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2/14

聖女と呼ばれる令嬢は、悪役令嬢が国外追放だけではご不満だった

「おかしいわよ!」


クレアの叫び声が部屋に響いた。

机の上に置かれていた花瓶を腕で払い落とす。

床に落ちた花瓶が砕け、破片が散った。


「アルベルトルートだったら、レティシアは処刑されるはずなのに!」

国外追放。

どうしてそんな軽い処分で終わるのか。

ゲームでは、聖女を殺そうとした悪役令嬢は処刑される。

少なくとも、自分が進めていたアルベルトルートではそうなるはずだった。


「なんで、国外追放なの!?」

「それに、何なのよフィオナは!」

ゲームの主人公。

本来なら自分がいる場所にいるはずだった少女。


この世界へ来て、聖魔法が使えると分かったとき、クレアはすぐに理解した。

自分が聖女なのだと。

ゲームの世界へ転生した。

しかも聖魔法まで使える。

なら、自分が主人公になるのは当然だった。


実際、アルベルトもグレンもノアも自分を愛してくれた。

それなのに。

「いつまでいるのよ!!」

断罪される悪役令嬢を、フィオナは必死になって庇っていた。


ゲームでは、フィオナはレティシアから嫌がらせを受ける。

そして攻略対象たちに助けられる側だった。

「ゲームの世界なんだから、ちゃんと動きなさいよ! もうあなたの場所はないのだから消えなきゃいけないでしょ」

クレアは拳を机へ叩きつけた。


所詮、この世界の人間はゲームの登場人物だ。

決められた役割がある。

アルベルトは王子。

グレンは騎士。

ノアは宰相の息子。

レティシアは悪役令嬢。

フィオナは主人公だったけど、もう居場所がない。

それなのに、どうしてまだいるのか。

「駒のくせに……」

小さく呟いた。


一番おかしいのはヴィルだった。

クレアは今日のために聖魔法を何度も練習してきた。

ゲームでは、断罪イベントでレティシアにかけられていたヴィルの呪いを聖女が解除する。

そこでヴィルは初めて自由になる。

そういうイベントだった。


なのに。

何度解除魔法を使っても、何も起こらなかった。

それどころかヴィルは言った。

『私の意思でレティシア様に仕えております』


「そんなわけないじゃない! おかしいわよ」


ヴィルはレティシアに服従させられて、苦しんでいたはずだ。

けれど今日見たヴィルは苦しそうには見えなかった。

むしろレティシアが捕らえられたとき、本気で怒っているように見えた。

「……本当に操られてなかった?」

一瞬だけ、そんな考えが浮かぶ。

「そんなはずないわ。思ったより強い呪いがかけられてたに違いないわ」

レティシアは悪役令嬢なのだ。

自分にも何度も文句を言ってきた。

アルベルトとの距離が近すぎる。

マナーがなっていない。

服装が派手だ。

「聖女の私にあんなこと言ってきたのよ。悪女なのは間違いないわ」

「ゲームより性格が悪くなってるんだから、使う魔法だってゲームより悪くなってるのかもしれない。駒なら駒らしく、ゲーム通りの動きをしなさいよ!」


コンコン。

突然、扉が叩かれた。

「クレア様、大きな音がしましたが、大丈夫でしょうか?」

使用人の声だった。

クレアは散らかった部屋を見る。

「……入っていいわ」

扉が開いた。


使用人は床に散らばった花瓶の破片を見る。

「お怪我は大丈夫ですか?」

「大丈夫よ」

「すぐに片づけます」

「ありがとう」

使用人が膝をつき、破片を拾い始める。


その途中。

「痛っ!」

使用人の指から血が出ている。

「申し訳ございません」

「ちょっと見せてみて」

クレアはその手を取った。

淡い光が指先を包む。

傷はすぐに消えた。

「ほら、治ったでしょう?」

「ありがとうございます、クレア様」

使用人は頭を下げた。

「気をつけてね」

優しく微笑む。

「はい」

使用人が破片を片づけ、部屋を出ていく。


扉が閉じると、クレアの笑顔も消えた。

「聖魔法があるんだから、やっぱり私が聖女だわ」

「なんで駒が勝手に動くの? 何で勝手なことするのよ」

クレアは記憶を辿る。

学園へ入ってからの出来事。

アルベルトとのイベント。

グレンとのイベント。

ノアも認めてくれた。

そして三人とも、自分を愛している。


「ほら。やっぱりゲーム通りじゃない」

少し安心する。

けれど、何かが引っかかった。

ゲームではもっと戦闘イベントがあった。

学園の外へ出るイベント。

魔物に襲われるイベント。

他にも何か減っていた気がする。

「……少なかった?」


思い返してみる。

発生しなかったイベントがいくつもある。

「グラナ洞窟のウルフ討伐も起きなかった……」

「一角ウサギの大量発生もなかった……」

「ミノタウロスとも戦っていない……」

「悪魔ザルディアの襲撃イベントもなかった……」


そのときは、この世界では自分が怪我をしないように、イベントが変わったのだと思っていた。

けれど、今日の出来事まで考えると。

「私のためになくなったんじゃない……?」

「少しずつゲームと変わってきている?」


アルベルトたちは自分を選んだ。

攻略は成功している。

なら、自分が主人公であることは間違っていない。

「そうよ。三人とも私を愛してるんだから、私が主人公だわ」

少しストーリーがずれているだけだ。


だったら元に戻せばいい。


本来いなくなるはずだった人間が残っているなら、正しい場所へ戻せばいい。

クレアの顔に、少しずつ笑みが戻った。

「ちゃんとしたストーリーに戻さないと」

「居場所がない偽物聖女と死ぬはずの悪役令嬢。この二人はこのゲームにいらない駒」

それが、この世界にとって正しいはずなのだから。

この世界のために私が何とかしないといけない。

二人を消せば、きっと正しい物語に戻る。


クレアは夜鴉へ依頼を出すことを決めた。


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