勇者復活&・・・姉上?
そして。
その頃。
星氷神城。
「……うぅ」
ベッドの上。
カイルは。
額に濡れた布を乗せられ。
ぐったりしていた。
「……暑い……」
使用人が。
心配そうに見る。
「勇者様、もう少しお休みください」
「……俺は……勇者……」
「はい」
「……こんなところで……寝てられるか……」
「寝てください」
「はい……」
即答。
そのとき。
ふわっ。
「……?」
カイルの目の前。
淡い光が。
一粒。
落ちてきた。
「……何だ?」
もう一粒。
ふわ。
ふわ。
ふわぁぁぁ。
光が。
部屋の中へ。
降り注ぐ。
「……」
使用人も。
目を丸くした。
「これは……」
カイルの身体。
淡い光に。
包まれる。
「……あれ?」
カイル。
額に。
手を当てる。
「……」
熱い。
はずだった。
「……?」
もう一度。
自分の額を触る。
「……熱、ない?」
「え?」
使用人が。
慌てて確認する。
「……本当だ」
カイル。
ゆっくり。
上半身を起こす。
「……」
だるくない。
頭も。
痛くない。
「……」
完全に。
治っている。
「……」
カイル。
窓を見る。
外。
遠く。
城下町。
「……」
そして。
小さく。
呟いた。
「……千乃」
そのとき。
淡い光。
最後の一粒が。
カイルの前へ。
ふわり。
落ちた。
「……」
カイル。
それを。
手のひらで。
受け止める。
光は。
ゆっくり。
消えた。
「……」
「……俺」
カイル。
ベッドから。
立ち上がる。
「……千乃が」
自分を。
治した。
町の人。
仲間。
そして。
あのとき。
熱を出して。
戦えなかった。
勇者まで。
「……」
自分は。
千乃を。
信じなかった。
いや。
正確には。
自分自身も。
何が本当なのか。
分からなくなっていた。
でも。
千乃は。
そんな自分まで。
治した。
「……」
カイル。
窓を。
見つめる。
「……」
「……バカだろ」
小さな声。
「……俺たち」
千乃は。
怒って。
神界へ行った。
当然だ。
信じなかった。
冷たくした。
真銀まで。
千乃を。
突き放した。
それでも。
町が、危険になったら。
戻ってきた。
魔獣を、倒した。
町を、守った。
怪我をした人を、治した。
そして——勇者である自分まで。
「……」
カイル。
自分の手を見る。
「……」
しばらく。
沈黙。
そして。
「…………」
「………………」
「………………」
「……俺」
カイル。
ゆっくり。
顔を上げた。
「……おまけ勇者とか言われて泣いてた場合じゃなかった」
使用人。
「そうですね」
「即答!?」
「ですが」
使用人は。
少しだけ。
笑う。
「勇者様らしくはあります」
「……」
カイル。
しばらく。
黙った。
「……」
「……千乃」
そして。
ベッドの横。
勇者の剣を。
手に取る。
「……」
金色の髪。
少し乱れている。
それでも。
いつもの。
イケメン勇者。
「……」
カイル。
剣を。
腰に戻す。
「……」
「千乃を」
その瞳。
真剣。
「……迎えに行く」
使用人。
「まず反省文を書いてください」
「何で!?」
「全員分です」
「全員分!?」
「千乃様に冷たくした件について」
「……」
「あと」
「まだあるの!?」
「『おまけ勇者』と呼ばれて町中で泣き叫んだ件について」
「それ関係ある!?」
「あります」
「ないだろ!?」
数分後。
星氷神城の廊下。
元気になったカイルの声が。
響き渡った。
「俺は病み上がりなんだぞぉぉぉぉぉ!!」
「治ったでしょう」
「千乃が治したからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「では書いてください」
「びょええええええええええええええっっっっっっっっっっっっ!!」
完全復活。
ただし。
泣き声まで。
完全復活していた。
そして。
城下町の誰かが。
ぽつり。
「……回復勇者?」
「いや」
「元・発熱勇者」
「それ今作っただろ」
その頃。
神界。
アルテナ。
「……?」
くしゃみ。
「……誰か、噂してる?」
隣のエレノア。
「アルちゃん」
「なに?」
「たぶんカイルじゃない?」
「……ああ」
アルテナ。
一瞬で。
納得した。
「……それなら納得」
一方。
ルミナリア皇国。
パイライトは。
自室で。
苛立たしげに机を叩いていた。
「……っ!」
バンッ!!
「なぜだ!!」
机の上に置かれていた紙が。
びくりと跳ねる。
「なぜ、あの女は!」
パイライト。
顔を真っ赤にする。
「なぜ私を選ばない!?」
「……ブヒッ」
「…………」
静寂。
パイライト。
ゆっくり。
口を閉じる。
「……今のは」
誰もいない部屋。
「……聞かなかったことにしろ」
当然。
誰も返事をしない。
「……」
パイライト。
再び。
机を叩く。
「千乃は!」
バンッ!!
「私の后になるべきなのだ!」
「ブヒッ」
「…………」
パイライト。
完全停止。
「……」
誰もいない。
それなのに。
なぜか。
自分の敗北感だけが。
部屋に漂っていた。
「……くそっ」
パイライトは。
歯を食いしばる。
「真銀……」
その名前を。
憎々しげに。
呟く。
「あの男さえいなければ」
千乃は。
自分を見る。
そう。
信じている。
信じ込んでいる。
「……」
「そして」
パイライトの。
口元が。
ゆっくり。
歪んだ。
「千乃を」
「……」
「……もっと追い詰めればいい」
その瞬間。
ふわっ。
「……?」
パイライトが。
顔を上げる。
部屋の隅。
何もなかった場所。
そこに。
小さな光が。
一つ。
現れた。
「……何だ?」
光。
一つ。
二つ。
三つ。
ふわ。
ふわ。
ふわぁぁぁ。
「……」
パイライト。
立ち上がる。
光は。
集まり始めた。
人の形。
頭。
肩。
腕。
長い髪。
そして。
ゆっくりと。
その姿が。
完成する。
「……」
パイライト。
息を止めた。
「……誰だ?」
光が。
消える。
そこに。
一人の少女が。
立っていた。
長い髪。
見覚えのある顔。
そして。
何より。
忘れるはずのない。
存在。
「……」
パイライト。
目を。
見開いた。
「…………」
少女。
ゆっくりと。
顔を上げる。
「……久しぶりね」
その声。
パイライトの。
身体が。
凍りつく。
「……」
「……姉上?」
少女。
口元を。
歪める。
「ええ」
静かに。
答えた。
「そうよ」
その姿は。
かつて。
千乃から。
真銀を奪おうとした。
ルミナリア皇国の王女。
「エリシア……」
パイライト。
後ずさる。
「……エリシア姉上?」
エリシア。
小さく。
笑う。
「……そう」
「あなたの姉よ」
「……」
パイライト。
混乱している。
「だって……」
「死んだ?」
エリシア。
あっさり。
続ける。
「ええ」
「死んだわ」
「……」
「でも」
エリシアの。
目が。
細くなる。
「……それで終わるほど」
「私の執着は」
弱くないの」
「……」
パイライト。
息を呑む。
「……」
エリシア。
ゆっくり。
歩き出す。
けれど。
足音は。
ない。
床を。
踏んでいるように見えて。
実際には。
少しだけ。
浮いている。
「……千乃」
その名前を。
低く。
呟く。
「……」
「私から」
「真銀様を」
「奪った女」
パイライト。
「……姉上」
エリシア。
笑う。
「ふふ」
「聞いたわ」
「……何を?」
「あなたも」
エリシア。
パイライトを見る。
「千乃を欲しがっているのでしょう?」
「……」
パイライト。
少しだけ。
胸を張る。
「当然だ」
「千乃様は」
「私の后になるべき方だ」
「……ブヒッ」
「…………」
エリシア。
停止。
パイライト。
停止。
「…………」
「……」
エリシア。
ゆっくり。
首を傾げる。
「……今」
「……何?」
「……いや」
パイライト。
視線を逸らす。
「何でもない」
「そう」
エリシア。
それ以上。
追及しなかった。
「……まあいいわ」
そして。
微笑む。
「……利害は一致しているわね」
「……?」
「私も」
エリシア。
指先を。
ゆっくり。
握る。
「千乃が」
「……憎い」
空気が。
冷たくなる。
「私から真銀様を奪って」
「今度は」
「私の人生まで」
「奪った」
「……」
パイライト。
眉をひそめる。
「……姉上の人生?」
「ええ」
エリシア。
当然のように。
頷く。
「全部よ」
「……」
「だから」
エリシア。
パイライトへ。
手を差し出す。
「協力しましょう」
「……」
「千乃を」
「……」
「もっと」
「もっと孤立させるの」
パイライト。
口元を。
歪めた。
「……」
エリシア。
「町の人間も」
「仲間も」
「真銀も」
「一度は千乃を疑った」
「……」
「なら」
エリシアの。
瞳。
冷たく光る。
「もう一度」
「疑わせればいい」
「……」
パイライト。
目を細める。
「……なるほど」
「今度は」
エリシア。
静かに。
笑った。
「もっと上手くやりましょう?」
「……」
パイライト。
「……」
そして。
「いいだろう」
即答。
「千乃様を」
「私の后にするためなら」
パイライト。
エリシアを見る。
「何度でも」
「……」
「何度でも」
「千乃を」
「孤立させてやる」
「ブヒッ」
「…………」
エリシア。
「…………」
パイライト。
「…………」
エリシア。
ゆっくり。
言った。
「……パイライト」
「何だ?」
「……今のは」
「……違う」
「……」
「何が」
「何でもない」
パイライト。
謎のプライドを。
守った。
「……とにかく」
エリシア。
再び。
千乃の名を。
呟く。
「千乃」
「あなたは」
「まだ」
「何も知らない」
そして。
エリシアと。
パイライト。
二人の。
千乃への。
嫌がらせが(?)。
再び。
動き出そうとしていた。




