ディアナの美しい妃たち
その娘は病床にあった。
いや、その娘は死の床にあった、というのが正確だ。
ディアナの王としての力を持って、狂ったように、ステファンは腕の良い医師と魔導士を求めたが、誰一人として、その美しい娘を救えなかった。
無論、神代の竜王陛下の魔力から程遠いステファン自身にも、その美しい娘を救うすべはなかった。
娘、というのは、おかしいか。子を成した妃なのだから。
だが、マグダレーナは、フェリスの母であるイリスをずっと美しい娘だと思っていた。
生きていたときも、死して後も、それは変わらない。
「なぜ、妾を呼んだのだ?」
「……およびたてして、申し訳……」
「……そのままで」
寝台から身を起こそうとするイリスを、若きマグダレーナは制した。
「……マグダレーナさま……」
かの女の横たわる室から見える薔薇の庭で、小さなフェリスが遊んでいた。
そのときはまだ竜王陛下に似ているなどとは言われておらず、ただ非常に美しい第二皇子として、奥まったイリスの宮で、静かに、大切に育てられていた。
母のイリスが病身だったことと、宮廷内で確たる後ろ盾もない身だったので、シュヴァリエを領地として富ませた後よりも、そのころのフェリスはずっと寄る辺ない身だった。
「……そなた、薬はちゃんと飲んでいるのか? 何やら、この部屋は、一度、風を入れたほうがよいのでは……」
マグダレーナはまだ若く、近しい者の死に向かい合ったことがなかった。
夫の愛妃を近しい者というかどうかはわからぬが、四六時中比べられて、揶揄される間柄ではある。
「マグダレーナ様はやはりお優しい……」
イリスは微笑んだ。
フェリスは竜王陛下に瓜二つになってしまったので、もはやイリスの面影はないが、何を考えているかわからぬ微笑は母譲りかもしれない。
「何を馬鹿な。そなたは、私に毒殺されるのではと皆言うておるぞ」
これほどの侮辱もないものだ。
ステファンに愛妃ができたことは楽しいわけがないが、だからといって、その娘が病気になったらと言って、マグダレーナが疑われるのはあんまりだろう。
それにマグダレーナが怒っているのは、夫の心を奪ったこの娘にではない。
竜王陛下の御前で二人で誓った、これまでとこれからのマグダレーナとの信頼を踏み躙った夫のステファン本人だ。
とはいえ、ディアナで最も尊い『竜王陛下の地上の代理人』に、不実を赦せないとも言えぬ。
「……口悪しき宮廷雀たちのうるさきこと。……ディアナの国母様を、そんな言葉で穢すなど……」
ディアナの国母。そう呼ばれることを誇りに想って務めてきたが、ステファンとうまく共闘できているのか、いまとなっては甚だ不安だ。夫であるディアナ王が何を考えているのやら、見当もつかない。
「……母様! 花冠を作って持ってくね! ……! ……王妃様、ようこそ」
咲き誇る薔薇の庭から手を振ったフェリス少年は、マグダレーナに気づいて、慌てて礼をとった。
「オレに似て、うちは一途な一族なんだけど、たまにはそこが似てない奴もいる。……ごめんな、マグダレーナ」(from竜王陛下)
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