8.繋いだ手
約束の週末が来た。
朝からカラッと晴れて、絶好の花見日和だ。
あの日から真純は、部屋に鍵をかけなくなった。最初の二日は、夜中に進弥の部屋を覗きに来た。
不安で眠れないならと、以来一緒に寝ている。ただ一緒に寝るだけ。
それでも、自分の腕の中で眠る真純が、安心した表情で寝息を立て始めると、進弥も満足できた。
三日経った今では、真純もすっかり元通りに素っ気なくなった。
今夜は自分の部屋で寝るのかもしれない。そう思うと、ちょっと寂しい気もした。
進弥が物思いにふけっている間も、真純はいそいそと花見の準備に余念がない。
トイレがないので、そんなに長居は出来ないが、一応酒とつまみを持って行こうという事になった。
花見といえばビールだろうと主張する進弥に、だからこそ意表を突いてワインだと真純は言い張る。結局真純の案を採用し、白ワインのフルボトル一本とグラス二個、パンとチーズとハムを持って河川敷の桜並木に向かった。
先日夜に進弥が来た時は、桜はまだ七分咲きくらいだった。今日はすっかり満開で、時折吹く風にハラハラと花びらを散らし始めている。
さすがに週末だけあって、腰を据えてはいないものの、チラホラと花見客の姿がある。
空いたベンチを探して遊歩道を歩いていると、少し先で立ち止まったカップルが目についた。
眩しそうに桜の花を見上げた少女の横顔に、進弥は見覚えがある。あの夜、ベンチで泣いていた少女だ。
あの日はフワフワしたワンピースに踵の高いサンダルを履いて、少し大人っぽい格好をしていたが、今はデニムのミニスカートにスニーカーと、随分カジュアルな服装だ。
まだ足のマメが完治していないのかなと思い、進弥はクスリと笑う。
まさかそれに気付いたわけではないだろうが、少女が不意にこちらを向いた。
進弥と目が合った少女は少しだけ笑顔を見せ、隣にいた青年の腕に掴まりながら、そのまま桜並木を遠ざかっていった。
ちゃんと仲直りできたようでホッとした。多分少女も同じ事を思って、微笑んだのだろう。
進弥は隣を歩く真純の手をそっと握った。
少し驚いたように、真純は進弥を見上げる。
外でベタベタするなと、手を振り払われるかもしれないと思ったが、意外にも真純は、黙って進弥の手を握り返した。
進弥は心の中で、密かに誓う。
この手を決して離さないようにしよう。二度と真純を不安にさせないように。
(第2部 完)
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