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真銀とアイシィのこっそり大作戦☆

「アイシィ。」


ある日の午後。


真銀は珍しく、少し落ち着かない様子でアイシィを呼び止めた。


「はい?」


「……ちょっと付き合ってくれ。」


「?」


アイシィは首を傾げながらも頷いた。


「もちろんです。」


---


二人が向かったのは、王都でも評判の装飾品店だった。


店内には髪飾りや指輪、ネックレスがずらりと並んでいる。


アイシィは少し驚く。


「真銀さんが、こういうお店に来るなんて珍しいですね。」


「……。」


真銀は少し照れくさそうに頭をかいた。


「相談したいことがある。」


「何でしょう?」


真銀は店内を見回し、小さな声で言った。


「……告白するときのプレゼント。」


アイシィは一瞬固まる。


「えっ……。」


「千乃に渡したい。」


「……!」


アイシィの顔がぱっと明るくなった。


「ついに、その日が来るんですね!」


「まだ先だけどな。」


真銀は苦笑する。


「ちゃんと気持ちを伝える時に渡したい。」


「だから。」


「手伝ってくれ。」


アイシィは優しく微笑んだ。


「喜んで。」


---


二人は髪飾りの棚へ向かう。


「千乃さんでしたら……。」


アイシィは一つひとつ見ながら考える。


「派手すぎるものより、上品な方が似合います。」


真銀も真剣な表情で見つめる。


「普段、お団子にしてることも多いしな。」


「はい。」


「簪もいいですね。」


店員が静かに近づいてきた。


「贈り物をお探しですか?」


真銀は少し照れながら頷く。


「ああ。」


「髪飾りで。」


店員は棚からいくつか並べてくれる。


桜。


蝶。


花。


宝石。


どれも美しい。


しかし。


真銀は首を横に振った。


「違う。」


「……もっと。」


「千乃らしいものがいい。」


---


アイシィがふと、一番奥のケースを見つめる。


「真銀さん。」


「これ、見てください。」


そこには一本の簪が置かれていた。


土台は白銀。


先端には小さな星を模した飾り。


その下には真紅の小さな天然石。


さらに、淡い金色と優しい桃色の宝石が寄り添うようにはめ込まれている。


揺れる飾りは、まるで翼の羽のようだった。


真銀は思わず息をのむ。


「……。」


「これだ。」


アイシィも嬉しそうに頷く。


「千乃さんの髪にも、お団子にも似合います。」


「右目の金色と、左目のピンク。」


「そして神化した時の翼も思わせる意匠ですね。」


真銀は静かに簪を手に取る。


「重くない。」


「普段でも使えそうだ。」


店員が微笑む。


「こちらは魔道具ではありませんが、とても丈夫な素材で作られています。」


真銀は迷わなかった。


「これをください。」


---


会計を済ませる。


店員から小さな箱を受け取ると、真銀は大切そうに胸元へしまった。


「ありがとうございます。」


店を出ると、アイシィが少し笑いながら聞く。


「渡す日、決めているんですか?」


真銀は空を見上げる。


「……まだ。」


「でも。」


「ちゃんと、自分の言葉で伝えられる日が来たら。」


「その時に渡す。」


アイシィは優しく微笑んだ。


「きっと千乃さん、すごく喜びます。」


真銀は照れくさそうに笑う。


「だといいな。」


その頃。


宿では。


「くしゅん!」


千乃が小さなくしゃみをした。


「風邪?」


ララが心配そうに聞く。


「ううん。」


千乃は首を傾げる。


「なんか……誰かが私のこと考えてた気がした。」


ライが静かにお茶を飲みながら呟く。


「気のせいだろう。」


そのすぐ近くで。


帰ってきた真銀は、何事もなかったような顔で宿の扉を開けた。


胸元の小さな箱だけは、誰にも気付かれないように、大切にしまったままだった。


その日の夜。


宿の自室。


真銀は部屋の扉を閉めると、小さく息をついた。


「……。」


胸ポケットから、小さな箱を取り出す。


ゆっくりと蓋を開ける。


白銀の簪。


小さな星。


真紅の石。


金色と淡い桃色の宝石。


灯りを受けて静かに輝いていた。


「……似合うだろ。」


思わずそんな言葉が漏れる。


コンコン。


突然、扉が鳴った。


「真銀ー?」


千乃の声だった。


「いるー?」


「!?」


真銀は飛び上がる。


「ちょ、ちょっと待て!」


慌てて箱を閉じる。


どこへ隠す。


机。


いや、見える。


引き出し。


鍵がない。


棚。


見つかる。


「真銀?」


「入っていい?」


「だ、だめ!」


思わず大きな声が出た。


廊下。


千乃はきょとんとする。


「え?」


「ご、ごめん。」


「今ちょっと散らかってる。」


「そうなの?」


「……ああ。」


部屋の中では。


真銀が必死に箱の隠し場所を探していた。


「どこだ……!」


その時。


コンコン。


今度は別の音。


「真銀さん。」


アイシィだった。


「……。」


「大丈夫ですか?」


「助かった……。」


真銀は小さく呟く。


「アイシィ!」


「悪い!」


「少し時間を稼いでくれ!」


アイシィはすぐに察した。


「分かりました。」


廊下で千乃へ微笑む。


「千乃さん。」


「少しお茶でもいかがですか?」


「お茶?」


「はい。」


「新しい茶葉をいただいたんです。」


「飲んでみませんか?」


「いいね!」


千乃は笑顔になった。


「じゃあ行く!」


二人の足音が遠ざかる。


部屋の中。


真銀はその隙に、箱を荷物の一番奥へしまい込む。


「……よし。」


コンコン。


「もう大丈夫だ。」


扉を開けると。


そこにはお茶を飲み終えた千乃が立っていた。


「ごめんね。」


「急に来ちゃって。」


「いや。」


真銀は平静を装う。


「それで、どうした?」


「あのね。」


千乃は笑顔で一冊の本を差し出した。


「この前借りた本!」


「読み終わったから返しに来た!」


「……それだけか?」


「うん!」


真銀は思わず肩の力が抜けた。


「そうか。」


「ありがとう。」


「また面白そうなのあったら貸してね!」


「分かった。」


千乃は手を振る。


「じゃ、おやすみ!」


「ああ。」


「おやすみ。」


扉が閉まる。


真銀はその場に座り込んだ。


「……危なかった。」


その様子を見ていたアイシィが、小さく笑う。


「かなり焦っていましたね。」


「当たり前だ。」


真銀は苦笑する。


「今見つかったら、渡す意味がなくなる。」


アイシィは優しく頷いた。


「秘密は、最後まで秘密ですね。」


「ああ。」


真銀は荷物の奥を見つめる。


その小さな箱を渡す日が来るまで。


誰にも知られないように、大切に守ると心に決めていた。




翌日。


「アイシィ。」


「はい?」


真銀は朝食を食べ終えると、小声でアイシィを呼んだ。


「もう一回、付き合ってくれ。」


アイシィはすぐに察したように微笑む。


「もちろんです。」


---


昨日訪れた装飾品店。


真銀は店員へ小さな箱を差し出した。


「昨日買った簪なんだけど。」


「少しだけ加工ってできるか?」


店員は箱を開き、簪を丁寧に手に取る。


「はい。」


「どのような加工をご希望でしょう?」


真銀は少しだけ考え、静かに答えた。


「名前を入れてほしい。」


「名前、ですか?」


「ああ。」


「『千乃』って。」


店員は頷いた。


「刻印ですね。」


「可能です。」


「場所はどちらへ?」


真銀は簪を見つめる。


「目立ちすぎない場所がいい。」


「本人だけが気付けるくらいで。」


店員は簪を裏返した。


「では、飾りの根元の内側はいかがでしょう。」


「髪に挿せば見えませんが、外せば読めます。」


真銀はすぐに頷く。


「それでお願いします。」


---


加工には少し時間がかかった。


その間、真銀は店内を歩き回る。


「緊張してますね。」


アイシィがくすっと笑う。


「……そんなに分かるか?」


「はい。」


「歩く速さが少し速いです。」


真銀は思わず苦笑した。


「隠せないな。」


「真銀さんは、千乃さんのことになると分かりやすいですよ。」


「……そうか。」


「はい。」


---


しばらくして。


「お待たせしました。」


店員が小さな箱を持って戻ってきた。


真銀は慎重に蓋を開ける。


昨日と変わらない、美しい簪。


ぱっと見では何も変わっていない。


店員が裏側をそっと向ける。


そこには、小さく、美しく。


**『千乃』**


と刻まれていた。


「……。」


真銀はその文字を見つめる。


自然と笑みがこぼれる。


「ありがとうございます。」


「世界に一つだけの贈り物になりますように。」


店員は優しく微笑んだ。


真銀は大切そうに箱を閉じる。


「もう十分だ。」


「これ以上は何も足さなくていい。」


アイシィも嬉しそうに頷いた。


「きっと喜んでくださいます。」


「……ああ。」


真銀は箱を胸元へしまう。


その仕草は、宝物を扱うように丁寧だった。


---


宿へ戻る途中。


角を曲がった瞬間。


「あっ。」


千乃と鉢合わせになった。


「真銀!」


「どこ行ってたの?」


「!」


真銀の心臓が跳ねる。


「ちょっと……。」


「散歩。」


「へぇ!」


千乃はにこっと笑う。


「私も今からララたちと街を見に行くんだ!」


「そうか。」


「楽しんでこい。」


「うん!」


千乃は笑顔で手を振り、ララたちの待つ方へ駆けていく。


その後ろ姿を見送りながら、真銀は胸ポケットへそっと手を当てた。


小さな箱は、そこにある。


まだ渡せない。


でも。


その日が来るたびに、少しずつ近付いている気がした。


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