神の歓迎会
――そして。
神々が続々と集まってきた結果。
「……」
千乃は、神界の大広間を見渡していた。
「……なんでこうなったの?」
「歓迎会だから☆」
隣のエレノアが即答する。
「いや、私がお願いしたわけじゃないよ!?」
「でもアルちゃんが神になったの、かなり大きな出来事だからね」
エレノアが笑う。
「しかも異界から転生して、そのまま完全な神になった子なんて珍しいから☆」
「なるほど……」
千乃は納得しかけて。
「……っていうか」
会場をもう一度見る。
巨大なテーブル。
星雲を模した料理。
光る果実。
空中を漂う飲み物。
そして。
**大量の神々。**
「多すぎない!?」
「まあまあ」
グランが豪快に笑う。
「こういうのは人数が多いほうが楽しいだろ!」
「グラン、もう馴染んでる……」
「アルもな!」
「私は主役だから!」
「そういうことだ!」
そこへ。
カミルがやってくる。
「千乃」
「カミル!」
「神界の歓迎会というものは初めてだが」
「私も初めて!」
「そうか」
カミルは静かに周囲を見る。
「……随分と大規模だな」
「うん……」
すると。
「アルテナ!」
声をかけられる。
水神ネレイアだった。
「こちらへ」
「なに?」
「神々があなたと話したがっている」
「私と?」
「ええ」
その瞬間。
別の神もやってくる。
「守護神アルテナ!」
「はい!」
「私は風神!」
「私は大地神!」
「私は夢幻神!」
「私は知識神!」
「私は星辰神!」
「え、え、え!?」
千乃の周囲に。
神々がどんどん集まる。
「ちょっと待って!」
千乃が両手を上げる。
「一人ずつお願い!」
グランが腹を抱えて笑う。
「ははははは!」
「笑ってないで助けて!」
「無理だ!」
「なんで!?」
「俺もアルに聞きたいことある!」
「グランまで!?」
そこへ。
「アルちゃん☆」
エレノアが後ろから肩を叩く。
「人気者だね」
「ノアちゃん助けて!」
「無理☆」
「ノアちゃーん!」
そんな騒ぎの中。
オルディアが静かに壇上へ上がった。
すると。
ざわめきが一瞬で止まる。
「……」
世界神が全員を見渡す。
「本日は、新たなる神の誕生を祝うために集まってもらった」
千乃を見る。
「アルテナ・アストラル」
「はい!」
「神界へようこそ」
――パァン!!
無数の光が弾ける。
星々が会場いっぱいに舞い散る。
「おお……!」
千乃が目を輝かせる。
「綺麗……!」
「そして」
オルディアが続ける。
「守護神としての務めを果たす前に」
少しだけ表情を柔らかくする。
「まずは、この世界を知り、楽しめばいい」
「……!」
千乃が笑う。
「うん!」
「では」
オルディアがグラスを掲げる。
「新たなる神の誕生に」
「乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
神々の声が重なる。
千乃もグラスを掲げる。
「乾杯!」
その隣では。
「アル!」
「ん?」
グランがグラスを掲げている。
「改めて、神になったお祝いだ!」
「ありがと、グラン!」
「これからもよろしくな!」
「うん!」
カミルも静かにグラスを掲げる。
「我からも祝おう」
「ありがとう、カミル!」
「守護を司る者同士、これからも共に歩もう」
「もちろん!」
そして。
「アルちゃん!」
エレノアが笑う。
「私からも!」
「なに?」
「転生させた子が神様になった記念!」
「それ、ノアちゃんが一番喜んでない?」
「もちろん☆」
「ふふっ!」
千乃が笑った。
そのとき。
「アルテナ」
オルディアが呼ぶ。
「ん?」
「一つ、伝えておく」
「なに?」
「この神界では、お前が困ったときに助けを求められる神が多くいる」
周囲を見る。
水神。
炎神。
生命神。
知識神。
時空神。
夢幻神。
幸運神。
そして。
破壊神グラン。
恋愛神エレノア。
守護龍神カミル。
「お前は一人ではない」
千乃が少しだけ目を丸くする。
「……」
そして。
ふわっと笑った。
「うん!」
その笑顔を見て。
エレノアも。
グランも。
カミルも。
そして神々も。
自然と笑った。
――その直後。
「ところでアル!」
グランが身を乗り出す。
「さっきの羽の技、もう一回見せてくれ!」
「いいよ!」
「待て待て」
オルディアが止める。
「歓迎会で戦闘技を使うな」
「じゃあ飛ぶだけ!」
「それも会場の天井に穴が開く」
「……」
千乃が天井を見る。
「治る?」
「治る」
「じゃあ飛べる!」
「そういう問題ではない」
「ははははは!」
グランがまた笑う。
神界の大広間に。
笑い声が響き渡る。
こうして。
**守護神アルテナ・アストラルの歓迎会**は。
神々に祝福されながら。
とても騒がしく。
とても楽しく。
幕を開けた。
――歓迎会も、すっかり盛り上がっていた。
神々が料理を囲み、あちこちで談笑している。
千乃もグランやエレノアと話していたが。
「アル」
「ん?」
カミルが静かに声をかけた。
「そろそろ戻らねばならない」
「……あ」
千乃が時計を見る。
「ほんとだ!」
「星氷神城の者たちも、帰りを待っているだろう」
「うん!」
千乃が立ち上がる。
「じゃあ、帰ろう!」
グランが振り返る。
「もう帰るのか?」
「うん。また遊びに来る!」
「そうか」
グランが笑う。
「じゃあな、アル!」
「またね、グラン!」
エレノアも手を振る。
「また来てね、アルちゃん☆」
「もちろん!」
オルディアも頷く。
「いつでも来るといい」
「ありがとう、オルディアさん!」
千乃は一人ずつに手を振った。
そして。
カミルの前へ。
「カミル、お願い!」
「分かった」
カミルの身体が眩い光に包まれる。
人型の姿が変わっていく。
白い鱗。
巨大な翼。
紅い瞳。
そして。
神界の星々すら霞むほどの巨体。
**神龍カミル。**
「うわぁ……!」
千乃が目を輝かせる。
「やっぱり大きい!」
「乗るか?」
「うん!」
千乃がカミルの背へ飛び乗る。
ふわっ。
翼の付け根あたりに腰を下ろす。
「よし!」
「落ちるなよ」
「大丈夫!」
千乃がしっかりとカミルの背に掴まる。
「では、帰る」
カミルが翼を広げる。
――バサァッ!!
強烈な風が巻き起こる。
「わっ!」
「アルちゃん、気をつけてねー!」
エレノアが手を振る。
「またねー!」
グランも大声で叫ぶ。
「アル!」
「なーに!?」
「今度は俺も星氷神城に行くからな!」
「待ってるー!」
カミルがゆっくりと浮上する。
神界の大地が、どんどん遠ざかっていく。
「じゃあねー!!」
千乃が大きく手を振る。
「またな、アル!」
グランの声が星海に響く。
カミルはさらに高度を上げる。
無数の星々の間を進み。
神界の景色が遠ざかっていく。
「……楽しかった!」
千乃がカミルの背で呟く。
「そうか」
「うん!」
「ならば、来た意味はあったな」
「また来ようね」
「ああ」
しばらく進んだところで。
千乃がふと思い出す。
「そういえばカミル」
「何だ?」
「私、神界から帰るの初めてだ」
「そうだな」
「……ちゃんと帰れる?」
「当然だ」
カミルが即答する。
「我を誰だと思っている」
「守護龍神!」
「神龍だ」
「守護龍神!」
「……どちらでもいい」
「じゃあ守護龍神!」
「……そうか」
千乃は笑った。
そして。
遠くに見えてきた。
星々の海の向こう。
見慣れた巨大な城。
氷と星に包まれた。
**星氷神城**。
「あっ!」
千乃が身を乗り出す。
「見えた!」
「帰ってきたな」
「ただいまー!!」
まだ城からかなり離れているというのに。
千乃は思い切り叫んだ。
「――星氷神城ーーー!!」
カミルが小さく笑う。
「……随分と元気だな」
「だって楽しかったんだもん!」
神龍の巨大な翼が、ゆっくりと羽ばたく。
そして。
二人は星氷神城へ向かって降下していった。
――星氷神城。
城門前。
千乃が帰ってくるのを、真銀たちは待っていた。
その中には。
まだ帰っていなかったパイライト一行もいる。
「遅い……!」
パイライトが苛立ったように足を踏み鳴らす。
「千乃様はどこへ行ったのだ!」
「神界へ行かれたと伺っております」
侍従が答える。
「神界だと!?」
「はい」
「なぜ私には知らせがない!」
「……殿下が聞いていなかっただけかと」
「なぜだ!!」
今日も元気に騒がしい。
そのとき。
空から。
巨大な白い影が近づいてきた。
「……?」
真銀が空を見上げる。
「来たな」
白い神龍が、ゆっくりと降下してくる。
「カミル!」
ララがぴょんっと跳ねる。
「おかえりー!」
ライも静かに見上げる。
「帰ってきたか」
アイシィも微笑む。
「お帰りなさい、カミル。千乃」
カミルは城門の手前で翼を畳む。
そして。
身体が白い光に包まれた。
巨大な神龍の姿が、徐々に変わっていく。
白い鱗が消え。
翼が消え。
巨大な身体が人の姿へと変わる。
現れたのは。
白髪。
青い瞳。
端正な顔立ち。
神龍カミルの、人型の姿。
そして。
「わっ」
千乃の身体がふわっと浮く。
そのままカミルに抱き上げられた。
「そのまま降りるぞ」
「うん!」
カミルは千乃を抱いたまま。
静かに地面へ降り立った。
――トン。
着地。
千乃はカミルの腕の中。
その光景を見たララが。
「おおー!」
ライが。
「いつもの姿だな」
アイシィが。
「お帰りなさい」
真銀も。
「おかえり、千乃」
完全にいつもの光景だった。
しかし。
パイライトだけが違った。
「…………」
カミルを見る。
白髪。
青い瞳。
長身。
端正な顔立ち。
しかも神龍。
そして今。
千乃を抱いている。
「…………」
パイライトの頬が引きつる。
「……誰だ」
真銀が答える。
「カミルだ」
「カミル……?」
「ああ」
パイライトが目を見開く。
「この城にいる神龍……?」
「そう」
千乃がカミルの腕の中から答える。
「人型になるとこの姿だよ」
「…………」
パイライトの顔が固まった。
「白髪……」
「青い目……」
「長身……」
「顔が……」
震える。
「整っている……」
カイルが横からぼそっと呟く。
「分かる」
「お前は黙ってろ」
パイライトが即座に返す。
「俺もそれで一回ダメージ受けてる」
「何だそれは!?」
パイライトが叫ぶ。
その瞬間。
カミルが静かに前へ出た。
「守護神龍カミル」
凛とした声が響く。
「守護神アルテナ・アストラル、只今戻りました!」
千乃がカミルの腕から降りる。
そして。
笑顔で両手を広げる。
「ただいまー!」
――静寂。
パイライトが。
「…………」
目を見開いた。
「…………守護神?」
「うん!」
「…………」
もう一度。
「守護神!?」
千乃が頷く。
「そう!」
「アルテナ・アストラル……?」
「それが完全な神名!」
「神……?」
パイライトの顔が引きつる。
「千乃様が……神……?」
ララが胸を張る。
「そうだよ!」
ライも頷く。
「神位を授かった」
アイシィが続ける。
「正式な守護神です」
「…………」
パイライトが固まる。
その横で。
カイルが腕を組んだ。
「ちなみに俺は勇者だ」
「今それ関係あるか!?」
「ない」
「じゃあ黙ってろ!!」
カイルがしょんぼりする。
「……はい」
千乃がカイルを見る。
「カイル、元気出して」
「俺は元気だ」
「ほんと?」
「……ちょっとだけ傷ついた」
パイライトはそんな二人を無視し。
カミルを見る。
「そして……お前も神だと?」
「そうだ」
「何の神位だ!」
「**守護龍神**」
「守護……龍神……」
パイライトの顔がさらに険しくなる。
「…………」
そして。
千乃を見る。
カミルを見る。
真銀を見る。
「…………」
パイライトの拳が震える。
「……またか」
「?」
千乃が首を傾げる。
「また私の前に……」
パイライトが震える声で呟く。
「私より遥かに設定の強い男が増えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「設定って何!?」
千乃が叫ぶ。
カイルが深く頷く。
「分かるぞ、パイライト」
「お前に何が分かる!!」
「イケメンが増える恐怖だ」
「お前もイケメンだろ!!」
「そうだ」
「腹立つな!!」
真銀がため息をつく。
「……相変わらず騒がしいな」
千乃は笑いながらカミルを見る。
「カミル」
「何だ?」
「ただいま!」
「……ああ」
カミルは静かに頷いた。
「お帰り、千乃」
星氷神城に。
また一人。
いや。
**一柱の神が帰ってきた。**




