さまざまな思いとともに 4
「え。そんな尊いものを、俺らに……も、申し訳ない……」
「女房に叱られます。ご迷惑かけといて、フェリス様とレティシア姫から差し入れなんて……」
「この三角や丸のものはなんてお料理ですか?」
男たちは恐縮しつつも、見慣れない食物に興味津々だ。
「おにぎりといいます。お米で作った簡単なお料理です」
「王握り? 王家のお料理ですか?」
「あ、いえ、おうにぎりではなく、お、に、ぎ、り。ディアナ王家に伝わるお料理ではなく、私の……あの……その……」
「あ、レティシア姫のお里の御馳走でしたか、すみません!」
「んと……、御馳走ではなくて……、おにぎりはごく庶民的なお食事で……」
レティシアはおにぎりの説明することさえも、嬉しそうだ。
サリアと違って、もう帰れない異世界の料理を皆が喜んでくれるのが、フェリスの小さな婚約者は嬉しいのだ。
やはり、大食漢でもないフェリスが、レティシアのおにぎりを他の者に渡さず独り占めしたいなどと、実に大人げないことを思ってはいけない。
それに実際、オリヴィエにはやらぬでもよいが、邪悪な干渉を受けていたこの者たちには、レティシアの贈りものは、佳い効果があると思う。
フェリスが陰鬱な思考に攫われそうなときに、レティシアがその小さな白い手で触れて、邪気を払ってくれるように。
「姫のお国の、庶民のお料理ですか?」
酒屋の男が、おにぎりを興味深げに眺めている。
「え……と、……ごく普通のおうちの料理です。毎日のお昼だったり、特別な行事ごとだったり、残りもので作ったり、……一番嬉しいときも、一番悲しいときも共にあるような素朴な料理です」
お里と言っても、サリアの料理ではないのだけど……と説明に困っているレティシアの気配を感じて、フェリスはレティシアと繋いでいる手にそっと力をこめる。
前世のレティシアの一番嬉しいときや、一番悲しいときは、どんな時だったんだろう?
二度も両親を助けられなかったと、シュヴァリエで、泣いていたフェリスの愛しい姫。
「じゃ、いまの俺たちは、人生一番参ったときだなあ」
「いただきます、姫様」
「いただきます、フェリス様、姫様……、あ、うま……っ!」
フェリスは、食事というものはただ身体を動かす熱量を補給する為のものではなく、誰かの疲れた心や身体を癒すのだと、レティシアと過ごす時間で学んでいる。
「竜王陛下を邪神なんて、思ってもないこと言っちゃたのに、こんなうまいもん食べさせてもらってたら、ばちがあたるなあ……」
「竜王陛下は、お好きですか?」
可愛らしいレティシアの高い声。
「もちろん! ですよ! みんなの朝の礼拝の時間、台無しにしちまって面目ない……」
「それは邪術のせいだから、民の安全を護れていないこちらも悪い。……故に、気に病むな。街の者たちの安全の為にも、何かおかしなことを思い出したら、小さなことでも教えて欲しい」
「はいっ、フェリス殿下!」
「もちろんです、殿下! お、おいしいです、レティシア姫、この、お、にぎり」
「あったかくて、生き返るなあ……」
美味しい、という言葉に、フェリスの隣で花のようにレティシアが微笑んで、フェリスまで嬉しくなった。
竜王陛下「あれだな。これは、取調室のカツ丼とやらじゃないか?」
フェリス「ド、ン? あやしげなものと大事なレティシアのおにぎりを一緒にしないでください!」
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