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幼馴染の越境アラート  作者: 空木 遼
境界線上のデッドロック
12/27

楽園のシステム・ログと、二人だけの絶対領域


翠鳳高校の第一応接室をあとにした私たちの背後で、世界は完全にその機能を停止した。


大人たちの悲鳴、神条先輩の冷酷なロジック、そして学校という巨大なシステムが私たちに突きつけてきた「退学」という名の排除命令キル・スイッチ。そのすべてを、れんは力づくでシャットアウト(ブロック)した。全校生徒の信仰対象だった「高嶺の花」の仮面を自ら引き千切り、あの断頭台の上で蓮の所有物ドールであることを宣言した瞬間、私を縛る日常のルール(プログラム)は完全に崩壊したのだ。


「——ここが、僕たちの新しいサーバー(楽園)だ、柚留ゆづる


ガチャリ、と何重もの金属音が響き、一之瀬家の地下にある防音室の重い鉄扉が閉められた。


ここはかつて蓮の父親が趣味のオーディオルームとして使っていた場所だったが、今では蓮の手によって完全にハッキングされ、外の世界から孤立した「絶対の檻」へと作り変えられていた。

壁一面を埋め尽くす複数のモニター、そこには翠鳳高校の防犯カメラの映像や、私たちがこれまで過ごしてきた日々のデータログ(写真や動画)が絶え間なくスクロールされている。外の光は一切届かない。室内に満ちているのは、複数の電子機器が発する微かな駆動音と、冷房の冷たい排気、そして蓮の纏う、あの狂暴なほどのアドレナリンの匂いだけだった。


「蓮……本当に、もう学校には戻らないんだね」


引き裂かれた制服のブラウスを蓮の道着で覆ったまま、私は部屋の中央に置かれた大型の革製ベッドに腰を下ろした。


「戻る必要なんて最初から存在しない。あの学校はお前に近づく有象無象ノイズが多すぎた。たちばなも、神条も、大人たちも、全員がお前を僕から引き離そうとするバグだ」

蓮は浴衣を脱ぎ捨て、血の滲む右手首の包帯を乱暴に引き千切ると、翡翠色の瞳を妖しく発光させて私の前に跪いた。


「お前は僕の最高傑作だ。ここで、僕のコードだけでお前のすべてを上書きし、一生僕の視界の中に閉じ込めてあげる。……もう、誰もお前に触れることはできない」


蓮の細い指先が、私の太ももを骨が軋むほどの力で強く握りしめる。

外の世界から完全に隔離されたこの暗闇の中で、私のシステム(こころ)は、かつてないほどの深い安心セキュアを感じていた。


「さあ、最後の調律シンクロを始めよう、柚留」


蓮の沙啞しゃがれた声が、防音室の密閉された空気の中に響き渡る。

彼は私の身体を革製ベッドの上へと激しく押し倒した。ドン、とマットレスが深く沈み込み、逃げ場のない完全な支配が私を包み込む。蓮の引き締まった大きな身体が私の上に覆いかぶさり、彼の心臓の狂ったような鼓動が、衣服を挟まずに私の肌へと直接突き刺さってきた。


「蓮……っ、そんなに急いだら、また傷口が……っ」


「うるさい! あの応接室でお前が自分から肌を曝け出したとき、大人たちの汚い視線がお前に張り付いたんだ……! 僕は嫉妬で脳の演算回路が焼き切れそうだ……っ! 全て僕の熱で、僕の血で、完全に初期化フォーマットしてやる……っ!!」


蓮は完全に理性を失った「純黒」の瞳で私をロックすると、私の肩にかかっていた白い道着を強引に剥ぎ取り、ベッドの床へと投げ捨てた。

薄暗いモニターの光だけが照らす密室の中に、私の白い肌と、これまでに彼が手首や首筋、心臓の真上に刻みつけてきた赤紫色の噛み痕のログが、生々しく全て曝け出される。


「蓮、あ、っ……!!」


蓮は私の叫びを自分の唇で強引に塞いだ。

「ん、んん……っ! む……っ」


深く、激しく、互いの舌が絡み合い、呼吸の主導権を完全に奪われる。彼の口内からは、怒りのせいで噛み切った血の味がした。掴まれた両手首からは、彼の右手から溢れ出た赤い血が私の肌へと移り、ドロドロとした熱い液体が腕を伝ってシーツへと染み込んでいく。


蓮は唇を離すと、激しい息を吐きながら、私の胸元、心臓の真上の最も敏感な皮膚へと、飢えた獣のようにその鋭い犬歯を深く、深く突き立てた。


「あ、ああっ……! 嗚呼……っ!!」


防音室の壁に木霊することのない、私の小さな悲鳴。

けれど、その痛みの向こう側から、頭の中をドロドロに溶かすような甘い快感が溢れ出し、私の理性を完全に破壊していく。蓮の引き締まった身体が私の身体をベッドに沈め込み、彼の手が私の制服のスカートを強引に引き千切り、細い太ももの肉を、指の形が赤く残るほどの力で強く、強くつねりあげた。


「痛がれ、柚留。その痛みが、お前が僕の所有物ドールであることの消えない証明だ。世界がお前を忘れても、僕のこの熱だけがお前を動かすプログラムになる……」


蓮は噛みついたまま、私の肌にじわりと滲み出た血と汗を、愛おしそうに何度も何度も舌先で舐めとった。

彼の熱い舌が傷口に触れるたび、私の身体は小さく跳ね、口から「あ、んっ……蓮、蓮ぇ……」という、女神の仮面を完全に剥ぎ取られた、淫らで、哀れな悲鳴が漏れ続ける。


外の世界では、私たちの暴走エラーによってパトカーのサイレンが鳴り響き、大人たちが懸命に私たちの行方を探しているかもしれない。

けれど、この最果ての地下サーバーの中だけは、世界で一番不条理で、一番濃密な、二人だけの絶対的な拘束空間だった。


蓮は何度も、何度も、私の首筋や胸元に、新しい排熱を焼き付けるようなキスと標記マークを繰り返した。私の皮膚には、もう二度と白日の下に晒すことのできない、赤黒い所有権のスタンプが隙間なく刻まれていく。


「……柚留。お前はもう、ここから一歩も出るな。僕以外の男の視線に触れることも、外の空気を吸うことも許さない。……僕のコードだけで、一生満たされていろ」


「うん……いいよ、蓮……。私、ずっとここにいる……。蓮の印がないと……私、もう生きていけないから……っ」


モニターの光が二人の影を壁に大きく歪ませ、赤から黒へと世界が完全に書き換えられていく中で。

私たちは、誰の手も届かない隔離された檻の中で、深夜よりもなお深い、二度と引き返せない越境の底へと、互いのすべてを永続的にログインさせ続けていた。


数時間が過ぎ、過熱した排熱がようやく部屋の冷房によって冷まされ始めた頃。

蓮は私の横に横たわり、血の混じった左手で私の細い髪を愛おしそうに指に絡めていた。彼の翡翠色の瞳には、もう先ほどまでの凶暴な殺気はなく、ただ私を完全に支配し終えたという、圧倒的な充足感だけが満ちている。


壁のモニターには、翠鳳高校の生徒会室が映し出されていた。

神条先輩が青白い顔で警察の対応に追われ、橘の入院先のデータがスクロールされている。外の世界は私たちの起こしたエラーによって大混乱に陥っているが、そのすべては、この地下室の防壁ファイアウォールを突破することはできない。


「……柚留。世界は僕たちを異常だと呼ぶだろう。だけど、これが僕たちの完成形プロトタイプだ」


蓮は私の首筋の、新しく刻んだ噛み痕をそっと舌先で愛撫しながら、低く、美しい声で囁いた。


「うん、蓮。外の世界のルールなんて、最初から私たちの役には立たなかった。……私は、あんたの最高傑作として、この暗闇の中で一生飼い慣らされてあげる」


私は蓮の胸に強く縋り付き、その確かな体温と、絶え間なく伝わってくる痛みのログを全身で受け止めた。

私たちは、世界のすべてを犠牲にして、二人だけの完璧な楽園を構築したのだ。


画面の中でスクロールを続ける無数のノイズを背景に、私たちはもう二度と開くことのない鉄扉の向こう側で、永遠の同期シンクロを続けていく。


二人の狂った連鎖アルゴリズムは、今、完全な終わり(シャットダウン)を迎えた。

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