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真銀の本音

翌朝。


星空の城。


昨日の桜吹雪が嘘のように。


庭には穏やかな朝日が差し込んでいた。


「おはよー!」


千乃が食堂へ入る。


「おはようございます、千乃さん!」


ラブリーが元気よく手を振る。


「朝から元気だねぇ。」


「復活したばかりですから!」


「それ関係ある?」


「大いにあります!!」


真銀が席に着きながら呟く。


「復活してから、前よりうるさくなったな。」


「聞こえていますよ、真銀さん!!」


「聞こえるように言った。」


「ひどい!」


ララが笑い出す。


「いつものラブリーさんだ!」


ライも小さく笑う。


「戻ってきたということだな。」


アイシィも頷く。


「ええ。」


千乃はその光景を眺めながら。


ふっと笑った。


「……。」


「なんか。」


「いいね。」


真銀が千乃を見る。


「何が?」


「こういうの。」


「何でもない朝。」


「みんながいて。」


「騒がしくて。」


ラブリーが即座に反応する。


「騒がしいとは失礼ですね!」


「やっぱり騒がしい。」


「真銀さん!!」


---


食事が終わる。


千乃が立ち上がる。


「じゃあ、今日は街に行ってこようかな。」


「俺も行く。」


「うん。」


二人が歩き出す。


ララが後ろから叫ぶ。


「私も行くー!」


「俺も。」


「私もご一緒します。」


「もちろん私も!!」


千乃が振り返る。


「……。」


「全員?」


全員が頷く。


「全員です!!」


「……まぁ、いっか。」


城を出る。


街へ続く道。


桜の花びらが。


まだ少しだけ舞っている。


昨日までとは。


何も変わらない道。


でも。


千乃には。


少し違って見えた。


---


街に着く。


店。


人。


笑い声。


子どもたちの声。


いつもの日常。


千乃は歩きながら。


ふと立ち止まる。


「……。」


真銀が気付く。


「どうした?」


「ううん。」


千乃は笑う。


「なんでもない。」


そして。


また歩き出す。


今度は。


真銀の隣で。


ゆっくりと。


街へ向かう道。


朝の光が城壁を照らしている。


千乃は真銀と並んで歩き、その後ろをララ、ライ、アイシィ、そしてラブリーが続いていた。


「今日はどこ行く?」


ララが跳ねる。


「まずはお菓子屋さん!」


「昨日も行っただろ。」


ライが淡々と返す。


「昨日と今日では違う日だよ!」


「理屈になっていない。」


「でも行きたい!」


「……。」


ライは少し考えて。


「帰りに寄るなら構わない。」


「やったー!」


「ライ、ララに甘いね。」


千乃が笑う。


「主が笑っているなら、それでいい。」


「……さらっと言うなぁ。」


ラブリーがすかさず記録結晶を取り出す。


「今の発言、永久保存です!」


「ラブリーさん、記録しすぎ。」


いつもの朝。


いつもの騒がしさ。


そんな中。


真銀だけが、少し後ろを歩いていた。


千乃が気付く。


「真銀?」


「ん?」


「どうしたの?」


「いや。」


真銀は街の方を見る。


「この国も。」


「ずいぶん変わったなって思って。」


---


建国したばかりの頃。


何もなかった土地。


千乃が魔法で城を作り。


街を整え。


人が集まり。


少しずつ国になっていった。


その全部を。


二人は見てきた。


「最初は。」


真銀が言う。


「こんな場所になるなんて思ってなかった。」


千乃は笑う。


「私も。」


「ただ。」


「自分たちが安心して暮らせる場所が欲しかっただけ。」


「それが。」


「いつの間にか国になってた。」


---


街に入る。


住民たちが二人に気付く。


「千乃様!」


「真銀様!」


手を振る。


千乃も笑顔で手を振り返す。


「おはよう!」


「今日もいい天気ですね!」


「はい!」


その光景を。


真銀は黙って見ていた。


そして。


小さく笑った。


「……。」


千乃が横目で見る。


「何?」


「いや。」


「幸せだなと思って。」


千乃は少し驚いて。


「……うん。」


---


その時。


街の外から。


大きな音が響いた。


ドォンッ!!


全員が振り返る。


「何!?」


ララが耳を立てる。


ライの表情が変わる。


「魔物か。」


「数は?」


「分からない。」


真銀が前へ出る。


「千乃。」


「うん。」


千乃も構える。


だが。


ライが一歩前へ出た。


「主。」


「ここは俺に任せろ。」


千乃が少し目を見開く。


「ライ?」


「いつも主ばかりが前に出る必要はない。」


「俺たちがいる。」


---


千乃は。


一瞬だけ黙る。


そして。


ふっと笑った。


「……そうだね。」


「じゃあ。」


「お願い。」


ライが頷く。


「承知した。」


ララも飛び出す。


「私も!」


「お前は待て。」


「なんで!?」


「街を壊す。」


「えー!?」


アイシィが苦笑する。


「ララは私と一緒に行きましょう。」


「はーい!」


三人が駆けていく。


---


千乃は。


その背中を見送る。


昔なら。


絶対に自分が行っていた。


全部。


自分で片付けようとしていた。


でも。


今は。


違う。


「……。」


真銀が隣に立つ。


「少しは頼れるようになったな。」


「私?」


「ああ。」


千乃は笑う。


「みんなが頼ってって言ってくれるから。」


真銀も笑う。


「なら。」


「これからも頼れ。」


---


遠くから。


魔物を追い払ったライたちが戻ってくる。


ララが胸を張る。


「終わったよー!」


アイシィも頷く。


「問題ありません。」


ライは千乃を見る。


「主。」


「無事だ。」


千乃は笑う。


「おかえり。」


その一言に。


ライの尻尾が。


ほんの少しだけ揺れた。


「……ただいま。」


街に。


また。


いつもの日常が戻ってきた。


街から城へ戻った夕方。


庭には。


昼間の騒ぎが嘘のような静けさが戻っていた。


千乃は桜の木の下で。


一人、空を見上げている。


「……。」


その手には。


一枚の桜の花びら。


「千乃。」


後ろから真銀の声。


「ん?」


「少し話していいか。」


「もちろん。」


真銀は千乃の隣に立つ。


しばらく。


二人とも何も言わなかった。


---


「今日。」


真銀が口を開く。


「ライが言ってたこと。」


「……うん。」


「お前。」


「少し嬉しかっただろ。」


千乃は笑う。


「分かる?」


「分かる。」


「そっか。」


千乃は桜を見る。


「昔だったら。」


「絶対、自分で行ってたと思う。」


「私がやらなきゃって。」


真銀が頷く。


「だろうな。」


「でも。」


千乃は少し俯く。


「今は。」


「みんながいるって。」


「ちゃんと分かってきた気がする。」


---


真銀は。


千乃を見る。


「それなら。」


「もう一つ。」


「分かってほしい。」


「?」


「お前は。」


「誰かを守ることばかり考えすぎる。」


千乃は黙る。


「守ろうとするのはいい。お前が誰かを大切にしたいって気持ちは、俺だって分かってる。……だからこそ、もう少し自分を大切にしてくれ。」


千乃の瞳が揺れる。


「……。」


「真銀。」


「ん?」


「私。」


「ちゃんとできるかな。」


真銀は笑う。


「最初から完璧にできる必要なんてない。」


「少しずつでいい。」


「俺たちがいる。」


---


千乃は。


しばらく黙っていた。


そして。


小さく笑う。


「……分かった。」


「約束する。」


「自分のことも。」


「ちゃんと大切にする。」


真銀は頷く。


「それでいい。」


---


その様子を。


少し離れた場所から見ていたライ。


ララが小声で聞く。


「行かなくていいの?」


「今は。」


ライは二人を見る。


「真銀がいる。」


「俺が出る必要はない。」


アイシィも微笑む。


「仲間に任せることも。」


「守ることの一つですね。」


ライは頷く。


「そうだ。」


そして。


静かに呟く。


「主が一人で背負わなくてもいいように。」


「俺たちがいる。」


---


夕暮れの庭。


桜の木。


千乃と真銀。


少し離れた場所に仲間たち。


誰も一人ではない。


風が吹く。


花びらが一枚。


千乃の手のひらから。


静かに空へ舞い上がった。


街から戻ったその日の夜。


星空の城。


夕食を終えた千乃たちは、いつものように大広間で過ごしていた。


ララはソファの上で跳ね回り。


ライは窓辺で外を眺め。


アイシィは暖炉の近くで小さく丸まっている。


ラブリーはというと。


「では本日の記録を確認しましょう!」


大量の記録結晶を机いっぱいに並べていた。


「多い多い。」


千乃が笑う。


「今日だけで何個撮ったの?」


「二十七個です!」


「多いって!」


真銀も呆れたように笑う。


「一日の記録量じゃないだろ。」


「大切な日常ですから!」


ラブリーは胸を張る。


その様子を見ながら。


千乃は窓の外へ視線を向けた。


星空。


城壁。


そして。


その向こうに広がる街。


「……。」


ここが。


自分たちの国。


自分たちの帰る場所。


そう思うと。


胸の奥が少しだけ温かくなった。


---


その時。


遠くから。


鐘の音が鳴った。


ゴォン。


ゴォン。


普段とは違う。


警戒を知らせる鐘。


全員の表情が変わる。


「……何?」


千乃が立ち上がる。


ライがすぐに窓へ向かう。


「城壁の外。」


「何か来る。」


真銀も立つ。


「魔物か?」


「分からない。」


アイシィがゆっくり立ち上がる。


「……。」


空気が。


冷たくなる。


「かなりの数ですね。」


ララの耳がぴんと立つ。


「いっぱい?」


「ああ。」


ライが答える。


「かなりいる。」


千乃が窓から外を見る。


城壁の向こう。


暗闇の中に。


いくつもの赤い光が浮かんでいた。


「……。」


千乃の翼が。


ゆっくり開く。


「行こう。」


だが。


ララが千乃の前に立った。


「千乃は待ってて!」


「ララ?」


「ここはララたちがやる!」


いつもの笑顔。


けれど。


その目には。


いつもと違う強さがあった。


---


城門前。


敵の群れが迫ってくる。


その前に。


ララが立つ。


白くふわふわした小さな姿。


敵から見れば。


ただの小さなうさぎ。


「……。」


ララは。


にこっと笑った。


「ここは。」


「みんなが帰ってくる場所だよ。」


その声は。


いつもの明るい声。


「だからララ。」


一歩。


前へ。


「絶対に壊させない!」


次の瞬間。


白い魔力が爆発する。


「ララ、怒ったら怖いもんね!」


にっこり。


「ずばばばばーってなるし!」


白い光が。


夜の城門を覆った。


---


その隣。


アイシィが静かに前へ出る。


小さな身体から。


巨大な魔力が広がる。


足元から。


氷が走る。


「……。」


敵が一歩進む。


アイシィは。


ただ静かに見つめる。


「ここは。」


「私たちが帰る場所です。」


さらに。


冷気が広がる。


「千乃さんが作った場所で。」


「真銀さんと千乃さんが。」


「みんなと笑う場所。」


アイシィの瞳が。


静かに光る。


「……あなた方に。」


「踏み込ませるわけにはいきません。」


一歩。


前へ。


「……ここから先は、通らないほうが身のためかと。凍りますよ?」


次の瞬間。


大地が。


一面の氷に変わった。


---


城の上空。


千乃は。


その光景を見ていた。


ララ。


アイシィ。


ライ。


そして。


城を守る仲間たち。


「……。」


真銀が隣に浮かぶ。


「行かなくていいのか?」


千乃は。


少しだけ笑う。


「うん。」


「今日は。」


「みんなに任せる。」


その言葉に。


真銀も笑った。


「そうか。」


「じゃあ。」


「俺たちはここで待ってよう。」


「うん。」


二人は。


城の上空から。


仲間たちを見守る。


帰る場所を守るために。


今。


仲間たちが戦っている。


そして。


この場所には。


必ず。


帰ってくる。


そんな確信が。


千乃の胸にあった。


夜坂真銀

「守ろうとするのはいい。

お前が誰かを大切にしたいって気持ちは、俺だって分かってる。

……だからこそ、もう少し自分を大切にしてくれ。」



ララ

「ララ、怒ったら怖いもんね!ずばばばばーってなるし!」


アイシィ

「……ここから先は、通らないほうが身のためかと。凍りますよ?」

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