第346話 仁義な人が来たみたいです
【会場の皆様、ようこそ大阪ギルドオークションへお越し下さり、ありがとうございます。
本日は、ご多忙にも関わらず、ご参加いただき感謝します。
本日、開催の日を迎えることができたことを大変喜ばしく感じております。
此度のオークションにつきましては、御存知の通り100本の『霧のワイン』を御用意させていただきました。
それでは、オークションを始めさせて貰います。最初の1本目から入札をお願い致します】
「5億だ!」
「6億!」
「7億!」
「8億!」
「10億!!!」
うはっ! 600本も出品するって分かっているのに、1本目から10億円の大台に乗っちゃった!
驚きつつもオークションを見守っていると、11億5000万円で落札されたようだ。
この金額には会場中に、どよめきが起こる程だった。
落札者であるイタリアのクリスト氏は、スッと立ち上がり手を上げて挨拶をしていた。
高そうなブルーのスーツに身を包み、端正な髭を伸ばしたクールな紳士だ。
最初の落札者と言う事もあり、ギルドからインタビューがあるようだ。
【おめでとうございます。もし宜しければ、今の感想をお聞かせ願えませんか?】
クリスト氏にマイクが渡され、会場中の人達が耳を傾けた。
【私は、この『霧のワイン』を飲んだことがある。
私が言える事は、たった1つだ! 世の中には二種類の人間が居る!
それは、『霧のワイン』を飲んだ事がある人間と、飲んだ事が無い人間だ!】
クリスト氏は、それだけを言い席へと着いた。
おそらくクリスト氏は、前回のイタリアで行われた『霧のワイン』の落札者なのだろう。
もう一度『霧のワイン』を飲むために11億5000万円もの大金を出したのが驚愕だった。
その事を会場中の人間が理解したのだろう。
次の瞬間! 会場中から歓声が上がり、『霧のワイン』を飲んだ事があると言う称号獲得のため、オークションに拍車が掛かった。
『霧のワイン』のオークションは、最後まで熾烈を極める事になった。
最後の1本が落札された後も、会場の熱気は収まらず残り500本の争奪戦が激しくなるのは火を見るよりも明らかだった。
落札出来なかった者は、厳しい表情のまま会場を去り初日のオークションは幕を閉じた。
「・・・なんか凄い事になっちゃったね?」×イスズ
「私は、改めてヨウ君の凄さに感心しちゃったかな」×らあ
「クレセントでは、普通に飲んでたワインだからね?」×ベッキー
「醤油と味噌職人さん達に、喜んで貰えそうですね~」
「きっと、喜ぶより驚いてると思うわよ?」×アリーシャ
「そかな? スキルオーブの値段に比べたら可愛いものでしょ?」
「そうなんだけど・・・ヨウ君、お金の価値観が崩壊してるわよ?」×ソフィア
「そうだよー! 普通10億円もあったら一生遊んで暮らせるわ」×アリサ
「でも、10億円じゃ魔法スクロールも買えないけどね?」×イナ
「冒険者は儲かるけど、お金も掛かるからね~」×レシャ
「全部、自分で取って来るヨウには関係ねえけどな?」×ケリー
「やっぱり、買うより自分で取ってきた方が楽しいじゃないですか?」
「そんなこと、普通は出来ないんですー」×テユン
「僕は、普通の新人冒険者ですー」
「絶対に違うから?」×全員
「全員で言う事ないじゃないですかー」
「あはははは♪」
オークションの手伝いに行っていたクレセントメンバーも、全員帰ってきたけど皆結構疲れていた。
そりゃそうだよね、凄い人数だったから。
「あ~~~ 疲れた~~~ これなら、ダンジョンの方が楽だわ」×アヤメ
「んふふ、これが本業だったじゃない?」×ナギサ
「もう、私は冒険者なんだって思い知ったわよ」
「僕も今日は疲れちゃった、ギルドも大変だよね?」×ツドイ
「フフ~ 鑑定人のサワさんやイツミさんは、特にだね♪」×ノノ
「警備も大変やったんやで? 人が多すぎるわ~」×コトエ
「もう、クタクタです~」×ミミ
「あちこちで喧嘩しやがるから、止めるのに疲れたよな」×アズサ
「威圧したかったよね~」×ナナエ
「なに、怖い事言ってるのよ、そんな事したらパニックになるでしょ?」×リッカ
「あはは、皆さん、お疲れ様です」
ギルドのお手伝いに行ってくれていた皆の話しを聞いていると、本当に大変だったんだなと労う事にした。
クレセントの職人さん達は、何時も通り仕事に行ってるから帰ってきたら夕食にしよう。
「カンナ達も、ごめんね手伝わせちゃってさ」×アヤメ
「いえ、私達も楽しかったですから」×カンナ
「スズカも今日、仕事だよね? 疲れてない?」
「私はアヤメお姉様と一緒に居られるだけで、幸せですから?」×スズカ
「皆にも同じような事言ってるくせに~ 口が上手くなっちゃったんだから」
「あはは、そんなことないですよ?」
「ヨウ君と同じで年上好きだもんね~」×ナギサ
「うふふ、コトエさん達も愛してますよ?」
「こらこら、ツドイ姉さんにも似てきたんちゃうか?」×コトエ
「僕の立ち位置が暴走状態だ!」×ツドイ
「あはは♪」×全員
職人さん達が全員帰ってきたので、夕食にする事にした。
今日は皆疲れているだろうから、早めに休んで貰おうと思う。
スズカさんだけは、これから仕事だから非常に申し訳ない。
「じゃ、行って来ますねー」×スズカ
「ごめんね、スズカ。今度埋め合わせするわ」×アヤメ
「楽しみにしてます♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
<スズカ視点>
さって、今日は遅くなっちゃったから<転移魔法>で行っちゃおうかな。
私は人気の無い所へ空間転移すると、お店に向かって歩き出した。
最近は防犯カメラが設置されてる所が多いから注意しなきゃいけない。
お店に着くと、エレベーターに乗って地下へと下りる。これ正直ちょっと怖かったりするのよね。
お客さんにプレッシャーになってたりして。
「おはようございます、スズカママ」×ホステス達
「おはよー!」
「今日も綺麗ですね?」
「ウフフ、そんなに褒めても給料上がんないわよ?」
「素直な感想ってやつですよ?」
「ありがとね♪ さって今日も頑張りますか」
「はい」
今日も日課である<クリーン>の魔法を唱えて、お店の隅々まで綺麗にしていく。
ワイングラスに付いた指紋まで綺麗になるから、とっても重宝するのよね。
「うわ~ 何時見ても魔法って便利ですよね?」
「ええ、すっごく便利よ」
「魔法スクロールって、とても高額なのに流石ママですよね」
「冒険者に成って、狙ってみる?」
「私なんて速攻で魔物に殺されちゃいますよ?」
「うふふ、冒険者って危険な仕事だからね」
「ママには、とっても素敵なパトロンが居ますもんね♪」
「こ~ら! パトロンって言わないの!」
「あはは! だって、三日月様は自分から公言してますから?」
「隠してるわけじゃないから良いんだけど、大っぴらに言われると照れるのよね」
「やっぱり、ママの彼氏なんですよね?」
「そんな詮索なんてしちゃ駄目よ?」
「否定しないのが答えですよ?」
「どうかしらね♪」
何時ものように、お店の女の子と楽しく会話していると、お客さんが入り始めた。
我ながら高いお店だと思うんだけど、今日も上々の客入りに嬉しくなる。
やっぱり、お金って有るとこには有るのよね。
そんな事を思っていると、お客さんから私に指名が入ったので顔を出す事にした。
指名があったお客様の所へ行ってみると、見るからに堅気ではなさそうな人達が5人居るようだ。
以前までの私なら、話しをするのも躊躇するような人達だけど、ヨウ君に鍛えて貰ってから度胸も付いたのか平然としていられるようになった。
私は他のお客様と同じ様に、笑顔で挨拶をする事にした。
「いらっしゃいませ、クレセントのママをしているスズカと申します」
「若いママさんだな、それに美しい」
「ありがとうございます。初めての御来店ですか?」
「ああ、初めてだ。噂に違わずの高級クラブの様だな」
「うふふ、それは良い噂と受け止めても?」
「敷居が高いってのは誉め言葉だろう?」
「気に入って下さったのでしたら、嬉しいですわ」
「まあ、気に入ったのは、俺達を見ても恐れないママさんにだがな」
「そんな怖い顔をしてないで、笑顔にしたら可愛いと思いますよ?」
「あはは、俺が可愛いか」
「てめえ・・・」
「おいっ! 止めとけ」
「・・・はい」
「女の子をお付けしたいとこですけど、私に用事がありそうですね?」
「ああ、ママさんだけが良いな」
「うふふ、サインしましょうか?」
「ファンになるかは、これからの返答次第なんだよ?」
「とりあえず、何か飲まれますか? お勧めはドンペリになりますけど」
「売上げに貢献したいのは山々だが、俺が欲しいのはワインなんだ」
「ワインも良い物を揃えておりますよ?」
「なら、『霧のワイン』を貰おうか。コルクは抜かなくて良いボトルで頼むわ」
「・・・なるほどね。どなたからから聞いたか知りませんけど、販売はしておりませんよ?」
「売ってくれなんて言ってねえだろ?」
「あらあら、強盗に来られたのですか?」
「ちゃんと金は払うさ、1億円なんだろ? 俺等に恩を売っといて損はさせねえよ」
「少なくとも1本につき10億円の恩ですか? とても損しないとは思えませんね」
「注文すりゃ1億で飲めるんだろうが?」
「此処で飲むんならお出ししますよ、販売はしないって事です」
「俺が言うのもなんだが、何故売らない?」
「営利目的で出してないって事ですね。どうします? 飲みますか、諦めますか」
「飲んだことにして、1本持って帰らしてくれよ? 穏便で良いだろ」
「うふふ、ズルは駄目ですよ?」
「やれやれ、穏便はお嫌いか?」
「諦めた方が良いと思うのですけど?」
「そういう訳には、いかねえんだよ」
「こんなに華奢な女の子に力ずくですか?」
「俺だって穏便に行きたいさ、分かってくれよ」
「うふふ、それなら力ずくで決めましょうか」
「おいおい、正気か?」
「少し場所を変えますね」
「ここで良いだろ?」
「すみませんが強制になります♪」
私は見るからにヤクザと分かる男性達を亜空間へと誘った。
ヨウ君が創った温泉の様にはいかないので、私でも作れる広さ20畳程の真っ白な空間に5人のヤクザが狼狽えている。
「「「「「なっ?」」」」」
「な、なんだ此処は?」
「どうなってやがる?」
「・・・驚いたな、こんな真似ができるとはな」
「どうしたんですか? 怯えているようですけど」
「一体どこなんだ此処は?」
「此処は私が創った亜空間です。もちろん、出口なんてありませんよ?」
「馬鹿な・・・亜空間だと?」
「このガキ! 俺達を元の場所に戻しやがれ」
「あらあら、短気な人ですね」
「おい、待て!」
体格の大きな一人のヤクザが私に掴みかかってきたので、片手で服を持ち壁に投げ飛ばしてあげた。
かなり手加減をしてあげたので、壁に全身を強打していたが死んではいないよね。
「この馬鹿野郎が・・・それにしても、なんて力してやがんだよ」
「大きな身体の割には、軽い人ですね~♪」
「・・・どこが華奢な女の子なんだよ?」
「うふふ、力ずくを選んだのは、そちらですよ? 実は力ずくも嫌いではないんです」
「冒険者か・・・それもかなり高ランクみたいだな?」
「『霧のワイン』が置いてある時点で、予想が付くと思いますけど?」
「ああ、そうだな俺の考えが甘かったようだ」
「もう、良いですか? 言っておきますけど、銃なんて私には玩具と同じですよ」
「銃なんて持ってるかよ」
「あれっ? 普通、貴方達の様な人は持ってるんじゃないんですか?」
「どんな普通だよ?」
「銃も持たずに、よく私の店に来れましたね?」
「ここってクラブだよな? 俺が間違ってるのか?」
「私、先ほど襲われましたけど?」
「簡単に返り討ちにしただろ?」
「自衛しただけですけど?」
「グッ・・・それは、すまねえ。理解を超えた出来事に、馬鹿が慌てやがったんだろうよ」
「うふふ、理解を超えるのは、これからですよ?」
私は微笑みながら威圧スキルを開放した。
ヤクザ達は顔面蒼白になり、ダラダラと汗を掻いている。
話しをしていた男以外は泡を吹いて気絶してしまった。
あらら、初めて威圧スキルを使ったけど危険なスキルね。
「ぐぅぅ・・・」
「どうしたのかな、私が怖いの? さっきまで強気だったくせに」
「ああ、怖いな。に、逃げ出したいぐらいだ」
「諦めて帰ってくれる?」
「それは、できねえんだ。頼む! 『霧のワイン』を1本で良いから譲ってくれ」
「そんなに欲しけりゃ、オークションで頑張れば良いでしょ?」
「俺達がオークションに参加できるかよ、それに金もねえ」
「どう考えても無理だから、こんな手段にしたってとこ?」
「1億で飲めるんだったら、同じ金額で持って帰らせてくれて良いだろ?」
「あのね~ 転売したら10億円以上の儲けになるの分かってる? 営利目的で出してる訳じゃ無いって言ってるでしょ?」
「そ、そこを何とか頼む・・・只とは言わねえ」
男は恐怖で震える手でナイフを取り出すと、なんの躊躇もなく左手の小指を斬り落とした。
「ちょ、ちょっと?」
「ぐっ! こ、これで頼む。1億で譲ってくれ」
ハンカチに斬り落とした小指を包み、それを差し出しながら土下座で頼みこんでいる。
私はメチャクチャ引いちゃったんだけど、本気で頼んでいる事だけは理解できた。
「あ、貴方、馬鹿なの? 私みたいな小娘にやる頼み方じゃないでしょ」
「分かってる。こんな事されても迷惑なだけって事はな・・・だが俺には、これぐらいしか出来ねえんだよ」
「本当に馬鹿ね・・・どうせ、その1億円も綺麗なお金じゃないんでしょ?」
「そんなことはねえ! 1億円って言っても現金じゃないが、この<生活魔法>スクロールと引き換えにしてくれ。1億円にはなる筈だ」
「まさか、冒険者から脅し取ったんじゃないでしょうね?」
「違う! これは俺達が上級ダンジョンで、やっと手に入れた物だ」
「なんで、冒険者までしてるのよ? それに、今はヤクザなんて冒険者には成れない筈よ」
「俺達は別に悪い事なんてしてねえ。いや、真っ当とは言えねえが・・・」
「もう、話しは後よ」
私は<威圧>を解除し、差し出された小指を手に取った。
血だらけのハンカチだけでも気が遠くなりそうだったけど、そうも言っていられない。
「ほらっ! 手を出しなさい」
「あ? な、なにを・・・」
私は出来るかどうか分からなかったけど、斬り落とされた小指を患部に当てた。
「そんなことしても、切れた指が・・・」
「<ハイヒール>!!!!!」
私は出来るだけ魔力を込めて<ハイヒール>を唱えると、何とか切断された小指が元通りくっ付いたようだ。
「なっ!」
「ちゃんと動くか確かめて?」
「ば、馬鹿な・・・信じられねえ、切断した指が元通りに・・・」
「良かった、神経までちゃんと繋がるか分かんなかったからさ」
「・・・<回復魔法>ってやつか、凄まじいな」
「忠告しといて上げるけど、今日の事は全て忘れなさい」
「俺には・・・」
「聞きなさい!」
「・・・・・」
「良い? この事を私の御主人様が知ったら、貴方の組は消えてなくなるわ」
「そ、そんな馬鹿な」
「この店の事を誰から聞いたか知らないけど、貴方嵌められたんじゃない?
余程の馬鹿でもない限り、この店にチョッカイ出す者は居ないわ。
どれだけ力や権力があろうと、全て塵に帰るわ。此処はそう言う場所よ?
貴方達が今すぐ自殺しても無駄よ? 明日には貴方達に関する者達は地球上から消えて無くなっているのだから」
「あ、彼奴等・・・それが分かってたから、俺達を焚き付けやがったのか。あの外道め・・・」
「何故こんな事をしたの?」
「・・・どうやらアンタの言う通り、俺達は嵌められたようだ」




