エレノア&アルテラ
魔王を倒した一行は、自分たちの国へ向かって歩いていた。
魔王城から離れ、しばらく経った頃。
千乃と真銀は、並んで歩いていた。
「ねえ、真銀」
「ん?」
「そういえばさ」
千乃が首を傾げる。
「私たちって、どうやってこの世界に転生したんだっけ?」
「ああ……」
真銀も少し考える。
「そういえば、ちゃんと話したことなかったな」
「だよね」
二人は顔を見合わせる。
「じゃあ、話してみる?」
「いいぞ」
千乃が先に口を開いた。
「私の場合はね、チャラい感じの女神様だった」
「……チャラい?」
「うん。めちゃくちゃチャラかった」
「女神なのに?」
「女神なのに」
千乃は遠い目をする。
「どんな感じだったんだ?」
「えっとね……」
千乃は少し考えてから、女神の姿を思い出す。
そして。
「女神様、ピースサイン混じりにさらりと言ったんだよね。」
「だから転生させるネ☆ 特別仕様で♡」
「って。」
「…………」
真銀が黙る。
「……それは」
「うん」
「本当に女神なのか?」
「私も当時そう思った」
千乃は苦笑する。
「しかも、めちゃくちゃウザいポーズだったんだよ」
「ポーズ?」
「ピースして、ウインクして、片足上げて……」
「……」
「キャルんポーズみたいな感じ」
「女神が?」
「女神が」
真銀はしばらく無言になった。
「……俺のほうは、もっと普通だったぞ」
「どんな人?」
「真面目な感じのおじいさん」
「おじいさんの神様?」
「ああ」
「へえ……」
千乃が興味深そうに真銀を見る。
「どんな感じだった?」
「俺を見て、落ち着いた口調で言ったんだ」
真銀は少しだけ当時を思い出すように目を細めた。
「『君には、この世界で新しい人生を歩んでもらおう』って」
「めっちゃまともじゃん」
「だろ?」
「私の女神様と全然違う……」
千乃は遠い目をする。
「なんで同じ転生なのに、こんなに神様のテンション違うんだろ」
「神にも性格があるんじゃないか?」
「それにしても差がすごいよ」
二人は顔を見合わせる。
「……まあ」
真銀が笑う。
「結果的には、俺たちはこの世界で出会えた」
「うん」
千乃も笑った。
「だったら、どんな神様でも感謝しないとね」
「そうだな」
帰り道。
二人は並んで歩きながら、それぞれがこの世界へ来た日のことを語り合っていた。
しばらく歩いたところで。
千乃が、ふと立ち止まった。
「……ねえ」
「ん?」
「もう一回、あの女神様に会ってみたい」
「……女神様に?」
「うん」
千乃は少しだけ笑う。
「どんな人だったか、真銀にも見てほしい」
「俺も気になるな」
真銀が頷いた。
「一度くらい、会ってみてもいいかもな」
「だよね」
その瞬間。
「呼んだ?」
「「え?」」
二人が同時に振り返る。
そこには。
いつの間にか、一人の女性が立っていた。
女神らしい神々しさはある。
……あるのだが。
やたらと軽い雰囲気だった。
女性は満面の笑みを浮かべ、片手を上げる。
「久しぶり〜! 女神・ノアちゃんでーす!」
「…………」
千乃が固まる。
真銀も固まる。
「え、待って」
千乃が目を見開く。
「本当に来たの!?」
「呼ばれたから来ちゃった☆」
「下界に!?」
「うん!」
あまりにも軽い。
女神・ノアは、にこにこと笑っている。
そして真銀へ向き直る。
「真銀くん、はじめまして。エレノアって言います。以後お見知りおきを〜!」
「……え?」
真銀が戸惑う。
千乃はノアを見る。
「…………」
そして。
「愛称と本名初耳だけど!?」
「えへ☆」
「えへ☆じゃないよ!」
「だって普段はノアちゃんって呼ばれてるから〜」
「私も知らなかったんだけど!?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてない!」
ノアは楽しそうに笑った。
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない!」
「神様がそれでいいの!?」
「いいのいいの〜!」
すると。
ノアは千乃を見る。
「それより千乃ちゃん」
「ん?」
「ちょっとその姿、借りるね」
「え?」
ノアが千乃へ手を伸ばす。
その瞬間。
千乃の身体を覆っていた鬼の魔力が、ふっと消えた。
白く長かった髪が、ゆっくりと色を変えていく。
白から。
メタルピンクへ。
紅かった瞳も変わる。
右目は、神々しい金色。
左目は、鮮やかなピンク。
背中の巨大な黒い翼が消え。
代わりに。
巨大な白い翼が広がった。
「……え?」
千乃が自分の手を見る。
白を基調とした神々しい衣装。
赤と金の装飾。
身体の周囲には、無数の星のような光が舞っている。
「……これ」
「うん!」
ノアが嬉しそうに頷く。
「神化・千乃ちゃん!」
「……神化」
真銀が呟く。
「すごい……」
千乃が翼を見上げる。
「私、戻った……」
「そうだよ」
ノアが笑う。
「鬼月姫だった時間も、全部消えたわけじゃないよ」
「……」
「それも千乃ちゃんの一部だからね」
千乃は少しだけ目を伏せる。
そして。
「……そっか」
ノアが手を叩く。
「じゃ、ちょっと上の世界まで行こっか!」
「え?」
「神様の世界、見てみる?」
「今!?」
「今!」
ノアが千乃の手を取る。
「真銀くんはちょっと待っててね〜!」
「え、千乃!?」
「真銀ー!」
千乃が振り返る。
「すぐ戻ってくるから!」
「分かった!」
そして。
二人の姿が、光に包まれて消えた。
――数分後。
「ただいま〜!」
「早っ!?」
真銀が目を丸くする。
千乃が普通に戻ってきた。
「おかえり……?」
「うん!」
ノアも隣にいる。
「神の世界、どうだった?」
「すごかった!」
千乃は楽しそうに答える。
「でも、やっぱりこっちのほうが落ち着くかも」
「そっか」
するとノアが千乃を見る。
「そうそう!」
「?」
「千乃ちゃん、せっかくだから神としての名前も決めちゃおう!」
「神としての名前?」
「そう!」
ノアが指を鳴らす。
千乃の周囲に、淡い光が集まる。
「鬼月姫が魔に堕ちた千乃ちゃんの名前だったなら」
光がさらに強くなる。
「神となった千乃ちゃんには、神としての名前が必要でしょ?」
千乃が目を見開く。
「……どんな名前?」
ノアが笑う。
「アルテラ」
「……アルテラ」
「うん!」
千乃はその名前を口にする。
「……アルテラ」
不思議と。
その名が、しっくりと馴染んだ。
「今日から千乃ちゃんは、神としてはアルテラ!」
「……アルテラ」
真銀が千乃を見る。
「いい名前だな」
「うん」
千乃が嬉しそうに笑う。
ノアが手を振る。
「じゃあ私はアルちゃんって呼ぶね!」
「いきなり!?」
「だって可愛いじゃん、アルちゃん!」
「私の意見は!?」
「却下〜!」
「ひどい!」
真銀が笑う。
「まあ、いいんじゃないか?」
「真銀まで!?」
ノアは満足そうに頷いた。
「決まり!」
こうして。
鬼としての名は、鬼月姫。
そして。
神としての名は。
――アルテラ。
千乃は新たな名とともに、再びこの世界へ戻ってきた。
魔王を倒した一行は、自分たちの国へ向かって歩いていた。
魔王城から離れ、しばらく経った頃。
千乃は真銀の隣を歩きながら、ふと空を見上げた。
「……ねえ、真銀」
「ん?」
「ミル、呼ぼうかな」
「いいんじゃないか?」
「じゃあ!」
千乃が空へ向かって声を上げる。
「ミルー!」
その声に応えるように。
遠くの空から、純白の巨体が姿を現した。
紅い瞳を輝かせた神龍カミルが、ゆっくりと降下してくる。
「呼んだか、千乃」
「うん!」
ミルは地面へ降り立つ。
「我に何か用か?」
「特に用はない!」
「……そうか」
ミルが少しだけ目を細める。
「ならば何故呼んだ」
「会いたかったから!」
「……」
ミルはしばらく千乃を見る。
「そういうことなら仕方あるまい」
「やった!」
ララが駆け寄る。
「ミルー!」
「ララか」
「元気だった?」
「我はいつでも元気だ」
「ほんと?」
「本当だ」
ライもミルへ近づく。
「久しぶりだな」
「うむ。ライも変わらんな」
「お前もな」
アイシィが丁寧に頭を下げる。
「ミル様、お久しぶりです」
「うむ。アイシィも元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます」
そんなやり取りを眺めながら、真銀が千乃を見る。
「こうして見ると、やっぱりいつもの千乃だな」
「ん?」
「さっきまで神化してたからな」
「ああ」
千乃が自分の髪を指でつまむ。
「でも、髪も目もいつもと同じだよ?」
「そうだったな」
「神化したから色が変わったわけじゃないし」
「分かってる」
真銀は笑う。
「前から知ってる」
「だよね」
千乃も笑った。
ミルが二人を見ながら口を開く。
「それにしても、魔王を倒した直後とは思えぬほど穏やかだな」
「まあ、終わったしね」
千乃が伸びをする。
「帰ったら何食べようかなぁ」
「もう食事のことを考えているのか」
「だってお腹空いたもん」
ララがぴょんと跳ねる。
「ララもお腹空いた!」
「お前はいつもだろ」
ライが即座に突っ込む。
「失礼だよ!」
「事実だ」
「むぅ!」
アイシィが微笑む。
「帰りましたら、みんなでゆっくり食事にしましょうか」
「賛成!」
千乃が笑う。
ミルも翼を軽く動かした。
「では、我も同行するとしよう」
「もちろん!」
こうして。
真銀、千乃、ララ、ライ、アイシィ、ミル。
六人は再び、自分たちの国へ向かって歩き始めた。
魔王との戦いを終えた彼らの帰路は。
まだ、しばらく続く。




