大切な言葉
花で満たされた病室。
いや。
もう病室とは呼べない。
青い空。
柔らかな雲。
一面に咲く花。
まるで二人のためだけに作られた、小さな世界。
ラブリーが静かに手を上げる。
「録画結晶、起動。」
淡い光が灯る。
「音声記録、開始。」
「空間演出、維持。」
いつもの騒がしさとは違う。
珍しく。(珍しく?)
恋愛ギルド長としての真剣な顔だった。
真銀は。
ゆっくり千乃の前へ立つ。
手には。
あの日からずっと持っていた指輪。
「千乃。」
「……うん。」
千乃は少し緊張したように返事をする。
真銀は一度だけ深呼吸する。
戦いの時より。
ずっと緊張している。
「俺は。」
「お前と出会ってから。」
「何度も助けられた。」
「命も。」
「心も。」
「何度も。」
千乃の目が少し揺れる。
「地球で。」
「お前が俺を守ってくれた時。」
「奈落で。」
「どれだけ苦しくても前へ進んだ時。」
「世界修正体との戦いで。」
「全部を背負おうとした時。」
真銀は少し困ったように笑う。
「正直。」
「無茶をするなって。」
「何度も思った。」
「でも。」
「そんな千乃だから。」
「俺は……。」
言葉を止める。
そして。
まっすぐ千乃を見る。
「好きになった。」
千乃の頬が少し赤くなる。
ララは口元を押さえる。
ライは静かに目を逸らす。
アイシィは優しく微笑む。
そして。
真銀は。
ゆっくり片膝をついた。
小さな箱を開く。
中には。
千乃のために選んだ指輪。
「千乃。」
「俺は。」
「これから先も。」
「何があっても。」
「お前の隣にいたい。」
静かな声。
でも。
迷いは一つもなかった。
「俺と。」
少しだけ震える手で。
指輪を差し出す。
「結婚してください。」
花畑の中。
時間が止まったようだった。
千乃は。
しばらく何も言えなかった。
右目の金色。
左目のピンク。
その瞳に。
少しずつ涙が浮かぶ。
「……。」
そして。
小さく笑う。
「ずるいよ。」
「え?」
「そんな顔で言われたら。」
千乃は涙を拭う。
「断れるわけないじゃん。」
一歩。
真銀へ近付く。
「私も。」
「ずっと。」
「真銀の隣にいたい。」
「地球にいた頃から好きだったよ。」
そして。
満面の笑顔で。
「はい。」
「私で良ければ…お願いします。」
その瞬間。
花畑全体が光り輝いた。
花びらが二人を囲むように舞い上がる。
録画結晶が強く輝く。
ラブリーが震える。
「……。」
数秒。
静寂。
そして。
「成功ーーーーーーー!!!!」
「恋愛ギルド史上最高記録更新です!!!!」
「ラブリーさん!?」
いつもの声が戻る。
千乃は笑う。
真銀も笑う。
遠くで見守っていた仲間たちも笑う。
長い旅の先。
何度も失いかけたもの。
それは。
最初から。
互いの隣にあった。
「あはははははっ!」
千乃と真銀は顔を見合わせて笑う。
ようやく。
本当にようやく。
二人の未来が決まった。
……しかし。
ラブリーは。
まだ終わっていなかった。
「さて。」
「ここからが恋愛ギルドの本領発揮です。」
真銀の笑顔が消える。
「……嫌な予感がする。」
千乃も頷く。
「私もする。」
ラブリーはにっこり笑った。
「失礼ですね?」
「最高の記念日には!」
「最高の姿が必要です!!」
パチン。
指を鳴らす。
その瞬間。
二人を淡い光が包み込んだ。
「え?」
千乃が自分を見る。
いつもの服ではない。
真っ白な布地に。
真紅と金の細かな装飾。
星の光を思わせる刺繍。
神化した時の千乃の雰囲気を残しながらも。
柔らかな印象のドレスへ変わっていた。
長い髪は自然に整えられ。
真銀から贈られた簪が、美しく輝いている。
「……。」
千乃は言葉を失う。
一方。
真銀も。
黒を基調とした正装へ変わっていた。
銀色の装飾。
千乃の瞳を思わせる小さな魔石。
戦うための服ではない。
大切な日を迎えるための服。
「……ラブリー。」
真銀が呟く。
「これは……。」
「婚礼用の特別衣装です!」
ラブリーは胸を張る。
「もちろん!」
「千乃さんの簪とも相性抜群に調整済み!」
千乃が驚く。
「え!?」
「いつの間に!?」
「恋愛ギルドですから!」
「相手の好みと大切な品の把握は基本です!」
「基本の範囲が広すぎる……。」
ライが小さく呟く。
「恐ろしい。」
ララは目を輝かせる。
「千乃、すっごく綺麗!」
アイシィも微笑む。
「本当にお似合いです。」
千乃は少し照れながら。
真銀を見る。
真銀も。
しばらく見つめていた。
「……。」
「どうしたの?」
千乃が首を傾げる。
真銀は少しだけ目を逸らす。
「いや。」
「改めて思った。」
「何を?」
「本当に。」
「千乃なんだなって。」
千乃は少し笑う。
「何それ。」
「分からない。」
「でも。」
「嬉しい。」
その様子を見て。
ラブリーは感動で震えていた。
「……。」
「記録結晶。」
「追加保存。」
「何を!?」
「未来で見返す用です!!」
「絶対恥ずかしいやつ!!」
花畑の空に。
二人の笑い声が響く。
長い戦いの果て。
今だけは。
剣も魔法も必要ない。
ただ。
大切な人の隣にいる。
それだけで。
十分だった。
その頃。
星空の城から遠く離れた王都。
朝。
まだ人々が目を覚ましたばかりの時間。
しかし。
王都の中心部では。
すでに異常なほどの騒ぎになっていた。
「急げーーー!!」
「花飾りは東通りへ!」
「魔石灯の配置をもう一度確認!」
「祝福用の演奏隊は時間厳守です!」
街中を走り回る人々。
理由は一つ。
「千羽千乃様と夜坂真銀様の結婚式。」
その知らせが届いたからだった。
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王城。
広い会議室。
そこには。
国王。
貴族。
職人。
魔法技師。
そして。
なぜか恋愛ギルドの大量の職員。
「……。」
国王は資料を見る。
「これは……。」
「本当に今日から準備する量なのか?」
ラブリーの代理職員が笑顔で答える。
「はい!」
「恋愛ギルド基準では普通です!」
「普通ではない。」
即答だった。
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王都の職人街。
鍛冶職人たちは大忙しだった。
「指輪の台座調整!」
「魔石の輝き確認!」
「千乃様の衣装に合わせた装飾を!」
一流の職人たちが。
人生最高の作品を作るように。
全力を注いでいた。
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街の広場では。
巨大な看板が立てられる。
『祝・ご結婚』
『星を越えた二人へ』
『永遠の祝福を』
それを見た住民たちは。
次々と足を止める。
「本当にあの二人が……。」
「世界を救った人たちだろ?」
「神様みたいな力を持ってるって聞いたぞ。」
「でも。」
「街で会った時は普通に笑ってたよ。」
人々の表情は。
恐怖ではなく。
祝福だった。
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一方。
恋愛ギルド本部。
ラブリーは。
大量の書類に囲まれていた。
「式場配置!」
「料理!」
「音楽!」
「演出!」
「感動ポイント!」
「全部完璧にします!」
職員が恐る恐る聞く。
「ラブリー様。」
「……感動ポイントとは?」
ラブリーは真剣な顔で答えた。
「重要です。」
「人生最大級の瞬間には。」
「記憶に残る流れが必要です。」
「なるほど……。」
「ちなみに何個予定していますか?」
ラブリーは笑顔。
「百二十七個です!」
「多いです!!」
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その頃。
星空の城。
千乃はまだ知らない。
真銀も知らない。
自分たちのために。
一つの国。
一つの街。
そして。
たくさんの人々が。
全力で祝福の準備をしていることを。
ただ。
城の窓から見える空は。
いつもより少し明るかった。
まるで。
世界そのものが。
二人の未来を祝っているようだった。
ついに二人が結婚しました!
映像で見てみたいですねぇ・・・あの、花びらが舞い上がるところとか。




