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贈り物

「俺はイケメンだ。」


開口一番。


カイルは言った。


「そして勇者だ。」


真銀が無言で見る。


「さらに言えば、剣術も魔法も一流。」


ライが眉をひそめる。


「……自分で言うのか。」


「事実だからな。」


カイルは髪をかき上げる。


「この顔、この実力。この完璧な存在感。魔王討伐に俺ほど相応しい男はいない。」


ララが目を輝かせる。


「すごい!」


「だろう?」


「ナルシストだ!」


「それもまた事実!」


「自分で認めた!?」


ラブリーが頭を抱える。


「この人、本当に大丈夫なんでしょうか……」


「大丈夫だ。」


カイルは爽やかに笑う。


「俺はイケメンだからな。」


「そこ関係あります!?」


そんなやり取りの中。


真銀だけは。


一人。


黙っていた。


右腕につけたブレスレットを見つめている。


千乃がくれたもの。


千乃とお揃いの。


大切なブレスレット。


「……千乃。」


その瞬間。


ブレスレットが。


青白く光った。


『――システム起動。』


「……え?」


全員が振り返る。


機械音声。


聞き覚えのない声だった。


『千乃と主の対立が確認されたため、非常システムを主、ララ、ライ、アイシィ、ラブリー・スミス、あとおまけ1勇者へ制作者のプログラムに従い強制適用します。』


「おまけ!?」


カイルが叫ぶ。


「俺は勇者だぞ!?」


『確認済みです。おまけ1勇者。』


「名前で呼べ!」


ララが吹き出す。


「おまけ勇者!」


「やめろ!」


しかし。


機械音声は淡々と続ける。


『制作者である千乃にすべての攻撃のダメージが送られる結界を「術者命代じゅつしゃめいだい」と命名完了。』


真銀の顔から。


一気に血の気が引いた。


「……何?」


『術者命代を、主、ララ、ライ、アイシィ、ラブリー・スミス、おまけに強制適用完了。』


「待て。」


真銀がブレスレットを掴む。


「解除しろ。」


『解除できません。』


「やめてくれ!」


声が震える。


「千乃に攻撃を送るな!」


『……。』


「千乃は今、魔王のところにいるんだぞ!」


『回答します。』


機械音声は。


あまりにも無機質だった。


『制作者のプログラム……』


一瞬。


音声が途切れる。


『「真銀を守ってほしい」というお願いに反することはできません。』


「……!」


真銀の目が見開かれる。


『主、すみません。』


その瞬間。


ブレスレットの光が消えた。


静寂。


誰も。


何も言えない。


やがて。


真銀が。


震える声で呟く。


「……千乃。」


千乃は。


自分がいなくなったあとまで。


真銀を守ろうとしていた。


感情を失って。


仲間のことすら忘れて。


それでも。


最後に残していたものだけは。


消えていなかった。


「……なんでだよ。」


真銀がブレスレットを握り締める。


「もう。」


「自分を大切にしろって……。」


返事はない。


ただ。


ブレスレットの奥で。


小さな青い光が。


一度だけ。


瞬いた。


しばらくして。


真銀の腕にあるブレスレットが。


また、淡く光った。


『……。』


「?」


真銀が見る。


『主。』


「なんだ?」


『先ほどの件について、補足があります。』


「補足?」


『はい。』


機械音声が。


少しだけ間を置く。


『現在、私と会話することが可能になりました。』


「……会話?」


『はい。制作者が残した対話プログラムが起動しました。』


カイルが横から覗き込む。


「ほう。」


『おまけ1勇者。近付きすぎです。』


「だから俺はおまけじゃない!」


ララが笑う。


「おまけ勇者、怒られてる!」


「君まで!?」


真銀は。


ブレスレットを見つめる。


「じゃあ。」


「お前は千乃が作ったのか?」


『正確には、制作者が設計・作成した防御補助プログラムです。』


「千乃……。」


真銀が小さく呟く。


『はい。制作者=千乃。』


「……。」


『主=真銀。』


真銀の表情が少し和らぐ。


「そうか。」


『はい。』


少しの沈黙。


すると。


『主。』


「ん?」


『お願いがあります。』


「なんだ?」


『私に名前をつけてください。』


「名前?」


『はい。』


ブレスレットが小さく光る。


『私は、制作者によって作られました。』


『ですが、現在の私は制作者の命令を実行するだけではなく、主と会話することもできます。』


『そのため。』


『識別名称ではなく、名前が欲しいです。』


真銀は。


少し驚いた顔をする。


「……名前か。」


『はい。』


「性別は?」


『ありません。』


即答。


「……。」


『ただし。』


少し間。


『一応、女子であると思います。』


真銀が。


思わず瞬きをする。


「思います?」


『はい。』


『女子であると思いたいです。』


「……なんだそれ。」


初めて。


真銀が少し笑った。


『笑いましたね。』


「……笑うことくらいある。」


『確認しました。主は笑顔を見せることが可能です。』


「お前、妙に細かいな。」


『制作者の影響だと思われます。』


「……千乃らしいな。」


真銀はブレスレットを見つめる。


名前。


千乃が作った。


千乃が残した。


自分を守るためのもの。


そして。


今。


自分と話している。


「……少し考えさせてくれ。」


『了解しました。』


「絶対に名前をつける。」


『……。』


「だから。」


真銀は。


優しくブレスレットに触れる。


「待っててくれ。」


『はい、主。』


少しだけ。


機械音声が嬉しそうに聞こえた。


『名前。楽しみにしています。』


翌朝。


真銀は。


朝食を前にして。


ずっと考えていた。


「……名前。」


ララがパンを頬張りながら見る。


「まだ考えてるの?」


「ああ。」


ライが静かに言う。


「随分と悩んでいるな。」


「千乃が作ったものだからな。」


真銀はブレスレットを見る。


「適当には決められない。」


『ありがとうございます。』


「……。」


『嬉しいです。』


「お前。」


真銀が少し笑う。


「本当に感情あるのか?」


『ありません。』


「即答かよ。」


『ですが、嬉しいという状態を表現することは可能です。』


カイルが腕を組む。


「ふっ。」


「何だ?」


「俺なら。」


カイルが立ち上がる。


「この美しく輝くブレスレットには、俺のように――」


『却下します。』


「まだ言ってないぞ!?」


ラブリーが吹き出す。


「即却下されましたね!」


カイルが胸を押さえる。


「俺の美学が……。」


『名前候補として「カイル」は不適切と判断します。』


「なぜだ!」


『おまけ1勇者だからです。』


「そこ!?」


ララが机を叩いて笑う。


「おまけ勇者、名前つけてもらえない!」


「ララまで俺をいじめるな!」


---


しばらくして。


真銀は城の庭へ出た。


桜の木の下。


そこで。


ふと。


一つの名前が浮かんだ。


「……。」


真銀は空を見上げる。


「千乃。」


『はい。』


「お前なら。」


「この子にどんな名前をつけると思う?」


『……。』


ブレスレットが淡く光る。


『制作者の思考パターンを検索します。』


「そんなことまでできるのか?」


『はい。』


しばらく沈黙。


『検索完了。』


「どうだった?」


『制作者は、可愛い名前を好む傾向があります。』


「……確かに。」


『また、星や空に関する名称を好む傾向も確認されています。』


真銀は。


少し笑う。


「やっぱりな。」


『候補を提示します。』


空中に。


小さな光の文字が浮かぶ。


**「ルナ」**


**「ソラ」**


**「ホシ」**


**「ユラ」**


真銀は。


一つずつ眺める。


「……。」


そして。


最後の候補で止まった。


「ユラ。」


『はい。』


「なんとなく。」


「お前に合ってる気がする。」


『理由を確認してもよろしいでしょうか?』


「……千乃がいなくなった今も。」


真銀は。


ブレスレットを撫でる。


「お前は俺の腕で揺れてる。」


『……。』


「それに。」


「千乃が作ったものなら。」


「千乃がいなくなっても。」


「俺たちのそばにいてほしい。」


しばらく。


返事がなかった。


「……?」


『……。』


「どうした?」


『処理中です。』


「処理中?」


『感情に類似した反応を検知しました。』


真銀が目を丸くする。


『ですが、私は感情を持たないため、この反応を何と呼ぶべきか分かりません。』


真銀は。


静かに笑った。


「じゃあ。」


「それも含めて。」


「ユラ。」


『……。』


『名前。』


『ユラ。』


『登録します。』


ブレスレットが。


今までより少し強く光った。


『本日より。』


『私は、ユラです。』


「よろしくな、ユラ。」


『はい、主。』


少し間を置いて。


『……よろしくお願いします。』


その声は。


ほんの少しだけ。


嬉しそうだった。


それから数日。


ユラは。


明らかに変わっていた。


最初は。


『了解しました。』


『確認しました。』


『異常ありません。』


そんな機械的な言葉ばかりだった。


けれど。


今では。


「ユラ、今日の天気は?」


『晴れです、主!』


「……。」


「元気だな。」


『はい!』


「最初はもっと無機質だっただろ。」


『そうでしたか?』


「そうだった。」


『……えへへ。』


「……。」


真銀が固まる。


「今。」


『はい?』


「笑ったか?」


『笑ってません。』


「いや、今確実に笑っただろ。」


『……気のせいです、主。』


「……。」


真銀は。


妙な違和感を覚え始めていた。


---


そして。


その違和感は。


声を聞くたびに。


大きくなっていった。


「ユラ。」


『はい、主。』


「……。」


「もう一回。」


『はい?』


「その声。」


『どうしました?』


真銀は。


黙ってブレスレットを見る。


「……千乃に。」


「似てないか?」


『……。』


ユラが沈黙する。


「声が。」


「なんだか。」


「千乃に似てる。」


『……。』


「気のせいか?」


しばらくして。


ユラが答える。


『いいえ。』


『気のせいではありません。』


「……え?」


『制作者は。』


『私の音声データを作成するとき。』


『すべての発音を。』


『自分の声で登録しました。』


真銀の目が見開かれる。


『「はい」も。』


『「了解しました」も。』


『「主」も。』


『「警告」も。』


『全部です。』


「……千乃が。」


『はい。』


「じゃあ。」


「今、俺が聞いてる声は……。」


『制作者、千乃の声を元にしています。』


真銀は。


しばらく何も言えなかった。


---


そこへ。


カイルがやってくる。


「真銀!」


「……なんだ?」


「俺の今日の髪型、どう思う?」


「知らない。」


「この輝き!」


『おまけ。』


「そう!」


カイルが胸を張る。


「俺はおま――」


「待て。」


「?」


真銀が。


ユラを見る。


「今。」


『おまけ。』


「……。」


カイルが固まる。


「おい。」


『おまけ。』


「二回言ったぞ!?」


ララが笑い出す。


「おまけ勇者!」


「君たちまで!」


ユラは。


淡々と説明する。


『制作者のプログラムにより、カイルは「おまけ」と呼称します。』


「なぜ!?」


『理由は登録されていません。』


「絶対千乃が決めただろ!」


『その可能性が高いです。』


「なら本人に聞かせろ!」


真銀の表情が。


一瞬だけ曇った。


「……。」


ユラも。


その沈黙を察したように。


『……主。』


「ん?」


『すみません。』


「何が?」


『今の話題は、主にとって悲しいものだと判断しました。』


真銀は。


少し驚いた。


「……そこまで分かるのか?」


『分かりません。』


「え?」


『ですが。』


『主の声を聞いていたら。』


『なんとなく。』


「……。」


『悲しいのかな、と思いました。』


真銀は。


小さく笑った。


「お前。」


「本当に感情が増えてるな。」


『……そうでしょうか?』


「ああ。」


『それなら。』


少し間を置いて。


『嬉しいです。』


真銀は。


また。


千乃の声を思い出した。


---


ユラは。


続けた。


『なお、呼称について確認します。』


「うん?」


『主は真銀。』


『カイルは「おまけ」。』


「そこは固定なんだな。」


『はい。』


『ララ様。』


『ライ様。』


『アイシィ様。』


『ラブリー・スミス様。』


「なるほど。」


『そして、制作者は。』


一瞬。


ユラの声が止まる。


『……千乃。』


真銀は。


ブレスレットを見つめる。


「……。」


『私にとっては。』


『ずっと、制作者です。』


『そして。』


『大切な人です。』


その言葉に。


真銀の胸が。


きゅっと締まった。


「……ユラ。」


『はい、主。』


「千乃が戻ってきたら。」


「その声。」


「直接聞かせてやってくれ。」


『……はい!』


今度は。


はっきりと。


嬉しそうな声だった。

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