続く時間
星空の城。
ラブリー・スミスが復活してから数日。
城の中は。
以前よりもさらに騒がしくなっていた。
「千乃さん!!」
「真銀さん!!」
「本日の記録予定ですが!!」
「まず朝食風景!」
「その後、新婚生活の様子!」
「そして城下町での交流!」
「最後に――」
「却下。」
真銀が即答する。
「まだ最後まで言ってませんよ!?」
「言わなくても分かる。」
ラブリーは頬を膨らませる。
「せっかく復活したのに!」
「記録する権利くらいください!」
千乃は笑いながら見ていた。
「ラブリーさん。」
「はい?」
「元気そうでよかった。」
その一言。
ラブリーの表情が少し柔らかくなる。
「……。」
「千乃さん。」
「はい?」
「私も。」
「本当に。」
「帰ってこられてよかったです。」
少しだけ。
静かな時間。
---
その日の夜。
千乃は一人。
城の庭にいた。
見上げる空。
星。
静かな風。
「……。」
昔なら。
こんな時間。
絶対に一人で不安になっていた。
力を持って。
戦って。
誰かを守ろうとして。
自分を削って。
でも。
今は違う。
後ろから足音。
「やっぱりここにいたか。」
振り返らなくても分かる。
「真銀。」
「よく分かったね。」
「分かる。」
「もう何年一緒にいると思ってる。」
千乃は小さく笑う。
「そっか。」
二人で並んで空を見る。
---
「ねぇ。」
「真銀。」
「ん?」
「私たち。」
「最初はさ。」
「こんな未来になるなんて思ってなかったよね。」
真銀も星を見る。
「ああ。」
「俺はただ。」
「お前を助けたかった。」
千乃は笑う。
「私は。」
「真銀を守りたかった。」
「それだけだった。」
「でも。」
風が吹く。
「いつの間にか。」
「守るだけじゃなくなった。」
真銀が頷く。
「一緒に生きたいになった。」
---
庭の端。
小さな桜の苗木。
千乃が魔法で植えたもの。
まだ小さい。
でも。
確かに。
これから大きくなる命。
「これ。」
「いつか満開になるかな。」
真銀が見る。
「なる。」
「千乃が作ったんだろ。」
「絶対綺麗になる。」
千乃は少し照れる。
「魔法だからって。」
「何でもできるわけじゃないよ?」
「でも。」
真銀は笑う。
「お前ならできる気がする。」
---
その様子を。
少し離れた場所から。
ラブリー。
ララ。
ライ。
アイシィが見ていた。
「……。」
ラブリーは記録結晶を構える。
「良いですね。」
「とても良いです。」
ライが呟く。
「また記録か。」
「当然です。」
「これは重要な場面です。」
ララが首を傾げる。
「何の?」
ラブリーは真剣な顔。
「未来で。」
「二人が振り返るための。」
「大切な記録です。」
---
桜の苗木。
星空。
二人の笑顔。
まだ小さな幸せ。
でも。
確かに続いている。
そして。
いつか。
この場所に満開の桜が咲く日。
千乃はきっと。
もう一度。
自分たちの歩んできた道を語る。
それから。
季節はゆっくりと流れていった。
星空の城。
王国。
そして。
そこに暮らす人々。
全てが少しずつ変わっていく。
けれど。
変わらないものもあった。
---
「千乃さーーーん!!」
朝。
城の廊下に響く声。
千乃が振り返る。
「……。」
「ラブリーさん。」
「はい!!」
「朝から元気だね。」
「当然です!」
「今日という日は一度しかありませんから!」
「毎日言ってるよね、それ。」
「毎日が特別なんです!!」
真銀が横で呟く。
「相変わらずだな。」
「復活してからさらに酷くなった気がする。」
「聞こえていますよ?」
---
城の庭。
あの日植えた桜の木。
少しずつ。
少しずつ。
大きくなっていた。
ララが木の周りを走る。
「大きくなってる!」
アイシィが見上げる。
「もうすぐ花が咲きそうですね。」
ライも頷く。
「時間が経つのは早いな。」
千乃は桜の木に触れる。
「……。」
この木には。
たくさんの想いが詰まっている。
守れなかったと思った日。
失う怖さを知った日。
そして。
もう一度。
大切な人と歩くと決めた日。
---
「千乃。」
真銀が呼ぶ。
「なに?」
「少し付き合ってくれ。」
「?」
真銀は城の外へ歩いていく。
千乃も後を追う。
向かった先は。
王国の街。
---
街の人々は二人を見ると。
笑顔で手を振る。
「千乃様!」
「真銀様!」
「こんにちは!」
昔なら。
そんな呼ばれ方。
少し苦手だった。
でも。
今は。
千乃も自然に手を振る。
「こんにちは!」
その笑顔を見て。
真銀は少し笑う。
「変わったな。」
「何が?」
「お前。」
千乃は首を傾げる。
「そう?」
「ああ。」
「昔のお前なら。」
「自分が幸せになることを、もっと怖がっていた。」
千乃は少し黙る。
---
「……。」
「そうかも。」
空を見る。
「失うのが怖かったんだと思う。」
「大切なものが増えるほど。」
「また失うんじゃないかって。」
真銀は隣に立つ。
「でも。」
「今は?」
千乃は街を見る。
城を見る。
仲間を見る。
そして。
真銀を見る。
「今は。」
「失う怖さより。」
「一緒に過ごせる嬉しさの方が大きい。」
---
その夜。
星空の城。
庭の桜。
一輪。
小さな花が咲いた。
「……。」
千乃が気付く。
「真銀。」
「ん?」
「咲いた。」
二人で見上げる。
まだ一本だけ。
でも。
確かな始まり。
遠くから。
ラブリーの声。
「記録しました!!」
「いつからいた!?」
「最初からです!!」
「怖いよ!?」
笑い声が響く。
桜の花びらが。
夜風に揺れる。
まだ満開ではない。
でも。
いつか。
この庭いっぱいに咲く。
その日を。
みんなは待ち望んでいた。
星空の城。
庭園。
一本の桜の木。
その枝には。
少しずつ増えていく花。
「……。」
千乃は木を見上げていた。
隣では真銀が腕を組んでいる。
「もうすぐだな。」
「うん。」
アイシィが近付いてくる。
「調べてみました。」
「この桜が完全に開花する日は……。」
千乃が振り返る。
「いつ?」
アイシィは微笑む。
「三日後です。」
「三日後……。」
ララが首を傾げる。
「何かある日なの?」
ライが静かに答える。
「調べてみれば分かる。」
---
その日の夜。
千乃と真銀は。
城の書庫で昔の記録を見ていた。
異世界へ来た日の記録。
最初に出会った日の記憶。
そして。
二人の人生が大きく変わった日。
「……。」
千乃の指が。
一つの日付で止まる。
「え。」
真銀も見る。
「まさか。」
そこに書かれていた日。
それは。
二人がこの世界で初めて出会った日。
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「嘘。」
千乃は小さく呟く。
「偶然かな。」
真銀は少し笑う。
「お前が作った桜だろ?」
「でも。」
千乃は窓の外を見る。
「なんか。」
「運命みたい。」
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その話は。
あっという間に城中へ広がった。
「えぇぇぇ!?」
ラブリーの声が響く。
「出会った日に満開になる桜!?」
「そんな奇跡あります!?」
「記録案件です!!」
「絶対記録します!!」
真銀がため息をつく。
「やっぱりそこか。」
「当然です!」
ラブリーは胸を張る。
「恋愛ギルド長として!」
「これほど美しい出来事を記録しない理由がありません!」
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三日後。
王国中が少しだけ騒がしくなった。
誰もが知っている。
今日は。
二人が出会った日。
世界を救った英雄の日ではない。
王になった日でもない。
結婚した日でもない。
ただ。
一人の少女と。
一人の少年が。
初めて出会った日。
全ての始まりの日。
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夕方。
千乃と真銀は。
桜の前に立つ。
まだ蕾だった花が。
ゆっくり開いていく。
一輪。
また一輪。
そして。
夜空の下。
満開になる。
桜吹雪が舞う。
千乃は言葉を失う。
「……綺麗。」
真銀も見上げる。
「本当に。」
風が吹く。
桜の花びらが二人を包む。
ララは嬉しそうに走り回る。
ライは静かに笑う。
アイシィは空を見上げる。
そして。
ラブリーは。
当然。
記録結晶を構えていた。
「……。」
「ラブリーさん。」
千乃が呆れる。
「今だけは許してください。」
ラブリーは少し涙を浮かべながら笑う。
「これは。」
「絶対に残すべき瞬間ですから。」
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桜の下。
千乃は真銀を見る。
あの日。
何も知らなかった二人。
何も持っていなかった二人。
でも。
今は。
守りたいものがある。
帰る場所がある。
隣にいる人がいる。
舞い落ちる花びらの中。
二人は静かに笑った。
まるで。
世界そのものが。
二人の始まりの日を祝福しているようだった。




