静かな昼下がり
「ふぁ~……。」
昼食を食べ終えた千乃は、大きく伸びをした。
「眠い?」
真銀が尋ねる。
「ちょっとだけ。」
ララは椅子から勢いよく立ち上がった。
「じゃあ遊ぼ!」
「なんでそうなるの。」
「眠気なんて遊べば吹き飛ぶよ!」
「ララらしいな。」
ライが苦笑する。
「何して遊ぶ?」
千乃が首を傾げる。
ララは満面の笑みを浮かべた。
「鬼ごっこ!」
「却下。」
真銀が即答した。
「なんで!?」
「千乃が本気で走ったら、お前ら誰も捕まえられない。」
「あ。」
ララが固まる。
千乃も苦笑した。
「そうだった。」
神靴に神格まで加わった今。
全力で走れば、ライでも追いつけない。
ライも静かに頷く。
「私でも無理だ。」
アイシィがふと思い付いたように手を挙げた。
「では、かくれんぼはどうでしょう?」
「いいね!」
ララが飛び跳ねる。
真銀は少し考えてから頷いた。
「それなら問題ないか。」
ミルが肩の上で首を傾げる。
「かくれんぼとは何だ?」
「隠れて見つからないようにする遊びだよ。」
千乃が説明する。
「ほう。」
「面白そうだ。」
ララは早くもやる気満々だった。
「よーし! 絶対見つからない場所に隠れる!」
ライがぼそりと呟く。
「毎回、耳が見えているんだが。」
「えっ!?」
「うさぎ姿の時なんて、耳だけ出てるぞ。」
ララは両耳を押さえた。
「うそぉ!?」
アイシィがくすっと笑う。
「可愛らしいですよ。」
「可愛いじゃなくて、見つかっちゃうじゃん!」
千乃も笑いながら言う。
「じゃあ今日は、人型限定ね。」
「それなら大丈夫!」
ララは胸を張る。
「自信あるんだ。」
真銀が聞く。
「うん!」
「どこに隠れるの?」
「それ言ったら隠れる意味ないよ!」
「確かに。」
真銀が思わず笑う。
「じゃあ、鬼は……。」
全員の視線がライへ向く。
「……なぜ私だ。」
「一番見つけるの上手そう!」
ララが即答する。
「却下したい。」
「だめー!」
「多数決です。」
アイシィもにこりと笑う。
ミルも静かに頷く。
「異議なし。」
真銀は肩をすくめた。
「諦めろ。」
ライは小さくため息をつく。
「……分かった。」
ララが嬉しそうに飛び上がる。
「やったー!」
ライは壁に向かって目を閉じた。
「三十数える。」
「一。」
その瞬間。
ララが全力で駆け出す。
「急げ急げー!」
アイシィも小走りで廊下へ。
真銀は苦笑しながら別の部屋へ向かった。
千乃も「どこに隠れようかな」と歩き出す。
すると。
肩の上のミルが静かに言った。
「主よ。」
「ん?」
「空を飛んで屋根の上へ行けば、見つからぬのでは?」
千乃は一瞬考えた。
「……。」
「それ、ずるだからなし!」
「なるほど。」
ミルは素直に頷いた。
「遊びにもルールがあるのだな。」
「そういうこと!」
千乃は笑いながら廊下の角を曲がっていった。
その笑い声が、宿の中へ心地よく響いていた。
「……二十八。」
ライの声が宿に響く。
「二十九。」
「三十。」
ライは静かに振り返った。
「探し始める。」
まずは食堂。
誰もいない。
次は廊下。
静かだ。
ライは足音を立てずに歩いていく。
「ララ。」
「そこだな。」
「へっ!?」
扉の陰からララが顔を出した。
「なんで分かったの!?」
「気配。」
「ずるー!」
「いや、そういう遊びだ。」
ララは頬を膨らませた。
「一番に見つかったぁ……。」
「次を探す。」
---
アイシィは本棚の陰に座っていた。
「アイシィ。」
「はい。」
「見つかりました。」
「最初から返事するのか。」
ライが少し笑う。
「隠れるのは苦手なんです。」
「そうか。」
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残るは三人。
真銀。
千乃。
ミル。
ライは窓から庭を見渡す。
「……。」
どこにもいない。
「真銀は屋内だな。」
階段を上がる。
二階。
廊下の途中で足を止めた。
「いる。」
ライは静かに物置の扉を開ける。
「見つけた。」
「はぁ……。」
真銀が苦笑する。
「やっぱりお前からは逃げられないな。」
「長年の付き合いだからな。」
「そういうことにしとく。」
---
残るは千乃とミル。
ララがわくわくしながら後ろを歩く。
「どこかなー?」
「千乃なら絶対見つけられない場所にいるよ!」
ライは静かに目を閉じる。
気配を探る。
「……。」
いない。
一階にも。
二階にも。
庭にも。
「え?」
ララが首を傾げる。
「どこ?」
ライも少し驚いていた。
「気配が……。」
「ない?」
真銀も腕を組む。
「あいつ、何した?」
その時。
「ぷっ。」
どこからか、小さな笑い声が聞こえた。
全員が上を向く。
天井。
「いや、違う。」
真銀が首を振る。
「後ろだ。」
ライがゆっくり振り返る。
誰もいない。
……はずだった。
「ふふっ。」
突然。
空間がゆらりと揺れる。
「見つかっちゃった!」
光が集まり、その場に千乃が現れた。
「えぇぇぇ!?」
ララが目を丸くする。
「消えてたの!?」
千乃は照れ笑いする。
「違う違う。」
「翼で光を曲げて、見えにくくしてみただけ。」
「そんなことできるのか。」
真銀が呆れる。
「さっき偶然できた!」
ミルが肩の上で頷く。
「主は応用が得意だからな。」
ライは小さく息を吐いた。
「反則ではないな。」
「飛んでないし!」
千乃が笑う。
「ちゃんと宿の中にいたよ!」
ララは悔しそうに叫ぶ。
「次は絶対勝つー!」
「じゃあ次はララが鬼?」
真銀が聞く。
「うん!」
ララは元気よく頷いた。
「十秒で全員見つける!」
ライが静かに言う。
「無理だ。」
「むぅ……。」
アイシィがくすっと笑う。
「ララさんなら、探す前に迷子になりそうですね。」
「ならないもん!」
「……たぶん。」
その「たぶん」に、全員が思わず笑った。
宿の中には、穏やかな笑い声がいつまでも響いていた。
「じゃあ、次は私が鬼!」
ララは元気よく両手を上げた。
「十数えるからね!」
真銀が苦笑する。
「ちゃんと数えろよ。」
「もちろん!」
ララは壁に向かって目を閉じた。
「いーち!」
「にー!」
「よーん!」
千乃たちは顔を見合わせる。
「行こう。」
真銀が小さく呟く。
全員がそれぞれ散っていった。
「さーん!」
「ごーお!」
「はーち!」
「もうわかんないから、じゅー!」
ララは勢いよく振り返る。
「探すよーー!」
真っ先に食堂へ飛び込む。
「いない!」
廊下。
「いない!」
庭。
「いないー!」
ララはあっちへ走り、こっちへ走り。
「どこー!?」
その様子を、天井裏から真銀がそっと見下ろしていた。
(……すごい勢いだな。)
一方。
ライは宿の裏庭にある大きな木の枝の上。
アイシィは毛布をかぶって客室の隅に座っている。
そして千乃は。
神靴を脱ぎ、宿の受付で借りた大きな観葉植物の陰にしゃがんでいた。
ミルは肩の上で小さく丸くなっている。
『ここは見つかりにくいな。』
「しーっ。」
千乃は人差し指を口元に当てる。
『失礼。』
小声になるミル。
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「うーん!」
ララは腕を組んだ。
「全然見つからない!」
その時。
「くしゅん。」
小さなくしゃみ。
「!!」
ララの耳がぴくっと動く。
「今の音!」
一目散に走り出す。
「ここだー!」
勢いよく扉を開ける。
「見つけ……」
誰もいない。
「……あれ?」
部屋の隅。
毛布が少し揺れた。
「アイシィ!」
「見つかりました。」
アイシィは照れ笑いした。
「くしゃみをしてしまいました。」
「やったー!」
ララは大喜び。
「あと三人!」
---
しばらくして。
「真銀みーっけ!」
「やっぱり見つかったか。」
「次ー!」
「ライもいた!」
「見事だ。」
「あと一人!」
ララは満面の笑みで宿中を走り回る。
「千乃ー!」
「どこー!」
返事はない。
五分。
十分。
十五分。
「うぅ……。」
ララは床にぺたんと座り込んだ。
「分かんないよぉ……。」
その時だった。
「ララ。」
優しい声。
ララが振り向く。
観葉植物の陰から、ひょこっと千乃が顔を出した。
「ここ。」
「えぇぇぇぇ!?」
ララは目を丸くした。
「そこ!?」
「受付のお姉さんに『ここ借りてもいいですか?』って聞いたら、『いいですよ』って。」
真銀が吹き出す。
「ちゃんと許可取ってたのか。」
「うん。」
ライも珍しく笑った。
「盲点だったな。」
アイシィもくすっと笑う。
「植物の陰とは思いませんでした。」
ララは悔しそうに頬を膨らませる。
「もう一回!」
「もう終わり。」
真銀が笑う。
「今日は十分遊んだだろ。」
「えぇー。」
「また今度。」
千乃が笑顔で言う。
「今度は別の遊びしよう!」
「うん!」
ララはすぐに笑顔を取り戻した。
「じゃあ次は何して遊ぶ?」
「それはまた考えよう。」
真銀がそう言うと、みんなも笑って頷く。
今日のかくれんぼは、これでおしまい。
勝ち負けよりも、みんなで笑って遊べたことが、一番楽しい思い出になった。
数が数えられないララちゃんでした(笑)




