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猫が好き!  作者: 山岡希代美
第2部 それでも、猫が好き! 

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7.彼女の本音



 昼食後、進弥は、二階のカフェに向かった。とにかく眠くてしょうがなかったので、濃いめのコーヒーを飲みたかったのだ。

 エスプレッソを買って席につき、午前中かみ殺していた大あくびを、心置きなくしているところへ、横から声が掛かった。

「眠そうね。ここ、いい?」

 慌てて口を閉じ横を向くと、トレーを持った辺奈課長が笑いながら立っていた。

 進弥は苦笑しながら促す。

「お疲れさまです。どうぞ」

 課長は進弥の前に座り、コーヒーをかき混ぜながら、イタズラっぽく笑った。

「ゆうべ頑張り過ぎちゃったの?」

「え……」

 頑張ったと言えば、頑張った。別の意味で。

 あの後、真純は自分の部屋に帰らなかった。床に寝るから側にいさせて欲しいと言うので、そういうわけにも行かず、一緒にベッドで寝たのだ。

 真純は安心したようによく眠っていたが、進弥の方は変に意識してしまって、ほとんど眠れなかった。おかげで朝から、あくびをかみ殺していたのだ。

 進弥が絶句していると、課長はおもしろそうにフフッと笑った。

「冗談よ。セクハラだったわね」

 進弥も曖昧な笑みを浮かべてお茶を濁す。互いに笑い合った後、課長が真顔で尋ねた。

「冗談はともかく、何かあったの? あの子、朝元気がなかったのよ。ちょうどあの時みたいに」

「あの時?」

「あなたが出て行った時よ」

 進弥がハッカーだと発覚した時、真純は課長の命令で進弥を家から追い出した。それは真純にとって、進弥との永遠の別れを意味していたようだ。

 翌日に真純は、課長に家の鍵を付け替える事を告げ、目の前で携帯電話から進弥の番号とメールアドレスを消去したという。

 課長としてはそこまでは要求しなかったし、求めてもいなかった。

 なにしろ進弥の顔を知っているのは真純だけだ。ほとぼりが冷めた頃、外で会っていたとしても分からないのだ。

「私だったらウソついてまた拾っちゃうかもしれないけど、あの子、生真面目だから」

 そう言って課長は、笑った。

 完全に進弥との繋がりを失った真純は、すっかり元気をなくした。

 本人は平気を装っていたけど、課長には丸わかりだったらしい。

「かわいそうだったわ。なんであなたハッカーなのよって恨んだわよ。だってあの子にとって初めて出来た男なのよ、あなた」

「へ?」

 初めてだとは聞いていたが、その段階から初めてだったとは夢にも思っていなかった。

「小中学校の頃は知らないけど、あの子の性格からして、多分ないわね」

 呆然とする進弥を気にも留めず、課長はひとり納得して頷いている。

「まぁ、何があったら知らないけど、あの子、あなたがまたいなくなるんじゃないかって不安になってるのよ、きっと。優しくしてあげてね。恋愛には疎い子だから」

「はい……」

 課長はコーヒーを飲み干し、席を立った。

「じゃあ、ごゆっくり。私が余計な事を話したのは、内緒にしててね」

 そう言って笑いながら、課長はカフェを出て行った。

 進弥は生ぬるいエスプレッソを眺めながら、ぼんやり考える。

 あの時の別れが、真純にとってそれほど重いものだったとは、考えてもいなかった。

 自分自身は、何とかして堂々と真純の元へ戻れる手立てばかり考えていたから。



―― 行かないで。ずっと側にいて ――



 酔った真純が半泣きで口にした言葉が、脳裏に蘇る。

 あれは親友の課長にすら明かす事が出来なかった、真純の心の叫びだったのだ。

 真純の想いははっきりと分かった。もう彼女の気持ちを疑って、不安になる事はないだろう。

 後は自分を真純に信じてもらうだけだ。元々信頼度はマイナスから始まっている。今どの程度までプラスに転じているのか、或いはマイナスのままなのかは不明だ。

 恋愛には疎いと言っても、人生経験は真純の方が上だ。同年代の子に対するアプローチと同じでは、盛りのついたオス犬だと思われても仕方ない気がする。

 上辺だけの優しさや愛情の押し売りは、警戒心の強い猫には通用しない。まずは信頼を得なければ。

 進弥がカップを手に取った時、ちょうど午後の始業開始十分前を知らせる予鈴がなった。

 すっかり冷め切ったエスプレッソを、一気に喉へ流し込み、進弥は職場へ戻った。




Copyright (c) 2011 - CurrentYear Kiyomi Yamaoka All rights reserved.



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