第348話 気に入らない者には容赦しませんよ
<兄貴視点>
「お前等も、怖い奴に気に入られたもんだな?」×親分
「正直、死ぬかと思いやした・・・」×兄貴
「人を見掛けなんかで判断するんじゃねえと、何時もいってんだろ?」
「ですが、あれは反則ですぜ、親父」
「ワハハ、まあ、そう思う気持ちも分かるがな、怖い嬢ちゃんだが優しいじゃねえか。
半ば脅しに行った、お前等を許してくれたんだからよ」
「・・・信じて貰えねえかもしれませんが、指詰めて謝りました」
「なにっ?」
「ですが、魔法で指をくっ付けてくれたんです、綺麗に元通りに・・・」
「なんてぇ嬢ちゃんだ・・・そんな事まで出来やがんのかよ。
だが、それでようやく分かった、お前の覚悟を認めてくれたんだろうよ。
ワシに、こんな手土産までくれたぐれえだからな」
「あ、兄貴、隣組の組長連中がいますぜ?」
「チッ! 嫌な奴にあっちまった。親父行きましょう」
「馬鹿野郎! そんな逃げる様な真似ができるかよ」
此奴等、他所のシマに堂々と入ってきやがって、相変わらずのニヤケ面が気に喰わねえ。
「誰かと思えば、貧乏ヤクザじゃねえか?」
「ケッ! クズは貧乏より遥かに劣るのを知らねえのか?」
「なんだと?」
「おいおい、止めとけ。こんな往来で貧乏人の相手をするほど暇じゃねえ。
それにしても、自分のシマとは言え似合わねえとこに居るじゃねえか?」
「親父はな、たった今あの『霧のワイン』を飲んで来たとこだ。どっちが貧乏人か、思い知りやがれ」×兄貴
「はあ? 『霧のワイン』だと」
「下手な嘘を付くんじゃねえ、お前達みたいな貧乏人が飲める酒じゃねえだろうが」
「残念だったな? お前等が教えてくれたワインは極上の味だったぜ。
あ~ 悪いな飲んだことがねえ、貧乏人には分からねえよな?」×兄貴
「やれやれ、貧乏人が見栄を張りやがって情けねえったらねえな」
「ワハハ、おいクズ共? 何故あれが『霧のワイン』って呼ばれているか知ってるか?」×親分
「なにを、とち狂った事を言ってやがる・・・」
「飲んだことがねえ奴には一生分からねえだろうな、飲んだことがある者にしか分からねえのよ。
お前等にゃ一生飲めねえだろうな、クズには似合わねえ酒だ。
それに、金があっても紹介状がなかったら飲めねえのを知ってるか?
その空っぽの頭を地面に擦りつけて頼むんなら、くれてやらん事もねえがな♪」
「ワハハハハハハ!」×兄貴達
「こ、この野郎・・・」
「おっと、忠告しといてやるが手を出すなよ? 世の中にゃあな、触れちゃあならねえもんってのがあんだ。クズ共にゃ分からねえかもしれねえがな」
俺達は、悔しそうな顔をしている隣組の奴等の前を通り、帰る事にした。
俺を嵌めようとしやがった奴等に、吠え面をかかせてやり非常に気分が良い♪
親父も上機嫌になってくれ、俺達は肩で風を切りながら往来を歩いて行った。
「ば、馬鹿な・・・彼奴等にそんな金があるわけねえ」
「おい、本当にてめえらが、けし掛けたのか?」
「は、はい、奴等なんにも知らない様だったんで噂を確かめるのに良いかと思いやして」
「なるほどな・・・どうやら噂は噂だったようだな。おい、てめえら!」
「はい」
「その『霧のワイン』ってのを買って来い」
「ええっ! そ、そんな金、俺達には・・・」
「馬鹿野郎! 手前等、何年ヤクザやってやがる?」
「わ、わかりやした」
「頭の回らねえ野郎共め・・・手前等のせいで俺まで馬鹿にされた気分じゃねえか」
「すみやせん」
「おらっ! とっとと行ってこい」
「はい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ヨウ君、今良いかな?』×スズカ<念話>
『はい、良いですよ。どうしたんです?』×ヨウ<念話>
『ちょっと、困ったお客さんが来ちゃって』
『何かされたんですか?』
『え、えーっと・・・銃とか出されちゃって』
ピキッ! 『怪我は無いですか?』
『うん、全然平気だよ。ヨウ君のお陰で銃なんて玩具同然だからね、もう気絶させてあるんだけど』
『分かりました。直ぐに行きますね』
『ごめんね、ありがとう』
いくら大丈夫だとは言え、スズカさんに銃を向けた奴がいるかと思うと、言い様の無い怒りが沸々と湧き上がってきた。
「ヨ、ヨウ様?」×リラ
「・・・なにかあったのヨウ君?」×アヤメ
「ああ、ごめんなさい。スズカさんの店に銃を持った奴が来たらしくて」
「「「「「・・・・・・」」」」」
アヤメさん達は、スッと表情が消え去り、僕と同じ様に怒気に満ちて行く。
「スズカは無事なんだよね?」×アヤメ
「はい」
「行きましょう、ヨウ様」×リラ
「今日は押さえれませんよ?」
「私も同じ気持ちです」
「ヨウ様、私達も連れていってくれませんか?」×アール
「・・・あまり見られたくないんですけど?」
「ヨウ様は、私達と上辺だけの付き合いを御希望なのでしょうか?」
「そんな訳ないじゃないですか。怖いかもですよ?」
「存じております」
「アールさん、仲間外れは駄目ですよ?」×カンナ
「良いのですか? 相手は魔物ではなく人間ですよ?」
「フフ、私達と上辺だけの付き合いをしたいのですか?」
「そう言われると何も言えませんね♪」
「ヨウ様、私達メイド全員でお供致します」
「分かりました。お礼は言いませんよ?」
「私達から、お礼を言わせて貰いたいです」
僕は少し涙ぐみながら、とりあえず僕だけでスズカさんの店へ転移した。
カンナさん達の事を考えると、喜んではいけないのかもしれないけど、カンナさん達とも一生の付き合いになる事を改めて噛み締めた。
店へ着くと、スズカさんが出迎えてくれた。
詳しい話しを聞くと、『霧のワイン』を寄越せと金も払わずに脅されたようだ。
当然の如く断ると、銃まで出してきたらしい。
こめかみが怒りでピクピクと震え出すが、その男達に会う事にした。
男達はスズカさんが創った亜空間に囚われており、気絶している様だが蹴り飛ばして叩き起こした。
「ぐはっ!」
「おい、誰に頼まれたんだ?」
「お、お前は三日月陽か?」
「喧しい!」
僕は、ちゃんと自分の口で言うまで何度も蹴り飛ばし、全ての事情を聞き終えた。
どうやら、色々と悪い事もしているらしいが、スズカさんに手を出したと言うだけでも許せそうになかった。
男達は既にボロボロになっていたが、そんな事は歯牙にもかけなかった。
「スズカさん、本当に大丈夫ですか?」
「もちろんよ、全然大丈夫!」
「少しでも気になる事があったら言って下さいね?」
「ありがとヨウ君♪ でも、そこまで言ってくれるなら、私も連れて行ってくれないかな?」
「・・・何故ですか?」
「もうね、ヨウ君に頼りっときりじゃ嫌なの。降りかかる火の粉ぐらいは自分で払いたいのよ」
「一生僕が守りますよ?」
「私もヨウ君を守りたいのよ? 私なんかが烏滸がましいけどね」
「後悔するかもしれませんよ?」
「大丈夫。ちゃんとした私の意思なんだよ? ヨウ君が全て正しいとは思って無いわ」
「・・・そこまで言われたら、断れないじゃないですか」
「ごめんね、我儘言ってさ」
「いえ、僕が間違ってました。行きましょうか」
「うん♪」
僕はスズカさんを連れて皆と合流し、掃除に行くことにした。
「もう、馬鹿ねスズカ。こんなとこ見なくても良いのに?」×アヤメ
「アヤメさん達だけなんて狡いですよ? ねえカンナさん」
「フフ、はい。どこまでもお供致します」
「ヨウ様、色々と調べたところクズの集まりでした。一人として真面な者は居ないかと」
「ありがとう、リラさん。じゃ一切の容赦は要りませんね、でも一応確認だけして貰って良いですか?」
「分かってるわ、カンナ達も良い?」×アヤメ
「畏まりました」
「じゃ、行きますね」
「はい」×全員
僕達はスズカさんを襲ったヤクザの組事務所へ着くと、誰一人逃がさない様に四方へ別れた。
組事務所と言っても日本風の大きな家であり、かなりのお金が掛かっているのは容易に想像できた。
僕とアヤメさん達は正面玄関で<隠蔽>を解いて姿を現した。
行き成り現れた僕達に驚いたのか、チンピラの様な男達がワラワラと集まって来る。
「だ、誰だ? どっから入って来やがった?」
「ちゃんと、門から入って来ましたよ?」
「お前等、此処がどこだか分かってんのか?」
「ん~ ゴミ事務所? クズの溜まり場? 碌な事をしてない人ばかりなんでしょ?」
この時点で、ここに居る男達が生かしておく価値が無いことが分かった。
どうやら、なんの遠慮も要らなそうだ。
「てめえら・・・」
「こ、こいつ、三日月陽だ!」
「なにっ? そういや、女達も見覚えがあるな」
「貴方達に知ってて貰えても嬉しくないわ」×アヤメ
「・・・有名なSSランク冒険者が何をしに来やがった?」
「ちょっと組長に会いに来たんですよ、通して貰って良いですか?」
「何を調子に乗ってんのか知らねえけどよ、ガキが簡単に会える人じゃねえんだわ」
「なんだよSSランクとか言っても、本当にガキじゃねーか笑えるな」
「こんなガキが世界一の冒険者って言われてんのかよ、信じられねえな」
「よっぽど運が良いんだろうよ、冒険者なんてそんなもんなんだろ?」
「最近は調子に乗ったガキが増えてやがるからな、ステータスか何だか知らねえが鉄砲に勝てる訳がねえだろ?」
「魔物を倒して強くなりましたってか? ガキはダンジョンとかで遊んでろや」
「だが、女達はテレビで見るより綺麗だな?」
「ああ、魔女だっけか?」
「「「「「「「「あははははははは♪」」」」」」」」
「笑わしやがる。何をとち狂ったか知らねえが、此処に無断で入った事を後悔させてやんよ」
「わはは、俺はこの女にするか」
ボトッ!
「なっ?」
不用意にアヤメさんに近寄った男の首が地面に転がっている。
あまりの一瞬の出来事で男達は茫然としていたが、血を吹き出しながら倒れていく身体を見て事態が把握できたようだ。
「ヒッ! ヒィィ!」
「あはは、子供を相手に何を怯えてるんですか?」
「こ、このガキがああああ・・・」
ボトッ!
「う、うわああああああ!」
「先程から誰にガキと言っているのですか? 死んで詫びなさい」×リラ
先程と同じ様に男の首が切断され、地面に転がると男達に恐怖の色が見えだした。
「んふふ、私が魔女なんだけど、何が可笑しいのかな? 説明してくれる?」×アヤメ
「こ、殺してやる・・・」
「あはは、ひょっとして銃みたいな玩具で、どうにかなると思ってるの? 可愛いじゃない」
「玩具だと? お、お前はこれが怖くねえのか?」
「試しに撃ってみなさいよ? それが貴方の最後になるから」
「じょ、冗談じゃない。そんな事が、ある訳・・・」
僕はアヤメさんに銃を抜いた事が我慢できず、男の首を斬り落とした。
「あらら、大丈夫なのに?」
「駄目です! 許せません」
その場に残った男達は、もう完全に恐怖で固まっており大量の汗を掻いていた。
「さて、組長さんに会わせて貰えますか? それとも死にますか?」
「う、うわああああああ!」
僕達を取り囲んでいた男達は、一斉に逃げ出そうとしたので片っ端から首を斬り飛ばしていった。
それからも、出会った者は一応試したが、どいつもこいつもクズばかりだった。
周りからも悲鳴が聞こえており、メイドさん達も頑張ってくれているのが分かる。
どんどん、奥へと進んで行くと、ようやく組長さんらしき人を見つけた。
「こりゃあ、一体どういうこった? 俺が何をしたってんだ」
「何を言ってるんですか? 先に手を出して来たのは、そっちでしょ?」
僕は<亜空界>に閉じ込めていた、スズカさんの店を襲った男達を部屋に出した。
既にズタボロになっており、喋る事は出来ないが顔の判断は付くだろう。
「・・・そう言う事か。チッ! あの噂は本当って訳かい」
「もう説明なんて要りませんよね?」
「ああ、だが俺も何も用意してない訳じゃねえ、こういう時の為に用心棒ぐらい置いてあるのよ。
お前等みたいな冒険者ごっこをしてる素人じゃねえ。本物の殺し屋って奴を味わいな」
殺し屋と呼ばれる男は、確かに他の者達とは違う雰囲気を漂わせていた。
ステータスもかなり上げているようだが、それでも僕達の脅威になるとは到底思えない。
「本当に殺し屋なんて居るんですね~」
「俺達はな、遊びなんかじゃねえんだよ、大人の世界に首を突っ込んだ事を後悔しやがれ」
「フフ、ここまでくると滑稽ですね?」×リラ
「ええ、貴方は冒険者って者が何も分かってないわよ」×アヤメ
「魔物ってさ、人間なんかより、よっぽど怖いんだよ?」×ノノ
「何時も弱い者虐めしてるだけだから分かんないんでしょ」×ナギサ
「時代に付いていけないのは哀れだよね」×ツドイ
「ヨウ君、私が相手しても良いかな?」×スズカ
「・・・本気なんですね?」
「ええ、本気よ」
「分かりました。では、スズカさんにお任せします」
「ありがとね、ヨウ君」
スズカさんは<虚空庫>から愛用の槍を取り出し、殺し屋の前に立った。
「私は皆と比べたら冒険者って呼べる程の者じゃないけど、相手をしてあげるわ、来なさい!」
「ケッ! 馬鹿が。殺れ!」×組長
次の瞬間、殺し屋と呼ばれる男はスズカさんに向けて銃を何発も撃ち放った。
だが、その弾丸はスズカさんに悉く槍で切り裂かれていく。
切り裂かれた弾丸は跳弾しないようにコントロールされ、足元にパラパラと転がっている。
これを見ただけでも、とんでもない槍捌きが出来るようになったんだなと感心してしまう。
そして、スズカさんは、全ての弾を打ち尽くした殺し屋の首を、躊躇なく斬り飛ばした。
「ば、馬鹿な・・・」
「銃なんて使ってるレベルで、私達に敵う訳がないのよ。散々勝ち誇っていたけど、残念だったわね」×スズカ
「お、お前等、何をしてやがる、早く此奴等を殺せ!」
「・・・親父無理だ。勝てる訳がねえ、腹括りましょうや」
「ば、馬鹿野郎! そ、そうだ金をやる。全部やる」
「みっともねえ真似は止めましょうや、あの噂は本当だったって事ですよ。
俺達は絶対に手をだしちゃいけねえ者に、手を出しちまったんだ。
最近の親父は汚え仕事もするようになっちまって、俺が何度言っても聞いてくれなかったじゃないですか。
ここいらで観念するのも良いじゃねえですか、自業自得ってやつですよ?」
「こ、この野郎、親に逆らうんじゃねえ」
組長は子供の様に大声を上げて錯乱したのか、自分の子分を撃ち殺そうとした。
ヤクザとは言え、こんなにも潔い男が殺されるのを見ていられなくて組長の首を斬り飛ばした。
それを見た残った男達は、必死になって逃げだしたが当然全員始末した。
潔い男は寂しそうな表情で、その光景を見ていたが微動だに動きはしなかった。
「全く情けねえ奴等だ。さあ、俺も殺ってくれ」
「最後に何か希望がありますか?」
「優しいじゃねえか?」
「見事な覚悟をしている人への礼儀ですよ?」
「そうだな・・・俺も『霧のワイン』って奴を飲んでみたかったな」
「えっ?」×全員
僕達は、人生の最後に『霧のワイン』が飲みたいなんて言われると思わなかったので呆気に取られてしまった。
誰も逃がさない様に、四方に散っていたメイドさん達も集まっており、僕達と同じ状態になっている。
「あははははは♪」×全員
「君、面白いね♪」×ツドイ
「良いですね、それ叶えちゃいます」
「おいおい、言ってみるもんだな」
僕は<虚空界>から『霧のワイン』を取り出し、男へ注いであげた。
「悪いな? 思い残す事無く逝けそうだわ」
男は何の躊躇いもなく、グラスを煽ると満足そうな笑みを浮かべている。
「旨え・・・なんだこりゃ? 霞のように消えやがる。
ハハ、なるほど。それで『霧のワイン』って言うのかよ。
確かに、こりゃ飲まないと理解できねえだろうな。
死ぬ前に飲むに相応しい最高の酒だ♪
おっと、俺は死ぬときはタバコを咥えながらって決めてたんだ」
「はい、どうぞ♪」
スズカさんは男がタバコを咥えると、ライターで火を点けて上げている。
流石にママさんだなと感心した。
「ありがとさん。フゥ~ ああ、旨い! さっ、何時でも良いぞ?」
「・・・・・・・・・・」
「おい、早くしてくれよ・・・覚悟して目え瞑ってんだからよ?
って、おい! 誰も居ねえじゃねえか・・・
はあ? 信じられねえ。俺を生かしてどうする?
俺がチクったらどうすんだよ?」
「・・・・・・・・・」
「ふふ、あはははは♪ そんなこたあ歯牙にも掛けねえってか?
なんて打っ飛んだ奴なんだよ?
あれが、世界一の冒険者か・・・参った! 心底俺の負けだわ、惚れちまうだろ?」




