ディアナの美しい妃たち 3
「王太后様……、お目覚めになりましたか?」
マグダレーナは瞼を開けた。
ああ、ここは、『現在』だ。
逃れようもないマグダレーナのいまだ。
もうあの美しい娘は王宮にはいない。
マグダレーナ様はお優しい、と、嘘のない声で囁くイリスはとうの昔に天に還った。
「ああ……、少し……、昔の夢を見ていたようだ」
「まあ昔の? もしやマリウス陛下の幼いみぎりでしょうか?」
「いや……、」
あのとき五歳だったフェリス少年は、母を失い、形としては、マグダレーナを義母とした。
それ以後、どれほど理不尽なめにあわされようと、フェリスが義母のマグダレーナに礼を失したことはない。
恐らくは、夭折した母である優しいイリスに、マグダレーナ様と仲良くするのよ、とでも言われた言葉を守っているのだろう。
「違うが……」
ディアナ王であったステファンが死に、マグダレーナはディアナ王太后となり、息子マリウスがディアナ王となった。
「……悪い夢でございましたか?」
「いや……、悪いのではなく……、悲しい夢だったな」
最初は、末期のイリスに頼まれたこともあり、うまくはやれなくても、少しくらいは義母らしいことを、と思っていた。
だが、あの子は、何もかもマリウスと違った。
いや、マリウスと違う、だけではない。どんな子供とも違ったのだ。
(マグダレーナ様、フェリス様は教えずとも難解な書物を読み解きます。天与の才とはこのような……)
(マクダレーナ様、魔法省としては、第二王子殿下をぜひ魔法省にお預け頂ければ……、フェリス様には尽きせぬ魔力を感じます。きっと偉大な魔法の使い手になられると……)
(マクダレーナ様、フェリス様の剣の腕は目を見張るばかりの……)
天才、というのは、ああいう子供をいうのだと、マグダレーナはフェリスに近しく接して学んだ。
何も教えることがない、と教師たちが舌を巻く速さで、すべてを他の子供どころか教師にも先んじて吸収していく。
だが、それを得意がるかと言うと、フェリス本人は、何故みんな驚いてるんだ? 僕は何かを間違っているのか? ここはいったいどうするべきなんだ? という様子だった。
あの子は、あたりまえの子供でいたかったのだ。
あの子にとっては、あの人も羨むあまたの天与の才も、あの竜王陛下似の貌も、むしろマクダレーナに警戒され、憎まれていく要素であったろう。
フェリスは自分がほかの人々とひどく違うことを、嫌でも自覚せざるをえなかったろうし、大きすぎる魔力に戸惑うあの子に手を差し伸べられる者などいなかった。
人より魔法の才に恵まれた者は、貴族にも市井の者にも、幾らかはいるだろう。
だが、フェリスの場合、何もかもが、そのような次元ではないのだ。
(義母上、……僕はレティシアといると幸福です)
大人になってからのフェリスの、あんな貌を見たのは、いったい、いつ以来だろう?
そして実際、フェリスは幸福そうだ。
あのサリアの小さな王女はいったいどんな魔法で、永らく凍っていたフェリスの心を溶かしたのだろう?
マグダレーナは意地悪な継母になったから、フェリスのことを頼まれたイリスに逢わせる顔はないが、もはや、そこは悩まなくてもいいだろう。
死んだ後、マグダレーナは、ディアナのすべての人々を謀った罪、敬愛する竜王陛下の御意思を曲げた罪で、イリスのいるであろう天上の花園にはいけないから。
「じーちゃんはそんなに怒ってないぞ」(from竜王陛下)
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