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あなたの色に染まりたい~ハズレスキルでしたが王子様に見初められました  作者: 伊織ライ


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逃亡3

「おら、捕まえろ!」

「ははは! あの高慢なお嬢様が見すぼらしい格好で逃げ回る姿を見られるとはなぁ!」

「よぅし、そっちに回るぞ! いつまで体力が持つかなぁ」


 震える足を叱咤して、闇雲に走る。見通しの良い街道は逃げやすいけれど、その分隠れる場所がない。だからといて森の中に逃げても、私の体力がもつのか自信がなかった。

 はっはっと上がった息が熱くて、心臓の音が耳の中でどくどくと響いている。怖い。助けて、なんで私が……。

 物取りならば、あの金貨を差し出せば引いてくれるだろうか。けれど──多分この男たちは、真っすぐに私という存在そのものを狙って来ていたように思う。なんでだろう? 平民で、ただの仕立て屋の私にそれほどの価値はないはずだ。フェリックス殿下と親しくしていたことが知られていたのだろうか。もしくは彼に使った色変えのスキルがもうバレてしまっていて、何かに利用されようとしている……?

 だとしたら猶更、私はここで捕まるわけにはいかないのに。

 体力はとうに限界を迎え、上がりきらないつま先が地面に引っ掛かる。


「──きゃあっ! やめて、離して……!」

「きゃあだってよぉ、可愛い声だ!」

「お前、手ぇつけたら値が下がるんだからここで食うんじゃねぇぞ」

「あぁん? ちょっとぐらいならバレないだろうよ」

「まあ味見くらいなら大丈夫か? 途中で止まれるかは分からんがな! はははっ」


 転びかけた私に向けて、獲物を追い込むように周囲を囲んでいた男たちが一斉に飛び掛かる。満足に手を突くこともできず、地面に引き倒されてあちこちが痛んだ。大声を上げる間もなく口元には布がかまされ、後ろ手に手首が縛られる。連携の取れた動きに、やはりこれは計画された犯行なのだということが分かった。その間も周囲で交わされる不穏な会話に、全身がガタガタと震えてしまう。


「おうおう、えらく震えてるなぁ。怖いか? 怖いだろうな。でもアンタの家がこれまでやって来たことの方がよっぽど酷かったんじゃねぇか? そうだろう、なぁっ!!」


 ガン、と衝撃が走り、咄嗟に閉じた瞼の裏にチカチカと光が瞬く。縛られた身体でバランスを取ることが出来ず、無様に地面へ転がってしまった。


「おい、顔に傷付けるんじゃねぇよ」

「ああ、悪い、つい抑えきれなくてな。次からは身体にするよ」


 こめかみのあたりが酷く痛む。それから地面にぶつけた腕と肩もだ。


「お嬢様はどうせ覚えてねぇんだろうがなぁ、俺らはみんなレニエ領の出身なんだ。……幼馴染は十四の時アンタの父親に手を付けられて、領主様の子を孕んだと分かった途端にまだ平らなその腹ごと刺されて死んだよ。どれだけ痛かったろうな? きっとそんなもんじゃ済まねぇと思うぞ?」


 私を殴ったらしいひとりの男が、光を失った瞳でじっと私を見下ろし言った。幼馴染が……私の父親に……?


「俺の家族はバカ高い税金が払えなくて奴隷落ちしたよ。まだ小さかった俺だけを逃がして、母さんと姉さんは娼婦に落とされた。親父と兄さんは毒の出る鉱山に送られてあっという間に死んだとさ」


 また別の男が言う。高い税金、毒の鉱山……。


「俺の妹は人買いに捕まって外国に売られたよ。まだ六つだったんだ、おにいちゃんおにいちゃんって懐いてそりゃ可愛かったさ。可愛かったから……変態に目を付けられて、高く売れたんだとよ」


 幼い子供が、外国に。そんな、でも、そんなこと……。

 

「うちの家門はレニエ家の使用人として先祖代々仕えてきた。お嬢様方が王都の屋敷で楽しく暮らしている最中、重税に喘ぐ領民たちを間近に見ながら切り盛りしてきたのは俺たちさ。やせ細った身体で薬代も買えないのだと訴えてくる彼らに対して、日々どんな思いをしていたか……アンタたちは知らないだろう!? だというのに! 城からの査察が入って脱税を指摘された途端、俺の親父に罪をひっ被せてあっという間に処刑だよ。侍女だった母親も、メイドとして働き始めた妹もみんなだ。『信頼していた家臣に裏切られたことが悔しい』なんて言って悲劇の主人公を演じた侯爵様はお咎めなしさ、そんなことあって良いと思うか? 高い税金を搾り取り、領民を売り飛ばして得た金で美味いもん食って生きてきた嬢ちゃんに罪がないと自信をもって言えるのか、なぁっ! 答えろ、どうなんだよっ! 何とか言ってみろっ!!」

「──っう……!」

 

 地面に這いつくばる私の身体を男のつま先が蹴り上げる。息が止まるほどの痛みに一瞬意識が飛びそうになった。

 それでも何とか聞き取れた。


 ──レニエ侯爵……?


 私の生家はデュラン侯爵家だ。そしてレニエ侯爵家といえば、いつかフェリックス殿下から聞いた記憶がある。


『レニエ侯爵の動きがどうにも怪しくてね、前々から目を着けてはいたんだが……いよいよ証拠が揃いそうだから、一気に追い詰めて片を付けるつもりなんだ』


 つまり彼らが口にしたような犯罪の証拠を見付けたということだったのだ。その一端を聞くだけでも、確かに酷いことをしていたのだと思う。領民を蔑ろにし、ましてやその命まで奪っていたというのなら許せることではない。けれど、そのレニエ家の所業が私と何の関係があるというのか。



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