〇〇勇者
――数日後。
星霜王国・城下町。
その日。
町の中央から、とんでもない音が響き渡った。
「びょえええええええええええええええっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」
「またか」
露店のおじさんが顔を上げる。
「まただな」
パン屋のおばさんも慣れた様子で頷く。
「今度は何勇者?」
「さあ?」
町の人々が、声のする方を見る。
そこには。
金髪。
青い瞳。
白銀の勇者鎧。
そして。
地面に膝をついて、大号泣している男がいた。
「びょええええええええええええええええええええええええええっっっっっっっ!!」
カイル。
今日も元気に。
**大号泣していた。**
「俺は……!」
ずびっ。
「俺は勇者なのにぃぃぃぃぃぃ!!」
「知ってるよ」
通りすがりの人が答えた。
「魔王倒してないけどね」
「びょえっ!?」
カイルが一瞬だけ泣き止んだ。
「そこ!?」
「だって事実だし」
「びょえええええええええええええええええええっっっ!!!!」
泣き声がさらに大きくなった。
それを見ていた子どもたちが、ひそひそ話す。
「あ、泣き虫勇者だ」
「今日は泣き虫勇者なんだー」
「この前は騒音勇者だったよね」
「その前は引きずられ勇者!」
「あと、おまけ勇者!」
「びょええええええええええええええええええっ!?」
「おまけ言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カイルが涙だらけの顔を上げる。
だが。
周囲には、すでに新しい文化が誕生していた。
---
町の掲示板。
誰かが。
こんな紙を貼っていた。
### 本日の勇者様
・おまけ勇者
・ぐずり勇者
・泣き虫勇者
・引きずられ勇者
・金髪勇者
・騒音勇者
・魔王倒してない勇者
「増えてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
カイルが絶叫した。
「なんでシリーズ化してるんだよぉぉぉぉぉぉぉ!?」
露店のおじさんが腕を組む。
「人気だから?」
「人気なの!?」
「子どもたちには特に」
「嬉しくないぃぃぃぃぃぃぃ!!」
すると。
一人の子どもが母親の手を引っ張った。
「ママー!」
「なあに?」
子どもは、地面でぐずぐずしているカイルを指差す。
「イケメンだけど、性格が残念な勇者様がぐずってるよー?」
「しっ!」
母親が慌てて口元に指を当てる。
「事実だけど言わないの!」
「事実って認めたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
カイルが再び崩れ落ちる。
「俺、イケメンなのに……!」
ずびっ。
「ちゃんとイケメンなのに……!」
ずびっ。
「なんで性格が残念枠なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ナルシストだからじゃない?」
誰かが言った。
「びょええええええええええええええええええええええっっっ!!!!」
その瞬間。
町の誰かが叫んだ。
「千乃様よんできてー!」
「千乃様呼んでー!!」
「勇者がまたぐずってるー!」
「びょええええええええええええええええええええええっ!?」
そして。
数分後。
「カイルー?」
城下町に、聞き慣れた声が響いた。
カイルが。
ぴたっ。
泣き止んだ。
「……」
ゆっくりと振り返る。
そこには。
メタルピンクのお団子ヘア。
右目は金色。
左目はピンク。
そして。
ものすごく呆れた顔をしている千乃。
「……また何してるの?」
「千乃……」
「うん」
「聞いてくれ」
「嫌な予感しかしない」
カイルは立ち上がる。
「俺はイケメンだ」
「うん」
「そこは認める」
「うん」
「なのに!」
町の掲示板を指差す。
「なんで俺は、こんなに勇者の種類があるんだ!?」
千乃が掲示板を見る。
「えーっと……」
指で数える。
「おまけ勇者」
「やめろ」
「ぐずり勇者」
「やめろ」
「泣き虫勇者」
「やめろぉ!」
「金髪勇者」
「それは普通だろ!?」
「魔王倒してない勇者」
「それは俺のせいじゃないだろぉぉぉぉ!?」
「引きずられ勇者」
「千乃に引きずられたからな……」
「騒音勇者」
「泣き声がうるさいから」
「びょえっ」
千乃は少し考えた。
「……まあ」
カイルが期待の目を向ける。
「イケメンナルシスト勇者も追加しとく?」
「増やすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
町中に響き渡る絶叫。
そして。
「びょえええええええええええええええええええええええっっっ!!!!」
再び始まる大号泣。
町の人々は。
「あ、騒音勇者になった」
「今日は泣き虫勇者から騒音勇者への変化が早いな」
「複合型じゃない?」
「新種?」
「俺を生き物みたいに分類するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
千乃はため息をついた。
「……はいはい」
カイルの服の襟を掴む。
「城に帰るよ」
「待て、千乃!」
「何?」
「俺、今回は歩ける」
「うん」
「だから引きずらなくても――」
ズルズルズルズル……
「千乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
その場にいた町の人が叫ぶ。
「引きずられ勇者、発生ー!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そして。
今日もまた。
星霜王国の城下町に。
新たな勇者シリーズが追加された。
**引きずられ勇者・再来。**
なお。
翌日。
掲示板には新しく。
**・複合型勇者**
という項目まで追加されていた。
翌日。
星霜王国・城下町。
カイルは、昨日の事件以来。
**絶対に町へ行かない。**
と決めていた。
「……今日は城から出ない」
ソファに座りながら、カイルは腕を組む。
「絶対だ」
「そう」
千乃が紅茶を飲む。
「もう二度と町の人たちに笑われない」
「うん」
「もう『〇〇勇者』なんて増やさせない」
「うん」
「俺は静かに、イケメン勇者として生活する」
「……」
千乃がカイルを見る。
「何?」
「今、自分で増やしたよ」
「…………」
「イケメン勇者」
「……」
「また一種類増えたね」
「やめろ」
「まだ町の掲示板にはなかったのに」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「騒音勇者」
「今のは違う!」
---
そして数時間後。
「……」
カイルは。
城の窓から城下町を見ていた。
「……行かない」
真銀が横を通る。
「行けば?」
「行かない」
「見たいんだろ」
「……」
「見たいんだな」
「見たくない!」
その数秒後。
「ちょっとだけ確認してくる」
「行くのかよ」
---
城下町。
カイルは。
フードを深く被って歩いていた。
「……誰にもバレなければいい」
こそこそ。
きょろきょろ。
物陰に隠れながら進む。
完全に怪しい。
すると。
一人の子どもが。
「あれ?」
カイルを見る。
「……」
カイルは動かない。
子どもも動かない。
「……」
「……」
「……誰?」
カイルは小声で答えた。
「通りすがりのイケメン」
「勇者様だ!」
「速っ!?」
子どもの声が町に響く。
「勇者様いるー!!」
「えっ!?」
「どこ!?」
「本当に!?」
町の人々が集まり始めた。
「やばいやばいやばいやばい!」
カイルが逃げようとする。
だが。
フードの裾を踏んだ。
「うわっ!?」
バタン!!
「…………」
転んだ。
静寂。
そして。
一人の町人が。
「転倒勇者」
「は?」
別の人が。
「転び勇者」
「ちょっと待て」
「ドジ勇者?」
「待て待て待て」
「フード勇者」
「それはもう何でもありだろ!?」
「隠密失敗勇者」
「急に正式名称みたいにするな!!」
子どもたちが盛り上がる。
「新しいのだ!」
「新種勇者!」
「俺を生物扱いするな!」
カイルが立ち上がる。
その瞬間。
誰かが掲示板へ走った。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
カイルが追いかける。
「書くな!」
町人が振り返る。
「何を?」
「俺のことを!」
「じゃあ、追跡勇者」
「増やすなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
---
数分後。
掲示板。
**〇〇勇者シリーズ・最新版**
・おまけ勇者
・ぐずり勇者
・泣き虫勇者
・金髪勇者
・魔王倒してない勇者
・引きずられ勇者
・騒音勇者
・イケメンナルシスト勇者
・複合型勇者
そして、新しく。
・転倒勇者
・隠密失敗勇者
・追跡勇者
「なんでこんなに増えるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
カイルが頭を抱える。
その後ろから。
「カイル?」
千乃の声。
「……」
カイルが固まる。
ゆっくり振り返る。
「……千乃」
「何してるの?」
「町を……」
「うん」
「見回り?」
「フード被って?」
「……」
「物陰に隠れながら?」
「……」
「転んで?」
「見てたの!?」
「見てた」
「びょえっ」
カイルの目に涙が溜まる。
「……千乃」
「うん」
「俺、静かに暮らしたい」
「うん」
「イケメンとして」
「うん」
「なのに、なんで毎回新しい勇者になるんだ?」
千乃は少し考えた。
「カイルだから?」
「答えになってないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
そのとき。
子どもが千乃へ駆け寄った。
「千乃様!」
「どうしたの?」
「今日の勇者様、何勇者だと思う?」
千乃がカイルを見る。
カイルが首を横に振る。
必死に。
横に振る。
「千乃……」
「……」
「頼む」
「……」
「頼むから」
千乃は。
にこっ。
「**フード勇者?**」
「びょえええええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「決定ー!」
「決定するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その日。
掲示板には。
**・フード勇者**
が追加された。
なおカイルは。
「俺は……勇者だ……」
と呟きながら。
千乃に連れられて城へ帰った。
町の人々は、その後ろ姿を見ながら。
「今日は引きずられないんだね」
「引きずられない勇者?」
「それも追加?」 ――翌日。
星霜王国・城下町。
カイルは城の自室で。
鏡の前に立っていた。
「……」
じっ。
「……やはり、俺はイケメンだ」
後ろから。
「朝から何してるの?」
「うわぁっ!?」
カイルが飛び上がった。
振り返る。
そこには千乃。
「ち、千乃! ノックしろ!」
「したよ?」
「嘘だ!」
「三回した」
「気づかなかった」
「鏡見てたからでしょ」
「……」
カイルは咳払いをした。
「とにかくだ」
「うん」
「今日の俺は違う」
「昨日も聞いた」
「聞け!」
カイルは指を一本立てる。
「今日は町へ行っても、泣かない」
「へぇ」
「騒がない」
「うん」
「転ばない」
「うん」
「フードも被らない」
「うん」
「引きずられない」
「そこは自分で防げ」
「そして!」
カイルは胸を張った。
「今日こそ、町の人々に!」
ビシッ!
「**『本物の勇者』というものを見せてくる!!**」
「頑張って」
「なんだその適当な返事!」
「期待してるよ」
「本当か?」
「うん」
「よし!」
カイルは満足そうに部屋を出ていった。
千乃は。
「……」
窓から城下町を見る。
「何勇者になるかなぁ」
---
そして。
城下町。
「よし」
カイルは堂々と歩いていた。
「今日は完璧だ」
子どもたちがこちらを見ている。
「……!」
カイルは爽やかに笑った。
「やあ」
すると。
一人の子どもが叫んだ。
「ナルシスト勇者だー!」
「違う!!」
即座に反応。
そして。
カイルが固まる。
「……」
「……」
「……」
「……しまった」
町の人々がざわつく。
「あれ?」
「今、即座に反応した?」
「しましたね」
「自分で認めたようなものでは?」
カイルは両手を振った。
「違う違う違う!」
「否定勇者?」
「増やすな!!」
「反応勇者?」
「だから増やすな!!」
子どもが走っていく。
「掲示板に書いてくるー!」
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
カイルが追いかける。
そして。
途中で。
「……」
ぴたっ。
立ち止まった。
「待て」
深呼吸。
「落ち着け」
すぅ。
「俺は勇者」
はぁ。
「子どもを追いかけ回すのはどうかと思う」
町の人々が頷く。
「成長したな」
「偉いぞ」
「今日は違うかもしれない」
カイルは少し誇らしげに笑った。
「そうだろ?」
その瞬間。
後ろから子どもの声。
「掲示板に書いたよー!」
「早ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
カイルが振り返る。
掲示板。
すでに新しい文字。
**・否定勇者**
**・反応勇者**
「…………」
カイルは。
ゆっくりと空を見上げた。
「……俺、今日まだ何もしてないんだけど」
「したよ」
パン屋のおばさんが答える。
「反応」
「それだけで勇者の種類が増えるの!?」
「今のところね」
「今のところ!?」
---
カイルは歩いた。
ただ。
普通に歩いた。
「もう何も言わない」
「……」
「誰に何を言われても反応しない」
「……」
「俺は心を無にする」
すると。
後ろから。
「おまけ勇者ー!」
「…………」
カイルの肩が震えた。
町の人々。
「……」
子どもたち。
「……」
千乃まで。
いつの間にか遠くから見ていた。
「……」
カイルは。
耐える。
「…………」
「おまけ勇者ー!」
「…………」
「おまけ」
「…………」
「おまけ勇者」
「…………」
「おま――」
「俺はおまけじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
町中。
静寂。
そして。
「叫んだ」
「騒音勇者だ」
「我慢失敗勇者も追加?」
「待て」
カイルが青ざめる。
「待て待て待て」
掲示板係の子どもが。
「書いてくる!」
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「追跡勇者!」
「違うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
---
さらに。
市場。
カイルは果物屋の前を通った。
「……」
「……」
絶対に反応しない。
果物屋のおじさんが言う。
「今日は泣かないんだな」
「…………」
「珍しいな」
「…………」
「昨日はびょええええええええええええええええええええええええっ! って」
「…………」
「町の端まで聞こえたぞ」
「…………」
「かなり大きな声で」
「…………」
「騒音勇者」
「…………」
「泣き虫勇者」
「…………」
「ぐずり勇者」
「…………」
「おま――」
「そこから先は言わせねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
果物屋。
静寂。
「……」
おじさんが頷く。
「地雷勇者」
「新しいのを作るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
---
そのころ。
町の掲示板。
**〇〇勇者シリーズ最新版。**
・おまけ勇者
・ぐずり勇者
・泣き虫勇者
・金髪勇者
・魔王倒してない勇者
・引きずられ勇者
・騒音勇者
・イケメンナルシスト勇者
・複合型勇者
・転倒勇者
・隠密失敗勇者
・追跡勇者
・フード勇者
・否定勇者
・反応勇者
・我慢失敗勇者
・地雷勇者
そして。
その下に。
誰かが新しく。
**・勇者**
と書いた。
カイルが。
ぴたっ。
止まった。
「……」
町の人々も見る。
「……」
カイルが近づく。
「……これは?」
子どもが答えた。
「普通の勇者」
「……」
「普通に勇者様として尊敬する枠」
「…………」
カイルの目が潤んだ。
「……!」
千乃が遠くから叫ぶ。
「カイル!」
「泣くなよ!」
カイルが震える。
「……俺は」
町の人々が見守る。
「……普通の勇者として」
じわっ。
「……認められた」
千乃。
「泣くな!」
カイル。
「びょ……」
「駄目!」
「びょえ……」
「耐えて!」
「びょええええええええええええええええええええええええっっっっっっっっっっっっ!!!!」
「耐えられなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
町の人が。
「感動勇者?」
「涙腺ゆるゆる勇者?」
「情緒勇者?」
「増えるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
---
その夜。
星氷神城。
カイルはベッドの上で丸くなっていた。
「……」
千乃が部屋を覗く。
「カイル?」
「……」
「どうしたの?」
「……今日だけで」
「うん」
「五種類増えた」
「うん」
「俺は何なんだ」
「勇者」
「本当に?」
「本当に」
「……」
カイルが少し顔を上げる。
「じゃあ」
「うん」
「俺は……イケメン?」
「それは認める」
「……!」
「でもナルシスト」
「余計な一言ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その瞬間。
城下町の掲示板係の子どもが。
なぜか城門の前まで来ていた。
「千乃様ー!」
「ん?」
「新しい勇者が!」
カイルが。
「……まさか」
子どもが元気よく叫ぶ。
「**余計な一言で毎回傷つく勇者ー!**」
「長いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
千乃は。
静かに窓を閉めた。
「……今日はもう、町に行かないほうがいいね」
「びょええええええええええええええええええええええっっっっっっっ!!!!」
こうして。
**〇〇勇者シリーズは、ついに二十種類を突破した。**
なお。
カイル本人は。
**一種類も申請していない。**
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」




