表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/94

隣りに立つための変化

 あの護衛任務のあと、真銀は少し変わった。


 いや、正確には「変わらざるを得なくなった」。


「お前、最近疲れてないか」


 千乃が何気なく聞く。


「別に」


 真銀は即答する。


 だが、それは少しだけ遅かった。


---


 ギルドの訓練場。


 真銀は一人で剣を振っていた。


 以前より速い。


 以前より重い。


 そして、以前より“ズレていない”。


「……また伸びてるな」


 訓練官が呟く。


「普通じゃない速度だ」


 真銀は止まらない。


 剣を振るたびに、空気が裂ける。


 でもそれは魔力ではない。


 もっと単純なものだった。


 集中。


 理解。


 適応。


---


 数日前の戦闘が頭から離れない。


(攻撃が通じない理由じゃない)


(そもそも“当てる”って概念がズレてた)


 ならどうするか。


 答えは単純だった。


(届く場所まで行く)


---


 次の任務。


 今度は遺跡探索。


 千乃と真銀は並んで歩く。


「最近、剣の動き変わったね」


 千乃が言う。


「そうか」


「うん。前より……正確」


 真銀は少しだけ黙る。


「お前のせいだろ」


「え?」


「いや、いい意味で」


 即補足。


---


 遺跡の入口。


 空間が歪んでいる。


 普通なら入った瞬間に認識が狂う場所。


 だが真銀は止まらなかった。


「先行く」


「ちょっと待って」


 千乃が言うより早く。


 真銀は一歩踏み込んだ。


 その瞬間。


 空間の圧が襲う。


 普通なら意識が崩れる。


 でも真銀は、踏みとどまった。


「……なるほどな」


 彼は目を細める。


「こういう場所か」


 そして剣を軽く回す。


 空間の“歪み”に対してではなく。


 そこに存在する“違和感そのもの”に合わせて動く。


 次の瞬間。


 歪みが切り裂かれた。


 真っ直ぐに。


---


 千乃は止まる。


「今の」


「何だ」


「普通に切った?」


「多分な」


 彼は軽く言う。


 だが千乃は気づいていた。


(あれ、適応してる)


(私の“世界のズレ”に合わせてる)


---


 遺跡の奥。


 異常存在が現れる。


 以前なら手に負えないはずの個体。


 だが真銀は一歩前に出る。


「これも同じだな」


 剣を構える。


 魔力はない。


 詠唱もない。


 ただ一つ。


 “届く距離”だけを見ている。


「邪魔だ」


 一閃。


 終わる。


---


 静寂。


 千乃は少しだけ目を細める。


「……なんかさ」


「ん?」


「前より危なくなってない?」


 真銀は剣をしまう。


「お前と一緒にいるからだろ」


「責任転嫁やめて」


「半分は事実だ」


 軽く笑う。


---


 ギルドへ戻ると、受付が固まった。


「……真銀さん、戦闘能力上がってませんか」


「そうか?」


「明らかに」


 千乃が横から言う。


「たぶん慣れたんだよ」


「何にですか」


「私に」


 受付は黙った。


---


 その夜。


 宿。


 真銀は剣を見ていた。


(あいつの隣にいるなら)


(これくらいは必要だ)


 静かにそう思う。


 恐怖じゃない。


 諦めでもない。


 ただの事実。


 千乃が“世界の基準をずらす存在”なら。


 自分はそれに“ついていける側”になるしかない。


---


 一方その頃、千乃はノートを見ていた。


 そこに一行だけ、薄く変化がある。


 真銀の名前の横に、ほんのわずかな記述。


 適応進行中


「……ほんとに人間?」


 そう呟いて、ノートを閉じる。


 まだ説明する気はない。


 でも一つだけ分かっている。


 彼はもう、ただの同行者じゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ