帰国
長い旅路の果て。
一行は、ついに見慣れた景色へと戻ってきた。
遠くに見えるのは、星霜王国。
そして、その中心にそびえ立つ巨大な城。
――星氷神城。
白銀の城壁には無数の氷晶が輝き、陽の光を受けて星のようにきらめいている。
この城を作ったのは、千乃自身。
魔法によって生み出された、星霜王国の象徴ともいえる城だった。
「……帰ってきたな」
真銀が城を見上げる。
「うん!」
千乃も嬉しそうに頷く。
「やっぱりここが落ち着くなぁ」
城門へ近づくと。
門番たちが一斉に姿勢を正した。
「千乃様!」
「真銀様!」
二人へ深々と頭を下げる。
「おかえりなさいませ!」
「ただいまー!」
千乃が手を振る。
「お疲れ様です」
真銀も軽く頭を下げる。
城門がゆっくりと開いていく。
その先には、懐かしい星氷神城の景色が広がっていた。
「わぁ……!」
ララが目を輝かせる。
「帰ってきたー!」
ライは周囲を見回す。
「やはり落ち着くな」
「そうですね」
アイシィも微笑む。
「帰りましたら、みんなでゆっくり食事にしましょうか」
「賛成!」
千乃が即答する。
「俺も賛成だ」
真銀も頷く。
「我も異論はない」
ミルも堂々と答える。
「ミルも食べるの!?」
「我とて食事くらいする」
「そっか!」
千乃が笑う。
こうして。
魔王討伐を終えた一行は。
再び、星霜王国へと帰還した。
星氷神城。
千乃が魔法で作り上げたその城には。
今日もまた、彼らの日常が戻ってきた。
星氷神城へ戻った一行は、城内へと入っていった。
長い旅を終えた千乃は、廊下を歩きながら大きく伸びをする。
「ただいまー!」
すると。
「千乃さんっ!!」
遠くから声が響いた。
「ん?」
千乃が振り返る。
そこには。
勢いよく走ってくるラブリー・スミスの姿があった。
「おかえりなさいませぇぇぇ!!」
「ラブリーさん!」
千乃も笑顔になる。
「無事だったんですね!」
「うん! ちゃんと帰ってきたよ!」
ラブリーは千乃の周りをぐるぐると回る。
「本当に心配したんですよぉ!」
「ごめんごめん」
「魔王城ですよ!? 魔王城!」
「うん」
「しかも魔王と戦ったんですよね!?」
「うん」
「怖くなかったんですか!?」
「まあ……ちょっとは?」
「ちょっと!?」
ラブリーが目を丸くする。
「千乃さん、相変わらずですねぇ……!」
その横で、真銀が苦笑する。
「ラブリーも元気そうでよかった」
「真銀様も! ご無事で何よりです!」
「ありがとう」
ララがぴょんと跳ねる。
「ラブリー!」
「ララちゃん!」
ライも静かに近づく。
「久しぶりだな」
「ライさんもお元気そうで!」
アイシィが続く。
「ラブリーさん、お久しぶりです」
「アイシィさんも!」
そして。
「……ところで」
ラブリーが一行を見回す。
「カイルさんは?」
「いるぞ!!」
後ろから声が飛んできた。
全員が振り返る。
カイルが胸を張って立っていた。
「俺はここにいる!」
「……あ」
ラブリーが少しだけ困った顔をする。
「そうでしたね」
「その反応はなんだ!?」
ユラが淡々と告げる。
「おまけです」
「ユラまで!?」
千乃が吹き出す。
「ふふっ」
「千乃まで笑うな!」
星氷神城に。
久しぶりの賑やかな声が響き渡った。
ひとしきり再会を喜んだあと。
カイルが、突然真剣な顔になった。
「……なあ」
全員がカイルを見る。
「どうした?」
真銀が尋ねる。
カイルは腕を組み、星氷神城の広い廊下を見渡した。
「俺も、ここに住ませてくれないか?」
「……」
一瞬。
城内が静まり返った。
千乃が首を傾げる。
「ここに?」
「ああ!」
カイルは堂々と頷く。
「魔王を倒した勇者である俺が、この素晴らしい城に住む!」
「自分で言うんだ……」
千乃が呟く。
「もちろんだ!」
カイルは胸を張る。
「それに、この城は広い。部屋も余っているだろう?」
「まあ……そうだけど」
千乃が真銀を見る。
「どうする?」
「俺は別に構わないぞ」
真銀が答える。
「勇者として一緒に戦ってくれたんだ。住むくらいならいいだろ」
「本当か!?」
カイルの顔がぱっと明るくなる。
「よし!」
そのまま両手を広げる。
「今日からここが俺の新たなる――」
「ただし」
千乃が遮った。
「?」
「変なことしたら追い出すからね」
「しない!」
「あと、勝手に人の部屋に入らない」
「分かった!」
「食堂のお菓子を勝手に食べない」
「……分かった!」
「鏡の前で長時間ポーズを取らない」
「それは必要な時間だ!」
「追い出すよ?」
「分かった!」
カイルが即座に姿勢を正す。
ユラが淡々と告げた。
「居住許可を確認しました」
「よし!」
カイルが拳を握る。
「俺も今日から星氷神城の住人だ!」
ララが嬉しそうに跳ねる。
「おまけ勇者も住むんだ!」
「だから俺はおまけじゃない!!」
城内にカイルの叫び声が響く。
千乃は笑いながら歩き出した。
「じゃあ、部屋探しに行こっか」
「俺の部屋は一番眺めのいいところで頼む!」
「なんで!?」
「勇者だからだ!」
「はいはい」
「適当に流すな!」
こうして。
勇者カイルもまた、星氷神城の住人となった。
カイルの部屋が決まった。
千乃たちが暮らすフロアの一角。
しかし。
「……」
カイルは部屋の中を見渡した。
「何もないな」
「そりゃ、まだ部屋だけだからね」
千乃が答える。
「家具とか、好きなのにしていいよ」
「ならば!」
カイルの目が輝いた。
「俺の理想の部屋を作ってくれ!」
「私が?」
「そう!」
千乃は少し考える。
「まあ、いいけど」
千乃が部屋の中央へ歩いていく。
「じゃあ、作るね」
指先を軽く動かす。
すると。
床から淡い光が広がった。
何もなかった部屋に、次々と家具が現れていく。
まずは大きなベッド。
「ベッドは大きめで!」
「はいはい」
さらに、立派な机。
「机はここ!」
「ここね」
壁際に机が現れる。
「椅子は高級感のあるやつ!」
「了解」
椅子が現れる。
「カーテンは白と青!」
「分かった」
窓に白と青のカーテンが取り付けられる。
「照明は少し暗めで、でも俺の顔が綺麗に見えるように!」
「……」
千乃が一瞬だけ止まった。
「そこまで注文する?」
「当然だ!」
「はいはい」
照明が調整される。
「それから――」
カイルの注文は止まらない。
「本棚は大きめ!」
「了解」
「衣装を入れる場所も!」
「はい」
「剣を飾れる場所も欲しい!」
「分かった」
「あと、俺が寝るときに星空が見えるような――」
「それは魔法で作れるよ」
「本当か!?」
「うん」
天井へ魔法陣が浮かぶ。
すると、天井いっぱいに美しい星空が広がった。
「おお……!」
カイルが感動する。
「素晴らしい……!」
そして。
「最後に!」
カイルが指を一本立てる。
「大きな鏡を!」
「鏡?」
「ああ!」
千乃がため息交じりに笑う。
「……必要?」
「勇者には必要だ!」
「はいはい」
千乃が手をかざす。
壁際に。
人一人がすっぽり映るほどの、大きな鏡が一枚現れた。
カイルが鏡の前へ立つ。
「…………」
数秒。
髪を整える。
角度を変える。
マントを翻す。
「完璧だ」
「何してるの?」
「自分の完成度を確認している」
「部屋できたばっかりなんだけど」
「だからこそだ!」
カイルは満足そうに頷く。
「最高の部屋だ!」
千乃は部屋を見渡す。
「細かい注文、多かったけど……まあ、ちゃんとできたね」
「ありがとう、千乃!」
「どういたしまして」
真銀が入口から部屋を覗く。
「……思った以上にカイルらしい部屋になったな」
ララも顔を出す。
「鏡おっきー!」
ライが鏡を見る。
「……必要なのか?」
「必要だ!」
カイルが即答する。
アイシィも部屋を眺める。
「素敵なお部屋になりましたね」
「だろう?」
カイルが胸を張る。
ユラが淡々と告げた。
「鏡の使用目的の九割八分が自己確認になると予測します」
「具体的すぎるだろ!!」
こうして。
カイルの部屋は、本人の細かすぎる要望をほぼすべて反映した、妙に豪華な部屋へと完成した。




