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勇者の悲鳴

 魔王は倒れた。


 戦いは終わった。


 真銀と千乃は、並んで立っている。


「……終わったな」


「うん!」


 千乃が笑う。


 その横で。


「…………」


 カイルが俯いていた。


「…………俺の」


 誰も反応しない。


「俺の……」


 肩が震える。


「**俺の出番なかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!**」


「うるさっ!?」


 ララが飛び跳ねる。


 カイルはその場にしゃがみ込んだ。


「俺、勇者だぞ!?」


「知ってる」


 真銀が答える。


「魔王討伐のために呼ばれた勇者だぞ!?」


「知ってるって」


「なのに!」


 カイルが地面を叩く。


「なのに魔王を倒したのは真銀と千乃!」


「うん」


「俺は!?」


「……」


「俺は何をした!?」


 真銀が少し考える。


「……喋った」


「それだけ!?」


「かなり」


「かなり!?」


 カイルが立ち上がる。


「俺は勇者だぞ!!」


「声が大きい」


「勇者は大きな声を出すものだ!」


「初めて聞いた」


 ライが冷静に突っ込む。


 カイルは真銀の肩を掴む。


「なあ真銀!」


「なんだよ」


「もう一回魔王復活しないか!?」


「しないほうがいいだろ」


「俺のために!」


「絶対嫌だ」


「じゃあ雑魚でもいい!」


「なんで戦いを追加しようとしてるんだよ」


「俺にも必殺技を撃たせてくれ!」


 千乃がくすくす笑う。


「カイル」


「なんだ!」


「さっきの戦いで一番活躍してたよ」


「本当か!?」


「うん」


 カイルの顔が輝く。


「やはり俺は――」


「**うるさかったから**」


「…………」


 固まるカイル。


 ララが笑い出す。


「カイル、すごかったよ!」


「だろう!?」


「千乃が『うるさい』って言ってた!」


「そこじゃない!」


 アイシィも微笑む。


「ですが、結果的には制作者様の意識を引きつけることに成功しました」


「ほら!」


 カイルが胸を張る。


「やっぱり俺の活躍だ!」


 ユラが淡々と告げる。


「なお、主が暗示を破るために利用しただけです」


「……」


「戦闘への直接的な貢献は確認できません」


「…………」


「おまけとしては十分だったかと」


「**おまけって言うなぁぁぁぁぁ!!**」


 魔王城に、勇者の悲鳴が響き渡った。


 カイルはその場に膝をついた。


「……俺の出番……」


 肩を震わせる。


「俺の……華麗なる……」


 真銀がため息をつく。


「まだ言ってるのかよ」


「……いいだろう」


 カイルがゆっくり立ち上がる。


 そして。


 突然、遠くを見つめた。


「ならば……」


「?」


 千乃が首を傾げる。


 カイルは胸に手を当てた。


「**代わりに、俺の話をしよう**」


「何の代わりだよ」


 真銀が即座に突っ込む。


「聞いてくれ」


「嫌な予感しかしない」


「俺がまだ幼かった頃……」


「始まった」


 ララが小声で言う。


「俺は、すでに自分が特別な存在だと理解していた」


「絶対そんなことないだろ」


「真銀、黙って聞け」


「なんでだよ」


「これは勇者カイルの歴史だ」


 カイルは歩き始める。


「幼い頃の俺は、剣を握った」


 剣を抜く。


「初めて振った剣で――」


 間。


「風が吹いた」


「それ普通に風だろ」


「違う」


 カイルが首を横に振る。


「俺の剣技があまりにも美しかったため、風が俺を演出したんだ」


「風を演出家扱いするな」


 ライが呆れたように呟く。


「そして十歳」


 カイルは止まらない。


「俺は初めて魔物と戦った」


「おお……」


 ララが興味津々になる。


「その魔物は俺を見るなり、震え上がった」


「怖かっただけじゃない?」


「違う」


 カイルは真顔。


「俺のオーラに恐れをなした」


「はいはい」


 千乃が笑う。


「そして十五歳」


 カイルが剣を天へ掲げる。


「俺は勇者に選ばれた」


 少しだけ、真面目な顔になる。


「国中が歓喜した」


「……」


「王は涙を流した」


「……」


「民衆は俺の名を叫んだ」


「……」


「女性たちは――」


「そこから先はいらない」


 真銀が遮る。


「なぜだ!?」


「どうせ自慢だろ」


「違う!」


 カイルは拳を握る。


「重要な歴史だ!」


「重要じゃない」


「重要だ!」


 カイルはさらに熱くなる。


「俺は勇者として、多くの魔物を倒してきた!」


「うん」


「多くの人々を救った!」


「うん」


「そして数多くの――」


「モテた話?」


 千乃が言う。


「そう!」


「やっぱり」


「聞いてくれ!」


 カイルは両手を広げる。


「俺は――」


 深呼吸。


「**イケメンだ!!**」


「そこに戻るのかよ!!」


 真銀のツッコミが魔王城に響く。


 カイルは満足そうに頷いた。


「そうだ」


「何が『そうだ』だよ」


「結局、俺という存在を語る上で避けては通れない」


 そして髪をかき上げる。


「俺はカイル」


 キメ顔。


「イケメンの勇者、カイルだ!」


 シーン。


 千乃が真銀を見る。


 真銀も千乃を見る。


 ララ、ライ、アイシィ、ユラも黙っている。


 数秒後。


 ユラがぽつり。


「……制作者」


「ん?」


「この方、以前からずっとこうだったのでしょうか」


「たぶん」


 千乃が苦笑する。


「……大変だったね」


「俺は今も聞こえてるぞ!?」

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