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5.どうやら勇者に選ばれたようです。

他の話に比べると短めです。一応、この回でひと区切りつきそうです。

「……えぇ。死んでるけど、それが何か?」


凍りつくような言霊で、幽霊さんがクールに切り返します。


つんざくようなエミューウールさんの悲鳴に思わず耳を塞ぐ僕の横で、幽霊さんは冷めた視線で怨めしやのポーズを崩しました。


「え……いや、その、ごめんなさいですの……取り乱してしまって」


冷や水を浴びせられて我に返った心地であろう巫女様が、罰の悪そうに謝ります。彼女だって色合い的に十二分にフィックションだし、髪の毛が地面に付くのが嫌なのか、常に三十センチは浮いてるし、うん、シュールな光景です。


「……構わないわ……どうせ、あたし幽霊だし」


「いやー、花子、お前はどっちかというと怨霊の類いだろ」


一條先生が親しげに片手を上げ、幽霊さんに笑いかけます。


え、花子?彼女、花子さんなんですか。いやあの佇まい、というか髪型、どちらかといえば、貞……ごふごふ。


「……怨霊?あんたを呪い殺した日から、そう名乗ることにするわ……よくもあんな汚い瓶に何日も閉じ込めてくれたわね」


「しょーがねーだろ、あんときゃ手頃な封具持ってなかったんだから」


僕も昔壺に閉じ込められたことありますけど、ああいう封印って人間が想像する以上に窮屈ですからね。みっちりですからね。むしろしっかり殺してくれよっていうね。しかも掌サイズの栄養ドリンクの瓶なんて、正直、初対面の幽霊さんに同情してしまいます。


「あ、そっか、あなた、学校のトイレでよく……」


幽霊さんの顔を除き込んでいた千早さんが、思い出したと手を打ちます。


「え、千早さん、幽霊とか見えちゃってたんだ……」


いや、表面上の魔力の濃さが地球とは桁違いなこの異世界ならともかく、基本的に外に漏れにくい魔力を纏っている地球上では、当然ですが普通の人間には魂だけの存在、幽霊なんて見えない触れない聞こえないが常識です。


……普通の人間なら、ですよ。まぁ、今更千早さんに幽霊が見えようが、トイレで花子さんを見ようが、不思議でもなんでもないんですけどね。


それでも、言い知れぬ敗北感に襲われて僕は項垂れます。


「知らなかった……」


「え、だって、女子トイレでだし……鈴木くんのこと普通の人だと思ってたから、信じてもらえなかったらって……」


確かに、あの平和で常識的な学園生活で、千早さんにトイレで花子さんに会ったと打ち明けられたら、僕はどうしたでしょう?


少なくとも女子トイレに確めにいくなんて、下手すれば停学みたいな危険は犯さなかった筈です。


千早さん、今思えば自分で除霊できていただけかも知れないけど、僕が近くにいるから基本雑魚は近寄れなかっただけかもしれないけど、「見える人」特有の霊や妖を寄せ付ける体質は全く感じられなかったし。そんなそぶり一つも見せなかったし。


僕だって彼女のことを普通の女の子だって疑いもしなかったんだから、精神を安定させるアロマキャンドルでもプレゼントして話を終わらせていたかもしれません。


「……一応言って置くけど、花子って、そこの馬鹿が勝手に呼んでいるだけよ。生前の名は忘れたわ」


僕らの間に漂う気まずい空気を知ってか知らずか、幽霊さんは、ちょっぴり僕が納得しかけていた「トイレの花子さん」を自ら否定してしまいました。


一條先生があっけらかんと笑っています。


「いや、こいつ名前も忘れたっていうから。ま、トイレにいる幽霊っていったら、花子さんか紫ババァって最近じゃ定番なんだろ?」


「だろ?って、まるで僕なら知ってるだろ的なノリでこっちに振らないでくださいよ」


花子さん、既にほぼ、井戸から出てくるあの人状態でこっちに負のオーラ飛ばしまくってるじゃないですか。学校の七不思議なんて専門外ですよ。その前に紫ババァも花子さんも、幽霊でも妖怪でもなくて都市伝説です。


「……はぁ。……いいわよ。花子でも貞子でも名前なんて何でも。もうあたしには必要ないもの……」


幽霊さん、花子さんって呼んでもいいのかな、は、とても大人でネガティブな対応で話を纏めてくれました。


え、僕、言ってないですよ。貞子なんて一言も言ってないですから。


「あの、花子さんってとても女の子らしくて可愛い名前だと思うよ。あ、わたし、逢坂千早っていうの。よろしくね」


物怖じもせず天使みたいな笑顔を幽霊に向ける千早さん。僕の今まで培ってきた彼女への認識がまた一つ、無慈悲にも打ち崩されていきます。僕は瓦解していく数年分のイデオロギーを為す術もなく見守っています。


それでも同時に、魂の底からその笑顔に見惚れてしまっているのだから、僕もいい加減、もうどうしようもない愚か者だとは自責していますが。


「……そうかしら。ふざけた名前だと思うけど。でも、悪い気はしないわね。ふふ……貴女、良い子ね」


屈託ない千早さんの賛辞を正面から受けた花子さんが恥ずかしそうに俯きました。長い前髪合間からにやりと青紫の唇が歪みます。


このワンシーンだけで、全国の少年少女を夜中一人でトイレに行けなくする自信があります。


僕は本能的に千早さんを彼女の視界から隠しました。


花子さんから引き剥がすように前に立つ僕を、千早さんが困ったような顔で見ています。


「気に入られても困りますよ。このひと、僕のなので」


逢坂先輩が起きてたら、首でも掻き斬られそうな台詞を無意識に吐いてしまって、しかも真っ赤になってる千早さんを見てしまって、僕のなけなしの体温も上がります。


僕の殺気って、普通の幽霊なら、そのまま消しちゃうくらいの威圧感はあるはずなのに、花子さんは飽くまで冷めた態度で僕をいなします。


「……彼女が誰のものかは別として……瓶の中から見てたから、あなた達の事情は知ってるわ。貴方、学校のお化け達の中じゃ有名人だったしね。……今はあちらのお嬢さんを慰めてあげるのが先決じゃないかしら」


花子さんの真っ白い指は、興味なさそうに巫女様を指し示しています。


「……あ」


「どうしよう……ですの。まさか勇者様が……召喚する前に既に死んじゃってたなんて……」


気が付けば、まさかの新キャラ登場にわいわいやってる僕らを尻目に、花子さん以上の重苦しい影を背負い、エミューウールさんが打ちひしがれていました。


とはいえ、やっぱり地面に着いて汚れるのが嫌なのか、空中にふわふわしながらしゃがみこんでいるのは流石です。


「え、エミューウールさんっ!」


千早さんが慌てて彼女の側に駆け寄ります。


「チィ様……私、どうしたら……」


「大丈夫だよ、きっと。花子さん、幽霊だけど元気だし、鈴木くんも、一條先生も凄いんだよ。お兄ちゃんもいるし……」


なんの根拠もなく、必死にエミューウールさんを励ます千早さん。僕はなんか一気にいろんな面で冷静になります。


「今までだって、わたし一人でなんとかなったんだから、今回のお告げがどんなのかは知らないけど……とにかく、メイアディーチの神官さんたちに相談したらどうかな?」


また、知らない単語を耳にした気がしましたがここは華麗にスルーです。どうせ、否応なしに知ることになるんですから。


エミューウールさんは、ぐすぐすと鼻を鳴らしながらも、千早さんの前向きな言葉に漸く落ち着きを取り戻し、頷いて見せます。


「あの蛆虫どもが役に立つかはわかりませんが、そうですわね。チィ様の仰る通りですの。ここでめそめそしてても始まりませんわ。私は皆様をお導きするって役目を果たさなきゃなりませんのっ」


きゅっと拳を握って、決意を露にする巫女様に、千早さんも安堵して微笑みます。蛆虫?空耳ですよ。空耳。


「うんっ、その意気だよ。エミューウールさんっ」


「エミューで構いませんっていつも言っておりますのに」


「だって、わたしのこと様っていうの止めてくれないから。ちぃでいいのに」


「そんな、伝説の勇者様に畏れ多いですの」


……伝説の勇者?スルーです。今はだだ無心で全てをスルーするのみです。色即是空、空即是色。


知りもしない念仏を唱えて心頭滅却する僕の隣で、花子さんが不思議そうに首を傾げて尋ねてきます。


「……あたしって……元気、かしら?」


「……知りませんよ。因みに僕は一條先生より凄いです」


「何がだよ。てめぇら、ちょっとは通訳しろってんだよ、まじで」


話についてこられる筈もない一條先生が、苛々と二本目の煙草に火を点けます。うーん、この世界に煙草が存在するかもまだ解らないのに無計画なことです。


「……いやよ。晴明、あんた話をややこしくする天才だから。黙って取り残されるがいいわ」


花子さんが冷たく突き放します。ごもっともだと思うから僕には何にも言えません。


てか、そんなに古い魂には見えないけど、彼女、先生の本名呼び慣れてるみたいですよね。二人の関係も何だか気にかかるところです。


今は絶賛それどころじゃない大安売りセール中ですから、突っ込んだりとかしませんけどね。空気くらい読みますけどね。


「皆様っ!改めましてっ。おめでとうございますっ!!」


千早さんに元気付けられたエミューウールさんが、復活とばかりに僕らの頭上に浮き上がりました。


いったい何がおめでたいの、と花子さんが白けた瞳を向けています。


僕はちゃんと自制しています。なるべく先方の要望を酌んで、この状況に適応不可能な平凡なる高校生の顔を作りましたよ。……今更、ですけどね。


「貴方様方、五人は見事、この世界、イーサを救う第201代目勇者に選定を受けられました!」


ピンクの魔法陣の複雑な後光を浴びて、少女姿の巫女が宣います。


「なーんか、とんでもないことを宣言されてるような気がするんだが……気のせいだよな、おい、鈴木」


呆然と空に浮かぶ少女を眺めながら、一條先生が呟きました。


僕は気が遠くなるような精神的な目眩に、思わず肩を落とし、片手で額を被いました。


視界に入ってしまった逢坂先輩の彫刻みたいな寝顔に、更なる頭痛の種を容赦なくぐりぐりと捩じ込まれながら。





漸くタイトルコール的なとこまでやってきた感じです。もうちょっと貯蓄があるのでさくさく参りますー。

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