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戻った距離

千乃を部屋へ運び、ベッドへ寝かせる。


真銀はしばらく、その横から動けなかった。


「……。」


眠っている千乃の顔を見る。


いつもなら。


「真銀!」


と笑いながら近付いてくる。


魔法の実験をして。


新しい魔道具を作って。


失敗しても楽しそうに笑う。


そんな姿ばかり見ていた。


けれど。


今日は違った。


自分を守るために。


自分たちを守るために。


一人で全部背負おうとしていた。


「……馬鹿だな。」


小さく呟く。


「本当に。」


---


しばらくして。


「ん……。」


千乃の指が少し動く。


「……ここ。」


ゆっくり目を開ける。


最初に見えたのは。


真銀の顔だった。


「……真銀?」


真銀は少し驚いたように目を開く。


「起きたか。」


千乃はぼんやりと周りを見る。


「私……。」


「落ちた?」


「ああ。」


「でも。」


少し間を置いて。


「俺が受け止めた。」


千乃は目を丸くする。


そして。


「……そっか。」


小さく笑った。


「ありがとう。」


---


数秒。


二人の間に沈黙が流れる。


以前なら。


すぐに会話が続いていた。


でも。


今は。


言葉にしなければいけないことが多すぎた。


真銀が先に口を開く。


「千乃。」


「……うん。」


「すまなかった。」


千乃の目が少し揺れる。


「俺は。」


「お前を守るつもりだった。」


「でも。」


「結果的に、お前を一人にした。」


千乃は黙って聞いている。


「条件を飲めば。」


「お前は歩けるようになる。」


「魔法も戻る。」


「そう思った。」


「でも。」


真銀は拳を握る。


「お前が何も知らないまま。」


「傷付いているのを見ているだけだった。」


千乃はしばらく俯く。


そして。


「……私も。」


「ごめん。」


真銀が顔を上げる。


「私。」


「真銀が何かを隠してるって気付けなかった。」


「ずっと。」


「嫌われたのかなって思ってた。」


その言葉に。


真銀の表情が苦しくなる。


「そんなわけない。」


即答だった。


千乃は少しだけ笑う。


「分かってる。」


「今なら。」


---


その時。


コンコン。


扉の外から声がする。


「入っていい?」


ララだった。


「……。」


二人は顔を見合わせる。


少しだけ。


昔の空気が戻る。


「いいよ。」


扉が開く。


ララ、ライ、アイシィが入ってくる。


「千乃!」


ララが飛び込もうとして。


真銀が止める。


「今は寝てる。」


「えー!」


「でも。」


千乃は笑う。


「大丈夫。」


「もう平気。」


その笑顔を見て。


三人も安心したように表情を緩めた。


---


夜。


千乃は窓の外を見る。


星空。


以前と同じ景色。


でも。


一つだけ違う。


隣には真銀がいる。


今度は。


離れた場所ではなく。


ちゃんと隣に。


「真銀。」


「ん?」


「もう。」


「勝手に一人で戦わないでね。」


真銀は少し困ったように笑う。


「それは千乃にも言いたい。」


「えへへ。」


二人は顔を見合わせる。


そして。


小さく笑った。


長かったすれ違いは。


ようやく終わりを迎えた。




夜。


城の屋上。


星空が静かに広がっていた。


騒がしかった日々が嘘のように。


穏やかな時間が流れている。


千乃と真銀は並んで座っていた。


「……色々あったね。」


千乃が空を見上げる。


「地球でのこと。」


「奈落のこと。」


「世界修正体との戦い。」


「この世界に来てからも。」


真銀は頷く。


「ああ。」


「普通なら、もう何年分だって話だ。」


千乃は小さく笑う。


「ほんとだよね。」


少しの沈黙。


風が二人の髪を揺らす。


その時。


「千乃。」


「真銀。」


二人の声が重なった。


「え?」


「……。」


お互いに顔を見合わせる。


「先にどうぞ。」


「いや、千乃から。」


「えー。」


少し笑い合う。


そして。


なぜか二人とも。


同じタイミングで手を差し出した。


「これ。」


「これ。」


互いの手の中にあるものを見て。


二人とも固まる。


小さな箱。


そして。


中に入っている指輪。


「……。」


「……。」


数秒の沈黙。


先に口を開いたのは千乃だった。


「真銀。」


「それ。」


真銀も千乃の手元を見る。


「千乃も。」


「……同じこと考えてたのか。」


千乃は少し照れたように笑う。


「びっくり。」


真銀も苦笑する。


「俺もだ。」


二つの指輪。


どちらも。


相手のためだけに選んだものだった。


千乃の指輪には。


真紅の小さな魔石。


真銀の指輪には。


淡い銀色の魔石。


そして。


二つを近付けると。


小さな光が繋がった。


「魔力の波長まで合わせてる。」


真銀が驚く。


千乃は目を逸らす。


「だって。」


「真銀が持つなら、ちゃんと守れるものがいいかなって。」


真銀は少し笑った。


「俺も同じだ。」


「千乃が持つなら。」


「絶対に失わないものにしたかった。」


また静かな沈黙。


でも。


今度の沈黙は苦しくない。


千乃が指輪を持ったまま言う。


「ねぇ。」


「うん。」


「これ。」


「……。」


「意味、分かってるよね?」


真銀は頷く。


「ああ。」


「分かってる。」


二人は同時に。


相手へ指輪を差し出す。


「これ。」


「千乃。」


「真銀。」


言葉が重なる。


そして。


少し笑って。


もう一度。


「受け取って。」


夜空の下。


二人の指輪が。


星の光を反射して輝いた。

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