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18.悪霊退散、です。

返す言葉もございません。

「「大魔王オウル陛下の復活を!!!」」


結界の中でおっさん妖怪三匹の声が反響していきます。聖書の一文なんかよりよっぽど破壊力のある言葉の暴力に、僕は人知れず透明な頭を透明な腕で支えました。


いや、大丈夫。その魔王さまならちゃんと復活しましたから。この僕が命懸けでさせましたから。いや命なんてないですけど。

魔王さまにももうないですけど。


「ああ、確かに我らは此処まで来て後戻りなどできぬ!」


「おうよ!ここで失敗なんかしちまったら、死んじまった仲間たちに合す顔がねえ!」


バッツァン兄弟(に憑依した何か)たちが、自らの掛け声に感化されたように意気勇みます。

アローチェス神官(に憑依した何か)が中々素敵な顔で邪悪に微笑みました。


「ええ、この魂にかえても、お返し頂かなければ……愚かなる人間どもとあの忌まわしき女神を繋ぐ道を断つ唯一の標【歪曲の地図】を」


「あれさえありゃ、女神をこの世界から追い出すことが出来るんだもんな!」


「うむ、あの地図の力で時空を歪め、女神を他の世界へと追いやることさえ叶えば、人間どもが崇める太陽など容易く悪魔の星に喰われ、星の中で眠っておられる我らが魔王の御霊も目覚められるであろう」


「あとは、悪魔の星の適合者を見つけ出して、その体を陛下に献上すれば一丁あがりだ!」


音響遮断の結界は確かに機能しているとはいえ、あまりに警戒心なくべらべら喋る兄弟魔物のせいで、僕はどうやら全く知りたくもなかった陰謀の詳細をがっちり掴んでしまったみたいです。


誰の体を誰に献上するですって。冗談じゃありません。血と肉と魂分け与えてまだ足りないっていうんですか。


漸くこの下らない茶番を終わりにして、部屋に帰って朝まで鳩と戯れる決心の付いた僕は、存在を消したまま、三匹の魔物の魂に狙いを定めます。不意打ちは卑怯とか、今思ったやつ手を挙げなさい。三秒で木乃伊にしてやります。


いや、いくら飢えて弱ってるとはいえ、まさかたかが憑き物三匹、正々堂々名乗りを上げてから皆殺しにする自信がないわけじゃないですよ。


だけど、こんなおっさんしかいない神殿で、おっさんに憑依して、先輩を復活させるために女神にケンカ売るなんて馬鹿どもに正直関わっている暇はありません。

そう、関わったら最後、きっと僕は彼ら以上に愚かな振る舞いをしてしまいそうですから。


困ったことに地球の魔王は、情に流されやすく、同胞には割と甘いんです。


だからこそ、これ以上、余計なことを見聞きして千早さんとロミオとジュリエットとか、そんな去年の学園祭の出し物みたいな茶番を実写化しない為にも、申し訳ないですが、異世界の同類達には卑怯な不意打ちで塵に還ってもらいましょう。


「あっっくりょぉおおたぁいさあ~~ん!!!!」


そうそう、悪霊退散!憑き物落としっていったらやっぱりこれで・・・・・・・。


「って、そんな技は流石に僕には使えな……ぎゃうん!!!」


あまりに卑怯な後ろからの不意打ちに、実態のない肉体と魂を強かにぶっ飛ばされ、たまらず肉体の質量を元に戻し地面に転がります。そうでもしなきゃ真面目に魂だけどこか遠くへ転がって行ってしまいそうな強烈な一撃でした。


「ぎゃはははは、ひぅ……ひっく、なぁにやってんだー鈴木ぃ。吸血鬼の王様が無様なもんじゃねえか」


「……早まるでないぞ。西洋の屍鬼。これなるはただの酔っ払いである」


ぐるりとひっくり返った僕の視界に移るのは、いつもよりさらによれた白衣の見慣れた赤ら顔と、その肩を支える見慣れぬ青年。青い長髪を靡かせ、鱗めいた継ぎはぎの残る青白い肌の、幾分緊張に顔を引き攣らせている長身の美青年です。


「見ればわかりますよ。で、この世にただの酔っ払いの存在って必要でしたっけ?」


こいつが丸焼きにも仮死状態にもなっていないならば、その神格に今更気付かない僕ではありませんから、真心込めた底冷えする笑顔で応えました。


「……汝が人ならん物の本分に従い、世の為なんぞに動かんことを願うばかりだ。」


「いやいや、僕も一応、今は勇者さまですから、世の為人の為戦うのもやぶさかでないんですが」


にこにことゴブリン程度なら目で殺せるくらいの表情で、青龍さんの言葉に答える僕の声と一緒に、一條先生のしゃっくりが虚しく響きます。


「……吾輩は主といえどこんな酔っ払いの為に戦いたくはない」


心底うんざりとした表情で、しかし大真面目な口調で青龍さんが言うので、僕も冗談を続ける毒気を削がれ苦笑します。まあ、こんなことで一條先生にいちいち殺気を覚えていたら、星柳高校になどとても通ってはいられなかったでしょう。


「四神の一柱に警戒されるのも悪い気はしませんが、大丈夫ですよ。これくらいでマジギレとか子供じゃないですから。その酔っ払いに振り回されるのは僕も慣れてますし」


まあ、悪霊退散されたのは初めてですけどね。言いながら、僕は体を起こし、なんだか足に絡まった白い長衣の裾を直します。


「うむ。この件に関しては、我が主に非がある故、汝の寛大さに感謝しよう」


「はーぁあん?俺ゃぁなあ……ひっくっ、悪霊がいたから……っく、退散しっただけじゃっねーか。てめーがうんなとこで消えてんのがわりぃーんだろおぉ、ひっく」


青龍に項垂れ掛かるようにして、絡んでくる先生の言に、僕ははっと思い出して後ろを振り向きます。


そこには死んだように横たわる4人のおっさん。


ああ、たしかに悪霊いましたよね。


僕でさえあとちょっとで魂吹っ飛ばされそうだったんですから、普通の憑き物なら成す術もなかったことでしょう。跡形もなく破かれた音響遮断結界は魔力の名残すらもう残っていません。


「この者達は……汝の仕業か」


「どう見てもあんたのご主人様の仕業です」


下らない誤解を生まないよう真実の言霊付で即答してから、僕は裸の一人を除いた残り三人の抜け殻を調べます。流石は先生というべきか綺麗さっぱり魂の抜け落ちた肉体でした。軽く爪を刺して血を調べましたが、死体の血と変わらないほどに魂の欠片も感じとれません。

予想はしていましたが、本当の持ち主の魂もとっくに喰いつくされた後だったようです。


影が自由に動く状態なら、こういう血肉だけの塊も吸収対象になるんですが、残念ながら引き籠りを解消させるほどの魅力的な餌ではありません。


僕はその抜け殻達から興味を逸らし、先生の悪霊退散が突き抜けた方角の夜空を見上げます。自分でしっかり体感したから分かりますが、あれは肉体から魂を切り離し、遠くに吹っ飛ばす術でした。

つまり、あの三匹の魂はあの夜空の果てへ飛んで行ってしまったのでしょう。


そう、恐らくは消滅することなく。


「全く、余計なことをしてくれましたね」


多少憎々し気に呟く僕に、酔っ払いの目に僅かながらも理性の光が宿ります。


「けっ、ひもじさのあまり、共食いでも考えてたか」


「弱肉強食は世の倣いでしょう。……一度潰し損ねた蚊はしつこいですよ。何度でも食い付く」


懐にしまってある【歪曲の地図】なるキーアイテムを確かめながら、僕はため息混じりにそう返しました。


そして今は静謐と月と名も知らぬ星々しか輝かない闇の空へと、再び視線を彷徨わせます。その先のおそらくもう半時もすればあの空の端から顔を出すであろう。二つの太陽。


―悪魔の星―


関わりたくないんです。いや、恐らく僕は、絶対に関わるべきじゃない。

この世界の同胞たちと。そしてそれを総べるあの禍々しい星の正体と。


その真実を知るくらいなら、


「…………愚かな勇者あやつりにんぎょうのほうが百億倍ましだ」


口腔の内だけで呟いた独白は、酔っ払いの鼾と、生きる屍たちの静かな寝息に掻き消され、僕の耳にすら残らず、ただ吐き慣れた溜息となって流れました。



















なんて中途半端なとこで止まってたんだろう。取り敢えず切りのいいところまで。これからは、きっとぼちぼち書いていきます。

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