4.……5人ですか。えー……と、5人です。
なに……?読んでくれてる人がいる……だと……!?
ありがとうございます!!!超嬉しい!感想ください!うわっ、厚かましい!でもこのお話はノリが非常に大事だと思うので!素直に言っちゃおうと思います!感想欲しいっす。切実に自分の暴走具合が解らない(笑
怪しい風が、いや僕が呼んだんですけどね、風が吹き荒ぶ寂しい荒野で、相変わらず正座の千早さんと、胡座で煙草を吹かしだした一條先生と、爆睡する先輩、いやこれも僕が眠らせたんですけど、いい加減膝枕で足が痺れてきた僕。
なんですか、吸血鬼だって足くらい痺れます。西洋育ちだから苦手なんですよ、正座って。
僕が口を滑らせた「君たち人間だよね」発言は思いの外、居たたまれない沈黙を運んできました。
実に微妙な間を挟んで、千早さんが寂しげに微笑みます。
なんかもう、全部、僕が悪いんですって気分です。
「うん、一応、ね」
質問に対してとても曖昧な返答です。まぁ、確かに、今までのあれこれや、先輩の記憶を覗き見してしまった今では、人間を名乗るのに自信なさげなのも納得がいきますが。
「俺ァ、お袋が人間じゃねーがな」
一條先生がだるそうに、ですが律儀な訂正を入れます。ああ、こっちも。そういえばそうでしたね。
でもね、基本的に半妖って肉体的にはほぼ人間なんですよ。人間と妖怪の間に子供なんて出来やしませんから。猿と人が交わっても駄目なのと同じです。
妖怪と人間の子っていうよりは、人間になった妖怪と人間の子っていうべきなんです。自分の体を完璧に人間化できなきゃ、人間の子供なんて孕めませんからね。
千早さんが、思い出したように、一條先生の顔を改めて不思議そうに眺めました。
「一條先生って、ほんとに平安時代からタイムスリップしてきてたんですか?」
「おう、十年くらい前な。ま、別に未来でも過去でも、別の時空でも何処でも良かったんだがなー。まさかほんとに別世界に行けるとは思わんよなー」
言いながら一條先生はぷかぷかと煙草の煙を浮かせます。取り敢えず、この人が烏帽子被ってるとこなんて絶対に想像しちゃいけません。腹筋が壊れます。
それにしても、さっきまで僕と殺しあってたとは思えない緊張感のなさです。大物の貫禄か、ただの馬鹿は、まだ判じられませんけれど。
僕は苦笑いを溢しながら、口を開きます。
「先生の輝かしい半生も気になりますけど、まずはここは何処かとか、これからどうするかとかを話題にした方が建設的かなと」
「……それもそうだな。ここで俺らが本気で自己紹介を始めたら、日が暮れちまいそうだ」
一日が何時間かすらもまだ良くわかりませんけどね。
僕はさっき呼び寄せた雲を頼りに、意識を広範囲に向けます。
全方が地平線だけあって、だっだ広い荒野ですが、流石に永遠に続くわけでもなくひと安心です。雲が来た方向には森があり、遠くには山脈や河もあるようでした。
僕はそちらを指で差し示します。
「あっちの方向に行けばたぶん山があります。水も植物もあるみたいですね。うーん、百キロくらいですか。ちょっと飛んで見てきましょうか」
「いんや、何があるかわからんし、式でも飛すか」
いい加減膝枕にはうんざりしてましたので、喜んで斥候を買って出ようとした僕を先生が止めます。おもむろに白衣をごそごそやりだしました。
「おー、式神ですって。うっわー。ほんとに陰陽師なんですね」
散々殺されかけといてなんですけど、やっぱり陰陽師といえば式神ですよね。日本の陰陽術って芸が細かくて面白いから、昔から興味があったんですよねー。
俄に目を輝かせる僕に、一條先生は複雑な顔で肩を竦めました。
「てか妖怪にわくわくされんのも微妙だな……。ちょっと待ってな。たしかこの辺に…」
だけど白衣のポケットからは、あれでもないこれでもないとがらくたが飛び出すばかりです。
がらくたの内訳?……公序良俗に反するので伏せておきましょう。
「あーやべー、こないだ酔っ払って使ったとき落としたかも」
「……式神なんて何に使ったんですか」
地面に転がるがらくたに僕は軽蔑の眼差しを向け、そのまま不適切な物を氷の塵に変えました。きらきらとピンクを基調にしたカラフルなそれらが砂のように舞い散ります。
「いや、別にやましいことは……あっ、てめっ、なにやってんだ!?」
「千早さんもいるんですよ。自重してください。この変態親爺」
それにしても式神落とすって。
まぁ、橋の下に千年置きっぱなしにするくらいですからね、この人。
僕は呆れ顔で深い溜め息を吐きました。
「しょうがないなぁ。やっぱり僕が行きますよ。ちょっと結界弛めてもらえます?」
一応千早さんの手前、丁寧に先輩を地面に転がして、僕も腰を上げます。
「待って、二人とも」
ずっと黙っていた千早さんの声が、僕らを制します。
「あの、あっちはガザーン領だから危険だし……。もうすぐエミューウールさんが迎えに来てくれるから」
エミューウールさん?ガザーン領?
いきなり千早さんの口から飛び出したいかにもファンタジーな固有名詞に、僕はぽかんと口を空けて固まってしまいます。
そして僕が自分の阿呆面に気が付いて口を閉じる前に、頭上にピンクの魔方陣が再び輝いたのです。
先生の張った結界の上で、今まで千早さんが見せてくれたのより数倍大きな円が、荘厳な効果音と共に回転します。
「おいおい……なんだありゃ」
結界がその魔力に反応してチカチカ点滅しだし、先生が臨戦体制に入ります。
僕も漸く我に返って、千早さんを庇うよう前に立ちます。なんとなく頭の淵では、必要ないんだろうなーと思いながらも。
「ごめんなさいですのっ!!!転送先間違えちゃったんですのっ!!!皆さまぁ〜、ご無事ですかー!?」
僕の緊張感のない予感を裏付けるような、間の抜けたアニメ声。ピンクの魔法陣から更に桃色な装いの少女が現れます。
ふわふわのチャイナドレスみたいな、うーん、取り敢えず地球産ではないな、今更当たり前ですが的な装いの、空中に漂う足先より長いピンクブロンドの髪、薄い菫色の瞳。言うなれば実写番、萌えキャラって感じですか。
一応、結界ごしに気配を探りますが、取り敢えず人間みたいですね。千早さん程ではないですが、地球基準で考えれば規格外の魔力を持っていることはこの際、不問にすべきでしょう。
地球のお友達ならこの光景に歓喜の涙を流したことでしょうが、生憎、僕は二次元には活路を見出だせなかった、時代に取り残された哀れな妖怪ですので、至極、冷静です。
だってねぇ…………ですのって。
千早さんがドン引きしている僕の後ろからひょいと顔を出して、少女に向かって大きく手を振りました。
「エミューウールさーん、お久しぶり!」
「チィ様!?どうしてまた貴女がいるんですのっ!?」
ピンクの魔法陣を空中に残したまま、結界の堺当たりに降りてきた少女は、千早さんを見るなり悲鳴のような声を上げます。
大きな瞳を更に見開き、まるで幽霊でも見たような顔でした。
って……様?また?僕は頭痛を押さえるのに必死です。
「いや……毎回だけど、わたしにもさっぱり………別の人を喚びたかったの?」
困ったように首を傾げる千早さんに、少女はふるふると首を振りながら項垂れます。
「本当にごめんなさいですの……今回こそは貴女を巻き込まなくて済むと思ったのに……くそ、役立たずの神官どもめ」
あれ、文末にお約束なくらいにどす黒い殺気が見えた気がしましたけど、気のせいですよね。
「知り合い……みてぇだな。逢坂妹」
先生も漸くことの馬鹿馬鹿しさに気付いたのか、力の抜けた声で千早さんに紹介を促します。
千早さんは慌てた様子で、結界の薄くも固い幕の向こうに佇む、可憐な少女に掌を示します。
「あ、はい。彼女はアルディスキアの召喚巫女でエミューウールさん……って言ってもきっと何がなんだかわからないですよね」
「平安時代の陰陽師なめんじゃねぇぞ。悪いがてめぇらが日本語喋ってねぇこと以外は何ひとつわからねぇよ」
「あっ」
不貞腐れたように先生が言います。あぁ、そっか。先生は何だかんだいって日本人……というか一応は人間ですもんね。
あまりに自然体に、千早さんもエミューウールさんも、未知の言語で話し出したので、突っ込むことも忘れてました。
「言葉か……そうですよね。わたしもアルディスキア語覚えるの大変だったし……」
申し訳なさそうに千早さんが言います。瞬時に日本語と使い分けてる辺り、既にバイリンガルな熟練度とお見受け致します。
僕は苦笑しながらも助け船を渡しました。
「大丈夫だよ。通訳が二人もいれば」
アルディスキア語、というんですか、その言語帯を使って千早さんに話しかけます。
「え……鈴木くん!?なんでアルディスキア語、話せるの?」
「……モンスターの特権です」
面倒臭い説明を全てすっ飛ばせばそうなります。
僕の大雑把すぎる答えに、気に入らないということを満面に表現した一條先生が応じてくれました。
「言霊ってやつだろ。式神や鬼神もそうだが、妖怪にゃ言語の縛りがないからな」
言霊ってのは、ま、簡単に言えば、言葉、つまり音に宿った意味や意志のその本質、とでもいいましょうか。
元来、国境やら民俗の違いやらを超えた存在である僕達には、生まれつき言葉を言霊として認識する能力が備わっているのです。
人間とは時間の保有量も感覚も桁違いの妖怪達が、人々の忙しく儚い文化の移ろいに、いちいち付き合ってなどいられませんからね。
だから何語だろうと、意識在るものが意思を持って喋る言葉ならば、どんな言語でも僕は「人語」として認識できるのです。言語を直接意味に置き換える能力とでもいいますか。
反対にその意味を言霊と置き換え、相手に向ければ、自然とその人間に伝わる形で言語を声が象るのです。千早さんみたいなバイリンガルさんになら、言語同士の僅かな認識の誤差を利用し、使用言語を選択して伝えることも可能です。
超高性能な自動翻訳機みたいなものですね。どうです、便利でしょう?都合いいでしょう?
とはいえ、地球じゃ既に僕がありとあらゆる言語に慣れすぎていて、日本はもちろん、ある程度メジャーな国の言葉なら普通に言語自体を理解して喋ってしまっていたので、僕自身、最近は殆んど意識もしていなかったのですが。
この能力の有り難みを実感したのは、百年くらい前に乗っていた豪華客船が沈没して大西洋を漂流してしまい、何故か南米の食人族の島に流れ着いてしまった時以来です。
「でも先生、僕を半殺しにしたくらいなんですから。無意識に使うのは無理にしても、言霊くらい普通に読めるでしょ」
便利なその反面、己の魂とも直結する言霊の力は、唯一人間に付け入られる隙にも成りうるのです。
その言霊を操って僕らに対抗するのが、陰陽師だったり、エクソシストだったり、シャーマンだったり、スピリチュアルアドバザーだったり。
所謂そっち系の職業なんですから。まぁ、インチキじゃなきゃ、ですけどね。
「出来ねぇことはねーけどなぁ。俺らのは基本言葉って地盤があってこそだから、はっきりとはわかんねーし、面倒臭ぇし、何よりもう、だりぃーわ」
確かにてめぇらを通訳にすれば充分だ、などと投げ遣りな態度で先生が言います。
「ま、言葉なんて通じたところで、何がなんだかさっぱりなのは一緒ですしね」
寧ろそんな先生が羨ましい僕は、結界の外でこちらを静かに伺う少女へと微笑みます。
「とにかく彼女が千早さんのお友達ってことがわかれば、今のとこ充分ですよね」
エミューウールさんは僕がアルディスキア語を話すことに何の動揺も見せません。
こっちでは人間が言霊を操るのも珍しくないのかもしれません。幾つか魔術を使って分かりましたが、こちらの世界は自然要素こそ地球と変わらないにせよ、魔力の方は、地球よりずっと開けっ広げ、と言いますか、抵抗が少ないのです。
人間程度の卑小な魂にだって操つれますと言われても、不思議はないでしょう。
友達なんて畏れ多いですの、などとはにかんで、彼女は改めたように居住まいを正します。
「私はエミューウール=ラフロー=フィ=アウル=アル=パルス=ディスキアと申します。太陽神アルガの意志の末端にて、異世界の勇者様をお導きさせて頂く者ですの」
少女の姿に似合わない、深く厚みのある言霊は、恐らく彼女がその姿通りの時間を歩んでいない証でしょう。
長ったらしい名前も、僕のような存在に悪用されない、上手な巡りに聖なる音になっています。
巫女、といってましたし、千早さんと同系統な聖なる魔法、ちらっと聞こえた勇者の二文字。僕はとても憂鬱な気分です。
エミューウールさんは、先生の作った規格外の結界にも動じることなく、小さな掌を翳して感嘆の溜め息を漏らしました。
「素晴らしいですわ。さすがはチィ様……。こんな芸術的な結界、初めて拝見しましたの」
複雑に絡み合った言霊の網と魔力の壁。宇宙の真理で篭を編んだみたいな、これを美しいと言うんですから、美的感覚的にも僕とは相容れない存在みたいです。
「エミューウールさん、この結界はこちらの一條先生が作ったんだよ」
千早さんが何故か少し誇らしげに先生を紹介するのを、僕は何となく白けた気持ちで先生に伝えます。
「先生ぇー、結界誉められてますよー」
「あー?」
「まぁっ……なんとこの方が……」
結界の中心で胡座を掻く先生を、少女が顔を赤らめて眺めています。
やっぱり異世界の巫女様は、僕とは分かり合えない美的感覚をお持ちのようです。
幸い、一條先生は変態とはいえ、腐っても教育を生業と選んだ聖職者。現代日本の法律に喧嘩を売るような嗜好の持ち主ではないようです。
熱い少女の視線に直ぐに居たたまれなくなって根を上げました。
「だぁっー!てかもう結界とか要らんよな!この嬢ちゃんの陣で充分だよな!」
ときめきすら滲みだす程の感動の眼差しで、先生の結界か先生自身かは知りませんけど、熱を持って見詰めるエミューウールさん。見かけ年齢10歳ほど。
流石の一條先生も堪らず結界を解いてしまいました。
「あぁ、もったいない……」
エミューウールさんは、残念そうな吐息を溢しつつも、遮るものもなくなり、いや視界としては端から何もないのですが、直接、僕らと対峙します。
エミューウールさんは一歩、千早さんに歩みより、この世界の作法なのか、彼女の指先に口付けをします。千早さんも抵抗なくやり返します。
流れるような優雅な動きでした。友人付き合いで英国紳士役をする度、日本人には絶対無理だと思ってたのに……。
ってか、これ、男相手でもありなんでしょうか。ちょっと漸くこの異世界で希望を見た気がしますよ。いやまて、あのやりなれた感じはつまり、もしや今まで他の野郎に……。
「チィ様、貴女の住まわれる世界には、魔法使いは居られないと聞いておりましたの……」
「うーん、なんていうか、実はわたしの知らないところにはいたって感じかな……」
悶々と思い悩む僕を置き去りに、千早さんと巫女さんは話を進めます。
「あぁ、なんにせよ心強いことですわ。今回はお告げが本当に特殊で……。一度に五人の勇者様をお喚びしなければならなかったので、召喚の聖印も誤作動を起こしてしまいましたの。勇者様方をグレンズラ荒野の、しかもウォーウルフの群の真ん中に落としてしまったと解った時には、もう、この世界の終わりかと……」
「五人の勇者?」
安堵のあまり涙を滲ませるエミューウールさんを宥める千早さんに代わり、酷く不安を煽る一言を僕が見付けてしまいます。
そこで今更僕の存在を認めた、みたいな顔をした少女が驚いたように瞳を開きます。
「貴方は……」
「あ、はじめまして。魔法使いの鈴木次郎と申します」
先生の胸糞悪い結界を美しいと称した少女のパープルな瞳には、僕が身に纏う黒い魔力もだだ漏れなことでしょう。
かといって、頭上を聖なる魔法陣に晒されながら、素直にどうも僕、吸血鬼です、という訳にもいきません。
勇者がいるような世界らしいですから、どうせ魔物なんて人類の敵でしかないでしょう?
取り敢えず、この世界に魔法があることだけは確定的で、魔法使いって職業も成り立ってるようなのでそう名乗ってみました。今更魔力隠しても遅いですしね。
寧ろ身を包むこの分厚い魔力のお陰で、僕の本性までは見抜けていないようですから。
魔法使い=聖なる魔法使いって定義なら即アウトですけど。
「えっと、鈴木くんは黒魔法使いなの。で、ちょっと今は眠っちゃってるけど、あれは私の兄です」
千早さんが空気を読んで健気にも、助け船を差し出してくれました。良かった、あるのか黒魔法って分野。
すっかり忘れていたけど、地面で爆睡中の逢坂先輩も律儀に紹介しています。
「まぁ、あの希少な黒魔術を……素晴らしいですわ。流石はチィ様と同郷のお方々。まるで人間とは思えない魔力をお持ちですの」
いやー、人間じゃないですしね。僕は皮肉が顔に出ないよう頬を引き締めながら、謙遜の意味で首を振ります。
「いえ、地球ではあんまり役に立ちませんので……。しかし、お互い詳しい話は後にしましょう。とにかく、巫女さん、今、五人って言いましたよね?」
尚も言い募る僕に、エミューウールさんはけ落とされ気味に頷いて答えを返します。
「え、えぇ。今回の勇者は五人と神事が下って……て、あ゛」
「……四人しかいないよ、エミューウールさん」
千早さんが呟くように言いました。
千早さんと一條先生と僕と逢坂先輩。
エミューウールさんの視線がゆっくりと移動して、二度三度往復していきます。しかし、いつしかついにそれも止まります。
「ひ、ひ、一人、足りなぁ〜い!!!!!」
マンドラゴラもお菊さんもびっくりなエミューウールさんの悲鳴が、何にもない荒野にただ広がっていきました。
状況が解らない、アルディスキア語も解らない一條先生が酷く驚いて、また臨戦体制に入りましたが、面白いのでそのままに、僕は少女へ宥めるように話しかけます。
「一人だけ、何処か別の場所へ転送してしまった、とかじゃないですか?」
しかし、彼女は間髪いれずぶんぶんと首を横に振ります。
「有り得ませんのっ!確かに私の魔法陣がこの場所に五人の魂を確認しましたものっ!!!このエミューウールの探査魔法が間違う訳がありませんのっ!」
うーん、先輩か僕の嵩が大きい魂を二人分と勘違いしちゃったんですかねぇ。
「うーん、何事にも絶対っていうのは危険ですし……」
だって現になんか失敗をやらかして、僕らを狼さんの真ん中に落としたんでしょう?
だけどエミューウールさんは頑として失敗を認めません。
「あんな鮮やかで個性的な五つの輝き、見誤る筈がありませんのっ」
まぁ、そう言われれば、確かに先輩の魂は強大でしたが、あの深い暗闇の塊が二つに見えるってこともないようには思います。僕のだって年輪こそ重ねてますが、性質的に二つに分離なんてまずないですしね。
「おいおい、なんだ、餓鬼泣かせてんじゃねぇか。てか、鈴木ぃ、ちゃんと通訳しろよ、てめ」
何故か巫女に泣きながら攻め立てられている僕、の図を不思議そうに眺めながら、一條先生が少しもどかしそうに僕を睨みます。
忘れてました。通訳って難しいな。
「お、魂の専門家がここにいるじゃないですか。先生ー、彼女、この場所に魂が五個あるって言うんですよ。あ、彼女のは抜きでね」
「は?何言ってやがる、ここにゃ四人しか…………あ」
言いかけた一條先生が固まります。一瞬間を置いて、猛烈に白衣のポケットやらズボンのポケットやらをごそごそし始めます。
さっきあれほど恥ずかしい持ち物を放り出したのに、まだ出るか。どこぞの四次元ポケットを彷彿とさせる勢いであれでもないこれでもないと、先生の足元にがらくたが小山を作ります。
「あー、何処にやったけなぁ……おっ、あった、あった」
漸く白衣の内ポケットから、先生がお目当ての物を取り出したようです。
一條先生はドヤ顔でそれを曇天に掲げます。
「これだっ!!!」
いや、どこからどう見てもファイト一発した後の小瓶でした。
ただ、口封は鷲のマークではなく、ビニールを被せて赤い紐で結んだお手製のものです。
「あれはなんですの……?」
言葉なんて伝わらなくても解る、明白な?マークをいくつも飛ばしながらエミューウールさんが首を傾げています。
僕は嫌な予感に苛まれながらも、まぁ黙って見てな、という先生の言葉を伝えました。
「なんだか知らねっけど、魂って単位なら、こいつも一つって数えられちまうんだろうな」
ぶつぶつと言いながら、先生は瓶を空中に放り投げます。
回転しながら真っ直ぐ上に飛ぶ瓶に視線を定めて、ぱんっと響き良く両手を合わせました。
「解」
朗々とした声と共に、空中で赤い紐がほどけ、紙の封が剥がれます。同時に茶色い瓶の口から、僕にも馴染み深い、剥き出しの魂の気配が、ひゅるひゅると溢れ出てきました。
それは半透明ながら、たぶん人間の眼にも黙視可能な濃い濃度で、人体の形に形成されていきます。
灰色の長い髪、長い前髪、紙色の肌、白いワンピース、地面に近づくにつれ、存在が曖昧になる下半身。僕や千早さんと同世代には見えますが、少なくとも千早さんとは同じ時代を生きてはいないでしょう。
「……怨めしや」
剥き出しの魂を、肉体を失った人間限定で、僕らはこう呼びます。
幽霊、あるいは怨霊と。
「きゃぁぁぁー!!!し、死んでるぅっー!!!!」
エミューウールさんの悲痛な叫びが、あたかも火曜日の午後九時を知らせるかのように、甲高く響き渡りました。
漸く、地縛霊登場です。続けてもう一話UPします!




