第347話 親分さんは義理と人情な人でした
評価やブックマーク等、応援して下さった全ての方、ありがとうございます。
<スズカ視点>
私はヤクザさんから事情を聞いてみることにした。
ヤクザさんとこの親分さんは、昔気質な人で筋の通らない事が大嫌いな人らしい。
そのせいか、他所に比べると稼ぎが低く、貧乏ヤクザと呼ばれているそうだ。
でも、縄張りと呼ばれる場所は、この付近であり高級クラブも多く良い場所らしい。
それでも親分さんは、昔から格安の用心棒代や幾つかの飲み屋でしか稼いでいないそうだ。
当然の様に同業者から縄張り争いがあり、隣接している組とは敵対している。
私の店に『霧のワイン』があると言う情報は、その敵対している同業者から聞いたらしい。
『霧のワイン』を手に入れる事が出来たら、簡単に稼げるのにと自分達ばかりか親分まで馬鹿にされたらしい。
親分から他所の組との喧嘩は禁止されているため、殴り掛かる事も出来なかったようだ。
それならと、金稼ぎ目的ではなく『霧のワイン』を購入して、親分に献上しようと考えたらしい。
色々と調べたところ『霧のワイン』を飲んだことがあると言うだけで、金持ちの中でも、かなりのステータスになる事が分かった。
いくら金があったとしても、俺達の稼業じゃオークションにも参加出来ないため入手は困難と言わざるを得ない。
ウチの親分が『霧のワイン』を飲んだことがある事が伝われば、馬鹿にされるどころか一目置かれる事になるだろう。
そう考え、私の店に来たようだ。ある意味、地獄の入り口とも言えるのに。
「此処って、かなり有名な筈なんだけど、何故知らなかったのよ?」
「此処に限らず、俺達は堅気の店に手を出すのは禁止されてんだよ」
「あ~ なるほどね、此処に手を出すなって、言う必要もなかったんだ」
「親父は知ってたんだろうが、若い奴等には言わねえ方が良いと思ったんだろうな」
「貴方は、そんなに若くないじゃない?」
「俺は若い連中を取り仕切ってんだよ?」
「そう言う事ね。それで自分達が手を出せないとこに、何も知らない貴方達が利用されたと?」
「あの外道共め・・・噂を確かめる為に俺達を利用しやがって。あわよくば俺達を潰せるし一石二鳥ってやつか」
「悪い事考える人がいたものね・・・でも、そんな事に私の店が利用されたってのにも気分が悪いわね。
そーだ! 良い事考え付いちゃった♪
ねーねー、その親分さんを私の店に連れて来なさいよ」
「はあ? そ、そんな金が俺に、ある訳無いだろうが?」
「<生活魔法>スクロールがあるんでしょ? それで手を打ってあげるわ。
私は絶対に『霧のワイン』を販売なんてしないし、貴方は親分さんに飲んで貰えたら良いんでしょ?
良い話しだと思わない? 言っとくけど大サービスよ?」
「・・・本当に良いのか?」
「ええ、でも今日の事は秘密よ? 私の御主人様にバレたら、本当に終わりだからね」
「ヤクザを脅すなよ? どんだけ恐ろしい御主人様なんだよ?」
「私は月を破壊出来るって言われても信じるわ。絶対に手を出しちゃ駄目な人って居るんだよ?」
「分かった。今日はすまなかった感謝する」
「うふふ、この亜空間に閉じ込めておくことも出来たんだよ?」
「だから脅すなって? 俺等がヒヨコだってのは十分、分かったからよ」
「お仲間さんも治しといて上げるから、ちゃんと説明しとくんだよ?」
「ああ、これでも可愛い子分なんでな」
私は倒れている子分さん達を回復して上げ、亜空間を解除した。
子分さん達は何があったのか訳が分からない表情をしていたが、私を見ると震えていた。
失礼な人達なんだから~ こんなに華奢な女の子に怯えないでよね。
ニッコリと笑みを返してあげると、余計怯えられたので諦める事にした。
<威圧>スキルが悪いんだからね? 私が怖い訳じゃ無いわ。
ヤクザさんは、前払いで<生活魔法>スクロールを渡してくれ、深くお辞儀をして頼まれてしまった。
意外と礼儀正しい人なんだから、絶対に私が居る時に連れて来るように伝えると安心したように帰っていった。
やはり、今や『霧のワイン』を1億円で出すのは問題があるかなと思う。
また、ヨウ君に相談してみよっと。
今日は色々とあったけど、お店が終わりクレセント本部へ帰るとメイドさん達が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、スズカ様」×メイド達
「何時も、ありがとうございます」
メイドさん達には、私の出迎えなんてしなくて良いと言ってるんだけど、毎日出迎えをしてくれる。
お店の片付けはホステスさんに任せて、日替わり前には帰るようにしてるんだけど本当に、ありがたいなと感謝してしまう。
「皆様がお待ちですよ?」×カンナ
「はい、カンナさん達も飲みましょうよ?」
「畏まりました」
私がリビングへ行くと、皆はお酒を飲みながら寛いでいた。
「おかえり~」×クレセントメンバー
「ただいま~♪」
「今日も、お疲れ様です」
「ありがと、ヨウ君」
「スズカさんも飲みますか?」
「あっ! 私は先にお風呂に行ってくるね」
「温泉出しましょうか?」
「ん~ たまにはクレセント本部のお風呂に行ってこようかな」
「了解です」
私はメイドさんの付き添いを、やんわり断り下階にあるお風呂場に向かった。
先に髪を洗いシャンプーをシャワーで洗い流すと、誰かが隣に来たようだ。
私に他にも未だ、お風呂に入ってない人が居たのかと思い隣を見るとリラさんが座っていた。
それも、何故か私の顔を覗き込んでいる。
ま、まさか、今日の事がバレているのではないかと、ドキドキしながら喋りかけてみた。
「リ、リラさんも、お風呂未だだったんですか?」
「はい、スズカさんを待っておりました」
ヤ、ヤバいかも・・・私から視線を切ってくれないよ~
「あはは・・・ありがとうございます。今日も、お綺麗ですね?」
「フフ、ありがとうございます」
「あ、あの、私の顔に何か付いてます?」
「いえ、可愛い顔だなと思って見ているだけです」
リラさんはニコニコしながら、私を見つめるのを止めてくれないので諦める事にした。
「ハハ、ひょっとしてバレてます?」
「フフ、今日お店に来られたヤクザの事ですか?」
あ~ん! やっぱりバレてる~
「ど、どんな情報網を張ってるんですか?」
「スズカさんが帰って来た時、なにか様子が変だったので調べてみました」
「うはっ! たった、それだけでバレたんですか?」
「誤魔化せると思ったのですか?」
「すみませんでしたー!」
私は諦めてリラさんに全てを話す事にした。
全て聞き終わると、ようやくリラさんは私から視線を外してくれた。
もう、絶対にリラさんには、隠し事なんて出来ない事を悟った。
「ギリギリセーフですね?」
「よかったー!」
「言っておきますが、私はですよ? ヨウ様が知れば、間違いなく壊滅ですね」
「うはーーー! ど、どうにか、なんないかな?」
「フフ、心配しなくとも正直にヨウ様に伝えるのですね、きっと分かって下さいますから」
「大丈夫かな?」
「普通に知れば間違いなく終わりですが、ちゃんと説明すれば大丈夫ですよ」
「分かりました。ありがとう、リラさん」
「フフ、いえいえ♪」
リラさんに言われた通り、ヨウ君に今日あったことを説明すると、少し顔色が変わったけど最後には納得してくれた。
「スズカさんにも、強くなって貰っといて良かったです」
「あはは、お陰様で全然怖くなかったよ?」
「でも、危ないと思ったら逃げるんですよ?」
「は~い♪ ねーねーヨウ君?」
「なんですか?」
「これからは、やっぱり『霧のワイン』を1億円で出すのは問題があると思うんだけど?」
「ん~ それなら、信用のおける人からの紹介制にしましょうか?」
「それ良いかも? 分かったわ、信用できる常連さんに頼んでみる」
「他の客に見られない様にね?」
「ええ、VIPルーム専用にするわ♪」
やっぱり、ヨウ君に相談して良かった。
これもリラさんのお陰ね、後でお礼しに行かなきゃ。
私も気分よくお酒を飲む事にした。
「さって、そろそろ寝ましょうか」
「んふふ、今日は誰からなの?」×アヤメ
「ん~ 湯楽さんかな?」
「な、なんで私なんだよ? 絶対に照れさそうとしてるだろ?」
「にひひ、湯楽もキスだけで失神するようになっちゃったからね~」×ナギサ
「開発されちゃった?」×ツドイ
「だぁ~ 恥ずかしい事言うなよな」×ユラ
「あはははは♪」×全員
「リラさん、リラさん?」
「はい、ヨウ様」
「ありがとね」
「えっ? フフ、ヨウ様は怖い人ですね?」
「そうかな?」
「少なくとも、私よりは?」
「それは、全知全能に成らないと無理じゃないかな?」
「私から見たら、そうだとしか思えませんよ?」
「サービスしちゃいますよ?」
「そ、それも怖いですね」
「あはは♪」
翌朝、目が覚めると何時もの如く、カオスな光景に吃驚しちゃう。
隣にはリラさんが、まだ寝ている様だ。
目を瞑っていても、とても美しく引き込まれそうな魅力がある。
ずっと、見ていられるなと思っていると、何時の間にか目が開いていた。
「フフ、見過ぎですよ?」
「あはは、起きてたんですか?」
「視線を感じましたので?」
「昨日のお礼が、未だでしたよね?」
「フフ、本当にお礼ですか?」
「もちろんです♪」
私はリラさんとモーニングキスをして、今日も清々しい朝を迎えた。
ヨウ君達は、朝食を食べ終わると中国のダンジョンへ出掛けて行った。
私も昼から職人パーティでダンジョンへ行き、色々な素材に喜ぶ職人さん達を見て楽しかった。
そして、夕食を食べてからお店へ行くと、早速、今日親分さんを連れて来るとヤクザさんから連絡があった。
私はVIPルームの予約を取り、ちょっと楽しみにしていると、どうやら来たようだ。
出迎える為に店の玄関に行くと、70歳ぐらいの気難しそうな男性の後ろに昨日のヤクザさん達がいる。
この人が親分さんのようだ、聞いてた感じそのままね♪
直ぐにVIPルームへ案内すると、ヤクザさん達は柄にもなくソワソワしているようだった。
「こういう、お店は初めてですか?」
「ああ、ワシは高級なところは落ち着かんのでな、眩しくて敵わん」
「それはすみません。料亭の方がお好みですか?」
「まあな、だが、こ奴等に是非にと進められたのでな」
「それではこれで、どうでしょう?」
「なっ! なんじゃ?」
私はVIPルームを高級料亭の映像に切り替えた。
今は、どこからどう見ても高級料亭にしか見えないだろう。
煌びやかなライトが、木漏れ日が差し込む和室に変わり、見事なまでの庭園に囲まれているのだから。
親分さんは目を見開き、子分達は驚き戸惑っているのを見ていると、とても楽しい♪
少しヨウ君の気持が分かっちゃうわね。
「ば、馬鹿な! どこだ此処は?」
「心配しなくても、これは映像ですよ? こちらの方が宜しいのでは?」
「わはは、最近はこんなことも出来るのか? なんとも楽しいじゃないか」
「お、親父が喜んでくれるなんて珍しいですね?」
「まあ、これだけの別嬪さんを見られただけでも、来た甲斐があったってもんだ」
「うふふ、お上手ですね?」
「お前らにゃあ言って無かったが、此処は噂通りのとこらしい。
この馬鹿共を見逃してくれて、ありがとよ。
それとも、ワシも引っ張り出したかったのか?」
「お、親父何を・・・」
「お前等にゃ何も感じれんだろうが、ワシは此処から逃げ出したい。
怖いぞ、この可愛い姉ちゃんは・・・
何度も何度も修羅場を潜ったワシが、ジワっと嫌な汗が出てきやがる。
冒険者って奴だろう? しかも、半端なもんじゃねえ」
「フフ、凄いですね。威圧も何もしてないのに、私の強さが分かるのですか?」
「ダンジョンが出来てから、お前の様な見た目で判断できねえ化物が出る様になっちまった。
だが、人間にゃーな本能って奴がありやがるんだ。
ぜってえ、逆らっちゃ、いけねえ雰囲気が分かる様になるのよ。
それでも、ワシ等は逃げるわけにゃ、いかねえんだけどな」
「こんなに華奢な女性を相手に化物は無いでしょう?」
「違うって言えるのかい?」
「もちろんです! 貴方は本物の化物が、どれだけ素晴らしく恐ろしいか知らないだけです。
彼に比べたら、私なんて小動物以下なのですから。
貴方が聞いた噂も彼の事でしょう、この店にチョッカイを出す者は、余程の馬鹿か愚か者ですから」
「ぐっ・・・そこら辺で勘弁してくれねえか?」
「やっぱりか? この馬鹿野郎共が」
「すんません親父」
「だが、何故許してくれたんだ?」
「そうですね、気まぐれだと思って下さい」
「わはは、気まぐれか? そいつぁ良い」
「では、そろそろ注文の品を、お持ちしますね」
私は<虚空庫>から豪華な木箱に入った『霧のワイン』を1本取り出し、テーブルへ置いた。
木箱にも『霧のワイン』と刻まれており、一見しただけでも高額なのが分かる作りになっている。
実際に木箱も良い値段がするらしく、高級感が漂っていた。
「そいつぁ、お持ちするじゃなくて、取り出すって言わねえか?」
「私は何も持ってはいませんよ?」
「まあな、どっから出したんだって話しだよな」
「フフ、では、お注ぎしますね」
私は木箱を丁寧に開け、ソムリエの様にワインのコルクを抜いてワイングラスに注ぎ入れた。
その場にいるだけで分かる芳醇な香りは、『霧のワイン』が特別な物と容易に想像できる。
「おいおい、幾らワシでもコレの事ぐらい知ってるぞ?」
「親分さん想いの良い人達と言う事です」
「お前等、こんな事に大事な金使いやがって・・・」
「すみません、親父には周りが黙る様な、一等良い物を送りたかったんで」
「泣かせるじゃねえか、ありがたく貰っとくわ」
親分さんは実に漢らしく、グイッと一口で飲み干していた。
「こりゃ旨えな、お前等も飲みやがれ」
「そ、そいつは親父の物なんで・・・」
「良いから飲め! こいつはワシとお前等の物だろ?」
「あ、兄貴、俺達にまで・・・」
「親父の言葉に逆らうんじゃねえ」
「ヘイ、頂きやす」×子分達
子分さん達も震える手を押さえつけ、一口で飲み干しっていった。
もう少し味わって飲めば良いのに。まあ、漢らしくて良いけどね♪
「ごっそうさん! 嬢ちゃん世話になったな、何か困ったことがあったら言ってくれ」
「言質は取りましたよ?」
「年寄りを脅すなって」
「うふふ、あっ! そうそう、これから『霧のワイン』は紹介無しでは飲めなくなりましたから御了承を!」
「んなもん、そんな簡単に飲めるかよ?」
「はい、どうぞ親分さん♪」
「おい、こいつは・・・」
「紹介状ですよ『霧のワイン』のね、とりあえず100枚渡しておきます」
「・・・ワシなんかに渡して良い物じゃねえだろ?」
「誰にでも渡す訳じゃありませんから、貴重品なんですよ?」
「わはは、ありがとよ。怖いとこから帰る事にするわ、邪魔したな」
「またの、お越しをお待ちしておりますね」
「ママさん、ありがとうございました。恩に着やす」
「兄貴さんには、これをサービスで渡しておきますね」
親分さんの後に続いて帰ろうとする、小指を斬り落とした兄貴さんに写真を数枚渡して上げた。
その写真には、親分さんと子分さん達が『霧のワイン』を飲み干すところが写っていた。
ちゃんと『霧のワイン』のボトルも写真に納まる様に撮って上げたから、良い記念にもなるだろう。
その写真を見た子分さんは、何度も頭を下げ去っていった。
たまには、こんな事があっても良いかもね




