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開幕

「いや、そこじゃないでしょ」


 千乃が即座にツッコむ。


「俺より面倒な奴が来たんだぞ」


「うん」


「つまり、俺の評価が相対的に上がった」


「上がってないよ」


「即答!?」


 カイルが愕然とする。


 その横で、ララがぴょんっと跳ねた。


「カイルは元から面倒!」


「追撃!?」


「おまけ勇者!」


「びょっ」


「泣くな」


 真銀が即座に止める。


「まだ泣いてないだろ」


「今から泣くところだった……」


「そこまで含めて面倒なんだよ」


 カイルが静かに膝をついた。


 そんな彼らを横目に。


 千乃は、先ほどパイライトたちが去っていった城門を見つめていた。


「……」


「千乃?」


 真銀が声をかける。


「うん?」


「気になるのか?」


「……少しだけ」


 千乃は小さく息を吐いた。


「パイライトさん自身は……かなり面倒だったけど」


「かなり、で済ませるのか」


「でも」


 千乃の表情が少し曇る。


「エリシアさんのこと」


 真銀も黙った。


 皇帝と皇后。


 そしてパイライト。


 誰一人として。


 娘&姉・エリシアの死を、悲しんでいるようには見えなかった。


「……娘なのに」


 千乃が呟く。


「いらなかった、なんて」


「……ああ」


 真銀も低く答える。


「普通、あんな風には言わない」


「うん」


 千乃は自分の手を見る。


 かつて。


 鬼月姫だった自分が。


 エリシアを討った。


 それは、千乃にとって忘れられる出来事ではない。


「……私が殺したんだよ」


「千乃」


「分かってるよ」


 千乃は真銀の言葉を遮る。


「自分を責めてるわけじゃない」


 少しだけ笑う。


「ただ……」


 その笑顔は、どこか寂しそうだった。


「エリシアさんが、あんな家族の中で生きてたんだなって」


 真銀は何も言わなかった。


 千乃の言葉を否定しなかった。


 ただ。


 そっと千乃の手を握った。


「……真銀?」


「帰ろう」


「うん」


「みんなも待ってる」


 千乃は握られた手を見る。


 そして。


「うん」


 少しだけ強く握り返した。


 しかし。


 その日の夜。


 星氷神城の一室。


 千乃と真銀が寝室で休んでいた頃。


 城の外。


 遠く離れた森の中に。


 複数の人影が立っていた。


「……本当に、ここでいいのか?」


 一人の男が尋ねる。


 その前に立つ人物が、静かに答えた。


「ああ」


 月明かりが、その姿を照らした。


 金色の髪。


 そして。


 ふくよかな体格。


「星氷神城アストラルグレイシア」


 パイライトだった。


「千乃様は、必ず私のものになる」


「ですが、殿下」


 側近の一人が恐る恐る口を開く。


「千乃様は既に真銀様と……」


「分かっている」


 パイライトの声は低い。


「だからこそだ」


「……?」


「真銀を排除すればいい」


 その瞬間。


 側近たちの表情が凍りついた。


「へ、陛下!?」


「皇帝陛下ではない」


 パイライトが訂正する。


「まだ殿下だ」


「そこではありません!?」


 思わず側近が叫んだ。


「排除とは、まさか……」


「殺すとは言っていない」


 パイライトは鼻を鳴らす。


「少し痛い目を見てもらい、千乃様の前から消えていただくだけだ」


「十分問題です!」


「問題ない」


 パイライトは自信満々に言う。


「私がいる」


「その自信はどこから……」


「私は最強だからだ」


「親御様以外から、その評価を聞いたことがございません」


「何か言ったか?」


「何も!」


 側近たちが一斉に目を逸らした。


 パイライトは腕を組む。


「明日から、作戦を開始する」


「……作戦?」


「ああ」


 その顔に。


 自信満々の笑みが浮かぶ。


「まずは真銀を倒し」


「はい」


「千乃様を救う」


「……何からです?」


「真銀からだ」


「真銀様は千乃様の夫ですが」


「だからこそだ」


「理屈が迷子です」


「そして」


 パイライトは、夜空を見上げた。


「千乃様は、私の優しさと強さを知ることになる」


「……」


「私という完璧な男を見れば、必ず心変わりする」


「……」


「その後、盛大な結婚式を挙げる」


「……」


「皇国中が祝福する」


「……」


「そして私は皇王となり!」


「……」


「千乃様と共に、世界を導く!」


 沈黙。


 長い沈黙。


 やがて。


 一人の側近が、小さく手を挙げた。


「……殿下」


「なんだ」


「その前に、一つ問題がございます」


「何だ?」


「千乃様ご本人が、全力で拒否されております」


「…………」


 パイライトの顔が引きつった。


「……そこは」


 少し間を置いて。


「なんとかなる」


「ならないと思います」


「なんとかする」


「どうやってです?」


「……」


 パイライトは黙った。


 数秒後。


「考える」


「今からですか」


「うるさい!」


 その頃。


 星氷神城では。


「へっくしゅん!!」


 千乃が盛大にくしゃみをした。


「大丈夫?」


 真銀が隣を見る。


「うん……」


 千乃は鼻を押さえる。


「なんか、嫌な予感がする」


「風邪じゃなくて?」


「違うと思う」


「じゃあ何だ?」


 千乃は少し考える。


「……カイル?」


「なんで俺!?」


 廊下から声が響いた。


「なんか今、俺の名前呼ばれた気がした!」


「呼んでないよ!」


「やっぱり俺、主人公補正があるんじゃ……」


「ない」


 真銀が即答した。


「即答!?」


 廊下の向こうで。


 カイルが再び膝をつく音がした。


「……びょえ」


「泣かない!」


 ララの声が続く。


「カイル、泣くの早い!」


「お前たちが原因だよ!?」


 千乃は思わず笑った。


 そして。


「……うん」


「何?」


「やっぱり大丈夫」


 千乃は真銀を見る。


「みんながいるから」


 真銀は少しだけ笑った。


「そうだな」


 その翌朝。


 星氷神城の中庭。


「……さて」


 千乃が腕を組んでいた。


「今日も平和だね!」


「その言葉を言った直後に何か起こりそうだからやめろ」


 真銀が即座に止める。


「え?」


「この城、最近そのパターン多いだろ」


「確かに」


 ララが頷く。


「平和って言うと、だいたい何か来る!」


「ほら!」


 真銀が指を差す。


 その瞬間。


 城門のほうから。


「千乃様あああああああああああああああああああああ!!」


「ほら来た!?」


 千乃が叫んだ。


 全員が振り返る。


 そこには。


 金色の髪をなびかせながら。


 全力疾走……しているつもりの。


 パイライトがいた。


「……」


「……」


「……」


 真銀。


 千乃。


 カイル。


 全員が無言。


 パイライトは走りながら。


「お待たせしましたああああああああああああああああ!!」


「誰も待ってないよ!?」


 千乃が叫ぶ。


 パイライトは城門前で止まり。


 息を整える。


「ふぅ……ふぅ……」


「……」


「……」


「……」


 そして。


 息が整った瞬間。


 胸を張った。


「千乃様!」


「はい」


「今日から私は、この城に滞在します!」


「却下!」


「早い!?」


「却下!」


 真銀も続く。


「ここは宿じゃない」


「ですが!」


「帰れ」


「まだ何も言っていません!」


「昨日から何度も聞いてる」


「ぐっ……!」


 パイライトが胸を押さえる。


 その後ろから。


 昨日の側近たちが、ゆっくりと姿を現した。


「……殿下」


「なんだ」


「一応申し上げますが」


「うむ」


「我々、正式な滞在許可はいただいておりません」


「……」


「……」


「……」


 パイライトがゆっくり千乃を見る。


「千乃様」


「ダメ」


「まだ聞いていません!」


「ダメ」


「なぜ!?」


「嫌だから」


「理由が単純すぎる!」


 カイルが小声で真銀に尋ねる。


「……これ、俺より面倒だよな?」


「ああ」


「だろ?」


「ただし、お前の評価は上がってない」


「なんでだよ!?」


 その瞬間。


 パイライトがカイルを見た。


「……誰だ?」


「俺?」


「そうだ」


 カイルは一瞬。


 髪を整え。


 マントを翻した。


「俺はカイル」


 キラッ。


「イケメンの勇者、カイルだ!」


「……」


 パイライトは無表情だった。


「イケメン?」


「そこ!?」


 カイルの表情が固まる。


「お前、俺に言う?」


「何だと?」


 パイライトが眉をひそめる。


「私は皇国随一の美男子だ」


「は?」


「は?」


 二人の視線がぶつかった。


 真銀が。


「……嫌な予感がする」


 と呟いた。


 次の瞬間。


「お前がイケメン?」


 パイライトが言う。


「そっちこそ」


 カイルが返す。


「俺の前でその言葉を言うのか?」


「当然だ!」


「……」


「……」


 二人の間に。


 謎の緊張感が走る。


 ララが千乃の袖を引っ張った。


「主」


「うん」


「これ、戦い?」


「……たぶん」


 そして。


「イケメン対決だ」


 カイルが言った。


「何?」


「俺とお前」


 パイライトが指差す。


「どちらが、より美しい男か」


「…………」


 千乃の顔から表情が消えた。


「え?」


 真銀も固まる。


「……何が始まった?」


 カミルが静かに呟く。


「我にも分からん」


 ライが答えた。


「勝負だ!!」


「受けて立つ!!」


 二人が同時に叫ぶ。


「いや、やめてぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!」


 千乃の叫びが。


 朝の星氷神城に響き渡った。


 平和は。


 やっぱり。


 一日しか続かなかった。


 ◇


「……で」


 真銀が腕を組んだ。


「なんで本当に始まってるんだ?」


「分からない」


 千乃が答える。


「止めたんだけど」


「俺も止めた」


 ライが言う。


「私もです」


 アイシィも頷く。


「我も止めた」


 カミルまで静かに答えた。


 にもかかわらず。


 星氷神城の中庭には。


 謎の舞台が完成していた。


「……誰が作ったの?」


 千乃が呟く。


「使用人たち」


 真銀が答えた。


「なんで!?」


 見ると。


 使用人たちが、なぜか少し離れた場所に集まっている。


 そして。


「どちらが勝つと思います?」


「いや、勝負になるのでしょうか……」


「審査基準は?」


「顔、でしょうか?」


「でしたら、もう結果が……」


「しっ」


 使用人たちが口を閉じた。


 千乃は頭を抱えた。


「誰か止めようよ……」


「無理だろ」


 真銀が即答する。


 舞台の中央。


 カイルとパイライトが向かい合っていた。


「ふっ」


 カイルが髪をかき上げる。


 さらりとした金髪が揺れた。


「覚悟はいいか?」


「それはこちらの台詞だ」


 パイライトも前髪を整える。


 金色の髪が。


 ぺたっ。


 と額に張り付いた。


「…………」


 千乃。


 真銀。


 ライ。


 アイシィ。


 カミル。


 全員が無言。


「何だ?」


 パイライトが眉をひそめる。


「いや」


 真銀が答える。


「何でもない」


「そうか」


 パイライトは胸を張った。


「では」


 カイルが指を突きつける。


「まずは第一競技!」


「うむ!」


「ポーズ対決だ!!」


「…………」


 千乃がゆっくり真銀を見る。


「ねえ」


「何」


「帰っていい?」


「俺も帰りたい」


 しかし。


「カイル!」


 ララがぴょんっと跳ねた。


「頑張れ、イケメンナルシスト勇者!」


「おう!!」


 カイルが即答した。


「…………」


 千乃が目を丸くする。


「受け入れた?」


「イケメンだからな」


 真銀が答えた。


「ナルシストなのは?」


「否定できない」


「なるほど」


「では!」


 カイルが舞台の中央に立つ。


 マントを翻し。


 片手を髪に添える。


 そして。


「……ふっ」


 決めた。


 さらり。


 金髪。


 青い瞳。


 勇者の鎧。


 普通に。


 格好いい。


「……」


「……」


「……」


 数秒後。


 使用人の一人が。


「……おお」


 と呟いた。


 別の使用人が頷く。


「普通にイケメンですね」


「ですよね」


「腹立ちますね」


「なぜです?」


「ナルシストだからです」


「なるほど」


 カイルが聞いていた。


「褒めてるのか貶してるのか分からないな!?」


「次!!」


 パイライトが前へ出た。


「私の番だ!!」


 そして。


 胸を張る。


 腹も出る。


「…………」


 千乃はそっと目を逸らした。


 パイライトは片手を髪に添える。


「ふっ」


 決め顔。


 しかし。


「…………」


「…………」


「…………」


 誰も何も言わない。


「……どうだ?」


 パイライトが尋ねる。


「……」


 真銀は空を見る。


 ライは別方向を見る。


 アイシィは困ったように微笑んだ。


 カミルは。


「……」


 無言。


「どうなんだ!?」


 パイライトが叫ぶ。


 ララが首を傾げた。


「何が?」


「私の美しさだ!!」


「……?」


「その反応は何だぁぁぁぁぁぁ!!」


 カイルが腕を組む。


「……おい」


「何だ!」


「本当に自分をイケメンだと思ってるのか?」


「当然だ!!」


「…………」


「何だその顔は!!」


「いや」


 カイルは少しだけ眉をひそめた。


「俺もナルシストだが」


「うむ」


「最低限、鏡は見てるぞ」


「見ている!!」


「その上で?」


「この顔だ!!」


「どうしてそうなった!?」


「何がだ!?」


 カイルが思わず頭を抱える。


「……なんか」


 千乃が小声で呟く。


「カイルが常識人に見えてきた」


「俺も」


 真銀が頷いた。


「待て」


 カイルが振り返る。


「それは嬉しくない」


「でも事実」


「……」


 カイルが静かに沈んだ。


「ぐずり勇者」


「誰がだ!!」


 ララの一言で。


 即座に復活した。


「第二競技!!」


 パイライトが叫ぶ。


「歩き方対決だ!!」


「何だそれ!?」


 千乃が叫ぶ。


「イケメンは歩き方まで美しい!」


 パイライトが胸を張る。


「だから勝負だ!」


「……」


 カイルは少し考えた。


「……まあ」


「?」


「俺の歩き方は、確かに格好いい」


「受けるなよ!?」


「いいだろう」


 カイルが舞台の端へ移動する。


 そして。


 歩き始めた。


 堂々と。


 真っ直ぐ。


 マントが揺れる。


 金髪が揺れる。


 普通に。


 格好いい。


「……」


 千乃が呟く。


「……悔しいけど」


「うん」


「格好いい」


「うん」


 真銀が頷いた。


「だから腹立つんだよな」


「分かる」


「聞こえてるぞ!?」


 カイルが振り返る。


「次は私だ!」


 パイライトが前へ出る。


 胸を張る。


 腹も張る。


 そして。


「ふっ」


 一歩。


 ずしっ。


「……」


 二歩。


 ずしっ。


「……」


 三歩。


「はっ」


 パイライトが息を整える。


「……?」


 千乃が首を傾げた。


「まだ三歩だよ?」


「うるさい!!」


 パイライトが叫ぶ。


 そのとき。


 カイルが。


「……大丈夫か?」


 と聞いた。


「問題ない!」


「いや、息切れてるぞ」


「問題ない!!」


「顔、赤いぞ」


「問題ない!!」


「汗」


「うるさい!!」


 ララが首を傾げる。


「チビデブブス皇子?」


「誰がだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 パイライトが絶叫した。


 そして。


「……」


 カイルが。


 ゆっくりララを見る。


「お前」


「?」


「俺におまけ勇者って言うより、あいつへの言葉のほうが強くないか?」


「そう?」


「そうだろ」


 千乃が慌ててララを見る。


「ララ」


「うん!」


「それ、本人の前で毎回言わなくていいからね?」


「分かった!」


 ララが元気よく頷く。


「チビデブブス皇子!」


「分かってない!!」


 千乃が頭を抱えた。


 パイライトは顔を真っ赤にしている。


「……ふざけるな」


「?」


「私は!」


 指を突きつける。


「美男子だ!!」


「え?」


「誰が何と言おうと!」


 さらに胸を張る。


「私は美男子だ!!」


「…………」


 カイルが。


 真剣な顔になった。


「……お前」


「何だ」


「そこまで自信があるのは、ちょっと羨ましい」


「だろう!」


「でも」


 カイルが続ける。


「俺はイケメンだから自信がある」


「私もだ!」


「いや、お前は違う」


「なぜだぁぁぁぁぁ!?」


「俺は鏡を見てから言ってる!」


「私も見ている!」


「なら鏡がおかしい!」


「鏡のせいにするな!!」


 真銀が。


「……カイル」


「何だ」


「お前の勝ちでいいから終わらせろ」


「え?」


「勝負になってない」


「……」


 カイルは一瞬。


 パイライトを見る。


 そして。


「……確かに」


「何だと!?」


 パイライトが叫ぶ。


「勝負はまだ終わっていない!」


「いや」


 カイルは肩をすくめる。


「もう結果は出てるだろ」


「何!?」


「俺の勝ちだ」


「ふざけるな!」


「だって」


 カイルが自分を指差す。


「俺、イケメンだし」


「……っ!」


 パイライトが固まった。


「お前は?」


「……」


「どう見ても?」


「……」


「イケメンではない」


「……っ」


 千乃が目を見開く。


「カイル!?」


「何だ」


「今のはちょっと」


「でも事実だろ?」


「……まあ」


「まあ!?」


 パイライトが千乃を見る。


「千乃様まで!?」


「いや、だって」


 千乃は少し困った顔をする。


「嘘はつけないし」


「……」


 パイライトの身体が震えた。


「……」


「……」


「……」


 そして。


「なぜだ」


 低い声。


「なぜ、私ではダメなんだ」


 その瞬間。


 カイルの表情が変わった。


「……」


 パイライトは拳を握る。


「私は次期皇王だ」


 俯く。


「強い」


「……」


「賢い」


「……」


「美しい」


「そこは違う」


 カイルが即答した。


「今、ちょっとくらい黙ってろぉぉぉぉぉ!!」


 パイライトが叫ぶ。


 しかし。


 次の瞬間。


「……っ」


 目元を押さえた。


「……何で」


 声が震える。


「何で、私では……」


 カイルが少し眉をひそめる。


 そして。


「……」


 何も言わなかった。


 千乃も。


 真銀も。


 誰もすぐには言葉を返せなかった。


 パイライトは。


 自分を美男子だと言った。


 自分を完璧だと言った。


 けれど。


 その言葉は。


 誰かに認めてもらうための言葉だったのかもしれない。


 ずっと。


 両親に。


 そう言われ続けて。


 だから。


 それ以外の答えを知らなかった。


「……」


 千乃が一歩前へ出る。


「パイライトさん」


「……」


「私は、あなたがイケメンかどうかで選ぶんじゃないよ」


 パイライトが顔を上げる。


「……」


「というか」


 千乃は真銀を見る。


「私は、もう真銀と結婚してるから」


「…………」


「そこが一番大きい」


「……」


 真銀が。


「それに」


 と続ける。


「人を無理やり自分のものにしようとする奴を、千乃が好きになるわけないだろ」


「……」


「千乃は物じゃない」


 パイライトの表情が止まる。


「次期皇王だから何でも手に入る」


 真銀の声は静かだった。


「そんな考え方のままじゃ、誰にも選ばれない」


「……っ」


 パイライトが俯いた。


「……」


 そのとき。


 ララが近づいた。


「……?」


 パイライトが顔を上げる。


 ララは。


 じっとパイライトを見る。


 そして。


「元気出して!」


「……」


「ララは、パイライト皇子のこと、嫌いじゃない!」


「……本当か?」


「うん!」


 パイライトの目が少し明るくなる。


「そうか……」


 しかし。


 ララは続けた。


「おまけ皇子!」


「誰がおまけ皇子だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 全員が。


「お前じゃない」


 と。


 同時にツッコんだ。


 そして。


 カイルが。


「……ララ」


「?」


「今の気持ちで言われると、ちょっと効くぞ」


「?」


「……いや」


 カイルは遠い目をした。


「何でもない」


 千乃が。


「……ねえ」


 と呟く。


「今ちょっと、おまけ勇者の気持ち分かった?」


「分かりたくなかった」


 カイルは即答した。


 そして。


 その場には。


 一瞬だけ。


 平和が戻った。


 が。


「……待て」


 パイライトが顔を上げる。


「何?」


 千乃が振り返る。


「まだ勝負は終わっていない」


「まだやるの!?」


「次の競技だ!」


 パイライトが指を突きつける。


「イケメンなら!」


「うん」


「女性に持てるはずだッ!」


「それは俺の得意分野だ」


 カイルが髪をかき上げる。


「女性にモテる対決なら、俺の圧勝だ」


「何の対決をしてるの!?」


 千乃が叫ぶ。


「いや」


 真銀が冷静に口を開いた。


「そもそも、イケメン対決だったはずだろ」


「そうだったな」


 カイルは頷く。


「だが」


 腕を組む。


「顔だけでは、本当のイケメンは決まらない」


「お前が言うと急にナルシスト度が上がるな」


 真銀が言う。


「俺はイケメンだから問題ない」


「そこは否定しないけど」


 千乃がため息をついた。


 すると。


 カイルはパイライトを見た。


「……なあ」


「何だ」


「一つ提案がある」


 パイライトが眉をひそめる。


「提案?」


「ああ」


 カイルはニヤリと笑った。


「強さ対決はどうだ?」


「……強さ?」


「そうだ」


 そして。


 カイルは真銀を指差した。


「真銀と、お前で」


「俺?」


 真銀が自分を指差す。


「なんで俺なんだ」


「千乃を巡って張り合ってるんだろ?」


「張り合ってない」


 真銀が即答する。


「俺は一方的に絡まれてるだけだ」


「まあまあ」


 カイルは手を振る。


「だが、強くなければ守れないだろう?」


 その言葉に。


 千乃が真銀を見る。


「……」


 真銀は少しだけ黙った。


 そして。


「……まあ」


 静かに。


「それはそうだな」


 パイライトが胸を張る。


「ふん!」


 ずいっ。


「望むところだ!」


 真銀を見る。


「私は次期皇王だ!」


「うん」


「剣も魔法も一流!」


「へえ」


「お前など、私の相手ではない!」


「そうか」


 真銀の反応が薄い。


 パイライトが眉をひそめた。


「……なぜそんなに余裕なんだ?」


「別に」


「余裕だろう!?」


「まあ」


 真銀は千乃を見る。


「負ける気はない」


 千乃が笑った。


「うん」


「……」


 パイライトの眉がぴくりと動く。


「その自信……」


「何?」


「気に入らん!!」


「知らない」


 真銀が即答した。


「では決まりだな!」


 カイルが叫ぶ。


「強さ対決!」


 ララが飛び跳ねる。


「戦い!」


「我も見よう」


 カミルが言う。


「城が壊れませんか?」


 アイシィが少し心配そうに尋ねた。


 千乃が首を傾げる。


「別にいいんじゃない?」


「え?」


「壊れても勝手に直るし」


「……」


 アイシィが黙った。


「……そうでした」


 星氷神城。


 その城は。


 いくら壊れても。


 自動で修復される。


 壁が崩れようが。


 床が割れようが。


 塔が吹き飛ぼうが。


 時間が経てば。


 何事もなかったかのように元通りになる。


 そのため。


 城の住人たちは。


「……まあ、壊れても直るし」


 という。


 若干おかしい感覚を身につけていた。


「では」


 真銀が庭の中央へ進む。


「ここでやるか」


「構わん!」


 パイライトも前へ出る。


 カイルが手を上げた。


「ルール!」


「何?」


 千乃が尋ねる。


「死ぬのは禁止!」


「当たり前でしょ」


「あと」


 カイルが周囲を見る。


「城を壊してもいい!」


「よくない」


 真銀が言った。


「直るだろ?」


「直るけど」


「じゃあいい!」


「よくない」


 千乃が頭を抱える。


「お前たち、城を何だと思ってるの……」


 その後ろで。


 使用人たちが。


「まあ、直りますしね」


「前も壁がなくなりましたが」


「翌日には戻っていました」


「便利ですよね」


 と。


 普通に話していた。


「使用人たちまで!?」


 千乃が叫ぶ。


 そして。


 二人が向かい合う。


 真銀。


 そして。


 パイライト。


 少し離れた場所には。


 千乃たちが並んでいる。


「……始めるぞ」


 真銀が言う。


「いつでも来い!」


 パイライトは剣を抜いた。


 白銀の剣。


 勇者の剣とは違う。


 皇族用に作られた、豪華な剣。


 真銀も。


 ゆっくりと手を前へ出す。


「……」


 千乃が目を丸くした。


「真銀?」


「何?」


「そのポーズ」


「何だ」


「……私の影響?」


「知らない」


 真銀が目を逸らした。


「絶対そうだよね?」


「知らない」


 カイルがニヤリとする。


「お」


「何だよ」


「始まるぞ」


「何が」


「厨二病が」


「……」


 真銀が。


 ゆっくり。


 右手を前へ伸ばした。


 空気が変わる。


 その瞬間。


 真銀の周囲に。


 青白い魔力が溢れ始めた。


「……」


 千乃が目を輝かせる。


「おお」


 真銀は。


 低い声で。


 ゆっくりと。


 告げる。


「蒼穹に眠りし、無数の星々よ」


 パイライトが眉をひそめた。


「……?」


「我が手に応え」


 魔力が。


 地面を走る。


「その輝きを」


 真銀の足元に。


 魔法陣が広がった。


「一瞬の刃へと変えろ」


 千乃。


「おおおおおおおおおおおおおお!!」


 目が。


 完全に輝いていた。


「ララが知ってる魔力と違うな⋯?前はもっとこう⋯真っ黒だった!


不思議そうに千乃を見上げる。


「たしかに!前は黒だったかも」


 真銀は。


 最後に。


「――蒼星天(ブルースター・ヘヴン)穿(・ピアース)


 空間が。


 震えた。


 真銀の周囲に。


 無数の青い光が現れる。


 それは。


 星。


 そして。


 次の瞬間。


 星の光が。


 一斉にパイライトへ向かった。


「なっ!?」


 パイライトが剣を構える。


「ぐっ!」


 ドォォォォォォン!!


 爆発。


 地面が抉れる。


 城の壁が。


 吹き飛んだ。


「壁!?」


 千乃が叫ぶ。


「直る!」


 カイルが言った。


「分かってるけど!」


 崩れた壁が。


 数秒後。


 ごごごごご……。


 と。


 勝手に元へ戻っていく。


「便利すぎる……」


 パイライトは。


 煙の中から姿を現した。


「……」


 真銀を見る。


「……厨二病か?」


「何?」


「今の技名」


「……」


 真銀が少し黙った。


「格好いいだろ」


「……」


 パイライトは。


 黙った。


「……」


「……」


 そして。


「……いいな」


「は?」


 真銀が目を丸くした。


 パイライトが。


 剣を構える。


「私もやる」


「何を?」


「今の」


「やめろ」


「真似する」


「やめろ」


 パイライトの周囲に。


 魔力が集まる。


 そして。


 片手を前へ出した。


「……」


 千乃が。


「お」


 と呟いた。


 パイライトは。


 真剣な顔で。


 詠唱を始める。


「大地に眠りし」


 真銀。


「……」


「無数の」


 カイル。


「……」


「……すごいパワーよ」


「ちょっと待て」


 真銀が止めた。


「何だ?」


「今、すごいパワーって言った?」


「言った」


「そこ、考え直せ」


「なぜだ?」


「もっとあるだろ」


「大地に眠りし、無数のすごいパワー」


「悪化した!?」


 千乃が笑いを堪える。


 パイライトは続ける。


「我が手に応え」


 地面が震える。


「めちゃくちゃ強い力となり!」


「おい」


 真銀。


「敵を!」


 パイライトが。


 勢いよく指差す。


「ものすごく!」


「もうやめろ」


「すごく!」


「やめろ!!」


「すごい勢いで!」


 魔力が暴れ始めた。


「吹っ飛ばせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 そして。


 パイライトは。


 叫んだ。


「――超すごい! めちゃ強パワー!!」


「クソダサぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッ!?」

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