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あなたの色に染まりたい~ハズレスキルでしたが王子様に見初められました  作者: 伊織ライ


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ハズレなんてない

 国王陛下と大臣たち、それから主要な貴族家の当主のみで行われる継承の儀式を終え、新たな王太子となったフェリックス殿下は国民へのお披露目と挨拶を行う。

 私も継承の儀式を近くで観覧できるよう取り計らおうかと提案をいただいたけれど、それは丁重にお断りした。この後のお披露目のみ拝見させていただくことにしたけれど、それだって一般の観覧客とは違う特別な席を用意して下さるというのだから恐れ多いことだ。君には誰より近くで見守っていて欲しいんだ、とあの赤く美しい瞳で見つめられたら誰だって断れるわけがないと思う。


 今日もフェリックス殿下から贈られたドレスを身に纏い、指示された控えスペースから王城の前庭を眺める。王都中の人々が一斉に集まってきたのではないかと思えるほど、群衆が発する熱が会場の空気を高揚させているのを感じた。

 楽団によるファンファーレが響き、正面のバルコニーから姿を現したのは国王陛下その人だ。グレーの髪を後ろへ流し、集まった民を見下ろす瞳の色は明るい茶色。すらりと背は高く、身体つきに緩んだ様子もない。やや目じりが下がった優しそうな面立ちだけれど、その立ち居振る舞いから感じられるオーラのようなものは確かに為政者のそれであった。


「皆の者、今日はよく集まってくれた」


 波が引くように人々のざわめきが静まっていく。


「知っている者もいるだろうが──我が息子マルタンは先日非常に重篤な怪我を負い、王太子としての責務を継続することは不可能だと判断された」


 その重篤な怪我を負わせたのは、他でもない王太子妃ヴィクトリアが放った火魔法なのだけれど……今この場でそれを話す必要もないということだろう。彼女の裁きはまた別の場で正式に行われるし、そうなると必然的にマルタン殿下の行動も詳らかにせざるを得ない。

 そもそもの原因はマルタン殿下の女癖が悪かったせいなのだ。怒ったヴィクトリアが相手の令嬢に向けて火魔法を放ち、それを庇ったマルタン殿下も攻撃を受けて日常生活が困難になるほどの大怪我を負った。新聞で報道されていた記事は概ね事実であり、その場に居合わせた目撃者の証言などもありほとんどの貴族が事情を理解している。それでも、公の場で王家の醜聞を発表することは避けたのだろう。今日というおめでたい日に話すことではないという気持ちは十分理解できた。


「よって本日、改めて継承の儀式を執り行い、第二王子フェリックスが新たな王太子に任命されたことをここに知らせよう」


 静まっていた観衆がわっと華やかな歓声を上げる。軽快な口笛や、拍手の音もそこかしこから響いていた。英雄王と同じ色を持つフェリックス殿下はもともと平民から大変人気があったのだ。これまでは兄王子に遠慮して表舞台に立ってはこなかったけれど、そんな彼が次代の王となるのは純粋に喜ばしいこととして認められたようだ。

 ふと国王陛下の後ろに立つ正妃様に視線を送れば、彼女は穏やかな微笑みを顔に張り付けつつもどこか昏い目をしているように見えた。それは、彼女がこれまでフェリックス殿下に対して行ってきた行為を知ってしまったからこそ、そう見えてしまうだけだろうか?

 近いうち、マルタン殿下は王領にある離宮に療養のため移られると聞いた。その際に実母である正妃様も一緒に付いて行かれるらしい。政治的な事情から既に心に決めた相手がいる陛下の元へ嫁ぎ、きっと苦労も多かっただろう。ましてや数年後には、陛下が真に愛する相手とされる姫が側妃として嫁いで来られたのだ。ようやく周囲からの重圧を乗り越え跡継ぎとなる王子を授かったと思えば、輿入れ直後の側妃様もあっという間に妊娠して同時期に男児を生み……その子は英雄王と同じ色を持っていた。

 正妃様からすれば、なんとしてでも己の子を次代の王とせねば、自分の人生とはなんだったのかと考えてしまったのかもしれない。

 全て私の勝手な想像だ。正妃様がどういう意図を持っていたにせよ、幼いフェリックス殿下を害そうとした事実は許されないことだとも思う。けれど、彼女がしてきたことについては国内に混乱を招くため公表されないと決まったそうだ。貴族の間では薄々察している者も少なくないようだけれど、最後まで王妃としての籍を残されたのは国王陛下なりの誠意なのかもしれない。

 また被害を受けたフェリックス殿下自身がそれでいいと率先して賛成したからこそ、手続きも滞りなく進んだようだ。

 願わくは、彼女が己の罪を自覚して多少なりとも悔いてくれたら……。そして、母として全力で守ってきたはずのマルタン殿下と静かな人生を送っていってもらいたい。

 


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