第280話 顔が怖い人って優しいのかな
草原を少し進んで行くと、怖い顔した冒険者を多数見かける。
どうやら、魔物を倒してると言うよりも、魔物で戦闘訓練しているようだ。
しかも、結構真面目に訓練しているので、少し感心してしまうほどだ。
僕達は軽く会釈をして通り過ぎようとすると、声を掛けられてしまった。
そう言えば、プチ威圧をするのを忘れていたので、しまったな~っと思っていると絡まれたわけではなさそうだ。
「おい」
「はい?」
「此処は上級ダンジョンってのは、分かってるよな?」
「はい、分かってますよ?」
「・・・・・・・・・・・」
「大丈夫なのか?」
「えっ?」
「言っとくが、此処は他の上級ダンジョンと比べて魔物が強いんだ。それに、この草原には一角兎の穴が多数あり、奇襲が多いから気を付けろよ?」
「なるほど。ありがとうございます」
「別に、礼を言われるような事じゃねえ。男はお前1人みてえだが、危ねえ時はシッカリと守るんだぞ?」
「うわ~ 僕を子供扱いしない人は、初めてかもです」
「大人も子供も関係ねえ、危ねえ時は男が女を守るもんなんだよ」
「分かりました。僕、頑張ります」
「おう、気を付けてな」
「はい」
僕は強面の優しい男性に、手をブンブンと振って別れの挨拶をした。
「んふふ、昔気質みたいな人だったわね?」×アヤメ
「いや~ 良い人でしたね。僕、尊敬しちゃうな~♪」
「あはは、そう言えば、ヨウ君好みの男性だったわね」×ナギサ
「ヨウ君ってさ、男気がある人が好きだよね?」×ツドイ
「だって、格好良いじゃないですか?」
「フフ、私達ではどう頑張っても、真似が出来ませんからね」×リラ
「フフ~ リラ姉なら、ツンデレ出来るかも?」×ノノ
「リラはツンデレって言うより、デレデレだよね?」×ツドイ
「コホン! ツドイも人の事は言えないでしょう?」
「うん、僕もデレデレだね♪」
「照れちゃいますよ?」
「あはは♪」×全員
それからも歩を進めて行くと、かなりの頻度で冒険者に会う。
上級ダンジョンでは一番人が多いかもしれない。
そして、地下2階へ進むと、今度は格好良い防護服で統一された、女性冒険者達と遭遇した。
全員が同じ防護服なので同じチームなのだろう、クランなのかな?
特に胸の谷間が協調されたデザインなので、視線のやり場に困ってしまう。
恰好良いな~っと、思って見過ぎてしまったのか、キッチリと声を掛けられてしまった。
「まちな!」
「はい?」
「・・・冒険者なんだよな?」
「はい、もちろんですよ?」
「・・・見たところ良い装備みたいだが、地下2階からウルフ系の魔物が多いんだ。盾かアームプロテクターが無いと危ないよ?」
「なるほど。ありがとうございます、気をつけますね」
「それにしても女5人で、こんな可愛い少年を上級ダンジョンに連れてるなんざ、気合が入ってるよな? 皆、綺麗な顔してるが、かなり強いんだろ?」
「フフ、私達の強さが分かるのですか?」×リラ
「まあな。少なくとも私達、全員相手でも勝てるかどうか・・・」
「あはは、リーダーそれは無いって♪」
「私達が、こんなモデルみたいな奴に、負ける訳がないっしょ」
僕達がこの女性達のリーダーさんに感心したが、その仲間達は大したことはなさそうだ。
リーダーさんも『やれやれ』といった感じで、溜息をついている。
「フフ~ 君達のリーダーは凄い人だよ? もっとリーダーの言う事を信じなきゃ?」×ノノ
「確かにリーダーは凄い人だけどな。まさか、私達に戦って勝つ自信があるのかよ? 言っとくけど。私達に喧嘩を売る馬鹿は、此処じゃ居ないんだぞ?」
「じゃ、ちょっとだけ、信じさせてあげようかな?」
ノノさんがそう言った瞬間。女性達は臨戦態勢に入ったのか、空気が重くなった。
余程、喧嘩慣れしてるんだろう。僕達は少しだけ評価を上げる事にした。
「正気かよ?」
「こら! 止めとけって。悪いな、気を悪くしたなら私が謝るよ」×リーダー
「フフ~ 大丈夫だよ♪ 誰にも危害なんて加えないから、私を良く見ててね?」
ノノさんは両手を広げ、自分に注目するようにアピールしている。
そして、次の瞬間。ノノさんの姿は溶ける様に消えて行く。
「なっ!」×女性達
ノノさんは、リーダーの後ろに居た女性に正面からハグをし、首筋にキスをしていた。
それと、同時に軽く<威圧>を解き放ったようだ。
ノノさんに抱き着かれた女性は当然だが、その場に居る全員までもが死すら感じさせる恐怖に包まれた。
「ヒッ!」
「フフ~ 私が吸血鬼なら、君は死んでたね~」
ノノさんがハグを解くと、女性はガクガクと身体を震わせながら、地面に膝を付いた。
リーダーさんも、ノノさんを凝視しながら大量の汗を掻いている。
おそらく、自分の見積もりが、かなり甘かったことに気付いたのだろう。
臨戦態勢を取る事も適わず立ち竦んでいた。
「リーダーさんは勘が良いのかな?
普通の人は私達を見ても、強そうには見えない筈なんだけど?
その勘は、大事にした方が良いよ。
<威圧>しちゃってごめんね。
私達は『クレセント』って言うの、またどこかで会いましょう」
女性達は喋れる状態じゃなかったので、アドバイスをしてくれた感謝をこめて丁寧にお辞儀をしてから、その場を後にした。
ガクガクガクガクガク! ×女性達
「くっ! くぅぅ! ま、魔物に警戒しろ! 今、魔物と遭遇するのは拙い。
ち、ちくしょう。私も恐怖で竦み上がって膝が笑いやがる・・・
なっ! う、嘘だろ・・・」×リーダー
「リーダー・・・周りに、大量のウルフが倒されています」
「そ、そんなまさか・・・この私に何も気付かせる事無く、これだけの魔物を倒してくれていたのかよ。
ば、化物め・・・あんなに恐ろしい奴等がいるのかよ?」
「リ、リーダー、彼奴等は?」
「ご丁寧に、この辺りの魔物を一掃してから下層へ向かったよ。魔物を倒してるとこなんて、全く分かんなかったけどな♪ 笑えるだろ?」
「すみませんリーダー・・・私達が余計なことを言ったばかりに」
「ああ、あれは仕方ないよ。私もあんな化物だとは思わなかったからな。しかし、敵対しなくて良かったな。彼奴等相手じゃ数秒で皆殺しってとこか♪」
「わ、笑えませんって、リーダー」
「まあ、あんな化物が普通に居るって事だ。皆も人を見掛けで判断するなよな」
「はい・・・身に染みて理解出来ましたよ・・・死んだと思いましたもの」
「あはは、悪いな。私もあんな化物相手じゃ皆を守れないわ。魔物の方がよっぽど可愛いよな?」
「あの人達に比べたら、ウルフなんてチワワに見えますって」
「あの人達、きっと大阪人ですよ? 発音がそれっぽかったですもの」
「そっか・・・やっぱ、大阪って怖いとこなんだな。今度、行ってみるか?」
「冗談じゃないですよ?」
「あはは♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
僕達は下層へ向けてドンドン進んで行ったが、出会う人全員からアドバイスをしてくれた。
此処の人達は、なんて優しいんだろうと感心してしまう。
見た目は結構怖そうなのに、ギャップが実に面白い♪
人が居ないところでは高速で移動し、僕達は遂に地下10階のボス部屋に辿り着いた。
予想通り、ボス部屋前には多数の冒険者が待機しており、順番待ちをしているようなので、声を掛けてみることにした。
「すみません。ボス戦の順番待ちですよね?」
「・・・ちょっと待ってくれ。リーダー何か変な奴がいるんだが?」
「失礼な人ね? ヨウ君は変な奴じゃないわ」×ナギサ
「ちょっと待ってください! なんで僕、限定なんですか?」
「だって、変な奴等って、言わなかったじゃない?」
「なるほど・・・確かに複数形じゃない。でも、何か納得出来ない様な・・・」
「んん! なんだ?」×リーダー
「こんにちはー」
「あ、ああ、こんにちは?」
「僕達はボス戦をしに来たんですけど、順番待ちしてるんですよね?」
「・・・冒険者なのか・・・冒険者の恰好してるな・・・」
「そりゃ、冒険者ですから?」
「此処は上級ダンジョンだったよな? あれっ? 俺、何かおかしなこと言ってるか?」
「この馬鹿! シッカリしろよ?」
リーダーさんと話していると、バッチリと化粧を極めた綺麗な女性が、話に入ってきてくれた。
「あ~ 悪いな。あんた等があんまりにも冒険者に見えないんで、この馬鹿は理解に苦しんでるんだ。
あんた等、見た目は全く強そうに見えないが、そこそこやるんだろ?
良さそうな装備してるしな。
だけど、まさか1パーティでボス戦しにきた訳じゃないんだろ?」
「えっと、一応、僕達だけでボス戦しに来ました」
僕がそう告げると、女性は怪訝そうな表情になり、なにやら考え込んでいる。
「エスケープクリスタルは持ってるんだよな?」
「はい、一応?」
「あのな。ボスってのは、ここらの魔物よりずっと強いんだぞ?
まして、このダンジョンのボスは半端じゃないんだ。
それでも、戦うって言うのか?」
「はい」
僕は相変わらず親切な人が多いなと思いながら、ニコニコと返事を返した。
「はぁ~ 仕方ねえな。おいリーダー! 2パーティ用意してくれ、私達も行くぞ」
「ああ、そうだな。とてもじゃないが、ほっとけねえか」
何時の間にか僕達に2パーティが加わり、3パーティでボス戦をやることになった。
本当に此処の冒険者は、どれだけ優しいのか、ホッコリとした気分になる。
「あの、ちょっと聞いてみたいんですけど、此処の冒険者さんは何故こんなに親切なんですか?」
「あん? 他の奴等なんて知らねえよ」×リーダー
「でも、此処の冒険者さんって皆、雰囲気が似てるから同じクランかチームなんでしょ?」
「別に同じクランやチームって訳じゃねえ」
「あらっ? そうなんですか?」
「しょうがねえな、私から説明してやんよ。
このダンジョンは東京でも、一等厳しいダンジョンなんだよ。
一番死者が多く怪我人も多いんだ、特にボス戦がな。
そんで、ウチのリーダーが地元の冒険者を纏め上げて、誰も死なない様に守るようになったんだ。
此処の冒険者は素行の悪い奴が多いんだけど、多かれ少なかれリーダーには感謝してるんだよ、馬鹿だけどな♪」
「馬鹿は余計だ!」
「あはは、リーダーが依光 代継って名前だから、私達の依代って事でチーム『YORISIRO』って名乗っているんだ。
此処等じゃ有名なんだぜ。
私は副リーダーの香坂 紗理奈だ、宜しくな」
「なるほど。優しいリーダーさんなんですね~」
「そんなんじゃねえんだよ」
「あはは、照れるなって」
「最近は誰が作ったのか知らないが、エスケープクリスタルが売り出されるようになって、ようやく死者が出なくなったんだけどな。
安く売りだしてくれた、ダンジョン攻略部隊ってとこにも感謝しないとな」
まさか、僕が丸投げしただなんて言える筈もなく、愛想笑いをしてしまう。
「とろこで、本当に僕達とボス戦するんですか?」
「ああ、悪いが同行させて貰おう。もし、ボスを倒せたとしても分け前なんて請求しないから安心してくれ。
1パーティで倒せるとは、とても思えないけどな。
戦うかどうかは、ボスを見てから判断したら良いさ。
あの凶悪なボスを見て、動揺するといけないからな。俺達も同行するんだ」
「ん~ 分かりました。僕達の判断で決めて良いって事ですね?」
「ああ、見れば分かるさ」
僕達の為にボス戦の順番も譲ってくれて、3パーティでボス戦に入る事になった。
脱出することになったらエスケープクリスタルを失う事になるのに、本当に優しい人達だ。
ボス部屋の中へ入ると、そこには禍々しい形をした黒く大きなサソリが鎮座していた。
トラック程の大きさがありそうだ。なるほど、これを見たら尻込みする人の方が多いだろう。
「な、なんてこった。こいつはデススコーピオンじゃないか・・・
くっ! よりによってレア種だと・・・おい、お前等落ち着けよ?
少しでも前に出たら襲い掛かって来るぞ?」×リーダー
「どうやら私達も来て良かったみたいだな。おい、先にエスケープクリスタルで脱出しろ」×サリナ
「僕達の判断に任せる。って、言いましたよね?」
「なっ! まさか、あれと戦う気じゃないだろうな?」×リーダー
「馬鹿野郎! 正気か? あんなのと対峙したら、一瞬で叩き潰されるぞ?」×サリナ
「言っときますけど、動いちゃ駄目ですよ?」
僕はこの人達が正義感を出して加勢してくるのを恐れ、少し<威圧>をして動きを封じることにした。
「なっ! なにっ?」
「くっ! くぅぅ」
「う、うああ」
僕が意図した通り、手伝いに来てくれた皆さんは膝が震えて動けないようだ。
「では、ヨウ様。行って参ります」×リラ
「リラさんの順番でしたか、結構硬そうですよ?」
「フフ、分かりました」
リラさんは刀を抜くと、数々のスキルを発動させ刀にも魔力を浸透させていく。
何時もなら淡く半透明に輝くアダマンタイトの剣が、濃紺に染まっていく。
「フゥ~ 魔掌空剣! 双鏡連斬!」
キンッ!
リラさんは、僕が教えた魔掌空拳を刀にまで浸透させ、魔掌空剣として解き放った。
その切れ味は凄まじく、鉄よりも硬そうなデススコーピオンの甲殻を寸断し、ガラガラと地面に崩れ落ち、光の粒子となって消えていく。
「フフ、完成には程遠いですね。今の私では一瞬しか持ちません」
「いやいや、見事でしたよ。流石、リラさんです」
「ありがとうございます、ヨウ様」
「お、お前等?」×リーダー
「おっ! 流石ですねリーダーさん。僕の<威圧>を受けて喋れますか?」
「な、なんなんだよ、お前達?」×サリナ
「んふふ、貴女も流石ね、サリナさん。でも、人を見掛けで判断しちゃ駄目よ?
貴女の目の前にいるのは、世界でたった1人のSSランク冒険者なんですから」×アヤメ
「「なっ!」」
「お、お前が・・・」
「・・・ちょっと待て。何故それを簡単に言うんだよ? 今まで誰にも分からなかったのに、隠してきたんじゃないのかよ?」×サリナ
「だって、しょうがないでしょ? 私達の実力を見られたんだもの?」
「わ、私達は、誰にも言わない。頼む信じてくれ」
「・・・見逃してくれそうには、見えねえな」×リーダー
僕達の雰囲気が変わったのを敏感に感じ取ったのか、リーダーとサリナさんが目に見えて顔色が悪くなっていく。
「お前等、逃げろ! エスケープクリスタルを使え!」×リーダー
「リ、リーダー・・・だ、駄目だ! 手が震えて・・・」
「くそう・・・サリナ。お前だけでも逃げろ! 俺が時間を稼ぐ」
「ば、馬鹿野郎! あんな化物達を、どうやって止めれんだよ?」×サリナ
「それでも、何とかするしかねえだろうが?」
「ど、どうにもならないのかよ・・・」
「悪いな・・・全部俺のせいだ」
「今更、リーダーのお人好しさは、どうにもなんねえよ? はは、こんな事になるならリーダーの求婚受けとくんだったよ?」
「全くだ! あの世で頼むわ?」




