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守護神 アルテナ

「――《超すごい! めちゃ強パワー!!》」


「クソダサぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッ!?」


 千乃の絶叫が、星氷神城アストラルグレイシアを揺らした。


 そして。


 次の瞬間。


 ――ズン。


 空気が、沈んだ。


「……え?」


 ララが首を傾げる。


「主?」


 千乃の周囲に。


 星のような光が、ぽつり。


 また一つ。


 また一つ。


「……千乃?」


 真銀が振り返った。


「いや、待って」


 千乃本人も困惑していた。


「私、別に何もしてな――」


 ブワッ!!


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 光が。


 一気に千乃を包み込んだ。


「主!?」


「千乃様!?」


 ララとアイシィが叫ぶ。


 千乃の足元から、巨大な魔法陣が広がる。


 白。


 金。


 そして。


 無数の星。


「……おい」


 カイルが目を見開いた。


「これ」


「うむ」


 カミルが静かに答える。


「神化だ」


「なんで!?」


 カイルが叫ぶ。


 その場にいる全員の気持ちを代弁した。


 なんで。


 技名がダサかっただけで。


 神化するのか。


 光の中で。


 千乃の髪が解けた。


 メタルピンクのお団子がほどけ。


 腰まであるゆるふわの髪が、ふわりと広がる。


 巨大な白い翼が。


 バァンッ!!


 と。


 背中から広がった。


 千乃の周囲を。


 星々の光が舞う。


 右目。


 神々しく輝く金色。


 左目。


 鮮やかなピンク。


「……」


 真銀が。


 黙った。


「……千乃」


「…………」


 千乃は。


 神化した。


 その理由。


「……びっくりしすぎて」


「それだけ!?」


 カイルが叫ぶ。


「びっくりしすぎて神化したの!?」


「……だって」


 千乃が。


 ゆっくりパイライトを見る。


「超すごい! めちゃ強パワー!!って……」


 パイライトが胸を張る。


「何か問題でも?」


「あるよ!!」


 千乃の声が。


 神々しく響いた。


「ありすぎるよ!!」


「何がだ!?」


「全部だよ!!」


 千乃の周囲で。


 星が。


 ぐるぐる回り始める。


「技名は大事でしょ!?」


「なぜだ!」


「格好よくなきゃダメでしょ!?」


「威力があればいい!」


「よくない!」


「良い!」


「よくない!」


 神化千乃と。


 パイライトが。


 技名について口論を始めた。


「……」


 真銀。


「……」


 カイル。


「……」


 ライ。


「……」


 アイシィ。


「……」


 カミル。


「…………」


 ララ。


 全員が。


 思った。


 **神化するほどのことだったのか?**


 そのとき。


「パイライトぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 皇帝の声が響いた。


「!?」


 パイライトが振り返る。


 皇帝。


 そして皇后。


 二人とも。


 顔を真っ赤にしていた。


「父上?」


「何だ、その勝負はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 皇帝が叫ぶ。


「私の息子が負けるわけがないだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 真銀が眉をひそめる。


「いや」


「何だ!」


「普通に勝っただけだ」


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 皇帝の怒りが爆発した。


「我が息子は最強だ!!」


「そうですわ!」


 皇后も。


 珍しく。


 完全にキレていた。


「パイライトは完璧です!」


「剣も一流!」


「魔法も一流!」


「頭脳も一流!」


「容姿も一流!」


「性格も一流!」


「そして!」


 皇帝が。


 真銀を指差した。


「貴様など!」


「?」


「我が息子に勝てるわけがない!!」


 真銀が。


「……でも」


 と。


 地面を見る。


 そこには。


 巨大な穴。


 その中心。


 パイライトがいる。


 真銀の蒼星天穿によって。


 完全に。


 吹き飛ばされていた。


「勝ったけど」


「それは偶然だ!!」


「……」


「たまたまだ!!」


「……」


「運が良かっただけだ!!」


「……」


 真銀は。


 千乃を見る。


「……どう思う?」


「親バカ」


 即答。


「聞こえているぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 皇帝が叫んだ。


「我々は!」


 皇后も続く。


「親バカではありません!」


「ただ!」


 二人が。


 同時に叫ぶ。


「「我が息子が世界一素晴らしいだけだ!!」」


「親バカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「……もういい」


 千乃が、静かに呟いた。


「え?」


 真銀が振り返る。


 千乃はまだ神化した姿のまま、パイライトを見つめていた。


 そして。


 ふっと。


 笑った。


「パイライトさん」


「な、何だ」


「本当の厨二病の技を見せてあげる」


「……?」


 カイルが目を細める。


「おい」


「ん?」


「その顔、嫌な予感しかしないぞ」


「大丈夫」


 千乃は笑顔で答える。


「ちょっと本気を出すだけ」


「それが一番怖いんだよ」


 真銀が呟いた。


 千乃が目を閉じる。


 そして。


 両手を胸の前で重ねた。


「――星々よ」


 風が止まる。


「遥かなる天上の彼方」


 空が。


 ゆっくりと暗くなっていく。


「世界の理を越え」


 無数の星が浮かび上がった。


「神々の座す領域へ」


 星々が。


 一つ。


 また一つ。


 千乃の周囲へ集まっていく。


「我が魂に刻まれし、遠き記憶よ」


 メタルピンクの髪が。


 光を帯びる。


「今こそ、その名を取り戻せ」


 千乃の背後に。


 巨大な魔法陣が展開した。


 白。


 金。


 そして。


 虹色の光。


「天より授かりし力ではない」


 千乃が目を開く。


 右目が。


 金色に輝く。


 左目が。


 ピンクに輝く。


「我が歩みそのものが」


 翼が。


 さらに巨大になる。


「神への道となる」


 空間が。


 震えた。


「――我が名は」


 一瞬。


 世界が静止したように感じられた。


「千羽千乃」


 そして。


 千乃は。


 右手を高く掲げる。


「否」


 光が。


 爆発する。


「今この瞬間より――」


 巨大な神殿のような光が、空から降り注いだ。


「**神名アルテナ**」


 ドォォォォォォォォォォン!!


 星氷神城の上空が。


 白金の光で満たされた。


「……っ」


 カイルが言葉を失う。


 ライが目を細める。


「……これは」


「神の領域……?」


 アイシィが呟く。


 カミルでさえ。


「……神名を得たか」


 と。


 静かに目を見開いた。


 そして。


 千乃の姿が変わる。


 メタルピンクの髪は。


 腰まで伸び。


 柔らかな光を纏う。


 白を基調とした衣装。


 赤と金の装飾。


 巨大な白い翼。


 身体の周囲には。


 無数の星。


 ただの神化ではない。


 **神そのもの。**


 千乃。


 いや。


 神名アルテナ


 その姿が。


 そこに立っていた。


「…………」


 パイライトが。


 完全に固まる。


「……何だ」


 皇帝も。


 皇后も。


 言葉を失う。


「これが……」


 カイルが呟く。


「本物の……」


 そして。


「厨二病……」


「違うよ」


 千乃が即座に訂正した。


「神だよ」


「そこじゃない」


 真銀がツッコむ。


 その瞬間。


 千乃の左右に。


 黒い魔法陣が二つ浮かび上がった。


「……?」


 左。


 赤い光。


 右。


 黒い光。


 そこから。


 二人の悪魔が姿を現す。


 黒髪ロング。


 赤い瞳。


 赤色のメッシュ。


 黒い角。


 黒い翼。


「お呼びですか、千乃様」


 妹。


 ルシア。


 そして。


 黒髪ショート。


 赤い瞳。


 赤色のメッシュ。


 黒い角。


 黒い翼。


「我らを召喚したか」


 兄。


 ルシファー。


 二人が。


 アルテナとなった千乃の左右に並ぶ。


 まるで。


 神と悪魔。


 光と闇。


 三つの異なる存在が。


 最初から一つの絵として描かれていたかのように。


「……」


 カイルが。


 ゆっくり後ずさる。


「おい」


「何?」


「俺、帰っていいか?」


「なんで?」


「勝負する相手じゃない」


「今さら!?」


 ルシファーが。


 パイライトを見る。


「……あれが敵か?」


「うん」


 千乃が答える。


「技名がクソダサかった人」


「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 パイライトが叫ぶ。


 ルシアが首を傾げる。


「技名?」


「うん」


 千乃が頷く。


「《超すごい! めちゃ強パワー!!》」


「……」


 ルシア。


「……」


 ルシファー。


「……」


 カミル。


「…………」


 ライ。


「…………」


 アイシィ。


 全員が。


 黙った。


 そして。


 ルシファーが一言。


「……名付けた者は正気か?」


「私だ!!」


 パイライトが叫ぶ。


「そうか」


「反応薄っ!?」


 ルシアが。


「では」


 千乃を見る。


「どうなさいますか?」


 千乃は。


 アルテナの姿で。


 静かに微笑んだ。


「見せるだけ」


「何を?」


「本当の技名」


 千乃が右手を掲げる。


 空に。


 巨大な星が現れた。


「世界を巡る星の記憶」


 星が回転する。


「天上に眠る神々の残響」


 無数の光が。


 千乃へ集まる。


「時を越え」


「空を越え」


「世界を越え」


 そして。


 千乃の背後に。


 巨大な翼を持つ女神の幻影が現れた。


「我が名に応えよ」


 ルシアとルシファーが。


 左右から一歩前へ出る。


「光を司りし神」


「闇を従えし神」


 二人の声が重なる。


「その境界に立つ者」


 千乃が。


 静かに。


 右手を前へ伸ばした。


「――**《星界神域・アルテナ・アストラル》**」


 ――――。


 静寂。


 パイライトが。


 固まる。


 カイルが。


 固まる。


 真銀が。


 少しだけ目を細める。


「……格好いいな」


「でしょ?」


 千乃が嬉しそうに笑った。


「千乃、楽しんでるだろ」


「うん!」


 即答だった。


 その瞬間。


 パイライトが。


「…………」


 ぷるぷる震え始める。


「……」


「?」


「……私の」


「?」


「私の《超すごい! めちゃ強パワー!!》は……」


 誰も答えない。


「……」


「……」


「…………」


 パイライトの目から。


 涙が。


「……」


 ぽろ。


「俺の技名……」


 カイルが小声で。


「自業自得だろ」


「聞こえているぞ!!」


 そして。


 皇帝が。


「パイライトぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 皇后も。


「あなたは素晴らしいわぁぁぁぁぁぁ!!」


「父上ぇぇぇぇぇ!!」


「我が息子ぉぉぉぉぉ!!」


「母上ぇぇぇぇぇ!!」


 親子三人が。


 なぜか感動の抱擁を始める。


 その光景を見ながら。


 真銀が呟いた。


「……何なんだ、この国」


 千乃は。


 アルテナの姿のまま。


 にっこり笑った。


「楽しい国でしょ?」


「……まあ」


 真銀も。


 少しだけ笑った。


 そして。


 千乃の左右には。


 悪魔の双子。


 ルシアとルシファー。


 背後には。


 無数の星。


 その中心には。


 神となった少女。


 神名アルテナ


 星氷神城の中庭は。


 完全に。


 **神と悪魔とナルシスト勇者と親バカ皇族が集まる謎空間**と化していた。


 千乃は、アルテナの姿のまま、ふと思い出したように振り返った。


「そうだ」


「?」


 真銀が首を傾げる。


「ちょっとノアちゃんに会ってくる」


「……ノアちゃん?」


「うん」


「どこに?」


「神の世界」


「…………」


 真銀が数秒黙る。


「行ってらっしゃい」


「はーい!」


 千乃は軽く手を振った。


 すると。


 足元に、巨大な魔法陣が展開する。


 白金の光。


 無数の星。


 そして。


 その中心に浮かび上がる文字。


 **《ASTRAL REALM》**


「じゃ、行ってくるね!」


 シュンッ!!


 千乃の姿が消えた。


「……」


 カイルが呆然とする。


「神の世界に遊びに行った……」


「うむ」


 カミルが頷く。


「いつものことだ」


「いつものことなの!?」


 ◇


 ――神界。


 **アストラル・レルム。**


 そこは、人間界とはまるで違う場所だった。


 空は青くない。


 地面も大地ではない。


 無数の星々が海のように広がり、その上に巨大な神殿や浮遊する島々が存在している。


 遠くには、銀河そのものが川のように流れている。


 時間という概念すら曖昧な。


 完全なる神の領域。


 その一角。


 巨大な白い神殿の前に。


 千乃は降り立った。


「……久しぶり!」


 周囲を見渡す。


「ノアちゃーん!」


「はーい!」


 返事が返ってきた。


 直後。


 神殿の扉が勢いよく開く。


「アルちゃーん!」


「ノアちゃん!」


 二人が駆け寄る。


「久しぶり!」


「久しぶりだネ☆」


 そして。


 普通に。


 ぎゅっ。


「元気だった?」


「元気元気!」


「よかったァ」


「ノアちゃんは?」


「いつも通り!」


「だよね!」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 ……いつの間に。


 完全に。


 **ノアちゃんとアルちゃん。**


 仲良しである。


 そこへ。


 エレノアが千乃の姿をじっと見る。


「……」


「?」


「アルちゃん」


「なに?」


「ちょっと近くに来て」


「うん?」


 エレノアが千乃の髪を見て。


 目を見て。


 翼を見て。


 そして。


「……あ」


 ぽん。


 と手を叩いた。


「完全な神名になった?」


「うん!」


 千乃が嬉しそうに頷く。


「アルテナになった!」


「おめでとー!」


 エレノアが笑う。


「じゃあ、改めてよろしくネ☆」


 そして。


 胸に手を当て。


 神々しい光を纏いながら。


「私は――」


 にっこり。


「**エレノア・アストラル**」


「……!」


 千乃が目を輝かせる。


「アストラル……」


「そう」


 エレノアが頷く。


「完全な神の領域まで来た神にはね」


 指を立てる。


「神としてのファミリーネームみたいなものが与えられるの」


「へぇ……!」


「この神界そのものに属する証みたいなものだネ☆」


「じゃあ私も?」


「もちろん」


 エレノアが笑う。


「アルちゃんは――」


 千乃の前に。


 淡い光が集まる。


 その光が。


 一文字ずつ。


 名前を形作っていく。


 **千羽千乃。**


 そして。


 その後ろに。


 新たな名が重なる。


 **アストラル。**


「……」


 千乃が。


 自分の新しい名前を見つめる。


「……千乃・アストラル?」


「ううん」


 エレノアが首を横に振る。


「神としての名は、もう一つあるでしょ?」


「……」


 千乃が笑う。


「アルテナ」


「正解☆」


 光が弾ける。


 そして。


 神界に。


 新たな神名が刻まれた。


 **アルテナ・アストラル。**


「……」


 千乃は。


 その名前を口の中で転がす。


「アルテナ・アストラル……」


「うん」


「なんか……」


 千乃が。


 ニヤッとする。


「めっちゃ厨二病っぽい」


「でしょ☆」


 エレノアが親指を立てる。


「だからアルちゃんにぴったりだと思って」


「ノアちゃん、分かってるぅ!」


「でしょー?」


 二人で笑う。


 完全に意気投合している。


 しばらくすると。


「そういえば」


 エレノアが尋ねる。


「アルちゃん、今日は何しに来たの?」


「遊びに来た!」


「神界に?」


「うん!」


「観光?」


「そう!」


「……」


 エレノアが少し考える。


「神界観光ツアー、する?」


「する!!」


「じゃあ行こう!」


「やったー!」


 神様二人が。


 普通に観光へ向かっていく。


 完全なる神の世界。


 その中心で。


「ノアちゃん、あれ何!?」


「あれは神界の星海市場!」


「行きたい!」


「いいよー☆」


「こっちは!?」


「神殿街!」


「見たい!」


「行こ行こ!」


 完全に。


 **神界で遊ぶ女子二人。**


 その頃。


 星氷神城では。


「……遅いな」


 真銀が窓の外を見る。


「もう一時間くらい経つぞ」


 カミルが静かに答える。


「神界は時間の流れが異なる」


「そうなのか」


「うむ」


 カイルが腕を組む。


「まさか迷子になってないだろうな」


 ララが首を傾げる。


「主なら大丈夫!」


「だな」


 ライが頷く。


 アイシィも微笑む。


「エレノア様が一緒ですから」


「……」


 真銀は少し考え。


「まあ」


 小さく笑った。


「楽しんでるならいいか」


 その頃。


 神界では。


「アルちゃん! 次は神界名物の星雲ソフト食べよ!」


「食べるー!!」


「神なのに食べるんだ……」


「神だって甘いもの食べたいよ!」


「それはそう☆」


 **アルテナ・アストラル。**


 神となった千乃の神界生活は。


 どうやら。


 まだ始まったばかりだった。


 星海市場を抜けたところで。


「アルちゃん」


「ん?」


 ノアちゃんこと、エレノア・アストラルが足を止めた。


「ちょっと寄り道していい?」


「もちろん!」


「じゃあ、こっち☆」


 エレノアが向かったのは。


 神界のさらに奥。


 今まで千乃が見たことのない場所だった。


 巨大な門。


 白銀の柱。


 その向こうには、星々すら霞んで見えるほどの光が満ちている。


「ここ……?」


「うん」


 エレノアが振り返る。


「世界神様のところ」


「……世界神様?」


「このアストラル・レルムだけじゃなくて、世界そのものを管理してる神様」


「え」


 千乃の目が輝いた。


「会ってみたい!」


「だと思った☆」


 二人で門をくぐる。


 ――瞬間。


 世界が変わった。


 足元には何もない。


 ただ、無限の宇宙が広がっている。


 星々が生まれ。


 銀河が巡り。


 遠くでは無数の世界が、それぞれ小さな光球として浮かんでいる。


「……すご」


 千乃が思わず呟く。


「ここが、世界神様の領域」


 エレノアが微笑む。


「普通の神様でも、勝手には入れない場所だよ」


「じゃあ私、大丈夫?」


「私が連れてきたから大丈夫☆」


「よかった!」


 すると。


 遠くから。


 声が響いた。


「エレノア」


「はーい☆」


「その者は?」


 エレノアが千乃の肩に手を置く。


「紹介するね」


 そして。


「この子が、私が転生させた子」


「……!」


 千乃が背筋を伸ばす。


「アルテナ・アストラル」


「よろしくお願いします!」


 その瞬間。


 無限に広がっていた空間が。


 静かになった。


 世界そのものが。


 息を止めたようだった。


 そして。


 一人の神が姿を現した。


 姿そのものが、光と影の境界で構成されている。


 顔立ちすら、見る者によって違って見える。


 けれど。


 その瞳だけは。


 すべての世界を映していた。


「……アルテナ・アストラル」


 世界神が千乃の名を呼ぶ。


「はい!」


「エレノアから聞いている」


「えっ」


 千乃がエレノアを見る。


「私のこと、何て話したの?」


「いろいろ☆」


「いろいろ!?」


「転生させたこととか」


「うん」


「前世で真銀くんを庇ったこととか」


「うん」


「ノートに書いてた技を現実化させてることとか」


「それ言ったの!?」


「あと」


 エレノアがニコッ。


「かなりの厨二病だってことも」


「ノアちゃぁぁぁぁぁん!?」


 世界神が。


「……」


 少し沈黙する。


 そして。


「なるほど」


「納得しないで!?」


 千乃が顔を赤くする。


 世界神は千乃を見つめる。


「しかし」


「?」


「その力は、単なる妄想の具現化ではない」


 千乃が少し真剣な顔になる。


「……?」


「お前が想像し、願い、形にしたものが」


 世界神の周囲に。


 星々が集まる。


「世界に干渉する力へと変わった」


「……」


「神へ至ったのは、その結果だ」


 千乃が自分の手を見る。


「私……本当に神様になったんだ」


「そうだ」


 世界神は頷く。


「そして、アストラルの名を得た」


「……」


 千乃は。


 嬉しそうに笑った。


「アルテナ・アストラル」


 その名を。


 もう一度呟く。


「……なんか、すごく好き」


「そうか」


 世界神の声が。


 ほんの少しだけ柔らかくなった。


「ならば覚えておけ」


「はい」


「神とは、力の大きさで決まるものではない」


 千乃が顔を上げる。


「何を守りたいか」


「……」


「何を大切にするか」


「……真銀」


 千乃は即答した。


「仲間も」


 ララ。


 ライ。


 アイシィ。


 カミル。


 そして。


 ルシア。


 ルシファー。


「みんな、大切」


 世界神が静かに千乃を見る。


「ならば、お前はもう十分に神だ」


「……!」


 千乃の目が輝いた。


「ありがとうございます!」


 エレノアが横から。


「よかったね、アルちゃん☆」


「うん!」


 千乃が笑う。


 すると。


 世界神がふと尋ねた。


「ところで」


「はい?」


「お前は先ほど、何か技を使ったと聞いている」


「……」


 エレノアが。


 ニヤッ。


「アルちゃん」


「なに?」


「見せてあげたら?」


「いいの!?」


「いいよ☆」


 千乃の目が。


 キラッと輝く。


「じゃあ……」


 世界神の前で。


 千乃は片手を掲げる。


 周囲に星が集まり始める。


「遥かなる天上」


「……」


「無限なる星界」


 世界神が見守る。


「神々の領域を越え」


「……」


「世界の果てすら超えて」


 千乃が。


 少しだけ得意げに笑う。


「我が名に応えよ」


 白金の光が爆発する。


「――**《星界神域・アルテナ・アストラル》!!**」


 無限の宇宙に。


 巨大な星の魔法陣が広がった。


 エレノアが拍手する。


「かっこいいー☆」


「でしょ!」


 千乃が満面の笑み。


 世界神は。


「……」


 しばらく黙っていた。


 そして。


「……随分と楽しそうだな」


「はい!」


「そうか」


 世界神が。


 ほんの少しだけ笑った。


「ならば、それでいい」


 千乃は嬉しそうに頷いた。


 そして。


「ねえ、ノアちゃん!」


「ん?」


「世界神様って、普段何してるの?」


「世界を管理してる」


「大変そう」


「大変だよ☆」


「じゃあさ!」


 千乃が身を乗り出す。


「一緒に遊ぼうよ!」


「…………」


 世界神が。


 初めて。


 完全に固まった。


 エレノアは腹を抱えて笑っている。


「アルちゃん、それ世界神様に言う人、初めて見た☆」


「だって神様だって遊びたいでしょ?」


「……」


 世界神は。


 ゆっくり千乃を見る。


「……何をする?」


「えっ」


 千乃の顔が輝く。


「遊んでくれるの!?」


「少しだけならな」


「やったー!!」


 神界の最奥。


 世界を統べる神の領域で。


 新米神アルテナ・アストラルは。


 世界神様を遊びに誘うという。


 とんでもないことを成し遂げた。


 世界神は、しばらく千乃を見つめていた。


「……そういえば」


 エレノアが手をぽん、と叩く。


「アルちゃんに、まだ自己紹介してなかったね☆」


「確かに」


 世界神が頷く。


 すると。


 その姿を覆っていた光が、ゆっくりと収束していく。


「……?」


 千乃が目を丸くする。


 巨大な神殿のようだった姿が。


 少しずつ。


 人の形へと変わっていく。


 光が消えたあと。


 そこに立っていたのは、一人の青年だった。


 長めの髪。


 整った顔立ち。


 静かな瞳。


 神々しい雰囲気はそのままだが、先ほどまでの「世界そのもの」という圧倒的な姿とは違う。


 動きやすそうな、シンプルな神装束。


 青年は自分の姿を見下ろす。


「こちらのほうが動きやすい」


「……」


 千乃が。


「……」


 じーっ。


 青年を見る。


「……」


「どうした?」


「いや」


 千乃は首を傾げる。


「世界神様、普通にイケメンなんだなって」


「そうか?」


「うん」


 エレノアが笑う。


「世界神様は、普段あの姿だからね。人の姿になることなんて、ほとんどないし☆」


「なるほど……」


 千乃がじっと青年を見る。


「でも、なんか真銀とカミルとは違う感じ」


「当然だ」


 青年が答える。


「我は世界そのものを統べる神だ」


「おお……」


「そして」


 青年は千乃へ向き直る。


「改めて名乗ろう」


 静かに右手を胸へ添える。


「我が名は――」


 一瞬。


 周囲の星々が輝いた。


「**オルディア・アストラル**」


「……!」


 千乃の目が輝く。


「オルディア・アストラル!」


「そうだ」


「めっちゃ神様っぽい!」


「神だからな」


「それはそう!」


 エレノアが笑う。


「オルディアは、この世界のいちばん上にいる神様だよ☆」


「いちばん上……」


 千乃がオルディアを見る。


「じゃあ、ノアちゃんより上?」


「うん☆」


「へぇ……」


「ただし」


 オルディアが口を挟む。


「エレノアは我をあまり敬わない」


「だって昔から知ってるし☆」


「……そういうところだ」


 千乃が吹き出す。


「ふふっ」


 オルディアは少しだけ困ったように目を細めた。


「まあ、よい」


 そして。


 千乃へ一歩近づく。


「アルテナ・アストラル」


「はい!」


「お前もまた、神界に属する神となった」


「うん!」


「ならば、我のことも好きに呼べばいい」


「え?」


 千乃が目を丸くする。


「好きに?」


「ああ」


「じゃあ……」


 千乃は少し考えて。


「オルディアさん!」


「……」


 エレノアが。


「ぷっ」


「何?」


「いや、アルちゃんらしいなって☆」


 オルディアも。


「……まあ、よい」


「よかった!」


「ただし」


「?」


「『世界神様』と呼ぶのはやめてくれ」


「なんで?」


「堅苦しい」


「じゃあ、オルディアさん!」


「ああ」


 千乃が笑う。


「よろしくね、オルディアさん!」


「こちらこそ」


 オルディアも。


 ほんの少しだけ口元を緩めた。


 すると。


「ねえ、オルディアさん」


「何だ?」


「その姿って、いつでもなれるの?」


「ああ」


「じゃあ今後もその姿でいようよ!」


「なぜ?」


「動きやすいんでしょ?」


「そうだ」


「だったらそのほうがいいじゃん!」


「……」


 オルディアは少し考える。


「確かに」


 そして。


「では、しばらくこの姿でいよう」


「やった!」


 エレノアが横から笑う。


「じゃあこれから、オルディアもアルちゃんたちと遊べるね☆」


「遊ぶ……」


 オルディアが呟く。


「世界神が?」


「いいじゃん!」


 千乃が笑う。


「神様だって遊んでいいんだよ!」


「……そういうものか」


「そういうもの!」


「ならば」


 オルディアは頷いた。


「一つ、聞きたい」


「なに?」


「お前は先ほど、遊びたいと言っていたな」


「うん!」


「何をする?」


「えっと……」


 千乃は腕を組んで考える。


 そして。


 パッと顔を上げた。


「神界探検!」


「……」


「オルディアさんが案内してよ!」


 オルディアは。


 少しだけ目を見開いた。


「我が?」


「うん!」


 エレノアが笑う。


「いいじゃん、オルディア☆」


「……」


 オルディアは小さく息を吐く。


「分かった」


「やったー!」


「ただし」


「?」


「世界の果てまで行くのは無しだ」


「えー!」


「危険だからな」


「世界神様なのに?」


「世界神だからこそだ」


「そっか!」


 こうして。


 神界の最奥に住む世界神。


 **オルディア・アストラル。**


 そして。


 転生から神へ至った少女。


 **アルテナ・アストラル。**


 さらに。


 アルテナの名付け親である女神。


 **エレノア・アストラル。**


 三柱の神による。


 なんとも平和な神界探検が。


 始まろうとしていた。


 神界探検を始めて、しばらく。


 星々の間を歩いていた三人の前に。


 突然。


 ――ズンッ!!


 空間そのものが揺れた。


「……?」


 千乃が足を止める。


 エレノアも振り返った。


「あー……」


「どうしたの?」


「来たね☆」


「誰が?」


 その瞬間。


「**おい、エレノア!!**」


 轟音のような声が響き渡った。


「異界の人間が転生して神になったってのは本当かァ?!」


 ドォン!!


 黒と赤の魔力を纏った巨大な影が、星海の向こうから飛んでくる。


「うわっ!?」


 千乃がびっくりして一歩下がる。


 オルディアがすっと前に出る。


「落ち着け」


「オルディア!?」


 巨大な影が急停止する。


「……なんだ、オルディアもいるのかよ」


「いる」


「なら話が早ぇ!」


 影が人の姿へ変わっていく。


 筋肉質な青年。


 黒い髪。


 鋭い赤い瞳。


 黒を基調とした衣装。


 身体の周囲には、常に破壊の力が渦巻いている。


 その存在だけで。


 近くの星々が、びりびりと震えている。


「……」


 千乃が見上げる。


「……この人」


 エレノアが笑う。


「破壊神だよ☆」


「破壊神!?」


「そう」


 破壊神は千乃を見る。


「お前が?」


「え?」


「異界から転生してきた人間」


「あ、はい」


「そして神になった?」


「うん」


「……」


 破壊神が。


 千乃の周囲をぐるりと見る。


 白金の翼。


 星の光。


 神の気配。


「……本当に神じゃねぇか」


「でしょ?」


 エレノアが得意げに胸を張る。


「私が転生させたんだよ☆」


「お前が!?」


「うん☆」


「お前、また勝手なことを……!」


「またって何!?」


「いや、だってお前……」


 破壊神が頭を抱える。


「異界の人間を転生させて、その上、神にまでしちまったのかよ!」


「結果的にそうなっただけだよ☆」


「結果がデカすぎるんだよ!!」


 千乃が。


「……」


 なんとなくエレノアを見る。


「ノアちゃん」


「ん?」


「破壊神さん、元気だね」


「いつもこんな感じ☆」


「なるほど」


「おい聞こえてんぞ!!」


 破壊神が叫ぶ。


 オルディアが静かに口を開く。


「紹介しよう」


 千乃を見る。


「彼は――」


「待て」


 破壊神が手を上げる。


「自分で名乗る」


 千乃の前に立つ。


「俺は――」


 赤黒い魔力が爆発する。


「**破壊神グラン・アストラル!!**」


 ズドォォォォン!!


 星海が揺れた。


 千乃の髪が風圧でふわっと舞う。


「おお……!」


 千乃の目が輝く。


「かっこいい!」


「だろ!?」


 グランが嬉しそうに笑う。


「俺はこの世界の破壊を司る神だ!」


「破壊……」


「そうだ!」


 グランが拳を握る。


「星を砕き、空間を壊し、世界の境界すら破壊する!」


「すごい……!」


「だろ!?」


「でも」


 千乃が首を傾げる。


「星氷神城では、壊しても自動修復するよ」


「……」


 グランが止まる。


「何?」


「城とか、いくら壊しても治るんだ」


「……」


「だから、戦うときは気にしなくていいよ」


「いや、そういう問題じゃねぇだろ」


 オルディアが淡々と言う。


「星氷神城は特殊だからな」


「特殊すぎるだろ!!」


 エレノアが笑う。


「アルちゃん、あそこ住んでるんだよ☆」


「……」


 グランが千乃を見る。


「お前……」


「?」


「どんな生活してんだ?」


「普通だよ?」


「神の普通が分からねぇ……」


 千乃がにこっと笑う。


「今度遊びに来る?」


「……」


 グランが固まる。


「俺を?」


「うん!」


「破壊神が?」


「うん!」


「星氷神城に?」


「うん!」


「……」


 グランは腕を組む。


「面白そうじゃねぇか」


「やった!」


「ただし」


 グランがニヤリと笑う。


「俺は破壊神だ。遊びに行って、何も壊さず帰れる保証はねぇぞ?」


「大丈夫!」


「何がだ?」


「壊れたら治るから!」


「…………」


 グランが。


 ゆっくりオルディアを見る。


「……あいつ、神になったばっかだよな?」


「そうだ」


「なのに妙に肝が据わってねぇか?」


「同感だ」


 エレノアが笑う。


「アルちゃんだからね☆」


 千乃は楽しそうに笑っている。


 その隣には。


 世界神オルディア。


 そして。


 新たに加わった破壊神グラン。


 神界探検は。


 どうやら予定よりずっと賑やかになりそうだった。


 グランは、しばらく千乃を眺めていた。


「……なあ」


「ん?」


「お前」


 グランがニヤッと笑う。


「戦うとき、どうやって攻撃する?」


「私?」


「そうだ。神になったってんなら、それなりに面白ぇ戦い方するんだろ?」


「するよ!」


 千乃の目が輝いた。


「見てみる?」


「おう!」


 エレノアが一歩下がる。


「始まった☆」


 オルディアも少し距離を取る。


「周囲への影響には気をつけろ」


「はーい!」


 千乃が右手を前に出す。


「まずは魔法!」


 指先に光が集まる。


 次の瞬間。


 ――ドォン!!


 星空を貫くように、巨大な魔力の奔流が放たれた。


「おおっ!」


 グランの目が輝く。


「いいじゃねぇか!」


「まだまだ!」


 千乃が空中へ飛び上がる。


 白い翼が大きく広がった。


「飛行!」


「空まで飛べんのか!」


「うん!」


 千乃はそのまま星海を縦横無尽に飛び回る。


 上へ。


 横へ。


 急停止。


 反転。


 さらに急上昇。


「速ぇな!」


 グランが楽しそうに笑う。


「これも攻撃に使えるよ!」


「なるほどな!」


 千乃が空中で指を動かす。


 すっと。


 空中に一本の軌跡が描かれた。


 その軌跡に沿って。


 無数の羽が現れる。


「**毒の羽射撃!**」


 ――ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!


 描かれた軌跡から、無数の羽が一斉に飛び出した。


 星々の間を縫うように飛び。


 標的を包囲する。


「おおおおお!!」


 グランが思わず声を上げる。


「軌跡そのものが攻撃になるのか!」


「そう!」


 千乃が空中でくるっと回る。


「指で描いたところから羽が飛んでいくんだよ!」


「面白ぇ!!」


 グランが完全に食いついた。


「それ、俺好きだわ!」


「ほんと!?」


「ああ!」


 破壊神と新米神。


 まさかの意気投合。


 オルディアが二人を眺める。


「……相性がいいな」


 エレノアも笑う。


「アルちゃん、破壊神とすっかり仲良くなっちゃった☆」


 千乃は地面に降りる。


「あと、これ!」


「まだあんのか!?」


「分身!」


 シュンッ!


 千乃が二人になる。


「おお」


 シュンッ!


 さらに増える。


「おおお……」


 シュンッ! シュンッ! シュンッ!


 千乃がどんどん増えていく。


「おおおおおおお!!」


 グランが大興奮。


「なんだこの数!!」


「いっぱい!」


「見りゃ分かる!!」


 無数の千乃が星海に広がる。


 そして全員が一斉に笑った。


「「「「「こんにちはー!」」」」」


「うるせぇ!!」


 グランが笑いながら叫ぶ。


「最高じゃねぇか!!」


 千乃本人が中央からひょこっと顔を出す。


「グランもやる?」


「俺か?」


「うん!」


「俺の能力は単純だぞ」


 グランが拳を握る。


「壊す!」


「それも楽しそう!」


「だろ?」


 二人が顔を見合わせる。


「……」


「……」


「なんか」


 千乃が言う。


「気が合うね!」


「ああ」


 グランも笑う。


「お前、話が分かる奴だ!」


 エレノアが小さく笑う。


「破壊神とアルちゃん、仲良くなるの早すぎ☆」


 オルディアも頷く。


「能力の方向性が違うのに、妙に噛み合っているな」


 グランが千乃を見る。


「なあ、アルテナ」


「なに?」


「今度、星氷神城ってところに遊びに行くって話、本当にいいのか?」


「もちろん!」


「じゃあ決まりだ!」


「やった!」


 千乃が嬉しそうに笑う。


「真銀にも紹介する!」


「夫か」


「うん!」


「カミルって神龍もいるんだろ?」


「いるよ!」


「そいつとも戦ってみてぇな!」


「たぶんカミル、困ると思う」


「なんでだ?」


「グラン、破壊神だから」


「それは関係ねぇだろ!」


「あとカミル、かなり落ち着いてるから」


「……」


 グランが考える。


「……静かな奴か」


「うん」


「じゃあ俺が一方的に喋ることになるな」


「たぶん」


「それも面白ぇ!」


 また笑うグラン。


 その横で。


 エレノアがぽつり。


「アルちゃん」


「ん?」


「神界に来てから、すごい勢いで友達増えてない?」


「そうかな?」


「うん☆」


 千乃は少し考えて。


「……じゃあ、もっと増やそう!」


「まだ増やすの!?」


 エレノアが笑う。


 オルディアは静かに空を見上げた。


「……神界が騒がしくなりそうだな」


 グランが豪快に笑う。


「いいじゃねぇか!」


 千乃も笑う。


「楽しいほうがいいよ!」


 こうして。


 神界に。


 **破壊神グランとアルテナの妙に気の合うコンビ**が誕生した。


 それから。


 神界で千乃とグランが一緒に過ごす時間は、少しずつ増えていった。


 最初こそ、


「アルテナ」


「グランさん」


 だったのだが。


 数時間後には。


「アル!」


「グラン!」


 になっていた。


 あまりにも早い。


 エレノアがそれを見て、呆れたように笑う。


「仲良くなるの早すぎない?」


「そう?」


 千乃が首を傾げる。


「グラン、面白いよ?」


「アルも面白ぇぞ!」


「ほら!」


「何が『ほら』なの☆」


 そんな二人を見ながら。


 オルディアは静かに口を開いた。


「……そろそろ、神位を定めるか」


「神位?」


 千乃が振り返る。


「ああ」


 オルディアが頷く。


「神界には、神としての役割を示す称号がある」


 オルディアの周囲に、いくつもの光が浮かび上がる。


「破壊を司る者」


 グランの前に、赤黒い光が集まる。


「**破壊神**」


 グランがニヤッと笑う。


「俺だな」


「そうだ」


 次に。


 桃色の光がエレノアの周囲へ集まる。


「愛と縁を司る者」


「はいはーい☆」


 エレノアが手を上げる。


「**恋愛神**」


「私!」


「知ってる」


 そして。


 最後に。


 オルディアが千乃を見る。


「そして、お前だ」


「私?」


「お前の力は特殊だ」


 千乃が首を傾げる。


「私は魔法とか羽とか、飛んだり分身したり……」


「それだけではない」


 オルディアが言葉を続ける。


「お前が本当に強く持っている力は」


 千乃の周囲に。


 淡い白金の光が集まる。


「**直す力**」


「……」


「**治す力**」


 さらに。


「**守る力**」


 光が三つに分かれる。


 修復。


 癒し。


 防護。


 それぞれが星のように千乃の周囲を巡る。


「壊れたものを元に戻す」


「……」


「傷ついたものを癒す」


「……」


「失われようとするものを守る」


 千乃が。


 自分の手を見つめる。


「私の……力?」


「ああ」


 オルディアが頷く。


「お前の癒光も、星の箱も、結界も」


「……」


「お前が前世で願い、書き、想像した力の根底には、それがある」


 千乃が少し驚いた顔をする。


「だから……私、回復とか防御が得意だったんだ」


「そういうことだ」


 グランが腕を組む。


「なるほどな」


「どうしたの?」


「俺が壊す側なら」


 グランが千乃を見る。


「アルは直す側ってわけか」


「……!」


 千乃の顔が明るくなる。


「正反対だ!」


「そうだな!」


 グランが笑う。


「俺が壊して、アルが直す!」


「いや、それ組んだら永久機関みたいになるよ!?」


「確かにな!」


 エレノアが吹き出す。


「それ、神界からするとめちゃくちゃ困るコンビだね☆」


「やらないよ!?」


 千乃が慌てる。


 オルディアは少しだけ口元を緩めた。


「では」


 千乃の頭上に。


 巨大な魔法陣が展開される。


「神位を与える」


 星々が集まる。


 白。


 金。


 そして、淡い桃色。


「破壊を司るグランには――」


 赤黒い光。


「**破壊神**」


 グランの身体に光が宿る。


「恋愛を司るエレノアには――」


 桃色の光。


「**恋愛神**」


 エレノアが嬉しそうに笑う。


「そして」


 オルディアが千乃を見る。


「アルテナには――」


 星々が一斉に輝いた。


「**守護神**」


「……!」


 千乃の瞳が輝く。


「守護神……!」


「お前は、ただ守るだけではない」


 オルディアが続ける。


「修復し、治癒し、守る」


 白金の光が千乃を包む。


「だから神位としては、**守護神アルテナ**」


 千乃が。


 ゆっくり笑った。


「……なんか」


「ん?」


 グランが聞く。


「私にぴったりかも」


「ああ」


 グランが頷く。


「似合ってるぞ、アル」


「ありがと、グラン!」


 エレノアも笑う。


「守護神アルちゃんかぁ☆」


「ノアちゃんも恋愛神なんだよね」


「そうだよ☆」


「なんか……」


 千乃が考える。


「三人とも役割が全然違うね」


 グランが拳を握る。


「壊す!」


 エレノアが指を立てる。


「繋ぐ☆」


 千乃が両手を広げる。


「直す! 治す! 守る!」


 オルディアが静かに三人を見る。


「それぞれが異なる力を持つからこそ、世界は成り立つ」


 千乃は頷いた。


「じゃあ私、守護神として頑張る!」


「おう!」


 グランが笑う。


「俺も破壊神として頑張るぜ、アル!」


「うん!」


「私も恋愛神として頑張るよ☆」


「ノアちゃんは……」


 千乃が少し考える。


「いつも通りな気がする」


「ひどい☆」


 三人の笑い声が。


 星々の海に響く。


 そして。


 その日、神界に新たな神が正式に刻まれた。


 **守護神・アルテナ。**


 壊れたものを直し。


 傷ついたものを治し。


 大切なものを守る。


 その力は。


 神々の中でも、とりわけ強大だった。


 神位を授かった、その直後。


「……あ」


 千乃がふと顔を上げた。


「どうした、アル?」


 グランが尋ねる。


「なんか……知ってる気配がする」


 星海の彼方から。


 ゆっくりと、巨大な白い影が近づいてくる。


 純白の鱗。


 紅い瞳。


 神々しい翼。


「……!」


 千乃の顔がぱっと明るくなる。


「カミル!」


 巨大な神龍が、静かに三人の前へ降り立った。


 ズゥン……。


 星々がわずかに揺れる。


 カミルはそのまま人型へ姿を変えた。


 白髪。


 青い瞳。


 静かな表情。


「千乃」


「カミル! どうしたの?」


「お前が神位を授かったと聞いた」


「うん! 守護神になった!」


「そうか」


 カミルが頷く。


「ならば、我もここに来る必要があると思ってな」


「え?」


 オルディアがカミルを見る。


「神龍カミル」


「オルディア」


「久しいな」


「ああ」


 カミルは一礼する。


「我の神位について、まだ千乃には話していなかった」


「そうだな」


 千乃が目を輝かせる。


「カミルも神位あるの!?」


「当然だ」


 グランが横から口を挟む。


「へぇ。神龍にも神位があるのか」


「神龍は、神獣の中でも特別な存在だからな」


 オルディアが説明する。


「そしてカミルの力も、お前と近い」


「私と?」


「ああ」


 オルディアがカミルを見る。


「カミルが司るのは――」


 カミルの周囲に。


 白と青の光が集まる。


「**護り**だ」


 千乃が目を丸くする。


「やっぱり!」


「我は神龍として、世界を守護する力を持つ」


 巨大な光の輪がカミルの背後に現れる。


「強大な結界」


「……!」


「外敵からの守護」


「うん」


「そして、生命を脅かす災厄からの防護」


 千乃が嬉しそうに笑う。


「私と同じ!」


「ああ」


 カミルも小さく頷く。


「お前は『直し、治し、守る』」


「うん!」


「我は『護り、封じ、守る』」


「……」


 千乃が少し考える。


「じゃあ」


 にこっと笑う。


「守護コンビだね!」


「……守護コンビ?」


 カミルが少しだけ首を傾げる。


「そう!」


 グランが笑う。


「いいじゃねぇか!」


 エレノアも頷く。


「アルちゃんとカミル、相性よさそう☆」


 オルディアが静かに告げる。


「カミルの神位は――」


 光が収束する。


「**守護龍神**」


 カミルの周囲に、巨大な龍の紋章が浮かび上がった。


「……守護龍神」


 千乃が嬉しそうに呟く。


「かっこいい!」


「そうか」


「うん!」


 カミルは少しだけ千乃を見る。


「そして、お前も守護神となった」


「うん!」


「ならば」


 カミルが手を差し出す。


「今後は同じ守護を司る神として、互いに支え合うこともあるだろう」


 千乃はその手を握った。


「よろしくね、カミル!」


「ああ」


 グランが腕を組む。


「なるほどな」


「?」


「破壊神の俺と」


 グランが自分を指差す。


「守護神のアル」


 千乃を指差す。


「守護龍神のカミル」


 カミルを指差す。


「……なんか、すげぇパーティーになってねぇか?」


「たしかに」


 エレノアが笑う。


「壊す神、守る神、守る龍神☆」


「私は直すのもできるよ!」


「さらに修復担当までいる☆」


 カミルが静かに付け加える。


「……我々だけでかなりの範囲を維持できそうだな」


「それ、めちゃくちゃ頼もしい!」


 千乃が笑う。


 そして。


 神界の星々の中に。


 新たな二つの神位が並んだ。


 **守護神・アルテナ。**


 **守護龍神・カミル。**


 同じ「守る」という力を持ちながら。


 アルテナは、**直し、治し、守る。**


 カミルは、**護り、封じ、守る。**


 似ているようで、役割は少し違う。


 けれど。


「カミル!」


「何だ?」


「今度、神界探検一緒にしよう!」


「……」


 カミルは少し考え。


「構わない」


「やった!」


 グランが笑う。


「じゃあ俺も行く!」


「ノアちゃんも!」


「もちろん☆」


 オルディアが全員を見る。


「……我も行くことになりそうだな」


「行こうよ、オルディアさん!」


「……ああ」


 こうして。


 神界探検隊は。


 **守護神アルテナ**

 **守護龍神カミル**

 **破壊神グラン**

 **恋愛神エレノア**

 **世界神オルディア**


 という。


 なんとも神々しいメンバーになっていった。


 ――そして。


 守護神アルテナと守護龍神カミルの神位が正式に定められた、その直後。


「……なんか」


 千乃が周囲を見渡す。


「さっきから神様、増えてない?」


「うん☆」


 エレノアが頷く。


「増えてるね」


「なんで!?」


 星海の向こうから。


 次々と神気が近づいてくる。


 ひとつ。


 ふたつ。


 三つ。


 やがて。


 ――ドンッ!


 神界の広場に、次々と神々が姿を現した。


「おいおい!」


 グランが笑う。


「アルが神位をもらったって聞いて、みんな集まってきたんじゃねぇか?」


「私、そんなに有名なの!?」


「守護神になったばかりなのに、異界出身っていうのも珍しいからね☆」


 エレノアが説明する。


 最初に現れたのは。


 深い青色の髪を持つ女性。


 周囲には水のような光が漂っている。


「私は――**水神ネレイア・アストラル**」


 千乃が目を輝かせる。


「水神!」


「そう」


「水を操るの?」


「もちろん」


 ネレイアが指先を振る。


 巨大な水球が浮かび上がる。


「すごーい!」


 次に。


 赤い髪の青年が現れる。


「俺は**炎神ヴァルガ・アストラル**!」


 ボッ!


 手のひらに炎が灯る。


「炎を司る!」


「おお!」


 グランが嬉しそうに笑う。


「炎か! いいな!」


「お前は破壊神だろ」


「細けぇことはいいんだよ!」


 さらに。


 緑色の長髪をした女性が現れる。


「私は**生命神リュネ・アストラル**」


 その周囲に。


 小さな光の花が咲く。


「生命を育み、命の循環を司ります」


「……!」


 千乃が少し驚く。


「生命神……」


 リュネが千乃を見る。


「そしてあなたが、守護神アルテナですね」


「うん!」


「あなたの力は、私の領域とも近いでしょう」


「そうなんだ!」


 オルディアが頷く。


「アルテナの『治す』力は、生命神の領域とも重なる」


「じゃあ仲良くできそう!」


「ええ」


 リュネが微笑む。


 さらに。


 黒髪の女性。


 銀髪の青年。


 紫の髪をした少女。


 次々に神々が集まってくる。


「**知識神セレネ・アストラル**」


「**時空神クロノス・アストラル**」


「**夢幻神ミレア・アストラル**」


「……」


 千乃は。


 ぽかーん。


「多い!」


 グランが笑う。


「神様ってこんなにいるのかよ!」


「もっといるよ☆」


「もっと!?」


 エレノアが指を立てる。


「神界は広いからね」


「じゃあ、私まだ全然知らないんだ」


「そういうこと☆」


 すると。


 後方から声が飛んできた。


「おーい!」


 また一人。


 明るい黄色の髪をした青年が走ってくる。


「俺は**幸運神フェリオ・アストラル!**」


「幸運神!」


「そう! 運の流れを司る神!」


 千乃が笑う。


「よろしく!」


「よろしくな、アルテナ!」


「アルでいいよ!」


「じゃあ俺もアルって呼ぶ!」


「え?」


 グランが振り返る。


「おい」


「ん?」


「アルって呼ぶのは俺が先だぞ」


「なんで!?」


「なんとなくだ!」


「意味分かんない!」


 フェリオが笑う。


「じゃあ俺は千乃って呼ぶ!」


「それはいいよ!」


 カミルが静かに見守る。


「……随分と親しくなるのが早いな」


 オルディアが頷く。


「アルテナはそういう性格なのだろう」


「うん!」


 千乃は満面の笑み。


「せっかくだから、みんな仲良くしようよ!」


 その言葉に。


 集まった神々が顔を見合わせる。


 そして。


「いいな」


「賛成」


「面白そう」


「歓迎する」


 次々と声が上がった。


 エレノアが嬉しそうに笑う。


「ほら☆」


「?」


「もうアルちゃん、神界に馴染んでるよ」


「ほんと?」


「うん」


 グランが千乃の肩を軽く叩く。


「そりゃそうだ」


「なんで?」


「守る力を持った神が、こんだけ歓迎されねぇわけねぇだろ」


 千乃が少し照れたように笑う。


「……そっか」


 そのとき。


 オルディアが空を見上げる。


「まだ来るようだな」


「え?」


 千乃も見上げる。


 星海の向こう。


 さらにいくつもの神気が近づいている。


「……まだ増えるの!?」


 エレノアが笑った。


「今日は神界、大集合の日になりそうだね☆」


「なんで!?」


 グランが大笑いする。


「いいじゃねぇか!」


「よくないよ! 私、神界探検しに来ただけなのに!」


 カミルが静かに言う。


「だが、退屈はしなさそうだ」


「それはそう!」


 こうして。


 アルテナが神界へやって来た初日。


 なぜか。


 **神々が次々と集結し始める謎の歓迎会**が開催されることになった。

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