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新しい日常

結婚式から数日後。


星空の城。


朝。


窓から差し込む光が、城内を優しく照らしていた。


以前は戦いのために使われていた広間。


今では。


食事をしたり。


話をしたり。


笑い声が響く場所になっている。


---


「千乃ー!」


ララの声が響く。


「朝ごはんできたよー!」


「今行くー!」


返事と同時。


ドタドタと足音が近付く。


……と思った瞬間。


ヒュン。


千乃が神靴で滑るように移動してきた。


「おはよう!」


ララが目を丸くする。


「歩いてない!」


「だって便利なんだもん。」


千乃は笑う。


真銀が呆れた顔で見る。


「新婚になってもそこは変わらないんだな。」


「え?」


「飛ぶ癖。」


「便利だから。」


即答。


「千乃らしいな。」


---


食堂。


全員が集まる。


ララは山盛りの料理。


ライはいつものように静かに食べる。


アイシィは紅茶を飲みながら微笑む。


「平和ですね。」


その言葉に。


一瞬。


全員が止まる。


平和。


昔なら。


考えられない言葉だった。


---


千乃は窓の外を見る。


城の周囲には。


新しく作られた街。


王国の人々。


冒険者。


魔物。


様々な存在が暮らしている。


「ねぇ。」


「真銀。」


「ん?」


「私たち。」


「本当に国を作ったんだね。」


真銀も外を見る。


「そうだな。」


「昔は。」


「ただ生き残ることで精一杯だった。」


千乃は少し笑う。


「今は?」


真銀を見る。


「今は。」


「明日の予定を考えてる。」


「それって普通じゃん。」


「ああ。」


真銀は笑った。


「でも。」


「俺たちには。」


「その普通が、一番難しかった。」


---


その時。


城の鐘が鳴る。


ゴーン。


ゴーン。


ララが首を傾げる。


「誰か来た?」


ライが気配を探る。


「敵ではない。」


アイシィも頷く。


「祝福の気配ですね。」


---


城の入口。


そこには。


大量の荷物を持った人々。


そして。


先頭にいるのは。


「お久しぶりです!!」


「恋愛ギルドです!!」


ラブリー。


真銀が固まる。


「……。」


千乃も嫌な予感。


「ラブリーさん。」


「何しに来たの?」


ラブリーは満面の笑顔。


「新婚生活応援企画です!!」


「帰ってください。」


「早いです!!」


---


「まずはこちら!」


大量の箱が開かれる。


「二人用食器!」


「お揃いの家具!」


「記念日管理帳!」


「思い出保存用魔道具!」


真銀が額を押さえる。


「……。」


千乃は笑う。


「でも。」


「ちょっと嬉しいかも。」


ラブリーの目が輝く。


「今、嬉しいと言いましたね!?」


「記録!!」


「しないで!?」


---


騒がしい。


でも。


それが今の二人の日常。


戦いも。


涙も。


別れも。


全部越えた先。


星空の城には。


今日も。


笑い声が響いていた。


星空の城。


平和な日々が続いていた。


千乃と真銀の結婚式から数ヶ月。


王国には笑顔が増え。


かつて戦場だった場所にも、穏やかな時間が流れていた。


……しかし。


その日。


空気が変わった。


「……。」


城の上空。


黒い魔力が渦巻く。


真銀が窓の外を見る。


「……まさか。」


千乃も気付く。


「この魔力……。」


二人が名前を口にする前に。


城の庭へ。


一人の少女が降り立った。


「……。」


エリシア。


以前とは違う。


瞳には迷い。


しかし。


握られた杖には、膨大な魔力が集まっていた。


「真銀様。」


「……。」


真銀が前へ出る。


千乃も隣に並ぶ。


「まだ。」


「諦めてなかったのか。」


エリシアは俯く。


「私は……。」


「ただ。」


「真銀様が幸せになる姿を見たくなかった。」


その瞬間。


ラブリーが二人の前へ出た。


「……。」


いつもの笑顔ではない。


静かな表情。


「エリシアさん。」


「あなたは。」


「大切なものを間違えています。」


エリシアの手が震える。


「あなたに何が分かるんですか。」


ラブリーは一歩進む。


「分かります。」


「私は。」


「人の想いを見る仕事をしてきましたから。」


「好きという気持ちは。」


「相手を自分のものにすることではありません。」


「その人が幸せになることを願うことです。」


エリシアの魔力が揺れる。


「……。」


「綺麗事です。」


巨大な魔法陣。


真銀が警戒する。


「ラブリー、下がれ。」


しかし。


ラブリーは動かなかった。


「いいえ。」


「ここは私が立つ場所です。」


「恋愛ギルド長として。」


「そして。」


「千乃さんの友人として。」


---


エリシアの魔法が放たれる。


一直線に。


真銀へ。


千乃へ。


その瞬間。


ラブリーが前へ出た。


「《恋護結界れんごけっかい》」


淡い光の壁が展開される。


しかし。


相手は全力。


結界が軋む。


「っ……!」


ラブリーの足が下がる。


「ラブリーさん!」


千乃が叫ぶ。


「大丈夫です!」


ラブリーは笑う。


いつもの。


明るい笑顔。


「私は。」


「たくさんの恋を見てきました。」


「だから。」


「このくらい。」


「守れなくてどうするんですか。」


結界が砕ける。


それでも。


ラブリーは立っていた。


最後まで。


二人の前に。


---


魔法の光が消える。


静寂。


ラブリーの身体が揺れる。


「……。」


「ラブリーさん?」


千乃が駆け寄る。


ラブリーは小さく笑った。


「……よかった。」


「二人が。」


「無事で。」


そのまま。


力が抜ける。


「ラブリー!!」


真銀が受け止める。


千乃の顔から血の気が引く。


「嫌……。」


「嫌だよ。」


「ラブリーさん……。」


いつも騒がしくて。


いつも二人を応援して。


いつも未来の話をしていた人。


その人が。


今。


目を閉じている。


---


治療院。


治療師たちが必死に魔法を使う。


しかし。


表情は険しい。


「……かなり危険です。」


その言葉を聞いた瞬間。


千乃の手が震えた。


今まで。


何度も守ってきた。


何度も傷付いてきた。


でも。


今回は違う。


自分の代わりに。


大切な人が傷付いた。


真銀が千乃の肩に手を置く。


「千乃。」


千乃は俯く。


「……。」


「私。」


「また。」


「守られるだけだった。」


そして。


静かな声で呟く。


「ラブリーさん。」


「お願いだから。」


「いつものうるさい声で。」


「起きてよ……。」


病室の外。


誰も言葉を出せなかった。


ただ。


ラブリーが戻ってくることを。


全員が願っていた。


そして、王都の治療院。


静まり返った廊下。


ラブリーはまだ眠ったまま。


治療師たちの言葉が頭から離れない。


「予断を許さない状態です。」


その瞬間。


千乃の中で。


何かが切れた。


「……。」


俯いていた顔が上がる。


瞳の色が変わる。


右目の金。


左目の桃色。


その光が消える。


代わりに。


真紅。


「……エリシア。」


小さな声。


けれど。


部屋の空気が震えた。


真銀がすぐに気付く。


「千乃。」


「待て。」


千乃は振り返らない。


「私。」


「行かなきゃ。」


「駄目だ。」


真銀が前へ出る。


「今のお前は冷静じゃない。」


「分かってる。」


「でも。」


千乃の手から魔力が漏れる。


「ラブリーさんが。」


「私たちを守った。」


「私の大切な人を。」


「傷付けた。」


真銀が腕を掴む。


「千乃!」


次の瞬間。


千乃の身体を黒い影が包む。


魔力が爆発する。


白かった髪が。


夜のような白へ変わる。


赤い瞳。


二本の角。


尖った歯。


黒い衣。


背中には黒い翼。


神の力ではない。


神魔境界の。


魔の側。


鬼の姿。


「……。」


真銀が息を呑む。


「千乃。」


「戻れ。」


しかし。


千乃は静かだった。


静かすぎた。


「敵対対象。」


「確認。」


「排除します。」


その声には。


いつもの千乃の明るさがない。


真銀が必死に抱き止める。


「千乃!!」


羽交い締めにする。


けれど。


今の千乃は。


怒りだけで動いていた。


「離して。」


「嫌だ。」


「真銀。」


「お願い。」


「離して。」


その声に。


一瞬だけ。


昔の千乃が戻る。


でも。


次の瞬間。


黒い魔力が広がる。


真銀の手をほどく。


「……ごめん。」


「でも。」


「止まれない。」


---


エリシアの国。


王城。


突然。


空が暗くなる。


兵士たちが空を見上げる。


「何だ……?」


黒い翼。


赤い瞳。


鬼の姿をした少女が。


ゆっくりと降りてくる。


「千羽千乃……。」


護衛たちが武器を構える。


「止まれ!」


千乃は止まらない。


「エリシアを出して。」


「ここから先は通さん!」


兵士が前へ出る。


剣が振られる。


しかし。


千乃は避けない。


ただ。


その場に立っている。


魔力が全てを防いでいた。


「……。」


兵士たちは恐怖する。


攻撃が届かない。


目の前にいる存在が。


人なのか。


魔物なのか。


分からない。


千乃は城を見る。


「エリシア。」


「出てきて。」


声は低い。


冷たい。


「ラブリーさんを。」


「傷付けた理由を。」


「聞かせて。」


空気が震える。


その頃。


王城の中。


エリシアは窓から外を見ていた。


そして。


初めて理解する。


自分が怒らせた相手が。


ただ強い少女ではなかったことを。


大切な人を守るためなら。


世界すら敵に回す存在だったことを。


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