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あなたの色に染まりたい~ハズレスキルでしたが王子様に見初められました  作者: 伊織ライ


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最高のスキル

「あら、貴女のドレスとても素敵ね」

「ええ、実はこの生地、機織りのスキルで手ずから作りましたのよ」

「まあ……! それは素晴らしいわ。だからこれほど軽やかで美しい色合いをしているのね」


 流行の形のドレスをふわりと飾る艶やかなシフォン生地は、()()で領地に引き籠りがちと噂の貴族令嬢がスキルによって織り上げた物だった。

 王太子妃となった私の元へ、家族と共に訪れた彼女は決意を込めた強い瞳をしていた。これまでハズレスキルしか持たないからと家族に隠され守られてきたけれど、これからはもう恥じることなく社交界に出てみようと思いますと。

 今となっては病弱だなんて笑ってしまうほど、活動的な彼女は貴族女性たちの人気の的だ。王都の劇場で流行りの演劇の中、女神様の役を演じた女優が身に纏っていた神秘的なベール。オシャレに目敏い女性たちが目を付けて、開演直後からあの布は一体どういう品なのか、どこへ行けば買えるのかと問い合わせが殺到したらしい。そこから機織りのスキルを持つ彼女の作った布地が一気に関心を集めたのだ。

 ちなみに私もサンプルとして貰った生地を使ってドレスを仕立て、夜会で着させてもらった。王族の女性が少ない今、私が身に着ける衣装はそれだけで注目される。王太子妃が自分でドレスを仕立てるというのも異例だけれど、スキルを使って織った生地の素晴らしさも貴族たちの意識を変える大きなきっかけになったのは間違いないだろう。

 攻撃スキルを授からなかった、武力を持たない貴族をハズレと呼ぶ者はもういない。


「これ……良かったら味見して下さらない? 実は私、菓子作りのスキルを持っていて」

「まあ、そうだったのね。私、甘いものに目がないのよ! ……ん、とても美味しいわ!」

「ふふっ、嬉しいわ。今までは家族くらいにしか出せなかったし……体型のことを考えると自分で沢山食べるわけにもいかなかったから。思う存分趣味の菓子作りを楽しめて、それを誰かに喜んでもらえるのって凄く素敵ね」


 とある令嬢が作るとびきり美味しい焼き菓子がお茶会のテーブルを彩り、後に彼女が出した店は王都で有数の人気店になるだとか。


「先生の新作、とっても面白かったです! また次回作も期待しています!」

「ありがとう、引き続き楽しんでもらえるよう頑張るよ」


 創作のスキルを持つ子爵家の三男が書いた空想世界の物語が本になって出版され、それが(ちまた)で大流行。今やその作品は舞台化もされ、役者の姿絵や彼らの衣装のレプリカなども人気が出てきている。同一世界観のスピンオフや主人公の孫世代の活躍を描いた作品などこれまでこっそり書き溜めてきたものもたくさんあるようで、熱心なファンが次回作を待ちわびているらしい。


 これまでこの国の貴族たちは女神様から授かる攻撃スキルのみを第一義とし、その強さを誇ってきた。けれど、フェリックス様のあのスピーチ以降、戦えないスキルをハズレだと言って馬鹿にする風潮は無くなった。

 徐々に己のスキルを公表する者も現れ始め、それぞれの特技を生かして活躍する場面も増えていく。そうするとそれに伴う産業も生まれ、経済は活性化し街は明るく活気が増していった。


「今日は栗色の髪に、瞳も君と同じ緑色に変えて貰おうかな」

「ふふっ、同じ色味だとまるで兄妹みたいですね」

「う~ん、それもいいけれど、やっぱりクロエとは夫婦でいたいかな。君も色変えするだろう? 瞳の色は黒がいいんじゃないかな。赤い髪は少し目立つけれど……」

「フェリックス様のお色ですものね。では、そういたしますわ」


 互いの色を変え、簡素な服に着替える。今日は街へ出て、民たちの様子を視察しに行くのだ。


「……私、このスキルを授かって本当に良かったわ」


 建国王と同じ色味を持つフェリックス様と、こうして手を繋いでゆっくりデートすることが出来るだなんて思ってもみなかった。王太子とその后でありながら、今でも時折自由に歩き回れるのはこのスキルがあったからこそだろう。


「店主、この花を一輪貰えるかな」

「ええ、ありがとうございます。お包みしますか?」

「いや、このままで」


 花屋の店先に並んだ、まだ小さく硬い赤い蕾。それを受け取ったフェリックス様はスキルを使ってゆっくりと花を咲かせると、私の耳元にそっと差し込んでくれた。


「俺もこのスキルを授かったことを、女神様に心から感謝しているよ」


 ◇

 

 民に寄り添い、数々の公共事業を興したフェリックス王とその后クロエ殿下。彼の治世では特に芸術分野や食文化などの発展が目覚ましく、それまで武力一辺倒に偏っていた国家運営が大幅に見直されたタイミングでもある。その結果経済活動は活発化し、他国との外交も増えたことから様々な面で近代化が進んだ。

 特にクロエ殿下が注力したのは服飾関連事業であり、彼女が支援した者たちは後に我が国を代表する職人となっていった。彼らが教師となって後任も育ち、今ではこの国で作られる質の良い衣料品を求めて他国から買い付けに訪れる商人も多い。

 またフェリックス王の力もあって、この頃にはより病気に強く収穫量の多い穀物が作り出された。日照不足による冷害や大規模な台風による作物への被害が出たにもかかわらず、事前に十分な備えが出来ていたことにより大きな食糧難は逃れられたと記録されている。これらの作物の改良品種は今でも我が国の民の腹を満たし、豊かな国家の礎となっている。

 

 在位中精力的に公務に励まれたお二人だが、時折ふらりとその姿を消すことがあったという。土産と称して使用人たちにまで市井で人気の甘味や小物を持ち帰り、護衛の騎士たちを慌てさせたと当時の王妃付き侍女の日記には記されていた。けれども建国王と同じ色彩を持ち、市井の民からも極めて人気が高かったフェリックス王が誰にも見付からず城を抜け出せた理由については未だ解明されていない。秘密の抜け道を使っていた説を推す研究者もいれば、変装の達人であったという者もいる。

 国家運営の方針と政治体制が大きく変わったことから残された資料も紛然としており、不確実な部分も多い時代だが──いついかなる時でも、フェリックス王の隣には穏やかに微笑むクロエ殿下が寄り添っていたという事実は様々な資料からみても間違いないだろう。


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