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猫が好き!  作者: 山岡希代美
第2部 それでも、猫が好き! 

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6.それでも、猫が好き!



 半年前の時は、携帯電話にメールが送られてきた。だが今回は何もない。

 あの時と同じ奴だとは考えにくいが、真純が連れ去られたのだとしたら、何か要求があるはずだ。

 あの頃、裏稼業で使っていたメールアドレスは廃棄したが、もしかしたら自分のパソコンにメールが来ているかもしれない。

 ほとんどゼロに近い可能性に一縷の望みを託して、進弥は立ち上がり、のろのろと二階へ向かった。

 考えてみれば、真純の親族の連絡先を進弥は知らない。自分のせいじゃなかったとしても、行方不明になったのだとしたら、知らせなければならないだろう。

 明日になっても真純の行方が分からなければ、とりあえず真純の親友でもある自分の上司、辺奈課長に知らせようと思った。

 自室に入った途端、ギクリとして進弥は足を止めた。

 カーテンを引いていない窓から射し込む月明かりの中、ベッドの布団がこんもりと盛り上がっているのが見て取れた。

 泥棒や不法侵入者なら、こんなあからさまな隠れ方はしないだろう。

 進弥は駆け寄り、布団の端をそっとめくる。はたしてそこには、猫のように丸くなった真純が潜り込んでいた。手には携帯電話が握られている。

 一瞬、進弥と目が合った真純は、素早く布団の端を奪い返して、再び中に閉じこもった。

 どうして電源を切った電話を握りしめているのか。そもそもなぜ電源を切ったのか。真純の性格からして、進弥を誘うためではないだろうが、どうしてこんなところにいるのか。

 色々訊きたい事はある。だが……。

 進弥はベッドに腰掛けて、布団の上から真純の身体をポンポン叩いた。

「よかった。心配したよ。また攫われたかと思って」

 無意識に口をついて出たのは、安堵の言葉だった。

 布団の中で真純が、ボソボソと何かを言っている。進弥は身を屈めて、布団に耳を近付けた。

「……ウソつき。どこにも行かない。ずっと側にいるって言ったくせに……」

 普段の真純からは想像もつかない、すねた口調と涙声に、驚くと同時に胸が痛む。メールを無視したから、ヤケ酒でも飲んで酔っているのだろうか。

 進弥は思わず、布団ごと真純を抱きしめた。

「ごめん。もうどこにも行かないよ。お願いだから出てきて」

「イヤ……。ウソつきは嫌い」

 進弥の腕を逃れるように、真純は益々奥へと潜り込む。進弥は身体を起こして、もう一度布団の上から、真純の背中をポンポン叩いた。

「それでも、僕は真純さんが好きだよ」

「どうして? どうして私なの? 私なんかより、もっと若くて、素直で、かわいい子の方がいいんじゃないの? 私なんて、ただおまえを拾っただけだし。この家だって私のものじゃないんだし、おまえが恩を感じる必要なんてないよ」

 真純が一線を引いている理由が、なんとなく分かった。真純は自分に自信が持てないから、進弥の気持ちを信じ切れずにいたのだろう。



―― 本当に愛されているのだろうか ――



 真純も同じ不安を抱えていたのだ。

 ほんの少しケンカして、進弥が家を飛び出しただけで泣いてしまうほどに。

 自分が真純の中で、それほど大きな存在である事に気付き、進弥は舞い上がりそうなほど嬉しくなった。

「真純さんは、いい女だよ。年下だからって僕の事を甘やかしたりしないし、だけどちゃんと気遣ってくれるし。素直じゃないのは、猫だから仕方ないよね。僕は、それでも、猫が好きだから」

 真純が布団の端を少し浮かせた。進弥の様子を探っているようだ。そんな姿が益々猫っぽくて、進弥はクスリと笑った。

 途端に真純は、布団の端を閉じる。進弥は布団の上から、真純の身体を揺すった。

「ねぇ、そろそろ出てきてよ」

「やっぱりイヤ」

「なんで?」

「だっておまえ、そういう女のとこに行ったんでしょ? そんな奴に触られたくない」

 これってヤキモチ? 

 思いがけずに垣間見えた真純の独占欲に、緩みそうになる顔を必死で引き締める。まずは誤解を解かねば。

「行ってないよ。頭冷やそうと思って、河川敷まで桜を見に行っただけ」

「本当?」

「命、賭けてもいい」

 布団がモゾモゾと動いて、むくむくと盛り上がる。そして頭から布団をかぶったまま、ベッドに座った真純が姿を現した。

 薄暗い室内で、窓に背を向けた真純の表情は読み取れない。

 近付こうと身を乗り出した時、真純の方から進弥の首に腕を回してしがみついてきた。

 予想外の真純の行動に、進弥は一瞬硬直する。

 耳元で真純が、消え入りそうなほど小さな声でつぶやいた。

「もう帰って来ないかと思った」

 進弥は真純の小さな身体を引き寄せ、ギュッと抱きしめる。

「そんなわけないじゃん。僕のせいなのに。僕がガキで頼りないから、真純さんは僕と付き合ってるの恥ずかしいんだよね」

「え?」

 真純が顔を上げ、驚いたようにこちらを見つめた。

「違うよ。私がシンヤみたいな若い子と付き合ってる事を、高木くんに知られた事が恥ずかしいの。私、あいつに嫌われてるから、絶対からかわれるに決まってるもん」

 真純の恥ずかしがっている理由が、全く見当違いだった事が判明し、進弥は思い切り脱力した。

「なんだ、そうだったんだ。もう、真純さんって分かりにくいよ」

 思わず愚痴ると、真純は口をとがらせて反論した。

「おまえだって分かりにくいよ。二重人格だし」

「そうかなぁ。じゃあ、オレが今、何を考えてるか当ててみて」

 真純は少しうつむき加減に上目遣いで、進弥の顔をまじまじと見つめる。そしてボソリとつぶやいた。

「……エロい事、企んでる」

「あったりーっ。ほら、分かりやすいでしょ?」

 間髪入れずに答えて、進弥は真純をより一層抱きしめた。

 本当はキスをしたいと思っていただけだが、真純がそう思っているなら、あえて否定しない事にする。なにしろこんなチャンスは、この先また当分やって来ないかもしれないから。

「じゃあ、いいよね?」

 耳元で囁くと、真純はピクリと身体を震わせた。そして両腕を突っ張って、進弥から身体を離した。

「今はイヤ」

「なんで?」

 高まりかけていた気持ちに水を差されて、進弥は不満げな声を漏らす。てっきり真純もその気だと思っていた。相変わらず真純は、つかみ所がなくて分かりにくい。

 真純は進弥を見据えて、キッパリと言い切った。

「ウソついた罰」

「えぇっ?」

 真純を泣くほど不安にさせた事に、非はあるかもしれない。だが、元々どこにも行くつもりはなかったし、好かれてなくても側を離れたくないとすら思っていた。ウソをついた覚えはない。

 腑に落ちない気もするが、ここはおとなしく従うのが大人の対応なのだろう。

 進弥が黙っていると、真純は俯き、小さな声で懇願した。

「お願い……もう少し待って」

 真純の手が進弥のシャツをギュッと掴む。

 また怒って出て行くとでも思われたのだろうか。再び不安そうになった表情を見て、進弥は微笑みながら真純の頬に手を添えた。

「うん。無理強いはしないよ。でもキスはいい?」

 真純が小さく頷いたのを確認して、進弥はそっと口づけた。




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