水の神殿にて 3
(わたしっ、きっと、フェリス様といっしょに美味しいごはんを食べるために、いつか、ここに来ますから……! 待ってて……!)
未来のレティシアからもらった約束を、少年のフェリスは信じなかった。
運命の出会いを夢見るような少年ではなかったため。むしろ、
(……待たない。こんなとこには、こないほうがいいい……)
そう思っていた。
昔のフェリスの、なんと、無欲なことだろう。
いまのフェリスなら、一日千秋の思いで、再びレティシアに逢える日を待つだろう。
どころか、待ちきれなくて、探しに行くかもしれない。
そう思うと、レティシアと共に暮らす幸せを知った大人のフェリスのほうが欲が深い。
十七歳のフェリスは、あの孤独な少年の知らない幸福を知っている。
(フェリス様はお人好し過ぎて、他の人を助けて、御自分の安全をお忘れになりそうで、心配です! レティシアはいつも大事な推しを御守りしなくては!)
ふわふわとした小さくて勇敢な金色のかたまりが、いつも傍らにいてくれて、何か楽し気なことを囁いてくれる。
何事か起こると、無謀にも、フェリスを、全身で庇おうとまでしてくれる。
フェリスは、ちょっとやそっとじゃきっと死にそうもない、丈夫な男なのに。
きっとあの捻くれた少年が知ったら、そんな小さな娘に庇ってもらうなど、未来の僕という男は何と情けない男なのか、無駄に人より魔力が強いんだから、しっかりしろ、自分より小さな方はちゃんとお守りしろ、と呆れるに違いない。
「……ようこそ、水の神殿へ」
素足で水の中を歩きながら、神官達が待つ中央へと辿り着いた。
ディアナの晴れた陽の光を受けて輝くレーヴェの白い石像が美しい。
(わあ……!)
繋いだ手から、太陽の光に煌めく水面や輝くレーヴェの像にわくわくしているレティシアの気配が伝わってくる。
フェリスとレティシアはときどき同じことを思っている。
こんなとき、フェリスは、それが嬉しい。
自分はいつも他の人と物の見方が違うようだ、とフェリスは諦めの境地に達して久しいので、こんなに性別も年齢も背景も来歴も、何もかも違うレティシアと、時に同じことに喜び、同じことに怒れることが。
「……我らが愛の神、竜王陛下は、運命の定めし御二人を、祝福されます」
オリヴィエの厳かな声を聴きながら、レティシアと二人で、聖なる水の盃を受ける。
愛の神扱いは大袈裟だが、可愛いレティシアとフェリスを祝福するぞ、とレーヴェが笑いそうだ、とフェリスの口元に美しい微笑が浮かんだ。
「だいたいいつもオリヴィエは仰々しいんだよ、聖なる沐浴なんぞと堅苦しくいわず、楽しく二人で温泉はいりゃーいいんだよなー」(from竜王陛下)
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