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あなたの色に染まりたい~ハズレスキルでしたが王子様に見初められました  作者: 伊織ライ


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ハズレスキルの出来損ない3

「ヒューゴ先生、こんにちは。今日は花祭りについて聞きたくて……ハンカチにお花のモチーフそれぞれの意味を持たせた刺繍をすれば、きっとたくさん売れると思うんです」

「クロエ様、こんにちは。相変わらず貴女は勉強熱心ですね。では、花祭りの元になったと言われている女神様の神話についてお話ししましょうか──」


 がらんとした学習室に滑り込み、授業の準備を整え待機している家庭教師のヒューゴ先生から話を聞く。もう幾度も繰り返してきた行為だから、先生も驚いたりはしない。数学も歴史も外国語も、必要なことはこうやって先生方が教えてくれた。もちろん、彼らは()()()の私に当てがわれた存在ではない。侯爵家の長女である姉のために雇われた、素晴らしい経歴を持つ一流の教師たちだ。けれど、勉強が嫌いな姉はその授業を抜けだしたりサボったりと真面目に受ける様子が一切なかった。日々図書室に忍び込んで本を盗み読み、必死で知識を増やしていた私からすれば喉から手が出るほど羨ましい環境だというのに。

 だから……先生を置き去りにして逃げ出す姉の姿を見て思ったのだ。いらないならばその権利、私がもらってもいいのでは、と。

 たとえ姉が学習室に来なくても、先生方は侯爵家から正式に雇われている以上規定の時間その場で待機する必要がある。逃げ出した姉を使用人たちが探している間に私は学習室へ滑り込み、自分ひとりではどうしても理解しきれなかった部分を質問してみたのだ。最初は自分の生徒ではない子供に戸惑いを見せていた先生方も、ただ漫然と待つより有意義だと思ってくれたのだろう。聞いたことにはきちんと答えてくれたし、簡単な課題や役立つ資料などを作って渡してくれたりもした。

 この家における、私の立場も薄々勘付いていると思う。もしスキルの内容を知ったなら、彼らの態度も変わってしまうのかもしれないけれど……。それでも、私に知識という財産を惜しげもなく与えてくれた先生たちには心から感謝している。そのおかげで、今も私はこうして生きていられるのだから。


「あっ、エドモン、来てくれたのね! ねぇこれを見てくれる? 今回の刺繍は自信作なのよ! ヒューゴ先生に教わった花祭りの神話の一場面を表現してみたの。今度のお祭りで売れそうでしょう? 評判や感想が聞けたらまた次の参考にしたいから──」


 私がせっせと作り溜めた刺繍の小物を雑貨屋へ持ち込み、代わりに売ってきてくれる侍従のエドモン。五歳の私がこの小屋へ追いやられてすぐの頃から定期的に様子を見に来ては、足りない物などがあれば何かと便宜を図ってくれた。

 彼自身の口からはっきり聞いたことはないけれど、多分……彼の娘も五歳の洗礼式でハズレスキルを授かったのだと思う。侯爵家の使用人として働いてはいるけれど、彼も男爵位を持つれっきとした貴族なのだ。よってその娘にも、当然攻撃スキルが期待される。おそらく私の時と同じように、周囲から冷たい言葉を掛けられたりもしたのだろう。だからこそ同じ経験をした私を気にかけ、いつも優しい笑顔を向けてくれていたのだ。神官がスキルを告げた瞬間に、あっさり私を切り捨てた両親とは大違いである。正直に言えば、フロラとエドモンが本当の親だったならと考えたことは数知れない。いくら願っても叶わない夢だったけれど。


「……クロエお嬢様、本日は至急お伝えしなければならないことがございまして」


 その彼の表情が、今日はとても強張っていることに今更気付いた。同じ室内にいたフロラも異変を感じたらしく、そっと後ろに来て寄り添ってくれる。


「ヴィクトリアお嬢様が先日成人されたことはご存じですか?」

「ああ、そういえばそうだったわね」


 デビュタントのためのドレスを仕立てたり、ダンスの練習だなんだと母屋の方が一時期忙しなかったのを覚えている。その間は人の出入りが多いため図書室にも近付けないし、ハズレの私は極力目立たないよう息を潜めて過ごさなければならなかったのだ。

 もちろん姉の誕生日会もデビューのお祝いにも私が呼ばれることはないが、後日意気揚々と乗り込んできた本人がどれほど素晴らしい時間だったかを切々と語ってくれた。私が社交界にデビューする日など来ないだろうが、その雰囲気を知ることが出来て単純に興味深く案外聞き入ってしまったものだ。


「どうやら……ヴィクトリアお嬢様が、王太子殿下のお目に留まったようでして」

「……は?」


 ──それは、つまり。


「お姉様が、婚約者に選ばれたの……?」

「おそらくは、近くそうなるかと。元々家柄的にも年齢的にもヴィクトリアお嬢様が最も有力な候補でしたし、見目も麗しくお育ちになられました。何より──王太子殿下は、強力な戦闘系のスキルをお望みだそうなのです」


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