 停止。


「……え?」


「え?」


「……今」


「うん」


「一緒に寝るって」


「うん」


「……」


 ぽろ。


「また泣いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「何が!?」


「嬉しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「だから泣くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 こうして。


 真銀は。


 千乃の膝枕で。


 泣いて。


 笑って。


 また泣いて。


 そして。


 ようやく。


 少しだけ。


 落ち着いた。


 ……その十分後。


「……ぐすっ」


「真銀」


「……なに」


「泣くの、何周目?」


「……分からない」


「数えとけばよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そして。


 しばらくして。


「……」


「……」


「……」


 千乃は。


 膝の上にいる真銀を見下ろした。


 さっきまで。


 あれだけ。


 ぐすっ。


 ぽろ。


 うわぁぁぁん。


 を繰り返していたのに。


 今は。


「……すー……」


「……」


 千乃。


 目を丸くした。


「……寝た?」


 真銀。


「……すー……」


「……」


 完全に寝ている。


 千乃は。


 しばらく。


 真銀の寝顔を見つめた。


「……」


 そして。


 小さく笑う。


「……やっと寝た」


 千乃は。


 真銀の髪を。


 そっと撫でた。


「……おやすみ」


 そのまま。


 しばらく。


 膝枕を続ける。


 ……。


 ……。


 …………。


「……」


 千乃。


 少しずつ。


 眠くなってきた。


「……あ」


 目が。


 とろん。


「……眠い」


 真銀を起こさないように。


 そのまま。


 壁に背中を預ける。


「……」


 静かな部屋。


 窓から。


 月明かりが差し込む。


 真銀。


「……すー……」


 千乃。


「……」


 そして。


 千乃の目も。


 ゆっくり。


 閉じていった。


「……おやすみ……」


 そのまま。


 千乃も。


 眠ってしまった。


 座ったまま。


 真銀を膝枕したまま。


 完全に。


 寝落ち。


 そして。


 朝。


 鳥の鳴き声。


「……ん……」


 千乃。


 ゆっくり。


 目を開ける。


「……」


 ぼんやり。


 天井。


「……あれ?」


 千乃。


 数秒。


 固まる。


「……?」


 自分。


 横になっている。


「……?」


 昨日。


 確か。


 座って。


 真銀を。


 膝枕して。


「……?」


 千乃。


 ゆっくり。


 視線を動かす。


 すると。


「……」


「……すー……」


 目の前に。


 真銀。


 そして。


 千乃の頭。


 真銀の膝の上。


「…………」


 千乃。


 完全に停止。


「……え?」


 数秒後。


「え!?」


 小さな声。


 真銀。


「……ん……」


 少し。


 動く。


 千乃。


 慌てて。


 ぴたっ。


 動きを止めた。


「……」


「……すー……」


「……」


 千乃。


 もう一度。


 状況を確認する。


 自分。


 横になっている。


 頭。


 真銀の膝。


 真銀。


 座っている。


 ……つまり。


「……膝枕……?」


 千乃。


 小声。


 真銀。


「……すー……」


「……」


 千乃。


 昨日の記憶を。


 思い出す。


 真銀が。


 自分の膝で寝た。


 そのまま。


 自分も。


 座ったまま寝た。


 ……。


「……」


「……」


「……真銀?」


 千乃。


 そっと。


 呼ぶ。


「……」


 返事はない。


 寝ている。


「……どうやって……?」


 千乃。


 真銀を見る。


「……」


 そして。


 ふと。


 思った。


「……私」


「……座ったまま」


「……寝てたんだよね」


 真銀。


「……すー……」


「……」


「……もしかして」


 千乃。


 小さく。


 笑う。


「……私のこと」


「……起こした?」


 真銀。


「……」


 もちろん。


 返事はない。


 千乃は。


 真銀の顔を見る。


 そして。


「……」


 少しだけ。


 目を細めた。


「……ありがと」


 真銀。


「……ん……」


 千乃。


「……っ」


 びくっ。


 真銀。


 ゆっくり。


 目を開ける。


「……」


「……」


 二人。


 目が合った。


「……」


「……」


 数秒。


 沈黙。


 真銀。


「……おはよう」


 千乃。


「……おはよう」


「……よく寝た?」


「……」


 千乃。


 自分の頭。


 真銀の膝。


「……これ」


「うん」


「どういうこと?」


 真銀。


 少し。


 照れたように。


 視線を逸らす。


「……千乃」


「うん」


「座ったまま」


「うん」


「寝てたから」


「うん」


「……そのままだと」


「……」


「身体、痛くなると思って」


 千乃。


「……」


 真銀。


「だから」


「……」


「起こそうとしたけど」


「うん」


「起きなかった」


「……」


「すごく」


「……」


「ぐっすり寝てた」


「……」


 千乃。


「……恥ずかしい」


「なんで?」


「……」


「かわいかったよ」


「!?」


 千乃。


 ぴたっ。


 停止。


「……今」


「うん」


「何て?」


 真銀。


「……かわいかった」


「…………」


 千乃。


 顔。


 真っ赤。


「……」


「……」


 真銀。


 少しだけ。


 笑った。


「……昨日のお返し」


「え?」


「千乃が」


「俺のこと」


「膝枕してくれたから」


「……」


「今度は」


「俺が」


「千乃を」


「膝枕した」


「……」


 千乃。


 真銀の顔を。


 見上げる。


「……」


 そして。


 少しだけ。


 笑った。


「……そっか」


「うん」


「……ありがと」


「どういたしまして」


 そして。


 少し。


 沈黙。


 千乃。


「……ねえ」


「なに?」


「……足」


「うん」


「痺れてない?」


「……」


 真銀。


 沈黙。


「……真銀?」


「……」


「……まさか」


「……」


「……痺れてる?」


 真銀。


「……ちょっと」


「ちょっと?」


「……かなり」


「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 真銀。


 苦笑い。


「でも」


「千乃が寝てたから」


「起こしたくなくて」


「だからってぇぇぇぇぇぇ!!」


 千乃。


 慌てて。


 起き上がる。


「ごめん!」


「大丈夫」


「大丈夫じゃないでしょ!?」


 真銀。


 立ち上がろうとする。


「……」


「真銀?」


「……」


「……」


「……足」


「うん?」


「……感覚ない」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 その朝。


 千乃の部屋から。


「真銀!?大丈夫!?」


「大丈夫……」


「歩けてないよ!?」


「……そのうち」


「そのうちって何!?」


 という。


 いつもの。


 賑やかな声が。


 響いていた。


 真銀が立ち上がろうとして。


「……」


「……」


 ぴく。


 真銀の足が。


 ほんの少し。


 動いた。


 しかし。


「……無理」


「無理!?」


 そのまま。


 へな。


 と。


 再びベッドへ座り込む。


「真銀!?」


「大丈夫」


「大丈夫じゃない!」


「……足の感覚が」


「うん」


「まだ」


「うん」


「……帰ってこない」


「帰ってきてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 千乃は。


 慌てて。


 真銀の前へ回る。


「待って待って!」


「……?」


「私、回復魔法使えるじゃん!」


「……あ」


 真銀。


 完全に忘れていた。


「……そうだった」


「そうだったじゃない!」


 千乃は。


 真銀の前にしゃがみ込む。


「ちょっと待ってね」


「うん」


 そして。


 千乃が。


 真銀の足へ。


 そっと手をかざす。


「――癒光ゆこう


 ふわっ。


 淡い紅色の光が。


 千乃の手から溢れ出した。


 優しい光が。


 真銀の足を包み込む。


「……」


「……」


 数秒。


 静かな時間。


 そして。


「……どう?」


 千乃が聞く。


 真銀。


「……」


「真銀?」


「……」


「……まさか」


 千乃の顔が。


 少しずつ。


 青くなる。


「……治ってない?」


「いや」


 真銀が。


 ゆっくり。


 足を動かした。


 ぴく。


 ぴくぴく。


「……お」


「お?」


 真銀。


 足を。


 持ち上げる。


「……動く」


「ほんと!?」


「うん」


「よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 千乃。


 思わず。


 その場に座り込む。


「……びっくりした」


「ごめん」


「真銀が謝ることじゃないよ!」


「でも」


「謝らなくていい!」


 真銀は。


 ゆっくり。


 立ち上がった。


「……」


「……」


 一歩。


「……お」


 二歩。


「……」


 三歩。


「どう?」


 千乃が。


 心配そうに聞く。


 真銀。


「……大丈夫」


「ほんと?」


「うん」


 そして。


 千乃を見る。


「……治してくれてありがとう」


「どういたしまして!」


 千乃。


 笑う。


 すると。


 真銀。


「……」


「?」


「千乃」


「なに?」


「昨日の」


「うん」


「膝枕」


「うん」


「……お返し、したかった」


「……」


「だから」


「うん」


「足が痺れても」


「……」


「別にいいかなって」


「よくないよ!?」


 千乃。


 即答。


「回復魔法使えるんだから!」


「……」


「我慢しないで!」


「うん」


「次からは言って!」


「……」


「真銀?」


 真銀。


 少しだけ。


 笑う。


「……でも」


「なに?」


「千乃が」


「ぐっすり寝てたから」


「……」


「起こしたくなかった」


「……」


 千乃。


 一瞬。


 黙った。


「……」


「……」


 そして。


「……ばか」


「え」


「そういうところ!」


「?」


「もう!」


 千乃。


 少しだけ。


 頬を膨らませる。


「足が痺れたら」


「ちゃんと言うこと!」


「……はい」


「我慢しないこと!」


「……はい」


「分かった?」


「……はい」


 真銀。


 素直。


 千乃は。


 少しだけ。


 満足そうに頷いた。


「よし」


「……」


 真銀。


「千乃」


「なに?」


「……じゃあ」


「?」


「今度また」


「膝枕」


「してもいい?」


「え?」


「お互いに」


「……」


 千乃。


 少しだけ。


 考える。


「……」


 真銀。


 じっと待つ。


「……」


「……」


「……いいよ」


「……!」


 真銀。


 笑った。


「……ほんと?」


「ほんと」


「……」


 そして。


 ぽろ。


「……え?」


 千乃。


「……え?」


 真銀。


「なんで泣くの!?」


「……嬉しい」


「昨日からそれ多すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」


 千乃。


 慌てて。


「はいはい!」


「うん……」


「もう泣かない!」


「……うん」


「今日のノルマは達成!」


「何のノルマ!?」


 真銀。


 笑いながら。


 涙を拭った。


 その頃。


 廊下の外。


 ララ。


「主ー!」


 勢いよく。


 扉を開けた。


「朝ごはんだよー!……って」


 千乃と真銀。


「「……」」


 ララ。


「……」


 数秒。


「……お邪魔した?」


「してない!」


 千乃が即答。


「……本当に?」


「ほんと!」


 真銀。


「……」


 ララ。


 じー。


「……」


「ララ?」


「主」


「なに?」


「真銀」


「うん?」


「また泣いた?」


「なんで分かるの!?」


「目」


 真銀。


「……」


「真っ赤」


「……」


 ララ。


「やっぱり!」


「やっぱりじゃない!」


「真銀、泣き虫ー!」


「……」


 真銀。


 ぴたっ。


「……」


 千乃。


「……?」


 真銀。


 ぽろ。


「……あ」


 ララ。


 固まる。


「……」


 千乃。


「ララ」


「……はい」


「また泣かせたね?」


「……」


 真銀。


「……ぐすっ」


「真銀ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 ララ。


 大慌て。


「ち、違うよ!?主!?」


「真銀」


「……なに」


「回復魔法、もう一回いる?」


「心は治せない」


「治せないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 こうして。


 足は癒光で完全回復した。


 ……が。


 真銀の涙腺は。


 その後も。


 まったく回復しなかった。


 それどころか。


 ララが朝食の途中で。


「泣き虫勇者!」


「俺、勇者じゃない!」


 と言っただけで。


 また。


 ぽろ。


「真銀!?」


 千乃は。


 朝から。


 頭を抱えることになった。

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