二人を狙う存在
ギルドへ戻ってから数日。
千羽千乃と夜坂真銀は、いつも通り依頼をこなしていた。
討伐。
護衛。
調査。
何を任されても、二人が出れば必ず終わる。
その異変に、最初に気づいたのはギルド長だった。
「……おかしい」
机の上には、各地から届いた報告書が積まれている。
どれも共通していた。
魔獣の行動が変わっている。
人里を襲うのではない。
村を壊すわけでもない。
街道を封鎖するわけでもない。
ただ一つ。
千羽千乃と夜坂真銀が向かった場所へ、必ず現れる。
「偶然……じゃないな」
ギルド長は静かにつぶやいた。
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その日の依頼は、渓谷に現れた飛竜の討伐だった。
「飛竜かぁ。」
千乃は依頼書を見ながら伸びをする。
「空飛ぶ相手は少し面倒だね。」
「任せろ。」
真銀が剣を肩に担ぐ。
「落ちてきたところを斬ればいい。」
「それ、簡単に言うね。」
二人は笑いながら渓谷へ向かった。
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飛竜はすぐに見つかった。
しかし。
「……一匹じゃない。」
真銀が空を見上げる。
雲の向こうから、もう一体。
さらに一体。
三体。
五体。
十体。
「増えてない?」
千乃が苦笑する。
「依頼書には一匹って書いてあったよね。」
「書いてあった。」
「詐欺だ。」
二人がそんな話をしている間にも、飛竜は集まり続ける。
普通なら撤退する状況だった。
しかし。
飛竜たちは襲ってこない。
全員が千乃だけを見ていた。
「……何?」
千乃が首をかしげる。
次の瞬間。
飛竜たちが一斉に咆哮した。
その声は空気を震わせるだけではない。
まるで何かを呼んでいるようだった。
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渓谷全体が揺れる。
地面に亀裂が走る。
その奥から、巨大な黒い腕が現れた。
「今度は何?」
千乃が思わずつぶやく。
腕は地面をつかみ、自らの身体を引き上げる。
全長二十メートルを超える巨体。
黒い鎧のような皮膚。
頭部には二本の角。
だが、その顔には目も口もない。
代わりに胸の中央が光っていた。
真紅に。
「……初めて見る。」
真銀が剣を構える。
「俺も。」
千乃はノートを取り出す。
その瞬間だった。
ノートが勝手に開く。
ページが一枚だけめくれる。
そこには見覚えのない文字が浮かび上がっていた。
対象名。
世界修正体。
「世界修正体?」
千乃は眉をひそめる。
その下には、さらに文章が続いていた。
世界修正体。
世界が異常を修正するために生み出す存在。
対象。
千羽千乃。
夜坂真銀。
「……え?」
思わず声が漏れる。
真銀も横からノートを見る。
「俺たちが……対象?」
答えるように、巨大な存在が一歩踏み出した。
ドォン、と渓谷が揺れる。
そして初めて声を発した。
「――修正対象、確認。」
低く響く機械のような声。
「排除を開始する。」
千乃と真銀は顔を見合わせた。
「……私たち、世界にケンカ売った覚えないんだけど。」
「向こうはあるらしい。」
真銀は苦笑しながら剣を構える。
千乃もゆっくりとノートを閉じた。
「なら。」
口元に笑みが浮かぶ。
「勝てばいいだけだね。」
二人は同時に地面を蹴った。
世界が生み出した初めての敵と、本当の戦いが始まる。




